目的:薬物治療中に転院や併診が考えられる疾患に対して単施設ごとに患者を追跡することの問題点とその解決策として保険者ベースで収集されたレセプト情報(以下,レセプトデータベース)の適用可能性を検討した.
方法:本研究はDeSCデータベース(2018年6月から2022年8月)を使用した後ろ向きコホート研究である.まず薬物治療実施中の慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)患者における受診施設数,各施設における来院頻度,肺血管拡張薬の処方状況等を報告して薬物治療中に転院や併診が考えられる疾患として適切か確認した.そして複数施設を受診している CTEPH 患者での抗血栓薬処方開始施設およびその他の対象施設での有害事象の可能性がある新規傷病件数を報告した.
結果:抗血栓薬が処方された CTEPH 患者106症例(単一施設受診群29症例,複数施設受診群77症例)を抽出した結果,単一施設受診群の来院頻度は平均10.1月/年(標準偏差2.5),複数施設受診群では平均10.4月/年(標準偏差2.1)であり,概ね変わりない来院頻度であったが,複数施設受診群の抗血栓薬処方開始施設のみでは6.5月/年(標準偏差4.0)と半分程度だった.肺血管拡張薬は,複数施設受診群において抗血栓薬処方開始施設以外で処方が開始された18人(19 件)の内13人(14件)が抗血栓薬処方開始施設で同処方が確認できなかった.以上より薬物治療中に複数施設を受診する疾患として CTEPH が妥当であったことを示した.また,複数施設受診群において抗血栓薬処方開始施設以外の施設で確認された傷病の内,抗血栓薬処方開始施設にて確認されていない傷病は,出血18/19件,間質性肺疾患0/1件,上部消化管運動障害(胃炎,胃食道逆流)17/19件,甲状腺機能異常1/1件,網膜障害0/0件だった.
結論:本研究では多様な治療に伴う複数施設受診により,薬剤処方開始施設のみでは拾えない安全性情報がある可能性を示した.薬物治療中に複数施設を受診する可能性がある疾患が対象である場合,薬物治療に伴う適切な医薬品安全性監視活動の実施のために,患者追跡性の高いレセプトデータベースによる安全性情報の創出が検討されるべきである.
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