前報において討論した, 体育学の成立条件やその対象領域などの試案に基づいて,その体育学を研究するという営みの内容や制限条件に関して論理的に考察を加えた. 結論の概略は次のようである. 体育学体系を構築するという広義の体育学研究では, 体育現象を観察し, それに関する情報を分析・考察して仮説を導き, それを実証して総合的学術体系を構成するとともに, その結果を実用化したり, それらを通して体育現象の背後にひそむ体育的本質を認識するに至るすべての過程を含むが, それはまた, 体育学研究を志す者の主体的体育学構築という意味において, すべての研究者に課せられた目標でもある. 体育学は, 総合性や人間性を基盤とした人間学の一分野であり, 実践的・哲学的・科学的視点のいずれか一つに偏った研究は, 普遍妥当性を危うくする. 個々の研究活動, すなわち狭義の研究では, 上記の全過程の特定の部分を対象として, また, 研究の方法も実践的・哲学的・科学的のいずれか一つを採用することはあり得ることである. しかし,体育学研究という全体的構想の中で, 特定の分野や部分を用いているという事実をわきまえ, その限界性や, 部分と全体の関係についての考察を無視することは忌むべきである. 狭義の体育科学的研究においても, その研究が体育学に含まれる根拠に言及することが, その研究成立容認条件となると思われる. これらの条件を満たす時に, その研究活動は体育学研究の範疇に位置し, その研究成果は体育学の前進に寄与すると考えられる.
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