同学の人々の提唱によって「発育発達」の専門分科会が体育学会に設置されたのは1962年第13回学会であったが, 今だに発育発達の定義が問題となるほど, この学術のカテゴリーは弾力性や柔軟性にとむとともに新鮮な印象を与える. ただ私はここにこの論講なすすめるに当って従来の文献のなかから, 私見によって内容的に比重の大きいもの, 基礎的で特有な意義をもつもの, 問題をふくんでいるものを, 手もとにある資料からえらんで紹介し, 論評し, 検討することとした. これらを, (1)発育発達の定義, (2)発育発達の測定, (3)発育発達の時代性, (4)発育発達の地域性, (5)成長(身体・機能)曲線の追跡, (6)性・骨成熟の前傾, (7)発育発達促進の要因分析, (8)発育発達の現状と将来, の順位で略説する. (1)から(7)まではほとんど業績の紹介と要約であって, これらについては私観はほとんど加えない. その代りというわけでもないが(8)においては, かなり独断的な意見や考察をのべることになりそうである. あらかじめ諒承を乞いたい. なお,「発育発達学」は時間と空間の交叉の場(Situation, Sitzung)においてなされるものであるというのがこの学術の最大の特有性であるといわれる. 他の体育学よりも, この点がまず強調されなければならない. 時間の次元においてまた(1)時代の流れと(2)年代の推移の吟味がなりたち, 空間のジメンションにおいては地域性, すなわち気候, 風土, 社会, 環境生態, 人種などの問題も提起されるであろう. この間, 関与する科学として, 教育のほか, 医学, 心理, 社会, さらに哲学, 宗教, 芸術, 歴史なども批判の立場を与えるであろうが, ここでは主として体育医学の見地にたって考察をすすめていく.
抄録全体を表示