薬剤疫学
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20 巻, 1 号
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企画/MIHARI Project の進展と医薬品の安全監視活動のあり方
  • 鍵村 達夫
    2015 年 20 巻 1 号 p. 1
    発行日: 2015/07/31
    公開日: 2015/09/18
    ジャーナル フリー
  • 石黒 智恵子, 竹内 由則, 山田 香織, 駒嶺 真希, 宇山 佳明
    2015 年 20 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2015/07/31
    公開日: 2015/09/18
    ジャーナル フリー
    独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)では,第2期中期計画(平成21~25年度)の柱の一つとして「医薬品の市販後安全対策の強化・充実」を掲げ,従来の副作用報告を中心とした評価に加え,電子化された診療情報データの二次利用による医薬品の安全性評価体制を構築するため,MIHARI Project -Medical Information for Risk Assessment Initiative を立ち上げた.第2期中期計画の目標は,各種電子診療情報へのアクセス基盤を整備し,薬剤疫学的手法を用いて医薬品による副作用のリスクを定量的に評価する体制を構築することであった.まず,データソースとして,レセプトデータ,病院情報システムデータ,DPC(Diagnosis Procedure Combination)導入の影響評価に係る調査用データ等の利用可能(アクセス可能)なデータベースを対象とし,それぞれの特性について評価した.そして,その特性に基づいて調査テーマを選択し,各種薬剤疫学的手法を用いた試行調査を実施するとともに,各種データベースの安全対策への活用可能性について検討し,平成25年度までに医薬品による有害事象のリスクを定量的に評価する体制を構築した.平成26年度からの第3期中期計画(~平成30年度)においては,厚生労働省およびPMDA内の各部署と連携し,電子診療情報を用いた調査および評価手法を実際の医薬品の市販後安全性評価へ積極的に活用していく「電子診療情報を用いた市販後医薬品安全対策の実運用の開始」および,厚生労働省とPMDAの共同事業として構築している医療情報データベース,厚生労働省が管理するレセプト情報・特定健診等情報(ナショナルレセプトデータベース)等を含む新規の電子診療情報データベースや新規薬剤疫学的手法を検討していく「副作用リスク分析手法の高度化」を目標に検討を進めることとしており,平成27年4月には,医療情報の安全対策への活用を推進するため,新たに医療情報活用推進室を設置し業務を開始した.本稿では,第2期中期計画における MIHARI Project 開始の経緯と目的,各種電子診療情報の特性,また,これまでに実施した試行調査の成果について述べたい.さらに,第3期中期計画での電子診療情報の安全対策への適用に向けた今後の取り組みについても紹介する.
  • 山口 拓洋
    2015 年 20 巻 1 号 p. 14-16
    発行日: 2015/07/31
    公開日: 2015/09/18
    ジャーナル フリー
    本邦での医薬品安全監視活動の歴史を踏まえて,アカデミアの立場から MIHARI Project に対する期待を述べた.① 医薬品開発,承認審査段階から規制当局がもっと関与して,医薬品の安全性対策やリスク・ベネフィット評価などを充実させるべきである.② 規制当局とアカデミアとの共同研究をもっと進めるべきである.③ 今後も MIHARI Project で得られた知見,成果を積極的に情報公開し,規制当局以外も有効利用できるような体制を構築すべきである.
  • 宮崎 真, 下寺 稔
    2015 年 20 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 2015/07/31
    公開日: 2015/09/18
    ジャーナル フリー
    MIHARI Project の進展を見据えた安全性監視活動の変化に向けて,医療データベースの有効活用について企業の立場から所見を述べる.本稿では,追加の安全性監視活動として医療データベース研究および使用成績調査を実施するメリットを,医薬品リスク管理計画における安全性検討事項に掲げるリスクの種類ごとに把握し,目的にあった利用方法を考えるとともに,各追加の安全性監視活動を実施する場合に留意すべき事項について考察した.結果,医療データベース研究は,比較的容易に比較対照群を設定できる,例数が多く検出力が高い,過少報告等の問題がない等のメリットに基づく有用性が考えられた.一方,データベースの特性等技術的な留意事項や再審査制度との関係等制度上の課題も考えられた.使用成績調査は,医療データベースでは把握できないデータの収集や特定の条件で実施する特定使用成績調査の場合有用な方法となるが,現在一般的に用いられている使用成績調査のデザインでは難しい場合が多く,より多彩な研究デザインを検討していく必要性が考えられた.いずれの活動にも留意事項はあり,いずれかが他方を補完できるものではない.追加の安全性監視活動を実施する目的を明確に捉え,医薬品使用者のベネフィットを最大化する最も適切な安全性監視活動を我々は選択していかなければならない.
  • ―薬剤疫学研究デザインの導入と,疾患レジストリーを基盤とした統合データセンターによる使用成績調査―
    鍵村 達夫
    2015 年 20 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2015/07/31
    公開日: 2015/09/18
    ジャーナル フリー
    海外データの活用により少数例の日本人データで医薬品が承認されるわが国の医薬品開発をめぐる現状において,製造販売後調査の重要性はますます増加している.現状のような硬直した選択肢のない使用成績調査はやめるべきである.製造販売後調査が,医薬品・医療機器の安全性を守り,有効性を確認するという本来の役割を果たせるように,使用成績調査という“形式”ではなく,科学的考察の結果に対する手段として機能する世界を到来させなければならない.そのために,使用成績調査に多様な薬剤疫学研究デザインが応用されるべきであり,また使用成績調査は疾患レジストリーを基盤とした独立で統合されたデータセンターにより運用される必要がある.
日本薬剤疫学会 第20回学術総会記録
会長講演
  • 野元 正弘
    2015 年 20 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2015/07/31
    公開日: 2015/09/18
    ジャーナル フリー
    治療薬の副作用は,アナフィラキシーショックのように投与後に直ちに症状が起こり,因果関係も比較的に明らかな例と,キノフォルムによって起こった SMON のように継続使用後に症状を起こし,因果関係の確認に期間を要したものがある.長期間使用後に起こる副作用は,それまでは一応は安全と考えられて使用されているため,発見には期間と技術を要する.開発中は注意深い観察下で有害事象として挙げられ,副作用として記載される体制が整っている.しかし,服用期間は限られ一般に若い被験者に限られるため,長期間使用して起こる市販後の副作用は診療の現場で発見される.日常診療では多くの訴えや症状に遭遇する.慌ただしい診療の中で薬の副作用を見つけ,報告するには教育研修の体制を要する.担当スタッフは常に時間とともに入れ替わることから,繰り返し身近な経験を共有し続ける研修体制が必要である.
     一方,得られた情報を整理し現場へ提供して日常診療や服薬指導に用いることには課題が多い.現在,睡眠薬や抗不安薬は全人口の5%以上が服用しているとされる.ほとんどはベンゾジアゼピン系薬物であり,すべてに「自動車運転や機械操作には従事させないこと」と記載されている.個々の状況を考慮せずに,全員を法的に運転禁止とすれば,社会に混乱を引き起こすだろう.薬物の自動車運転等に対する影響の程度を評価し情報を提供することが望まれる.また重症筋無力症ではベンゾジアゼピン系薬物は禁忌とされている.筋弛緩作用を示し,重症時には症状の悪化を起こすことがあるためであるが,しかし,治療の進歩により現在は9割以上の筋無力症例では症状は安定しており,不眠に対してベンゾジアゼピンを用いるリスクとベネフィットを考慮すると,ほとんどの例では服用に問題はない.禁忌とされる治療薬に対して現場で対応すべき基準が整備される必要性を感じる.相互作用については薬物動態に影響する「おそれがある」という記載が多い.しかし,相互作用に対応するためには,その程度についての情報が必須である.記載すべき相互作用の程度の検討とともに,今後の発展に期待したい.
     情報提供では治療薬が処方される可能性のある集団を対象として行われる.この情報を現場で用いるときには,作用でも副作用でも大きな個体差を認める.何らかのリスクが上昇することから,「注意して用いる」と記載しても情報を提供したことにはならない.治療薬は薬物動態でしばしば10倍程度の個体差を認めることから,「注意して用いる」ことは当然のことである.添付文書等での情報提供では,伝えたい内容が個々の処方時の判断に有用となるよう常に検討を続けることが必要と考える.
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