日本口腔顔面痛学会雑誌
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8 巻 , 1 号
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原著論文
  • 遠藤 友樹, 西須 大徳, 村岡 渡, 佐藤 仁, 臼田 頌, 中川 種昭, 和嶋 浩一
    2015 年 8 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/05/27
    ジャーナル フリー
    目的:非歯原性歯痛の啓発活動によって,原因不明の口腔内疼痛により口腔顔面痛(以下OFP)専門外来を受診する患者が増加していることが考えられる.この研究は,原因不明の口腔内疼痛患者における臨床統計を行い,その特徴を明らかにすることを目的とした.
    方法:対象は,2012年1月~2012年12月の間に,慶應義塾大学病院歯科・口腔外科OFP外来を受診し,原因不明の口腔内疼痛を訴えた95名とした.これら対象患者の男女比,年齢分布,主訴の部位別割合,病態診断,主要な病態の治療法および治療効果についてレトロスペクティブに臨床的検討を行った.
    結果:患者は男性19名,女性76名で,年齢別分布は,30歳代から60歳代でほぼ同頻度であった.おもな病態診断は,筋・筋膜性疼痛(以下MFP)48%,神経障害性疼痛(以下NP)26%で合わせて約8割を占め,歯原性病変も8%含まれていた.また,NPの1/3で,MFPが併存した.MFPのための主な治療法は認知行動療法と理学療法で,NPのための主な治療法は薬物療法であった.およそ7割に症状の改善傾向を認めた.
    結論:口腔顔面痛専門外来における難治性口腔内疼痛患者の治療において,非歯原性疼痛の鑑別を含めた病態診断が重要と考えられた.
  • 椎葉 俊司, 布巻 昌仁, 左合 徹平, 原野 望, 吉田 充広, 坂本 和美, 小野 堅太郎, 北村 知昭, 鱒見 進一
    2015 年 8 巻 1 号 p. 7-11
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/05/27
    ジャーナル フリー
    目的:Myofascial Pain syndrome(MPS)の発現・維持に交感神経活動が関与する.交感神経活動は情動ストレスによって亢進する.本研究はMPS患者のストレスに対する交感神経活動変化を明らかにすることを目的とする.
    方法:当科で治療中のMPS患者(MPS群,n=10)と健常成人ボランティア(control群,n=10)の2群を設定した.ストレス負荷時の心電図RR間隔のスペクトル解析を行い,交感神経活動の指標であるL/Hを比較検討した.身体ストレスとして能動的起立,情動ストレスはinternational affective picture system(IAPS)による映像を用いた.
    結果:安静時のL/Hは2群間に有意差を認めなかった.身体ストレスに対して2群ともL/Hは上昇したが,群間に有意差は認めなかった.情動ストレスに対してはMPS群で有意にL/Hの上昇が認められた.
    結論:MPSの発症・維持に情動ストレスによる交感神経活動の亢進が関与する可能性がある.
  • 松下 幸誠, 和嶋 浩一, 吉田 結子, 野田 哲朗, 尾上 正治, 石井 宏
    2015 年 8 巻 1 号 p. 13-25
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/05/27
    ジャーナル フリー
    目的:この論文では疼痛構造化問診票とTMD+OFP診査表(脳神経検査含む)を用いた1人の歯痛を訴える患者の診断過程が述べられている.歯科医療に携わる者にとって歯痛診断は挑戦の連続である.また,その一方で歯痛診断は歯科医にしかできない.よって,他科との共同治療の面からも患者の現症や病歴などの情報としての診断は,その疾患の病態,治療法の知識と理解をも伴った正確なものでなくてはならない.しかしながら,臨床経験の浅い歯科医にとって,あるいは臨床経験豊かな歯科医にとっても複雑な症例を前にしたとき,それは困難な課題として専門家としての決断が揺らぐことも珍しくない.今回著者らは仮説演繹的な臨床診断推論手法と情報収集には疼痛構造化問診票,診査にはTMD+OFP診査表を用いて推論を行いその有効性を試験した.
    研究の選択:1名の下顎左側臼歯部の歯痛を訴える患者の診断を第1ステップ「包括的病歴採取」,第2ステップ「鑑別診断の列挙」,第3ステップ「鑑別の確認作業」,第4ステップ「鑑別診断の見直し作業」,第5ステップ「最終診断」の5つのステップで行った.また,第1ステップにおいては疼痛構造化問診票を,第3ステップではTMD+OFP診査表を用いた.
    結果:本症例は確定診断に至り,それによる治療法の選択で完治した.
    結論:疼痛構造化問診票とTMD+OFP診査表を用いた臨床診断推論により本症例の歯痛診断への有効性を確認した.
症例報告
  • 岡本 彩子, 桝屋 二郎, 安田 卓史, 浜田 勇人, 松尾 朗, 近津 大地
    2015 年 8 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/05/27
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例1:70歳,女性.下顎左側小臼歯部の頬側歯肉に黒色病変を認めたため,当科で全摘生検術を施行した.術後,軽度のオトガイ神経感覚鈍麻を認め,その後不快な違和感の残存を認め,当科慢性疼痛外来受診となった.症例2:61歳,女性.当科でインプラント周囲炎および顎関節症の治療中に舌の痛みを訴え,当科慢性疼痛外来を受診した.両症例ともに,医療面接を重ねる中で,より心身医学的な対応が必要と判断し,当院メンタルヘルス科口腔心身症外来の受診を勧めた.同外来でミルタザピンやミルナシプランの内服加療を開始した.しかしいずれも著効には至らず,また症例2では副作用を認めたためデュロキセチンへの内服薬変更を行ったところ,両症例ともに違和感や痛みの症状は軽快した.
    考察:これまで口腔顔面領域の慢性疼痛に対して主に三環系抗うつ薬(TCA)が使用されていた.しかし口渇や尿閉,心電図異常などの副作用の点から,より安全な薬剤選択が望まれ,口腔心身症外来でもTCA以外の抗うつ薬を積極的に使用してきた.慢性疼痛ガイドラインを参考にしながらも,副作用に考慮し,患者に合わせた治療が重要であると考えている.
    結論:口腔顔面領域の慢性疼痛に対して心身医学的なアプローチを行い,デュロキセチンが有効であった症例を経験したので報告した.
  • 牧野 泉, 西原 真理, 牛田 享宏
    2015 年 8 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/05/27
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例は48歳の女性.主訴は上下顎左側臼歯部の痛みと左側上肢の感覚低下であった.約5年前より上下顎左側臼歯部に激痛が出現し,多くの医療機関で歯内療法や薬物治療を受けたが改善なく,当痛みセンターを受診した.痛みは自発痛であり,日内変動があった.今までの経過より,特発性歯痛と診断した.全顎的に口腔衛生状態は悪く,歯科治療途中の歯が多数存在し,抜歯部分も補綴されていなかった.当科では,麻酔科医,歯科医及び理学療法士による集学的治療を行った.疼痛行動と考えられる口腔パラファンクションの是正指導,下顎運動療法を毎診察時に行ったところ,疼痛強度の変化が起き,歯科治療を受けることを決心できた.歯科医院では,歯科治療に対する不安を取り除くために,歯周病の初期治療から開始した.当科介入約12か月後,疼痛部位に補綴物を装着したが,痛みは出現しなかった.
    考察:原則的に特発性歯痛に対して侵襲性の高い歯科処置は避けるべきである.しかし,歯内療法中や抜歯した状態で痛みが改善するまで待つことは,口腔環境の悪化だけでなく患者の不安を大きくしかねない.本症例は,心理教育を含めた運動療法と同時に歯科治療を実際に受けることにより,経験と学習を繰り返したことで,痛みの認知が変更し,痛みの軽減が促されたと考えられる.
    結論:痛みに対する心理教育を含んだ運動療法と歯科医院と連携した治療を行う事は,特発性歯痛改善に有効である.
  • 木村 陽志, 竹岡 義博, 神野 洋輔
    2015 年 8 巻 1 号 p. 39-42
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/05/27
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例1・2ともに評価は我々が作成した評価シートを用いた.疼痛の指標としてはNumerical rating scale(以下,NRS)を用いた.症例1:20代,男性.右側の上下智歯を局所麻酔下にて抜歯.約3週間後にも,右側の側頭筋,内側翼突筋および頬筋の伸張痛,圧痛と開口制限は残存していた.4回の治療(Post Isometric Relaxation以下PIR)で最終評価時(抜歯後7週目)には疼痛は消失(NRS:0)した.開口量(上下顎中切歯間距離)は治療前36mm,治療後には50mmまで改善した.症例2:30代,男性.突如右顎関節周囲に疼痛が出現.主に咬筋,内側翼突筋に伸張痛,圧痛があり,開口制限と咬合時痛を生じていた.2回の治療で最終評価時(発症後5週目)には疼痛は軽減(NRS:0から1)した.また開口量は治療前24mm,治療後には50mmまで改善した.
    考察:症例1・2はSimmonsらの診断方法より咀嚼筋および頬筋にTaut band,Trigger point,Referred painを認めていることから筋・筋膜性疼痛を生じていると考えられた.筋・筋膜性疼痛に対する治療として,LewitらはPIRの有効性について述べている.今回,PIR等を実施したことで症例1・2の症状改善に至ったと考えられる.
    結論:現在,歯科・口腔外科からの直接的な依頼で理学療法士が介入し治療するという一連の流れは日本では普及していない.今日は,全身の骨格筋の評価・治療を実施する理学療法士の介入の必要性と歯科・口腔外科との連携が求められるのではないかと考える.
  • 岡安 一郎, 達 聖月, 鮎瀬 卓郎, 和気 裕之
    2015 年 8 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/05/27
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は60歳女性(主婦).舌痛を主訴に,2014年9月,長崎大学病院・口腔外科を受診後,当科を紹介受診となった.診察所見として「地図状舌」がみられた.各種検査を行ったが,異常所見および異常値は認められなかった.他覚所見としてみられた「地図状舌」が症状に起因する可能性は低いと考え,MW分類(心身医学・精神医学的な対応を要する患者の4分類)のうち,分類B(自覚症状・他覚所見乖離ケース)に相当する「舌痛症」と診断した.心身医学療法と表面麻酔薬を用いた局所的薬物療法により,良好な疼痛管理が継続維持できるようになった.
    考察:舌痛症の病態は不明であるが,口腔粘膜病変,口腔乾燥,亜鉛・鉄・ビタミンの不足,糖尿病,甲状腺機能低下症,薬の副作用,自己免疫疾患,不安やうつ,ストレスなどが原因で同様の症状が出現することがある.しかし,舌痛症は診断基準や確定診断の方法がなく,考え得る局所的,全身的,心理社会的要因の関与を一つ一つ評価して診断を行うことになる.本症例のように,他覚所見が存在しても,所見では自覚症状を十分説明できないケースでは,所見の説明や非侵襲的な治療で経過をみることが大切である.
    結論:本症例では,心身医学療法と局所麻酔を用いた薬物療法を併用することで,良好な疼痛管理が行えた.現在,舌痛症は特に有効な治療法が存在しないが,本治療法は,選択肢の一つとなる.
  • 安藤 祐子, 山﨑 陽子, 新美 知子, 細田 明利, 川島 正人, 嶋田 昌彦
    2015 年 8 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2015/12/25
    公開日: 2016/05/27
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例は50歳の女性.16か月前より右側舌根部に違和感を自覚するようになった.近医内科受診したところ,含嗽薬が処方されたが症状は改善しなかった.その後,近医内科で膠原病が疑われ血液検査を行ったが異常はなかった.症状は次第に右側舌縁部全体に拡大した.2か月前,近医歯科受診を経て本院口腔外科受診となった.細菌検査の結果はカンジダ陰性であった.軟膏および含嗽薬が処方されたが症状に変化がなかったため当科受診となった.初診時は右側舌縁部に灼熱感を訴え,症状は断続的に発生していた.胃部不快感があり内科受診予定とのことだったので立効散7.5g/日を含嗽で処方したところ,含嗽後一時的に症状は軽減した.処方開始7週間後,症状の発生頻度が減少した.処方開始11週間後,症状を感じない時間が増えた.この頃より,患者は自主的に症状のある時のみ立効散を使用していた.その後,症状は7週間で2回のみの出現であったため,処方開始5か月後,立効散の含嗽の頓用処方とした.処方開始8か月後には症状が落ち着いたため,症状出現時に立効散を含嗽で使用することとし,終診となった.
    考察:本症例は含嗽薬による含嗽では症状の改善はなかったが,立効散による含嗽で症状が改善した.したがって,立効散の含有成分による舌粘膜への作用が示唆された.
    結論:内服治療が困難な舌痛症に対し,立効散の含嗽は有用であったと考えられた.
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