高校生2,461人(男子1,293,女性1,168)を対象にスポーツ観の現状と運動部員のスポーツ観に関連する要因を質問紙を用いて調査した。スポーツ観の現状を分散分析を用いて分析し,多重回帰モデルで運動部員のスポーツ観に関連する要因を分析した結果,以下のことが明らかになった。1)スポーツ観の個別質問項目の性別・部所属別の平均値は男女ともに3.1-4.4の問にあり,概ね,消極的肯定の評価であった。2)スポーツ観及び構成因子別の平均値では部所属の要因に主効果が認められ,運動部所属群が非所属群及び文化部所属群に比べて,スポーツ観,スポーツの価値性,スポーツマンの卓越性,スポーツの非低俗性の得点が高かった。また,スポーツの価値性とスポーツの非低俗性において性の要因に主効果が認められ,スポーツの価値性では男子が女子より,スポーツの非低俗性では女子が男子より得点が高かった。3)運動部員のスポーツ観に関連する要因の連関モデル(パスダイアグラム)の共分散構造分析の結果,男女ともに,スポーツ観形成については部活適応感と学校生活適応感が高く,スポーツ継続年月が長いことが競技スポーツヘの態度・意識を高め,スポーツ観を高めていた。4)部活適応感に対しては,男子運動部員では部活苛立事及び日常苛立事が少なく,部活有能感やコーピングスキルが高く,部内PSSが多く,部外PSSが少ないほど,部活適応感を高めており,一方,女子運動部員では部活苛立事が少なく,部活有能感やコーピングスキルが高く,部内PSSが多く,部外PSSが少ないほど,部活適応感を高めていた。5)学校生活適応感に対しては,男子運動部員では部活適応感が高く,部活苛立事があり,部活有能感,セルフエフィカシーとコーピングスキルが高いほど,学校生活適応感を高めており,一方,女子運動部員では部活適応感が高く,部活苛立事があり,部活有能感,セルフエフィカシーとコーピングスキルが高く,部外PSSが多いほど,学校生活適応感を高めていた。以上の結果から,高校生のスポーツ観(意義や価値)は肯定的であるものの消極的な評価であり,スポーツを文化の中でも価値的序列の低いものと見なす文化的偏見や軽視が現存していると判断される。次に,スポーツ観形成については男女運動部員ともに,部活動適応感と学校生活適応感が高く,スポーツ継続年月が長いことが競技スポーツヘの態度・意識を高めて,スポーツ観を高めると言える。そして,その部活適応感及び学校生活適応感はストレス(部活及び旧常苛立事),問接的・直接的対応能力としての部活有能感,セルフエフィカシー、コーピングスキル及び直接・緩衝支援としての部内・外PSS等によって規定される。すなわち,スポーツ観を高めるためには,良質の直接的なスポーツ経験・学習は当然のこととして,豊かなスポーツ経験ができる環境と条件及びそれらを自律的に作り上げていく能力や支援態勢が重要であると言えよう。
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