日本口腔顔面痛学会雑誌
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7 巻, 1 号
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依頼総説
  • 井川 雅子, 山田 和男, 池内 忍
    2014 年 7 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    口腔顔面部の特発性疼痛には,歯科治療を契機とするものが多いが,侵害刺激が加えられていないにもかかわらず発症するものもある.このような症例の中には,明らかな器質的異常が認められないにもかかわらず,日常生活が続けられないほど重症化する例もまれではない.
    このような特発性疼痛は,従来は神経障害性疼痛,下行性疼痛抑制系の機能不全,また中枢の感作などでその機序を説明することが試みられていたが,一方で,近年の脳機能画像研究の発達により,組織損傷が存在しなくても疼痛が発現しうることが明らかにされつつある.すなわち,侵害刺激ではなくても,個人にとって著しい脅威や不快と感じられるような刺激にさらされた場合に,関連する脳領域が過剰に活動し始めることによって,慢性疼痛に陥ってゆく可能性があるということであり,口腔顔面部の特発性疼痛の発症の機序を考える上で大きな手がかりになると思われる.
    本稿では,特発性疼痛の機序に関する最近の脳科学的研究の知見について解説を行い,われわれが経験した2症例を供覧する.
    症例1:74歳,女性.医師に舌がんを示唆された直後から特発性顔面痛を発症し摂食不能となったため,発症から3か月目に胃瘻を造設した.症例2:81歳,女性.上顎左右臼歯部に6本のインプラントを埋入した直後から,上顎左側中切歯に特発性歯痛と全身の不全感を発症し,寝たきりとなった.いずれも劇症ではあるが,三環系抗うつ薬により速やかに治癒した.
原著論文
  • 石田 麻依子, 奥村 雅代, 岡本 望, 澁谷 徹, 金銅 英二
    2014 年 7 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    目的:三叉神経節は,眼神経,上顎神経,下顎神経の3枝に分枝し,その末梢枝は頭頚部で広範囲に分布している.三叉神経節内には,これらの神経細胞体が集まっており,それぞれの領域の細胞体の局在には神経節内で偏りがあることが知られている.しかしながら,これまでの報告における表現は統一性に欠け,詳細も不明である.そこで神経損傷で確実に発現するとされる神経損傷マーカーのATF3(activatingtranscriptionfactor3)抗体を用いて三叉神経節内の神経細胞体の局在を三次元構築し,各神経切断群間で比較検討をおこなった.
    方法:ラットの三叉神経において眼窩上神経,眼窩下神経,下歯槽神経,舌神経それぞれの切断群(各n=3)と,各神経に至るまでの組織の切開や剥離を加えて,目的の神経を切断しない対照モデル(各n=1)を作製し,ATF3の発現がピークとなる7日後に三叉神経節を摘出し,100μm毎の水平断切片を作製した.これらの切片をATF3抗体と,神経細胞のみを染色するNeuN抗体,すべての細胞の核を染色するDAPI抗体を用いた免疫組織化学に供し,光学顕微鏡下で画像データとしてコンピューターに取り込み,スライスごとに重ねて三叉神経節を復元するように三次元構築をおこなった.
    結果:ラット三叉神経節は,二つに分岐しており,第1枝,第2枝から外側へ向かう枝が3枝となる.三叉神経節内における神経細胞集団は,大きく二つの領域に分かれており,1つは吻側(吻側領域)に,もう一つは尾側(尾側領域)に局在していた.これら2つの領域は三叉神経節の背側では融合しており(吻側・尾側連続領域),腹側では分離していた.ATF3とNeuNの二重陽性細胞を観察した結果,眼窩上神経切断後のATF3陽性細胞の局在は,吻側領域において内側に,眼窩下神経切断後のATF3陽性細胞の局在は,吻側領域内ほぼ全域に分布しており,眼窩上神経切断後のATF3陽性細胞領域を含んでいた.下歯槽神経切断後のATF3陽性細胞の局在は主に尾側領域に発現し,吻側・尾側連続領域では点在していた.また,吻側領域において広範囲に散在していた.舌神経切断後では,下歯槽神経切断後とほぼ同じ領域でATF3陽性細胞局在が確認された.眼窩下神経と下歯槽神経,舌神経の各切断後のATF3陽性細胞の局在は吻側・尾側連続領域で混在しており,各神経領域の境界は不明瞭であった.
    結論:以上より,ラット三叉神経節内における神経細胞局在には,異なる領域の神経細胞が混在する箇所が存在していた.同じ神経節内における損傷した神経細胞が近接する非損傷の神経細胞に何らかの物質を伝達することが異所性感覚異常の発症につながっているという説もあり,今回の結果は,この異所性感覚異常のメカニズム解明の基礎データになりうると考えられる.
依頼総説
  • 大久保 昌和, 築山 能大, 小見山 道, 和嶋 浩一, 今村 佳樹, 岩田 幸一
    2014 年 7 巻 1 号 p. 23-34
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    口腔顔面痛に関する国際的な学術団体には,国際学会もあれば国際学会の内部組織もある.これ等の学術団体は互いに機能的に協力し,重要な役割をなしており,日本口腔顔面痛学会はこれらの団体と密接に関連している.国際疼痛学会(IASP)は痛みを扱う団体の中で最も規模が大きく,歴史のある学会である.口腔顔面痛のスペシャルインタレストグループ(SIG)は,IASP の会員で口腔顔面痛に興味のある研究者で構成されたグループである.一方,国際歯科研究学会(IADR)神経科学グループは,歯学研究者でIADR の会員から成るグループで,口腔顔面痛SIGとともに顎関節症の研究的診断基準(RDC/TMD)コンソーシアムを作っている.RDC/TMDコンソーシアムは2014年にTMDの診断基準(DC/TMD)を発表しており,これは現在の顎関節症の標準的診断基準となっている.米国口腔顔面痛学会 (AAOP)は,アジア頭蓋下顎障害学会(AACMD)やその他の関連学会とともに口腔顔面痛と顎関節症に関する国際学会(ICOT)を組織している.2016年には IASP と AACMD の学術大会が横浜で同時開催されることになっており,日本口腔顔面痛学会の会員はこれらの学会に参加して口腔顔面痛の基礎と臨床の最新の話題について学ぶことが強く推奨される.
  • 今井 昇
    2014 年 7 巻 1 号 p. 35-38
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    口腔顔面痛(OFP)は歯科と医科の両方にまたがる分野であり,医科領域では神経血管性疼痛および神経因性疼痛に起因する神経内科疾患が多くを占める.これらを鑑別するためには,基本的な病歴聴取の技術,神経学的所見のとり方,OFPを来す医科疾患の特徴や診断基準について知識が必要となる.
    しかし代表的疾患を単に記憶するだけでは表面的な知識に留まり,実際の診断には役立たない.神経内科医は,3次ニューロンまで含めた三叉神経についての解剖学的知識,脳内での疼痛発生および疼痛抑制機序,神経伝達物質を代表とする生化学的知識,遺伝子学的知識などを動員して,病態から各疾患を鑑別し診断を行っている.
    OFPを起こす代表的な医科疾患には,片頭痛,群発頭痛があり,これらの頭痛は三叉神経だけではなく脳内での異常が生理的および機能的画像検査で明らかにされている.また,慢性頭痛では脳の機能的・解剖学的・化学的変化が起こっており,更に慢性化から離脱しても脳の機能変化が残存して再度悪化しやすい状態にある.慢性化した OFP でも同様な機能変化が生じていると推測されることより,治療する際は脳内の変化を考え,再燃しやすいことに留意すべきである.OFP専門医がこのようなOPF関連の医科疾患の最新の知識を習得するには日本頭痛学会への参加が有用である.
  • 大久保 昌和, 和嶋 浩一
    2014 年 7 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    本教育講演では慢性疼痛患者の認知的側面を理解するために,外傷後有痛性三叉神経ニューロパシーの薬物療法の現状を知り,口腔顔面痛患者の脳イメージング研究のメタ分析から明らかにされた,脳の機能的あるいは形態的変化について,そして,慢性疼痛患者の情動・認知的側面への補完代替医療の介入が疼痛緩和に有効であるとする最近の総説を解説し,今後の慢性疼痛患者管理の方向性について述べる.慢性口腔顔面痛“患者”の管理には痛みの感覚的,情動的,認知的側面を熟知しておく必要があり,それには患者を知るための医療面接技法の習得や質問票の活用が勧められる.外傷後有痛性三叉神経ニューロパシー“患者”の薬物療法の結果は必ずしも思わしくなく,生物心理社会的アプローチを併用することや有効で安全な薬の開発が望まれる.ほとんどの慢性疼痛状態は痛みの中枢化と呼ぶことができる,脳の機能的,形態的,あるいは化学的変化を惹き起こし,fMRI は客観的診断への可能性を有している.補完医療の慢性疼痛“患者”の認知的側面への介入は有効かもしれず,口腔顔面痛歯科医は薬物療法に加えて神経学や精神医学に関する知識の習得と専門家との連携,そして,補完医療の可能性についても考慮する必要がある.
  • 宮地 英雄
    2014 年 7 巻 1 号 p. 45-48
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    原因のはっきりしない痛みを呈する患者を診たとき、精神的側面を考慮することになるが、その関与のしかたはさまざまなパターンがある。精神面が関与する身体症状は、評価、対応、治療が難しくなる。鑑別、診断していくには、他覚所見の有無と、その所見がどの程度痛みを説明し得るかを多面的に考えることが有効と考える。ただしその所見と症状がどの程度見合うかの判断、特に所見が明確に存在しない時の判断は困難となる。日頃いかに典型例を診ているかということが重要であり、ケースカンファレンスなどを活用し、判断基準を共有することなどが有用と考える。
    痛みに関連する精神疾患として、2013年6月に改訂された DSM-5 に身体症状症という診断名が登場した。そのほか考慮すべき精神疾患としては、統合失調症、セネストパチー、気分障害(うつ病)、などが挙げられる。この様な「精神的問題」が関与している痛みの対応は、主訴に沿った判断・対応が無難である。必要だができないことは連携が重要である。連携については、①侵襲的対応の有効性の見極め、②十分なインフォームドコンセント、③丸投げしない連携、などがポイントである。治療やケースワークがなかなか進まない痛みを呈している患者とは、「付き合っていく」ということも選択肢である。身体症状を初診で診る医師の言葉は非常に重い。安易な説明や保証はのちの治療関係に大きく影響することがあるため、注意するべきである。
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