作業科学研究
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日本作業科学研究会第26回学術大会佐藤剛記念講演
  • 高木 雅之
    2024 年 18 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/06/22
    ジャーナル フリー
    本論の目的は,作業経験を共有することの意味や効果を考察することである.まず,記録と対話を用いて作業経験を共有したことにより,作業的アイデンティティが表現され,生活や健康に好影響が生じた事例について述べる.次に,地域在住の健康な高齢者に対する集団プログラムに関する研究結果から,作業経験の共有の効果について考察する.作業経験の共有は個人の健康関連 QOL や生活満足度,人生の意味を高めると考えられる.この効果は,人と人をつなげ,個人を社会的,精神的によい状態にする作用が作業経験の共有にはあるためだと推測される.さらに,作業経験の共有には相互理解と連帯感を生み出し,インクルーシブなコミュニティを形成する効果が期待できる.最後に,作業経験の共有を個人やコミュニティを変化させる手段としてだけでなく,目的や権利として捉え,作業経験を共有する機会が豊かな社会をつくる必要性について言及する.
日本作業科学研究会第26回学術大会基調講演
  • 作業科学と作業療法の共生
    イキウグ モーゼス, 中村 めぐみ, 横井 賀津志
    2024 年 18 巻 1 号 p. 10-28
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/06/22
    ジャーナル フリー
    人間の作業は,作業療法と作業科学の存在理由である.しかし,最近まで,人間の作業を正確に定義し,経験される現象としての作業の種類を区別し,作業が持つ治癒の働きを明らかにするための努力はなされていなかった.本講演では以下について論じる.1)意味のある作業は健康とウェルビーイングを高めるという命題について,2)すべての意味のある作業が同じではなく,心理的報酬(やりがい)のある作業は他のタイプの意味のある作業とは異なること,3)意味のある・心理的報酬のある作業を追求することは,人類にとって進化的な基盤があること,4)健康でいるためには,意味のある作業と心理的報酬(やりがい)のある作業の両方が必要であること,5)作業療法介入におけるメディア(媒体)として,意味のある・心理的報酬(やりがい)のある作業を使用するための手順,6)物理学の(アインシュタインの)場の方程式から借用した ツールを用いて,作業参加をより正確に調査するための作業科学の今後の方向性,7)この調査に基づく知識が,作業療法実践の改善にどのように利用できるか.
日本作業科学研究会第26回学術大会シンポジウム
  • 自分らしく生きるための道を築いてこられた当事者の方々と
    中野 里佳, 尾辻 かな子, 郭 辰雄, 岸田 美智子
    2024 年 18 巻 1 号 p. 29-41
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/06/22
    ジャーナル フリー
    障害,国籍,性等の背景によって自分らしく生きることを阻まれてきたことに声をあげ,大阪で後世に続く道を築いてこられてきたシンポジストの経験や想いの紹介,フロアからの質疑応答を通して,マイノリティとしての自分を受け入れることの難しさ,仲間との出会い,自身を語ること,互いを理解し尊重することの重要性など,誰もが自分らしく生きられる社会への足掛かりとなる言葉が得られた.できる限り語られた発言のまま報告する.
研究論文
  • フォーカス・グループ・インタビューを用いて
    南 庄一郎
    2024 年 18 巻 1 号 p. 42-50
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/06/22
    ジャーナル フリー
    本研究では,当院で長期入院を送る統合失調症患者11名にフォーカス・グループ・インタビューを行い,テーマ分析の手法で彼らの退院と地域生活に対する思考や感情などを捉え,彼らが経験する作業的不公正と作業機能障害を明らかにした.本研究の結果,対象者が【安心の入院生活】を送る背景には【地域生活に対する強い不安】があったこと,対象者は<長期入院を続ける理由づけ>を対象者なりに見出していたことなどが明らかになった.本研究から,対象者の作業的不公正とは,必要な療養期間を経ても様々な理由で入院を余儀なくされること,長期入院によって意味のある作業に参加できないことであり,この軽減には精神保健医療福祉の改革ビジョンをさらに推進していく必要がある.また,対象者が経験する作業機能障害(作業疎外・作業周縁化・作業剥奪)の軽減には,対象者にとって個別的意味のある作業への参加に焦点を当てた支援を行うことなどが必要である.
  • 堀田 典, 髙島 理沙, 坂上 真理
    2024 年 18 巻 1 号 p. 51-60
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/06/22
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,地域在住超高齢者の well-being に関連する作業経験について,作業が行われる背景 とともに探究することである.北日本にある A 市内で地域生活を送る85歳以上の超高齢者 6 名に対して半構 造化面接を実施し,得られたデータについて Steps for Coding and Theorization(SCAT)を応用して分析を行っ た.その結果,研究参加者は,老いの進行によって作業の継続や作業的アイデンティティの存続が脅かされ る経験をする中,自分の心身状態を維持できている実感をもたらす作業経験,他者との継続した関係の実感 をもたらす作業経験,そして自己のアイデンティティの感覚をもたらす作業経験を通して well-being を認識 していることが理解された.加えて,参加者はこれらの作業に継続して参加できるように,作業をルーティ ン化しており,このルーティン化は地域施設が提供する作業参加の機会や関係性の深い他者の存在という環 境の特性によって促されていたことが示された.さらに,参加者は作業を継続するために無理のないように 作業への参加を選択しており,その時々のニーズに柔軟に応じながら,無理なく自然な流れで必要な作業が 続けられる作業パターンを作って well-being を経験していた可能性が考えられた.
日本作業科学研究会第26回学術大会特別講演
  • 宮崎 宏興
    2024 年 18 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー
    人の暮らしで起こる問題解決と,人の暮らしを中心とした興味関心から広がる市民活動が交錯する先に,『作業』がある.その風景は,利他的な想いから生まれるかも知れないし,煩わしさや後ろめたさから立ち起こるかも知れない.全ての人が地続きな 社会 において,異なる存在同士が,既存の枠組みそのものを考え直しつつ,新しい前提を社会自体に構築し,人生の意味を問い直すようなことの中に,クリエイティブさがある. 作業療法の実践は,作業・ものや道具・ひと・スタイルなど,作業療法の意匠とも言える要素で進路を定め,企てとも言える{設計}・対話・共感・こと・コミュニティのつながり要素によって駆動される.さらに,未完成さをデザインに含むことで,作業の周囲に社会の関わりしろが生まれ,これまで携わりのなかった人たちに新たな役割ができたり,人と人の間に新たな空気が生まれたりするかも知れない.作業は,境界を溶かす装置にもなる.
実践報告
  • 事例報告
    山根 奈那子
    2024 年 18 巻 1 号 p. 66-75
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー
    生活スタイルが変化する契機にある大学生を対象に,作業バランスをテーマにしたプログラムの開発と実践をおこなった.プログラム前後で作業のバランス状態,生活の質,作業の遂行度の変化を比較した.報告事例は作業療法学を専攻する実習期間中の女子学生であり,講義と演習からなるグループセミナー全 4回と個別での自己学習やホームワークで構成されたプログラムに参加した.結果,綱渡りイメージの作成により,プログラム前は曖昧であった緊張感の認識が,具体的な戦略をたてることでプログラム後には自分自身の認識や価値観と一致したことが示された.作業バランスを調整する手段や生活が変化する過程を知ることは,常に変化する環境に適応していくことや,良い環境を自ら開拓すること,自分が何を求めているかを認識しどの作業を選択するかを検討する際に役立つことが示唆された.
  • 磯野 早織, 高木 雅之
    2024 年 18 巻 1 号 p. 76-82
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー
    高校生が児童館でボランティア活動をすることで児童館という空間が高校生にとって意味のある場になっていく.そこで,本研究では児童館でボランティア活動をする高校生の作業経験を探索した.三原市児童館でボランティア活動をする高校生 7 名を対象に,半構造化面接を用いてデータを収集し,再帰的テーマティック分析を行った.その結果,児童館でボランティア活動をする高校生の作業経験として,自由と気軽さ,自分に合っている感覚,包んでくれる居心地の良さ,チャレンジによる不安と達成,役に立つうれしさ,将来につながる感覚,児童館への愛着という 7 つのテーマが明らかとなった.本結果から,高校生がありのままでいられ,役に立っていると思えるような場づくりをすることで,児童館が高校生の居場所の 1 つになると考える.また,児童館でのボランティア活動は高校生の世界を空間的に広げ,時間的につなげていると考えられる.
  • 満足度に影響する作業経験の要素に着目したフォローアップに関する事例報告
    木坂 萌夏, 池内 克馬, 高木 雅之
    2024 年 18 巻 1 号 p. 83-91
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー
    本報告に先立ち,地域在住がん経験者 3 名に対して活動日記の振り返りから作業に焦点を当てた目標を設定するという内容の対話教室が 1 週間に 1 回の頻度で全 6 回実施された.本報告の目的は,その対話教室に参加した 3 名のうち,自分のことを後回しにする性格のために生活の質(QOL)が低下すると予測されたことから,フォローアップの必要性が高いと考えられた乳がん経験者 1 名に実施した個別フォローアップの効果を作業経験に関する考察とともに報告することである.個別フォローアップでは,がん経験者が対話教室中に記録した 5 週間分の活動日記から満足度に影響する重要な作業経験を特定した後に, 1 回あたり2時間程度の介入を 1 週間に 1 回の頻度で合計 3 回(作業遂行の計画立案,作業遂行の実施,重要な作業を収録した活動集「活動レシピ」の配布)実施した.この結果,重要な作業経験を特定したことで,がん経験者はがん治療後初めてバスを使って一人で買い物に行けるようになった.加えて,個別フォローアップ前よりも終了 2 か月後の方が QOL は最小重要差以上に改善した.これは,がん経験者がつらいと感じたときに使用 できる「活動レシピ」を作成することで達成されたと考えられた.本報告により,対話教室と個別フォロー アップを統合した新規プログラムの考案につながり得る.
資料
  • 私が当研究会に入会した理由
    守岡 伸彦
    2024 年 18 巻 1 号 p. 92-95
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー
    「自然と作業は相互に関連し合い,作業療法として治療効果をもちうる」.これは登山ガイドである私自身の,作業療法士の治療を受けるため病院で,そして自主トレーニングとして自然の中で行った 4 ヶ月半にわたるリハビリテーションに基づく実感である.作業療法士は施術だけでなく,なぜ良くなりたいのかを問い続け,自分自身も山で複合的に体を動かし,美しい自然に心を動かされ,痛みを忘れて楽しく自主的なリハビリに取り組んだ.もっと良くなろうと病院に積極的に通い,作業療法士はそれを励ます.この連鎖のサイクルは,私の想像を超えて患者に寄り添うものであり治療を前向きにした.この経験を「作業療法の自然を生かした治療的介入」という課題設定のもと,メカニズムや方法論として整理して社会に役立てたい. 作業療法が,治療手段として“どんな作業が,その人の治療になるかを探すところから始まる”のであれば,これは作業療法士と登山やハイキングという自然活動に習熟した登山ガイドとの協働によってこそ進めうる,新しい試みとなるだろう.
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