日本口腔顔面痛学会雑誌
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16 巻, 1 号
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総説
  • 前川 博治
    2024 年16 巻1 号 p. 1-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー
    目的:神経障害性疼痛の治療では,薬物療法が主たるものである.しかし,その効果が限定的である場合や,効果が認められない場合もある.そこで,現在使用されている薬剤とは作用機序の異なる新たな治療薬が求められている.ドパミン神経系が関与する疼痛制御機構が存在することが示唆されている.ドパミン神経系が神経障害性疼痛を制御する可能性を検討するため,これまでの知見を交えて解説することを目的とした.
    研究の選択:2022年10月9日に開催された,第27回日本口腔顔面痛学会学術大会基礎シンポジウム「歯科麻酔医の痛み研究」内の演題「ドパミン神経による口腔顔面領域の神経障害性疼痛の抑制」の発表内容に基づいた.
    結果:近年の研究の結果,腹側被蓋野や側坐核等で構成される中脳辺縁系が神経障害性疼痛と関連を持つことが神経障害性疼痛モデル動物を用いた実験から明らかとなってきた.また,ドパミン神経核の1つである視床下部A11細胞群も,神経障害性疼痛に関与することがわかってきた.また,神経障害性疼痛では,ドパミン受容体の発現や機能に変化が生じる可能性が示された.
    結論:ドパミン神経が,顎顔面口腔領域の神経障害性疼痛にも関与することが徐々に明らかになってきた.ドパミン神経機構が治療のターゲットになり,それに介入することが痛みを制御するための選択肢となる可能性が示唆された.
  • 今井 昇
    2024 年16 巻1 号 p. 7-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー
    目的:国際口腔顔面痛分類第1版(ICOP-1)には,「5.1 一次性頭痛の症状に類似した口腔顔面痛」が記載されていることからわかるように,口腔顔面痛専門医に一次性頭痛の知識は必須となっている.
    方法:国際頭痛分類第3版と頭痛診療ガイドライン2021の中から口腔顔面痛専門医に必須と思われる内容を抽出し,必要に応じて文献検索を行った.
    結果:片頭痛は,日常生活に支障をきたす一次性頭痛の代表疾患である.頭痛の前に起こる「前兆」症状の有無により,「前兆のある片頭痛」と「前兆のない片頭痛」の二つのタイプに分類される.片頭痛による頭痛は発作的に起こり,4〜72時間持続し,片側性,拍動性,日常生活を阻害,体動で増悪する.頭痛発作中は感覚過敏となり,ふだんは気にならないような光,音,臭いを不快と感じる.また,悪心(吐き気)や嘔吐を伴うことも多い.緊張型頭痛は一次性頭痛のなかで最も多い頭痛である.頭痛は30分から7日続き,圧迫されるような,あるいは締めつけられるような非拍動性の頭痛で,多くは両側性である.頭痛の程度は軽度〜中等度で,頭痛のために日常生活に支障が出ることはあっても寝込んでしまうようなことはない.三叉神経・自律神経性頭痛は一側の激しい頭痛に,頭痛と同じ側に眼の充血や流涙,鼻汁や鼻閉,縮瞳と眼瞼下垂などの頭部自律神経症状を認める疾患の総称で,群発頭痛が代表疾患である.群発頭痛は上記の頭痛発作が数週から数か月の期間群発する.
    結論:代表的な一次性頭痛の特徴,診断,治療について,最新の情報を交えて解説した.
  • 土井 充
    2024 年16 巻1 号 p. 15-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー
    慢性痛は患者本人の認知行動面が要因となり悪循環し,病態が複雑化し,難治性となっていることが多い.そのため認知行動療法を併用した治療介入はとても重要である.認知行動療法を効率的に行うには,まず治療者と患者間に信頼関係が構築されていることが必須である.そのためには患者の考えを受容し,支持的に傾聴していく必要がある.ストレスになる考えを適応的な別の考えに変容する技法を認知再構成法というが,これを行う際には,一方的に適応的な思考を提示するのではなく,質問を繰り返し行うなどして,患者自身が客観的に考え,別の考えの方がストレスも少ないと気付くことができるように工夫をする必要がある.
    慢性痛の治療では,時間をかけて認知行動面にアプローチしていく必要がある.そのため,始めの治療のエンドポイントは,「治す」ではなく原因となる認知行動面も変容しつつ,痛みを上手に受容することにした方がストレスも少なく改善に向かう.患者,治療者との関係性についても,治療者は「認知行動的にも介入し,慢性痛と上手に付き合えるように支援する人」,患者は「医療者の支援も受けるがセルフケアも行う人」となり,ともに慢性痛と上手に付き合う生活を目標にしていくことが望ましい.
  • 松香 芳三, 山本 由弥子, Raman Swarnalakshmi, 生田目 大介, 岩浅 匠真, 大倉 一夫
    2024 年16 巻1 号 p. 21-24
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー
    目的:ボツリヌス毒素治療は口腔顔面部において,筋筋膜性口腔顔面痛,神経障害性疼痛,片頭痛などに効果があると報告されている.本総説では,三叉神経支配領域における神経障害性疼痛に対するボツリヌス毒素の効果メカニズムに関する我々の基礎研究を中心に解説する.
    ボツリヌス毒素効果メカニズム:我々の研究では,Alexa488色素でラベルしたボツリヌス神経毒素重鎖C-端50 kDaを末梢皮内に投与すると,感覚神経節に到達することが観察された.また,ボツリヌス神経毒素を末梢皮内投与すると,末梢神経障害性疼痛行動を減弱することが観察され,感覚神経節におけるFM4-64の遊離を抑制した.
    結論:末梢皮内投与により,ボツリヌス毒素は軸索輸送後,感覚神経節に到達し,神経伝達物質の遊離を抑制する可能性が理解できた.
  • 矢島 愛美, 加藤 総夫
    2024 年16 巻1 号 p. 25-32
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー
    2017年に国際疼痛学会から第3の痛みの機序分類である「痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)」という新しい概念が提唱された.これは,侵害受容器の活性化や神経障害をともなわずに訴えられる痛みとして定義されている1)
    痛覚変調性疼痛の機構を持つ疾患として,線維筋痛症,複合性局所疼痛症候群,過敏性腸症候群,慢性一次性顎関節痛,また口腔灼熱痛症候群などが挙げられるが,痛覚変調性疼痛を適応として承認されている薬物はまだ存在しない.神経障害性疼痛の概念が変更されたことで,新しい痛みの機序分類として痛覚変調性疼痛が出現したために,それにあわせて薬物の適応を変更することや,痛覚変調性疼痛に適応をもつ薬物を新規に開発することは,今後の重要な課題である.しかしながら,痛覚変調性疼痛を評価できる前臨床動物モデルはまだ少ない2)
    我々は,催炎症薬ホルマリンを用いて口唇部に炎症を惹起させると,器質的異常のない両側後肢に痛覚過敏が生じるという痛覚変調性疼痛が想定される動物モデルを用いて3),神経障害性疼痛治療薬として広く使用されているpregabalin (PGB)を10日間連日投与した実験を行った.ホルマリン投与6日目においても観察される疼痛状態に対してPGBの緩和効果は示され,さらにホルマリン投与10日目には,生じていた中枢性感作はPGBの連日投与により緩和される結果を報告している4).本総説ではその作用機序について概説する.
  • —病名治療と随証治療—
    王 宝禮
    2024 年16 巻1 号 p. 33-40
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー
    目的:三叉神経痛の薬物療法の第一選択薬は西洋薬であるカルバマゼピンが多く,吐き気,めまい,電解質異常,全身の湿疹などの強い副作用が発症する場合や効果が不十分な場合は,ガバペンチンやプレガバリン等の薬剤が候補にあがる.近年では第二選択薬の候補のひとつとして漢方薬が注目されている.本稿では三叉神経痛に対する漢方療法を病名治療と随証治療(ズイショウチリョウ)で考察していくことを目的とする.
    研究の選択:「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版.日本ペインクリニック学会神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン作成ワーキンググループ委員,2016」「慢性疼痛治療ガイドライン.慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ,2018」,「非歯原性歯痛の診療ガイドライン改訂版.日本口腔顔面痛学会,2019」のガイドラインに掲載されている漢方薬及び関連文献を検討した.
    結果と結論:三叉神経痛に対して「病名治療」と「随証治療」の概念(臨床診断)よって考察した結果,12種類(桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ),五苓散(ゴレイサン),ブシ末(ブシマツ),立効散(リッコウサン),抑肝散(ヨッカンサン),疎経活血湯(ソケイカッケツトウ),五積散(ゴシャクサン),麻杏薏甘湯(マキョウヨクカントウ),桂枝湯(ケイシトウ),葛根湯(カッコントウ),柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ),芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ))の漢方薬があげられた.漢方薬は西洋薬の有用な補助療法として位置づけることができる.
  • ~特発性口腔顔面痛と三環系抗うつ薬を用いた薬物療法について~
    井川 雅子
    2024 年16 巻1 号 p. 41-50
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー
    歯科領域における痛覚変調性疼痛の機序が関与すると考えられる疾患には,「国際口腔顔面痛分類 第1版(International Classification of Orofacial Pain, 1st edition:ICOP-1)に「特発性口腔顔面痛」として分類されている,口腔灼熱痛症候群(Burning mouth syndrome:BMS),持続性特発性顔面痛(Persistent idiopathic facial pain:PIFP),持続性特発性歯痛(Persistent idiopathic dentoalveolar pain:PIDAP)の3つがあげられる.
    いずれも従来は末梢の神経障害性疼痛であろうと考えられており,推奨される治療法も薬物の局所投与が多いが,効果は不明瞭であった.本稿では,これらの疾患の特徴と現在推奨されている治療法を,自験例に文献的考察を交えて解説し,さらに著者らが行っている三環系抗うつ薬を用いた薬物療法を紹介する.
    著者らは第一選択としてアミトリプチリンを用いている.我々の195名(BMS/71名・PIDAP/124名)を対象とした症例蓄積研究では,BMS患者では約4か月で63.4%が,PIDAP患者では約4.5か月で63.7%がそれぞれ疼痛消失に至り,用いたアミトリプチリンの平均用量はそれぞれ59.2mgと78.9mg/日であった.アミトリプチリンが奏効しない場合も,同じ三環系抗うつ薬のクラス内で抗うつ薬を変更したり,新規抗精神病薬を追加投与することなどで,さらに治癒率をあげることができる.
    著者らは,特発性口腔顔面痛疾患は抗うつ薬によく反応することから,早期に診断して治療を開始すれば,慢性化させずに治癒に導くことが可能だと考えている.
  • 小笹 佳奈, 滝澤 慧大, 田所 壯一朗, 岡田 明子, 篠崎 貴弘, 野間 昇
    2024 年16 巻1 号 p. 51-54
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー
    典型的三叉神経痛の治療では,薬物療法や神経ブロック療法,外科治療などが行われる.これらの治療で第一選択となるのは薬物療法であり,カルバマゼピンであることは疑いの余地はない.しかしカルバマゼピンは副作用の発生頻度が高い薬物としても知られている.一方,神経障害性疼痛の病態に対する薬物治療は容易ではなく,安定した効果が得られていない.近年,ボツリヌス神経毒素治療は難治性三叉神経痛,神経障害性疼痛に効果があると報告されるようになった.ボツリヌス神経毒素の三叉神経痛,神経障害性疼痛に関するメタアナリシスでは試験の要項性指標の鎮痛効果が確認された痛みスコア(visual analogue scale, numeric rating scale, neuropathy pain scale)の改善があり,有害事象が少なく,一定の有効性が認められている.一方,試験によっては,ボツリヌス神経毒素の投与量,投与方法が異なり,発作頻度や疼痛強度など試験毎に様々な指標が用いられているため評価の一貫性がない.従って,三叉神経痛においてはカルバマゼピンに抵抗性がある場合に追加療法として位置付けされているが,効果が様々であるため今後さらなる研究が望まれる.本総説では,臨床研究を基に三叉神経痛,神経障害性疼痛に対するボツリヌス神経毒素の有効性について解説する.
症例報告
  • 左合 徹平, 安藤 瑛香, 椎葉 俊司
    2024 年16 巻1 号 p. 55-58
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー
    症例の概要:84歳男性.1か月前から右側下顎,右側舌縁部から舌根部の自発痛を自覚した.徐々に疼痛の範囲が広くなり,疼痛による開口障害,摂食困難を伴うようになったため,精査加療目的で当科を紹介受診した.舌根部へのリドカインスプレー噴霧で疼痛が軽減したため,舌咽神経痛と診断した.疼痛コントロールのため低濃度局所麻酔薬による舌咽神経ブロックを施行したところ疼痛は軽快した.初回ブロックの鎮痛効果は一時的であったが,その後の複数回のブロックでは鎮痛効果が持続し,5回目のブロック以降は疼痛が消失したため神経ブロック療法を終了した.
    考察:舌咽神経末梢枝への低濃度局所麻酔薬によるブロックは,末梢からの触刺激を一定時間遮断することによりエファプス伝達やニューロンの易興奮性を鎮静化させたり,自然な不応期に導いたりする効果があり,鎮痛効果が持続する可能性がある.
    結論:舌咽神経痛の疼痛コントロール方法として低濃度局所麻酔薬による舌咽神経ブロックが有用である可能性が示唆された.
  • 伊藤 幹子, 佐藤 曾士, 徳倉 達也
    2024 年16 巻1 号 p. 59-63
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー
    症例の概要:70歳代前半女性が当リエゾン外来初診約4年前,下顎左側臼歯部に夜も眠れない激痛を自覚し,かかりつけ歯科医院で下顎左側第二小臼歯5根尖性歯周炎と診断された.疼痛は1週間程で消失したが,1か月後,同部に鈍痛としびれ感を自覚した.20年前に治療を受けた5の根管充填剤除去と根管治療を受けたが疼痛は軽減しなかった.患者は4年間で10か所の歯科医療機関を転々とした後,当外来を紹介受診した.4年前の患者の日記から帯状疱疹後神経痛の診断にいたった.合併症を考慮しノイロトロピンを4か月間処方したところ,痛みはほぼ消失した.
    考察:帯状疱疹後神経痛は帯状疱疹の治癒後に生じる持続性神経障害性疼痛である.帯状疱疹で三叉神経第Ⅱ・Ⅲ枝領域に歯痛が生じた場合,激痛を訴えるが1週間程で収束すること,歯痛の数日後,同じ神経支配領域に小水疱が出現するが無疱疹性のこともあることなどにより診断の難しさが指摘されている.本症例は,患者の日記より明らかになった,歯痛が夜も眠れない激痛として始まり,いったん収束,1か月後,病態の異なる神経障害性疼痛として現れたことが診断上のポイントとなった.
    結論:帯状疱疹が原因と考えられる歯痛と診断されないまま帯状疱疹後神経痛を発症し,口腔顔面痛を4年間訴え続けていた高齢女性を経験した.帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛による口腔顔面痛の診断の難しさを再認識する必要がある.
  • 井村 紘子, 山﨑 陽子, 坂元 麻弥, 栗栖 諒子, 川島 正人, 前田 茂
    2024 年16 巻1 号 p. 65-69
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は41歳の男性で,主訴は左側舌縁のピリピリ感と麻痺感であった.近医にて下顎左側智歯抜歯後,左側舌縁部の感覚がない状態が続いていた.メコバラミンを処方され内服したが症状の改善が見られないため,当科紹介され受診した.左側舌神経麻痺,左側舌神経ニューロパチーと診断された.メコバラミン,プレガバリンや桂枝加朮附湯の処方に加え,近赤外線療法,鍼通電療法を施行した.初診から1年5か月後には舌のピリピリ感,麻痺感は改善され,左側の味覚の改善が見られた.
    考察:薬物療法,鍼通電療法,そして近赤外線療法が舌神経麻痺の回復に効果的であったと考えられる.薬物療法では神経障害性疼痛の第一選択薬としてのプレガバリンと漢方薬の桂枝加朮附湯の併用が有効で,桂枝加朮附湯はプレガバリンの副作用を軽減するのに役立ち,神経障害性疼痛の軽減に有用であったと考えられる.
    鍼通電療法は痛みや知覚閾値,自覚的異常感の改善が得られるとされており,本症例では鍼刺激と通電刺激により,神経血流改善が得られ,末梢神経の再生力が高まったのではないかと考えられる.近赤外線療法は血液循環を改善し,神経の興奮性の鎮静効果が期待される.これらの治療法が本症例では舌神経麻痺の改善に有効であったと考えられる.
    結論:舌神経麻痺の治療としては,薬物療法のみならず,物理療法も行い多角的にアプローチすることが有効である可能性が示唆された.
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