日本口腔顔面痛学会雑誌
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9 巻, 1 号
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原著論文
  • 坂本 英治, 石井 健太郎, 大島 優, 中嶋 康経, 江崎 加奈子, 塚本 真規, 一杉 岳, 横山 武志
    2016 年 9 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    背景と目的:歯科領域の慢性痛に悩む患者の実態についての報告は少ない.本検討では,非歯原性歯痛患者の現状と診断に至るまでの経過と治療歴及び費やされた医療費について明らかにすることを目的とした.
    方法:2011年4月から2015年9月に九州大学病院歯科麻酔科外来を受診した非歯原性歯痛患者が対象である.電子診療録と医療面接から情報を抽出した.抽出した情報は一般的な情報に加え,病悩期間,歯科・医科の受診歴,これまでの検査,治療内容とその効果の情報を抽出した.さらに検査,治療に関わる費用を歯科診療報酬規定(平成28年度改定)に当てはめて算出した.
    結果:対象患者は64名(男性11名,女性53名)で,平均年齢55.0±13.8歳であった.病悩期間は平均49.6±60.9か月であった.歯科,医科の受診歴は,平均3.71±1.94件であった.治療,検査では,歯内処置が48名(75%)に,抜歯が29名(45.3%)に行われていた.それまでの平均除痛率は11.3±14.51(%)だった.それまでに費やされた医療費は219,948±238,869.5円であった.
    考察:非歯原性歯痛患者は,診断までに,多様な治療を受けている.1人当たりの医療費がおよそ22万円とすれば5,958億円になり,年間1,441億円の医療費が費やされていると試算される.非歯原性歯痛に対する診断治療のための施策は急務であると考える.
  • 松川 由美子, 佐藤 有華, 山寺 智美, 河野 晴奈, 篠崎 貴弘, 野間 昇, 岡田 明子, 今村 佳樹
    2016 年 9 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    目的:三叉神経の神経障害性疼痛に対する少量の塩酸ケタミンの効果を安静時痛の鎮痛効果と随伴症状の変化について検討した.
    方法:三叉神経領域の各種神経障害性疼痛を有する7名を対象とした.塩酸ケタミン10mgとミダゾラムの併用と生食とミダゾラムの静脈内投与による二重盲検,クロスオーバー試験とした.各薬剤は5試験日反復投与した.安静時疼痛の強度(VAS),アロディニア,ディセステジアの領域,電流認識閾値(EDT)について検討した.
    結果:薬剤の投与後,ケタミン,生食の両群でVASは明らかに低下し,ケタミン群では生食群よりもさらに顕著に低下した.しかし,長時間作用性あるいは累積した鎮痛効果は見られなかった.EDTは経時的に有意差が認められた.ケタミンの反復投与では,知覚低下には軽快が見られないものの,ディセステジアの軽快をみた患者もいた.一方,有害事象は皆無だった.
    結論:ケタミンは,三叉神経の神経障害性疼痛に対して一時的な鎮痛効果と傷害部位からの非侵害性入力の抑制を有したが,これらの効果は長時間作用性や累積するものではなかった.
  • 小林 大輔, 小山 侑, 清水 博之, 杉山 健太郎
    2016 年 9 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    目的:三叉神経痛の治療法はカルバマゼピン(以下CBZ)の投与である程度確立されているが,副作用で服用の中断を余儀なくされる症例や,抵抗性を示す症例に遭遇することがある.そのような症例の臨床的特徴が明らかになれば治療の一助となると考え,三叉神経痛患者の臨床的検討を行った.
    方法:2010年4月から2015年3月に東京都立多摩総合医療センター歯科口腔外科を受診した三叉神経痛患者48例について年齢,性別,罹患部位,頭部MRI所見,治療法,副作用について調査を行った.
    結果:初診時年齢は29~96歳で平均年齢は67.9歳であった.性別は男性が11例(22.9%),女性が37例(77.1%)であった.罹患部位は第Ⅱ枝が25例(52.1%)と半数以上を占めた.頭部MRI撮影を行った44例において18例(40.9%)で原因血管の同定が可能であり,うち上小脳動脈が9例(50.0%)と最も多かった.3例(6.8%)に脳腫瘍を認め,3例の内訳は聴神経腫瘍および髄膜腫,類上皮腫であった.CBZを投与した45例のうち,34例(75.6%)で症状が寛解したが,11例(24.4%)についてはCBZの内服のみでは症状は寛解せず,追加の治療を必要とした.CBZの奏効量は200mgが19例(55.9%)と最も多かった.副作用は14例(31.1%)に認め,最も多い副作用はふらつきで6例であった.
    結語:今回われわれは三叉神経痛患者48例について臨床的検討を行った.しかしCBZに副作用,抵抗性を示す症例に明らかな臨床的特徴は見出すことができなかった.
  • 佐久間 泰司, 加藤 裕彦, 大郷 英里奈, 百田 義弘
    2016 年 9 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    緒言:日本語は,「歯がきりきりと痛む」のように,多くのオノマトペ(擬音語,擬態語)が用いられている.われわれは,口腔顔面領域の神経障害性疼痛で用いられるオノマトペを明らかにするためにアンケート調査を行った.
    方法:平成27年8月1日から平成28年7月31日までに本学附属病院ペインクリニックを受診した患者のうち,口腔顔面領域の神経障害性疼痛と診断され,投薬治療により症状が緩和あるいは緩解した患者を対象とした.診察時の「感覚の種類についてのお尋ね」の記述をもとに後向きアンケート調査を行った.
    結果:23名の患者のデータを分析対象とした.男性1名,女性22名と女性が多く,27歳から74歳,平均50.4歳であった.いつも感じる感覚のうち,もっとも強く感じるオノマトペは「じんじん」が多く22%,次いで「じーん」,「ひりひり」がそれぞれ13%であった.表面の痛み22%,芯に響くような痛み52%,痛み以外の感覚26%であった.いつも感じる感覚の全てをオノマトペで表現させたところ,「ぴりぴり」52%(患者に占める割合),「じんじん」35%が多かった.疼痛がつらい時のオノマトペは,「ずきずき」23%,「ひりひり」18%,「ずーん」「ずきんずきん」がそれぞれ14%であった.痛みがつらい時のオノマトペは濁音率が高かった.
    結論:本研究により神経障害性疼痛患者の発するオノマトペから診断の一助となる情報が得られる可能性が示唆された.
  • 神山 裕名, 西森 秀太, 飯田 崇, 内田 貴之, 下坂 典立, 西村 均, 久保 英之, 小出 恭代, 大久保 昌和, 成田 紀之, 和 ...
    2016 年 9 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は口腔顔面領域の慢性疼痛疾患である顎関節症患者,舌痛症患者,三叉神経痛患者における病悩期間と質問票を基にした主観的な睡眠感との関連を検討した.
    方法:被験者は日本大学松戸歯学部付属病院口・顔・頭の痛み外来を受診した患者3,584名を対象とした.診断が確定した顎関節症患者1,838名,舌痛症患者396名,三叉神経痛患者108名の質問票における主観的な睡眠感を検討した.病悩期間は症状発現から3か月未満,3か月から6か月,6か月以上をそれぞれ急性期群,中期群,慢性期群に分類した.睡眠に関する自己申告の質問は入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒とした.各病悩期間における入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒の睡眠スコアをそれぞれ比較した.
    結果:顎関節症患者における慢性期群の入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒の睡眠スコアおよび舌痛症患者における慢性期群の入眠障害,中途覚醒の睡眠スコアは急性期群,中期群と比較して有意に高い値を示した(p<0.05).三叉神経痛患者における各睡眠スコアは急性期群,中期群および慢性期群の間に有意差を認めなかった.
    結論:顎関節症患者および舌痛症患者における病悩期間の長期化と睡眠感との間に関連性を認めることが示唆された.
症例報告
  • 佐藤 仁, 村岡 渡, 西須 大徳, 臼田 頌, 安居 孝純, 鬼澤 勝弘, 中川 種昭, 和嶋 浩一
    2016 年 9 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は,初診時71歳の女性で右側口蓋粘膜の疼痛を主訴に来院した.右側口蓋粘膜に浮腫性の紅斑と多数の小水疱が認められ,一部は自潰し潰瘍を形成していた.3年前に右側Th5-6領域の帯状疱疹(herpes zoster: HZ)の診断で皮膚科にて治療を受けていたことから,再発性HZと診断した.抗ウイルス薬の内服により右側口蓋粘膜の接触痛および浮腫性紅斑は消失したが,その後も持続痛と右側上顎大臼歯の歯痛が持続する状態が続いていた.初診時より4か月後に後遺していたこれらの痛みが咬合時に増悪するようになったため再受診した.右側上顎大臼歯に異常所見はなく口蓋粘膜のアロディニアが認められたため帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia: PHN)と診断し,プレガバリンの内服を開始したところ疼痛は完全に消失した.
    考察:HZの再発は稀とされてきた.しかし,HZの発症には細胞性免疫が重要な役割をもつため,加齢により免疫が低下するとHZが再発する可能性がある.本症例は71歳と高齢であり,VZV特異的細胞性免疫の低下から,HZの再発を生じ,その後に非歯原性歯痛を伴うPHNに移行したと考えられた.
    結論:HZの再発を認め,非歯原性歯痛を伴うPHNに移行した高齢者の1例を経験した.
  • 野間 昇, 山本 真麻, 渡邉 広輔, 関根 尚彦, 高根沢 大樹, 池田 真理子, 今村 佳樹
    2016 年 9 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例は55歳の男性.7年前に右眼周囲に穿刺痛が出現するようになった.某病院脳神経外科を受診し三叉神経痛の診断の下,カルバマゼピンを処方され症状は軽減した.当科初診3週間前にインプラント周囲炎のため近医歯科医院で切開・排膿処置を施行.消炎処置1週後より右側の側頭部,眼周囲の間欠的な疼痛,眼球の発赤や流涙などの自律神経症状を自覚したため当科初診来院.初診時,三叉神経痛の疑いと診断し,カルバマゼピン100mg/日を処方した.MRI所見では,右側三叉神経根部における上小脳動脈による圧迫が認められた.徐々に発作の頻度,持続時間,疼痛強度および自律神経症状の訴えは少なくなり,2か月後,完全に消失した.カルバマゼピン休薬5か月後より再び右側上眼瞼周囲の穿刺痛を1日2~3回程度自覚し,当科へ再来院.再来院時の症状は右側上眼瞼の疼痛のみで自律神経症状は認めなかった.カルバマゼピン100mg/日を再び処方し,1年3か月再発なく経過観察中である.
    考察:三叉神経痛患者には軽微な自律神経症状がみられることがあり,SUNCTとの鑑別は,臨床的には困難な場合がある.ICHD3βでは,そのような症例では,SUNCTと三叉神経痛の両方の診断を下すべきであるとしている.
    結論:自律神経症状を伴う三叉神経痛第Ⅰ枝の症例は稀である.本症例のように自律神経症状を有する顔面痛にはTACsなども考慮し,慎重に鑑別する必要がある.
  • 桃田 幸弘, 高野 栄之, 可児 耕一, 松本 文博, 青田 桂子, 山ノ井 朋子, 高瀬 奈緒, 宮本 由貴, 小野 信二, 東 雅之
    2016 年 9 巻 1 号 p. 53-59
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    口腔顎顔面領域に発症する神経障害性疼痛は従来の薬物療法(非ステロイド性抗炎症薬,いわゆるNSAIDs)が奏効し難く,対応に苦慮する.1990年代,米国において新しい疾患概念として口腔顔面痛が提唱され,本邦においても,その対策は喫緊の課題とされる.近年,プレガバリン・トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(T/A錠)・加工附子末などが用いられ,その経験が蓄積されつつある.今般,われわれはプレガバリン,T/A錠および加工附子末製剤の三剤併用が奏効した口腔顔面痛の3例を経験したので報告する.患者は男性1名,女性2名,年齢50~81歳(平均65歳)であった.全例に対してプレガバリン,T/A錠および加工附子末製剤を併用し,痛みは緩解もしくは消失した.特記すべき有害事象は認められなかった.口腔顔面痛に対するプレガバリン,T/A錠および加工附子末製剤の三剤併用の有用性が示唆された.
  • 澁谷 智明, 和気 裕之
    2016 年 9 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は56歳女性(主婦).「かみ合わせが悪い,話をしているとあごが痛い」という主訴にて,2014年12月に当院を受診した.診察と検査によって両側顎関節症と診断した.治療を進め,顎関節部の症状は改善したが,下顎右側の疼痛を訴えたため,専門医療機関にてCT検査を行った.その結果,下顎骨の硬化像を認め,慢性硬化性骨髄炎が疑われ,SAPHO症候群の精査も勧められた.その後,某大学病院膠原病・リウマチ内科にて全身の精査を行なった.身体所見,骨シンチ画像所見(胸骨柄周囲を含め,全身の骨に明らかな異常集積はなし)より,SAPHO症候群は否定された.現在,顎関節部の症状は安定しているが,歯科治療を行いながら経過観察中である.
    考察:顎関節症はその診察,検査および初期治療への反応やパノラマX線写真等から典型な顎関節症ではないと判断した場合は,積極的にMRIやCT検査を依頼することが必要である.それによって適切な鑑別診断や併存疾患を見つけることに繋がる可能性がある.しかしながら,高次医療機関へ紹介する場合は,患者の自覚症状と他覚所見,特に画像を自分自身でも読影し,画像読影医とも相談検討した上で行う必要性も示唆された.
    結論:今回われわれは,かみ合わせの悪さと会話時のあごの痛みを主訴として来院した患者にMRIとCT検査を行った.それによってSAPHO症候群の精査を勧められた症例を経験した.
  • 鳥巣 哲朗, 多田 浩晃
    2016 年 9 巻 1 号 p. 67-73
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例は67歳女性.2年前の交通事故以来,頭痛と不快感(頭重感,右頚部痛,右肩こり)が持続.5か月前から上顎右側臼歯部に原因不明の疼痛が生じ,その後1か月前の航空機搭乗をきっかけに右後頭部痛が発現.かかりつけ歯科医にて咬合治療,スプリント療法,上下歯列接触習癖に対する改善指導等を受けたが症状が軽減せず本院補綴科受診となった.口腔内所見およびパノラマX線撮影では異常所見は見つからなかったが右咬筋の圧痛(硬結帯)と右後頭部および右側上顎臼歯部への関連痛が認められた.病態説明とセルフケアおよび生活指導を主体とした初期対応で臼歯部の疼痛は消退し後頭部痛は減少した.その後,歯科麻酔科および医科総合診療科にて五苓散とトリプタン系片頭痛頓挫薬で対応し疼痛はさらに減少した.神経障害性痛様の症状が残存したため,少量のプレガバリン処方を追加したところ疼痛はほぼ消退した.
    考察:筋・筋膜性痛およびそれに伴う関連痛,神経血管性痛,神経障害性痛がオーバーラップした症例と考えられた.各因子に対して適切なアプローチを行うことで複雑な症例の疼痛管理が可能になったと考えられる.本症例では各因子に対して主にセルフケアと生活指導,五苓散,および低服用量のプレガバリンが有効であったと考えられた.
    結論:複数の要因が関連する複雑な疼痛において,関連する各要因に対し適切な対応をとることで良好な疼痛管理が可能となった症例を経験した.
  • 今泉 うの, 別部 智司, 三橋 晃, 吉田 和市
    2016 年 9 巻 1 号 p. 75-80
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:49歳の女性.X-1年,交通外傷で顔面を打撲,上顎前歯を脱臼し,同部と咽頭部の痛み,手の痺れを訴え救急搬送された.上顎前歯は徒手整復され,脳神経外科でのCT検査でも異常はなかった.1か月後,上顎右側中切歯を抜髄し痛みは軽減したが,間もなく痛みが増強した.某病院耳鼻科と脳神経外科を受診,頭部MRI検査でも異常が見られず半年が経過し,X年に当科を受診,上顎右側中切歯の慢性根尖性歯周炎と神経障害性疼痛の疑いと診断した.治療は歯内療法,漢方治療,傾聴を中心としたロゴセラピーを用いて全人的医療を行った.その際,Patient evaluation grid(PEG)患者評価表で問題点を分析し,経時的に評価した.初診から1年2か月後には痛みは漸減し,従病状態となった.以後,全人的医療を継続的に行った.
    考察:身体面には歯内療法,漢方治療が効を奏した.心理面,社会・環境面,実存面では痛みが原因で不安や焦り,鬱症状,社会生活への自信喪失,将来への失望などがみられたが,ロゴセラピーが前向きに生きていく意志を目覚めさせた.これらの方法が有効であったのは,問題点を的確に抽出してからの治療であったためと考えられた.
    結論:難治性慢性痛の治療では傾聴に重きを置き,全人的に分析して,治療目標を設定する方法を用いた全人的医療の有用性が示唆された.その際経時的な評価と治療目標の検討が重要であった.
  • 松本 文博, 桃田 幸弘, 高野 栄之, 松香 芳三
    2016 年 9 巻 1 号 p. 81-85
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例は35歳の女性.X年6月頃より食事の際に食物が口に入ると左側耳前部,下顎角部から顎下部にかけて刺すような痛みを覚えるようになった.開業歯科医院を受診し顎関節症と診断されスプリント治療を受けたが改善なく,同年10月徳島大学病院高次歯科診療部顎関節症外来を受診した.疼痛は1~数分間持続し特に酸味や濃い味の食物で激痛となった.舌咽神経痛を疑いカルバマゼピンの内服を開始し疼痛の軽減を認めたが消失には至らなかった.その後薬物治療中に手の違和感を訴えたため,血液検査を行ったところ著明な血糖値の上昇を認めた.内分泌内科にて2型糖尿病と診断され,糖尿病治療を受け約1年後には発作性神経痛はほぼ消失した.
    考察:糖尿病神経障害の一つとしての舌咽神経痛の報告例は少ないが,その特徴として,40歳以下が多いこと,過半数が両側性であることなどが指摘されている.本症例においても年齢が35歳と若年であり,糖尿病治療中に両側性に発作性疼痛を認めたことなど過去の報告例と一致していた.また血糖値をコントロールすることで発作性疼痛が完全に消失したことなどから糖尿病神経障害と確定診断した.
    結論:糖尿病合併症の一つである舌咽神経痛の一症例を報告した.歯科医師は顎関節部を含む口腔顔面領域の疼痛性疾患の診断に際し糖尿病神経障害にも留意し,現病歴,既往歴,家族歴,心理・社会的要因を含め丁寧な医療面接を心がける重要性が確認された.
  • 山﨑 陽子, 井村 紘子, 細田 明利, 新美 知子, 川島 正人, 嶋田 昌彦
    2016 年 9 巻 1 号 p. 87-92
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は62歳女性である.下顎左側第一大臼歯の急性化膿性根尖性歯周炎を発症し,近歯科医院にて根管治療を行った.しかし,根管治療が終了した後も自発的な鈍痛が残存するため当科を受診した.初診時は下顎左側第一大臼歯特発性歯痛と診断したが,診察の結果,左側咬筋,胸鎖乳突筋および側頭筋に広範囲な硬結を触知し,左側咬筋の圧迫によって下顎左側第一大臼歯の痛みの増悪を認めた.そこで筋・筋膜性歯痛と診断し,左側咬筋にトリガーポイント注射をおよそ2週間ごとに行った.3回目の注射終了後には歯痛が消失し,最終補綴を行った後も症状は悪化せず,当科終了となった.
    考察:本症例は,急性化膿性根尖性歯周炎,筋・筋膜性歯痛および特発性歯痛が複雑に絡み合い,痛みの悪循環によって筋・筋膜性歯痛が増強されたと考える.また,本症例はトリガーポイント注射が奏効し,下顎左側第一大臼歯の痛みは消失した.これは,筋・筋膜性歯痛の場合,痛みの根源は筋および筋膜にあるため,筋肉に対する治療が痛みの消失に寄与したと考える.
    結論:歯科治療を行っても残存する歯痛には,筋・筋膜性歯痛の存在を疑う必要があると思われた.また,筋・筋膜性歯痛が疑われる場合は,トリガーポイント注射は症状の改善に有効な治療法の一つであることが示唆された.
  • 柏木 航介, 野口 智康, 中村 美穂, 福田 謙一
    2016 年 9 巻 1 号 p. 93-97
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は43歳の男性.上顎右側第2大臼歯と右側口蓋部の持続痛が出現したため初診2日前に近歯科医院でジクロフェナクナトリウムを処方されたが痛みは改善せず,当科紹介受診.患者の訴えのある部位に視覚的及びX線上でも疼痛の原因と考えられる所見はなかった.約2年前右側三叉神経第2枝に同部位に帯状疱疹の既往があったことから帯状疱疹後神経痛(Postherpetic neuralgia:PHN)と診断した.患者はプレガバリン,アミトリプチリン内服により重度の傾眠傾向を生じたため星状神経節ブロック(Stellate ganglion block:SGB)とアデノシン三リン酸二ナトリウム水和物(ATP)持続静注の併用治療を2週間毎に施行し,良好なペインコントロールを得られていたが,時々同部位に水疱が出現し痛みが増悪した.水痘帯状疱疹ウイルス(Varicella zoster virus:VZV)の回帰感染と推測し,アシクロビルの処方を数回行い,良好な結果を得た.
    考察:本症例はPHNのペインコントロール中にVZVの回帰感染が複数回生じたことにより,激しい疼痛を繰り返したと考えられる.PHNの治療において抗ウイルス薬の処方は一考するべきであると思われた.
    結論:PHNの治療は難治性になり,ペインコントロールに苦慮することがあるが,今回その原因の一つとしてVZVの回帰感染が考えられた.
  • 朴 曾士, 梅村 恵理, 伊藤 幹子
    2016 年 9 巻 1 号 p. 99-104
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例は68歳の女性.X-5年,転倒による顔面外傷で総合病院外科を受診.打撲と診断され1か月で終診となったが,右中顔面の異痛・異常な不快感覚が軽快しないため同外科を再診したところ,「気のせいだろう」と言われた.咬合の違和感も自覚したので,同年に近医歯科医院を受診し,上顎右側前歯部の暫間固定処置を受けるも,症状の改善を認めず,長期間放置.痛みの増強を認めた為,X年当リエゾン外来を紹介受診となった.初診時,上顎右側前歯部,右鼻翼から口唇にかけての異痛・異常な不快感覚(VAS値50/100)を認め,5年前のエピソードから神経障害性疼痛と診断した.精神科医師の診察では,症状遷延に対する不安は認めたものの,うつ病等の精神疾患は否定された.
    考察:神経障害性疼痛の第1選択薬であるプレガバリンを処方し,VAS値は50/100から30/100と改善した.また当科で初めて,「気のせいではなく神経の損傷による神経障害性疼痛」と診断されたことが患者にとっては救われる思いがした体験となり,これも症状改善の一要因になったのではないかと考えられた.
    結論:精神科医師と共にリエゾン歯科診療を展開する施設は全国的にも日本では数少ない.慢性の神経障害性疼痛でも,患者の苦痛に理解を示して支持的に対応し,適切な薬物療法を行うことは症状の緩和に有効であり,歯科・精神科の連携は極めて重要であると考える.
  • 三木 春奈, 水口 一, 前川 賢治, 窪木 拓男
    2016 年 9 巻 1 号 p. 105-111
    発行日: 2016/12/25
    公開日: 2017/04/12
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は36歳女性.本院受診の9か月前に上顎左側第二大臼歯歯肉の違和感と左側頭頚部から肩部に及ぶ掻痒感を自覚し,近歯科医院を受診した.上顎左側第二大臼歯の抜髄処置を受けるも歯肉の違和感は改善しなかったため,本院を紹介受診した.X線ならびにCT検査にて上顎左側大臼歯根尖部に透過像を認めたため,根尖性歯周炎の診断のもと,感染根管治療が実施された.しかし,上顎左側第二大臼歯の疼痛と上顎左側臼歯部の歯頚部歯肉に持続的な掻痒感が残存した.掻痒感は,肩凝りと伴に増悪し,2~3日持続した.また,左側咬筋,側頭筋,胸鎖乳突筋に圧痛を認め,咬筋,側頭筋の圧痛部位を持続圧迫することで掻痒感が再現された.
    以上より,本症例の掻痒感は,頭頚部の筋・筋膜痛の関連症状である可能性が考えられた.そのため,筋・筋膜痛の軽減を目的に,マッサージ,温罨法などの理学療法を指導した.さらに,就寝時ブラキシズムの自覚があったことから,スタビライゼーションスプリントの装着を指示した.筋・筋膜痛の軽減に伴い,上顎左側臼歯部周囲歯肉の掻痒感も軽減した.
    考察:筋・筋膜痛のトリガーポイントからの関連痛として知られる筋・筋膜性歯痛に加え,遠隔部位に生じる掻痒感も,筋・筋膜痛の関連症状として出現する可能性が考えられた.
    結論:筋・筋膜痛の関連症状として出現したと考えられる歯肉の掻痒感を訴える患者を経験した.
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