薬剤疫学
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最新号
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原著
  • 青木 事成, 西田 陽介, 野末 卓
    原稿種別: 研究論文
    2025 年30 巻2 号 p. 25-38
    発行日: 2025/07/31
    公開日: 2025/08/25
    [早期公開] 公開日: 2025/06/27
    ジャーナル フリー

    目的:治験のように統制された体制で実施される研究と比して,観察研究一般やRWDを用いた研究を実施する際には観察者(医療者)による特性の違いが課題となることがある.特段,診療科による観察ビヘイビア(態度)に系統的な違いが生じている場合には研究結果を解釈するうえで混乱を生じる可能性があるため,診療科別に患者観察に対するビヘイビアの違いについて数値を定量化することを目的とした.
    調査デザイン:千年カルテデータベースを用いた記述集計.フリー記載欄である臨床サマリーに記載の文字数について診療科別に中央値等の基本統計量を求める.なお,本研究の目的を踏まえ,入院後の記載については治療期間により記載量に違いが生じることが考えられるため省略するのが妥当と判断し,臨床サマリーのうち入院までの経過のみ文字数カウントの対象とした.
    結果:内科における記載文字数の中央値は503文字であった.これをベースとして種々の診療科における記載文字数の中央値との比は,それぞれ外科 (0.55),眼科 (0.57),精神・心療内科系 (2.85),小児科系 (1.19),産婦人科系 (1.04),皮膚・整形外科・形成外科 (0.41) であった.
    考察:臨床サマリーへの記載量は疾患の特性や患者個々の容態の違いにより変化すると考えられるものの,診療科全体をマスでみた今回の結果には医療者の観察行動のビヘイビアの違いも反映されていると捉えることが妥当と考える.RWDの活用に際しては,データの欠損やアウトカムバリデーションといった種の品質レベルには意識が向くものの,こうした観察(者)バイアスに対しては意識が向きにくいところがある.また,意識が向いたとしてもその定量化や可視化ができないことから,研究結果の解釈を困難にしたり,何ら裏付けもない状況下においては観察者バイアスによる影響を記述することがためらわれることもあるだろう.
    今回の結果は本データ内に含まれる施設に限定するものではなく,国内全体の施設においてもその傾向性については転用できる可能性がある.RWD活用等,観察研究を行った際に診療科の違いによる観察バイアスが疑われるような研究結果が得られた場合にあっては,本研究を適宜引用したり指標で重み付けした感度解析を行ったりといった利用の可能性も考えられる.
    結論:診療科によりフリー記載項目に記載される文字数は特徴的な差異がある.

解説
  • 原 梓, 岩上 将夫, 佐藤 泉美, 杉山 大典, 米倉 寛, 北島 行雄, 桜井 保浩, 宮崎 真, 漆原 尚巳, Outcome Def ...
    原稿種別: 論説
    2025 年30 巻2 号 p. 39-50
    発行日: 2025/07/31
    公開日: 2025/08/25
    ジャーナル フリー
    背景:医療情報データベースを用いた研究は,研究以外の目的で収集したデータを研究にて二次的に使用する.研究対象の疾患や曝露はデータベース上に各種コードで記録されるが,これらコードを利用し疾患や曝露などを特定するアウトカム定義の研究上の妥当性は必ずしも十分ではないとされている.現状,アウトカム定義は,各研究者が研究を計画,実施するたびに個別に発案しているが,報告されない,妥当性評価がなされていないなどの課題がある.
    我々が行ったこと:医療情報データベースから興味のあるアウトカム等を特定するために研究で用いられた診療に関する各種コードの組み合わせによるアウトカム定義を集積し,研究者間で共有するための知識基盤となるウェブベースのデータベース(Outcome Definition Repository;ODR)を,関連する3学会(日本疫学会,日本臨床疫学会,日本薬剤疫学会)の協力を得て構築した.ODR構築にあたっては,Pilot版ODRにて,登録する対象および項目などの要件定義の検討から開始し,日本の医療情報データベースを用いた研究の既報論文のアウトカム定義を入力するユーザー受入テスト(UAT)を実施した.Pilot版ODRで策定されたデータ仕様と構造に基づき,公開版ODRのシステム構築およびUATが行われた.2023年5月より公開版ODRの限定公開を行い,改善に向けた要望や意見を収集した後,2024年4月より本運用を開始し,寄せられた要望に基づきシステム改修を行った.ODRの主要な機能は,アウトカム定義の登録と検索機能であり,2025年3月現在,412論文,3,838のアウトカム定義が登録され,3学会による拠出金により運営されている.
    普及と利用促進のための戦略:研究者によるコード定義の登録のモチベーションとして,学会ごとに登録促進のためのインセンティブの設定など工夫を行う必要がある.また,恒常的に維持管理を担う組織の設立および資金源を確保することで,持続的かつ発展的にODRの運用が可能となり,リアルワールドデータを用いる研究の質向上と促進を図ることが可能と考えられる.産官学による協働的支援が望まれる.
    結論:ODRは,2024年度より3学会の学会員が利用可能となった.登録されたアウトカム定義の更なる利用と登録推進のための持続可能な運営に向けた取り組みが必要である.
企画/標的試験エミュレーション:観察研究における因果推論の新たなパラダイム
  • 深澤 俊貴
    原稿種別: その他
    2025 年30 巻2 号 p. 51-52
    発行日: 2025/07/31
    公開日: 2025/08/25
    [早期公開] 公開日: 2025/06/27
    ジャーナル フリー
  • 深澤 俊貴, 篠崎 智大
    原稿種別: 論説
    2025 年30 巻2 号 p. 53-73
    発行日: 2025/07/31
    公開日: 2025/08/25
    [早期公開] 公開日: 2025/06/27
    ジャーナル フリー

    抄録ランダム化比較試験(RCT)が実施不可能,非倫理的,あるいは時宜を逸するような状況においては,観察データに基づく因果推論が科学的・臨床的意思決定への有効な選択肢となりうる.しかしながら,観察研究はランダム化の欠如による交絡に加え,不適切な研究デザインがもたらす選択バイアスや不死時間など,効果推定を根本的に歪める脆弱性を内包している.こうした課題に対処するための体系的なフレームワークとして,「標的試験エミュレーション(target trial emulation)」が近年注目を集めている.このアプローチは,関心のある因果的な問いに答えうる仮想のプラグマティックRCT(標的試験)のプロトコルを精緻に設計し,それを利用可能な観察データを用いて明示的に模倣(エミュレート)する形で研究を実施する2段階プロセスから成る.その最大の貢献は,観察研究における因果的な問いの曖昧さを排し,明確に定義された因果的な推定対象へと昇華させることにある.本稿では,標的試験エミュレーションの概念的基盤を整理するとともに,実装における考慮事項を詳述する.また,このフレームワークの適用事例として,骨粗鬆症を併存する維持透析患者を対象にデノスマブと経口ビスホスホネート製剤の心血管安全性および骨折予防効果を比較した観察研究を紹介する.標的試験フレームワークは,デザインに起因するバイアスを回避するとともに,観察データに内在する限界を浮き彫りにし,因果的な問いに向き合う疫学者をより妥当な推論へと導くであろう.

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