日本口腔顔面痛学会雑誌
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14 巻, 1 号
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総説
  • 佐藤 淳, 北川 善政, 坂田 健一郎, 浅香 卓哉
    2022 年 14 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/26
    ジャーナル フリー
    目的:Burning mouth syndrome(BMS)は慢性の口腔顔面痛のひとつで,診断および治療に難渋する.本総説では,近年国際的に発表されたBMSの病態生理,診断および治療法に関する総説を評価して,近年における国際的なBMSの病態生理,診断・分類,治療法の理解を確認する.
    研究の選択:2010年から2018年に英文で作成されたBMSに関する総説を,データベースのPubMed/MEDLINE,EMBASE,EBSCO,WEB of SCIENCEから検索して評価した.
    結果:59編の総説が選択された.総説の筆頭著者の所属は19か国,所属科は8診療科に分類された.59編のうち40編(68%)ではBMSを一次性と二次性に分類していた.また,45編(76%)ではBMSの痛みは主に神経障害性由来であると記載していた.4編(7%)のみがBMSと心因性要素の直接的な関連を示していた.59編には全身,局所応用,心理療法を含めた70種類ものBMSの治療法が記載されていた.治療効果を評価は,systematic reviewおよびmeta-analysisの16編に限定して評価した.36種類の治療法の中で,認知行動療法,クロナゼパムの局所投与,ガバペンチンの内服などが有効な治療法である可能性が示されていた.
    結論:BMSの病態生理,診断および治療法についての国際的認識は未だに結論がでていない.いくつかのエビデンスに基づいた所見もあり,近い将来にBMS患者を救済する可能性もある.
原著論文
  • 黒田 英孝, 香川 惠太, 美久月 瑠宇, 今泉 うの
    2022 年 14 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/26
    ジャーナル フリー
    目的:非歯原性疼痛に対する薬物療法における副作用は,一定の割合で発生している可能性がある.本研究は非歯原性疼痛に対する薬物療法における副作用をレトロスペクティブに調査し,副作用発生リスクとなる薬物を検索することを目的とした.
    方法:2018年11月から2020年3月に当院口腔顔面痛みしびれ外来で担当した患者を対象に,診療録から患者背景と使用薬物,副作用を抽出した.初期投与量以下での副作用の有無を従属変数として,ロジスティック回帰分析を行った.独立変数に疼痛治療薬(アミトリプチリン塩酸塩,カルバマゼピン,Ca2+チャネルα2δリガンド,トラマドール塩酸塩)使用の有無を用いた.モデルの適合度は正判別率,モデルχ2検定,Nagelkerke R2,Hosmer-Lemeshow検定で評価し,ブートストラップ法を用いてモデルの検証を行った.
    結果:123名中30名で副作用を認めた.非歯原性疼痛に対する薬物療法における副作用発生リスクとして,Ca2+チャネルα2δリガンドの使用(p=0.001,オッズ比(OR):5.61,95%信頼区間(CI):2.01-15.7)とカルバマゼピンの使用(p=0.022,OR:4.02,95%CI:1.22-13.3)が挙げられた.
    結論:プレガバリンやミロガバリンベシル酸塩などのCa2+チャネルα2δリガンドやカルバマゼピンは添付文書に記載される初期投与量以下でも副作用を発症するリスクが高い可能性が示唆された.
  • 小出 恭代, 桑島 梓, 小川 晃奈, 飯島 守雄, 大久保 昌和, 小見山 道, 牧山 康秀, 河相 安彦
    2022 年 14 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/26
    ジャーナル フリー
    目的:日本大学松戸歯学部では3年次歯科補綴学導入というカリキュラムの中で,顎関節症の診断基準に基づいた体験実習を行っている.本調査では歯学部学生の頭痛と顔面痛およびブラキシズムの有病率を調査し,それらの関連を検討したので報告する.
    方法:日本大学松戸歯学部3年次生304名を対象に,Research Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders(RDC/TMD)日本語版の病歴に関する質問票(PHQ)を用いて,頭痛,顔面痛,およびブラキシズムの有病率を算出した.また,それらの関連性について重回帰分析を行った.
    結果:PHQから,頭痛と顔面痛の有病率はそれぞれ51.6%および4.6%であった.また,睡眠時ブラキシズムと覚醒時ブラキシズムの有病率はそれぞれ27.3%および12.5%であった.重回帰分析の結果,頭痛ならびに顔面痛とブラキシズムとの間に関連を認めた.男女間に有意差は認めなかった.
    結論:歯学部学生を対象にRDC/TMDのPHQを用いて頭痛,顔面痛およびブラキシズムの有病率を調査した結果,頭痛の有病率は顔面痛より高く,睡眠時ブラキシズムの有病率は,これまでに報告されている思春期の有病率と比較すると高い値を示した.また,頭痛ならびに顔面痛とブラキシズムとの関連が示唆された.
  • 中谷 有香, 岡田 明子, 野間 昇, 篠崎 貴弘, 小林 真之, 篠田 雅路, 今村 佳樹, 岩田 幸一
    2022 年 14 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/26
    ジャーナル フリー
    目的:口腔乾燥症の患者は原因不明の舌痛を訴えることが多いが,その発症機序は不明である.そこで本研究は,舌乾燥モデルラットにおける冷刺激に対する三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)ニューロンの応答性の変化を明らかにすることを目的とした.
    方法:イソフルラン浅麻酔下にてSprague Dawley系雄性ラットの舌を乾燥させ(2時間/日,7日間),舌乾燥モデルラットを作製した.侵害冷刺激に対する頭部引っ込め反射閾値(HWT)を記録するとともに,Vcにおいて侵害刺激に対するマーカーとして知られる抗phosphorylated extracellular signal-regulated kinase(pERK)陽性細胞の発現を検索した.また,髄腔内へERKリン酸化阻害薬であるMEK阻害薬(PD98059)を持続投与し,HWTおよび抗pERK抗体陽性細胞の発現数の変化を解析した.
    結果:舌乾燥によって侵害冷刺激に対するHWTは有意に低下した.また舌への侵害冷刺激によってVcにおいて抗pERK抗体陽性細胞数が有意に増加した.PD98059の髄腔内持続投与は,舌の侵害冷刺激に対するHWTの低下およびVcのpERK陽性細胞数の増加を有意に抑制した.
    結論:舌乾燥に起因する舌の冷刺激に対する痛覚過敏にはVcの侵害受容2次ニューロンにおけるERKのリン酸化が関与していることが示唆された.
症例報告
  • 髙根沢 大樹, 青野 楓, 岡田 明子, 今村 佳樹
    2022 年 14 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/26
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は,59歳の男性で摂食開始時に生じる左側の下顎部から外耳後方部にかけての疼痛と食後の激痛を主訴に来院した.摂食開始時の疼痛は,最初の一口目で出現し,我慢して咀嚼を継続していると暫次軽減した.しかし,食後にも激痛が生じ,10分間程度持続するものであった.咀嚼筋群には両側ともに圧痛は認めず,神経学的異常所見も認められなかった.左側耳下腺相当部に圧痛はあるが腫脹は認めなかった.左側耳下腺ステノン管開口部からの唾液流出は少なかった.その他口腔内外において異常所見は認めなかった.各種画像検査において異常所見を認めなかったが,血液検査において血糖が極めて高値を示した.糖尿病内科へ紹介を行い,食事療法開始後から空腹時血糖値は下降を認めた.空腹時血糖値の改善と時間的経過を同じくして疼痛は軽快していた.初診の約1か月後には摂食時痛は大幅に改善し,食後疼痛は消失していた.現在まで痛みの再燃は生じていない.
    考察:本症例では,糖尿病治療開始後に,食事開始時の疼痛は大幅に改善し,食後激痛は消失していた.特発性FBSは糖尿病との関連性が示唆されているが,今回の症例を経験したことで,特発性FBSの痛みに血糖値が強く関与する可能性が示された.
    結論:特発性FBSを診断する際には,糖尿病の既往や血液検査結果を確認する必要性があると考えられる.
  • 西口 浩明
    2022 年 14 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/26
    ジャーナル フリー
    三叉神経痛は多くの場合,血管による神経の圧迫によるとされている.今回われわれは巨大脳動静脈奇形が原因と考えられた三叉神経痛の1例を経験したので報告する.
    症例の概要:患者は62歳男性で,左下顎部の電撃様疼痛主訴に,近医歯科からの紹介で当科を受診した.初診時に三叉神経痛を疑い,カルバマゼピン200mg/dayを処方したところ,電撃様疼痛は減弱した.頭部CTやMRIで,左後頭葉に脳動静脈奇形を認めた.脳動静脈奇形が原因とする二次性三叉神経痛の診断でカルバマゼピン400mg/dayに増量した結果,疼痛は自制内となった.患者は現在当院脳神経外科にて引き続き経過観察中であり,疼痛はコントロールされている.
    考察:本症例は,経過から巨大脳動静脈奇形による二次性三叉神経痛と診断した.脳動静脈奇形の治療法はSpetzler-Martin分類により異なるため,関連各科との連携が重要である.
    結論:巨大脳動静脈奇形が原因と考えられた三叉神経痛の1例を経験した.三叉神経痛に対しては,カルバマゼピンが有効であった.三叉神経領域の疼痛に対して,二次性三叉神経痛を引き起こす頭蓋内疾患を鑑別する必要があると考えられた.
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