治療薬の副作用は,アナフィラキシーショックのように投与後に直ちに症状が起こり,因果関係も比較的に明らかな例と,キノフォルムによって起こった SMON のように継続使用後に症状を起こし,因果関係の確認に期間を要したものがある.長期間使用後に起こる副作用は,それまでは一応は安全と考えられて使用されているため,発見には期間と技術を要する.開発中は注意深い観察下で有害事象として挙げられ,副作用として記載される体制が整っている.しかし,服用期間は限られ一般に若い被験者に限られるため,長期間使用して起こる市販後の副作用は診療の現場で発見される.日常診療では多くの訴えや症状に遭遇する.慌ただしい診療の中で薬の副作用を見つけ,報告するには教育研修の体制を要する.担当スタッフは常に時間とともに入れ替わることから,繰り返し身近な経験を共有し続ける研修体制が必要である.
一方,得られた情報を整理し現場へ提供して日常診療や服薬指導に用いることには課題が多い.現在,睡眠薬や抗不安薬は全人口の5%以上が服用しているとされる.ほとんどはベンゾジアゼピン系薬物であり,すべてに「自動車運転や機械操作には従事させないこと」と記載されている.個々の状況を考慮せずに,全員を法的に運転禁止とすれば,社会に混乱を引き起こすだろう.薬物の自動車運転等に対する影響の程度を評価し情報を提供することが望まれる.また重症筋無力症ではベンゾジアゼピン系薬物は禁忌とされている.筋弛緩作用を示し,重症時には症状の悪化を起こすことがあるためであるが,しかし,治療の進歩により現在は9割以上の筋無力症例では症状は安定しており,不眠に対してベンゾジアゼピンを用いるリスクとベネフィットを考慮すると,ほとんどの例では服用に問題はない.禁忌とされる治療薬に対して現場で対応すべき基準が整備される必要性を感じる.相互作用については薬物動態に影響する「おそれがある」という記載が多い.しかし,相互作用に対応するためには,その程度についての情報が必須である.記載すべき相互作用の程度の検討とともに,今後の発展に期待したい.
情報提供では治療薬が処方される可能性のある集団を対象として行われる.この情報を現場で用いるときには,作用でも副作用でも大きな個体差を認める.何らかのリスクが上昇することから,「注意して用いる」と記載しても情報を提供したことにはならない.治療薬は薬物動態でしばしば10倍程度の個体差を認めることから,「注意して用いる」ことは当然のことである.添付文書等での情報提供では,伝えたい内容が個々の処方時の判断に有用となるよう常に検討を続けることが必要と考える.
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