日本口腔顔面痛学会雑誌
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11 巻 , 1 号
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総説
  • —下行性疼痛制御系の機能変化について—
    清水 志保, 中谷 暢佑, 岡本 圭一郎
    2018 年 11 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー
    目的:心理ストレスは,顎顔面部の痛みを増大させる.そしてその生体基盤は脳神経系の機能変化によることが知られる.本稿では,心理ストレスが顎顔面痛を増大させる生体メカニズムを,脳神経科学的な観点から具体化することを目的とする.
    研究の選択:痛みは脳内ネットワークである下行性疼痛制御系によって調節される.そして下行性疼痛制御系の機能変調が,痛みを増大させる生体基盤である.中でも,延髄の大縫線核を発する下行性投射は,三叉神経脊髄路核尾側亜核・頚髄部(Vc-C2)に存在する侵害受容ニューロンの機能を調節し,顎顔面痛を調節する.よってストレス状態における大縫線核~Vc-C2 部の機能変化を明らかにすることは,ストレス誘発性の顎顔面痛の脳メカニズムと治療法の開発に向け,有用な情報をもたらす.よってこれらの現象を主に基礎的な見地から概説する.
    結果:複数の心理ストレス処置を加えると顎顔面部の深部組織由来の侵害応答が三叉神経脊髄路核尾側亜核・頚髄部(Vc-C2)および大縫線核で増大させることが明らかとなった.これらの結果は概ね,脊髄領域での痛みモデルでの知見と一致することから,心理ストレスによる侵害応答の増大は,痛みの部位に非特異的に生じるものと思われる.
    結論:心理ストレスによる顎顔面部の侵害応答の増大は下行性疼痛制御系の機能変調に起因することが示唆される.
  • 篠田 雅路
    2018 年 11 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー
    顎顔面口腔領域への侵害刺激は三叉神経節ニューロンで受容され,三叉神経脊髄路核尾側亜核に伝達される.その侵害情報は上行し,視床を経て大脳皮質体性感覚野や大脳辺縁系に伝達され,はじめて「痛み」として認知される.この末梢から中枢神経系に至る疼痛伝達経路のどこかに可塑的変化が起こることにより,顎顔面口腔領域の異常疼痛が発生すると考えられている.近年の研究から,神経細胞だけでなくグリア細胞や免疫細胞といった多くの細胞の可塑的変化が,異常疼痛発症の原因となる末梢性感作,中枢性感作および脱抑制を引き起こしていることがわかってきた.
    本稿では,基本的な疼痛伝達機構を解説するとともに,顎顔面口腔領域に発症する異常疼痛発症メカニズムについて最新の知見も交えて概説する.
症例報告
  • 岡安 一郎, 達 聖月, 鮎瀬 卓郎, 和気 裕之
    2018 年 11 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は50代女性(主婦).X年11月,左側のこめかみと左上臼歯部の痛みを自覚し,近医歯科を受診した.「非定型歯痛」との診断で治療を受けるも症状変わらず,翌12月,「長崎大学病院オーラルペイン・リエゾン外来」紹介受診となった.口腔顔面領域の診察と検査結果から,器質的異常所見は認められなかったが,国際頭痛分類第3版beta版に準じ,「前兆のない片頭痛」とそれに起因する「神経血管性歯痛」が疑われた.また,「緊張型頭痛」,「パニック障害」の既往もあり,当院・総合診療科(内科)ならびに精神神経科と連携した.結果,「緊張型頭痛」に加え,「前兆のない片頭痛」,「不安障害」と診断された.治療は医療連携の下,病態説明と生活指導,心身医学療法,漢方治療にて,歯痛と頭頸部痛,めまいやふらつきなどの随伴症状が軽減し,良好な疼痛管理が維持できるようになった.
    考察:本症例は,MW分類(心身医学・精神医学的な対応を要する患者の分類)Type C(身体疾患・精神疾患併存ケース)に該当する.このようなケースにおいては,医科身体科ならびに精神科との医療連携が必要不可欠となる.本症例のように,痛み以外の種々の症状が伴うケースに対しては,漢方治療が有効となり得る.
    結論:口腔顎顔面領域の症状を主訴とする患者は歯科外来を受診するが,医科の身体疾患・精神疾患も考慮して,総合的な判断の基で対応することが必要となる.
  • 桃田 幸弘, 高野 栄之, 可児 耕一, 松本 文博, 青田 桂子, 山ノ井 朋子, 高瀬 奈緒, 宮本 由貴, 小野 信二, 東 雅之
    2018 年 11 巻 1 号 p. 21-27
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー
    一次性舌痛症は舌に痛みなどの異常感を訴えるものの,器質的または精神的要因のいずれも見出せないものとされる.近年,本症と神経障害性疼痛との関連が論じられている.今般,われわれはプレガバリン,トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠および加工附子末製剤の三剤併用が奏効した本症の3例を経験したので,その概要を報告する.患者は男性2名,女性1名,年齢42~79歳(平均54.3歳)であった.全例に対してこれら三剤を併用した.痛みは緩解し,健康関連QOLも向上した.特記すべき有害事象は認められなかった.本症に対するこれら三剤併用の有用性が示唆された.
  • 伊藤 幹子, 佐藤(朴) 曾士, 梅村 恵理, 栗田 賢一
    2018 年 11 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は40 歳代半ばの男性であった.2 か月前から右側舌に灼熱感に近い痺れを自覚し,紹介により,歯科医師と精神科医師でチーム医療を行っている当リエゾン外来を受診した.紹介元の口腔外科医師は,CT検査で異常所見が認められなかったことと,患者が強い心理社会的ストレスを持っていたことから,当外来への紹介が有益で望ましいと判断した.当チームでは,患者のストレスがすでに消失し,抑うつも認められなくなっていたにもかかわらず口腔内の症状が継続していたので,器質疾患による三叉神経障害の可能性を再検討するため頭部MRI を撮影した.MRIの画像から,三叉神経障害を起こしうる脳器質病変が発見され,神経内科に紹介したところ,何らかの脳器質病変による右三叉神経感覚鈍麻と異常感覚を呈する三叉神経障害と診断された.オリゴクローナルバンドは陰性だったが,臨床症状の空間的・時間的多発性から多発性硬化症の可能性は否定できず,神経内科で経過観察中である.
    考察:痛み・痺れは自覚的訴えであるため,診断には医療面接から得られる病歴聴取と適切な検査が極めて重要である.本症例は強い心理社会的要因の存在から診断に苦慮したが,頭部MRI を撮影,脳器質病変を発見した.
    結論:心理社会的要因が関与した舌痛の疑いと診断された症例を当チームで連携協議し,脳器質病変の発見につないだ.本症例は日常臨床において示唆に富み貴重と考え報告した.
  • 柏木 航介, 野口 智康, 中村 美穂, 半沢 篤, 半田 俊之, 福田 謙一
    2018 年 11 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー
    症例の概要:37歳男性.上顎左側第二大臼歯および眼窩部の疼痛のため,眼科を受診するも改善しなかった.その後近歯科医院を受診したところ急性上顎洞炎と診断され,クラリスロマイシンとロキソプロフェンナトリウムを処方されたが症状改善せず,当科受診.当該歯に齲蝕が認められたため齲蝕除去を行ったが症状は改善せず,1日に5回以上生じる歯痛と眼窩から側頭部にかけての拍動性の激痛は残存した.また結膜充血,鼻汁を伴い,症状が生じると診療室内を落ち着きなく動き回っていた.症状から群発頭痛を疑い,酸素投与を行ったところ症状の緩和が認められた.そのため当院内科へ対診し,スマトリプタンコハク酸塩100mgを頓服処方されたが,症状は再発し再度来院した.そこで発作性片側頭痛(Paroxysmal Hemicrania:PH)を疑い,インドメタシン50mgを処方したところ,歯痛・頭痛ともに症状が改善し,現在疼痛の再発はなく,経過良好である.
    考察:PHを発症している患者の15%は歯痛を感じており,発作性の歯痛,顔面痛を訴え歯科に来院することも少なくない.今回の症例も歯痛を主訴として来院しており,診断に難渋したものの自律神経症状から神経血管性歯痛と診断しインドメタシンで除痛することが出来た.
    結論:今回私達はPHによる上顎臼歯部と眼窩部の痛みに対する治療を経験した.鑑別に苦慮する神経血管性歯痛を訴える患者が来院することもあるため,歯科医師にも頭痛の知識は必須だと考えられた.
  • 千堂 良造, 山口 孝二郎, 山下 薫, 遠矢 明菜, 山形 和彰, 真鍋 庸三, 杉村 光隆
    2018 年 11 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー
    症例の概要:31歳女性.主訴:口腔乾燥および舌痛の精査加療.現病歴:智歯抜歯4 本施行,2か月後より舌痛を自覚するようになる.3か月後口腔乾燥感を認め,五苓散の投与を受けるも口腔乾燥感および舌痛は改善せず,漢方センターを受診した.
    臨床検査成績:Visual Analogue Scale(VAS)43.抗SS-A抗体陰性,抗SS-B抗体陰性,サクソンテスト1.2g/2分,CMI領域Ⅱ易怒性,SDS47,STAI状態不安48(Ⅳ),特性不安47(Ⅳ).
    全身的現症:頭痛,四肢の冷え,全身倦怠感,強い生理痛を認める.
    臨床診断:口腔乾燥症および心因性舌痛症.
    処置並びに経過:サクソンテストは1.2g/2分で口腔乾燥に起因する舌痛も考えられたため,補中益気湯5 g/日+当帰芍薬散5g/日を投与開始した.35 日後サクソンテストは1.9g/2分に改善した.しかし舌痛VAS43で神経症傾向もあるため加味逍遙散5g/日に変更し,56日後舌痛VAS0 となり治療終了した.
    考察:本症例は気虚(基礎代謝低下),陰虚(体液損耗),瘀血(末梢循環不全),気鬱(不安神経症状)が混在していた.そのため漢方で気・血を補い,水のコントロールを行った後,不安神経症状に対応するという2 段階の治療で症状が改善したものと思われた.
    結論:口腔乾燥症と舌痛症が併存した場合は治療方針の決定に難渋する事があるが,心理テストの利用,漢方を投与することで治療効果が上がる症例も存在すると考えられる.
  • 左合 徹平, 河端 和音, 椎葉 俊司
    2018 年 11 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/04
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は38 歳の男性である.下顎右側臼歯部の疼痛と開口時痛を主訴に近隣歯科医院を受診した.同院で口腔内診査やパノラマX 線撮影,歯周組織検査などを行ったが,異常所見は認められず,当院口腔外科を紹介受診した.口腔外科の診察で下顎骨や顎関節形態に異常は認められなかったが,右側下顎角部の咬筋の圧迫により下顎右側第一大臼歯に関連痛を認めたため,右側咬筋の筋膜性疼痛の疑いで当科紹介となった.当科初診時の診察で右側の咬筋に著明な圧痛点と右側下顎臼歯部に関連痛を認めたが,明らかな筋肉の索状硬結は触知できなかった.超音波診断装置で右側咬筋の圧痛点を観察すると筋膜の癒着である白色に描出される所見が見られた.エコーガイド下で癒着部位に1%メピバカインを注入し,癒着が解除されたことを確認した.施行後に右側咬筋の筋・筋膜性疼痛の関連痛と思われる右側下顎臼歯部の疼痛と開口時痛は軽快し,開口量も増大した.
    考察:本症例は明らかな筋肉の索状硬結を触知できないものの関連痛と局所の筋痛を認めた筋膜性疼痛であった.エコーガイド下で筋膜の癒着を解除することで症状の改善が見られた.
    結論:明らかな索状硬結を触知できない筋膜性疼痛においてエコーガイド下筋膜リリース注射は有効な治療法の一つであることが示唆された.
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