初診時の白血病患者体内には10
12個 (約1kgに相当) もの白血病細胞が存在する.急性白血病では, 初診時の末梢血白血病細胞数などをもとにリスク分類を行い, これに応じた治療プロトコールを設定する, いわゆるセット療法が一般的である.しかし, 血液腫瘍では固形腫瘍のように画像診断等で残存する腫瘍量を測定することが困難であることから, 再発しない限り, 一度定めたプロトコールを途中で変更することなく, 最後まで治療を行うことが一般的であった.寛解導入後も体内に存在する微小残存病変 (MRD) を診断する手段として, 1980年代後半から分子生物学, 免疫学的手法が次々と開発された.とくにPCR法は腫瘍細胞にあっては正常の造血細胞にはない遺伝子の再構成を同定することで10
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6に1個の高感度でMRDの診断を可能にした.フィラデルフィア染色体のBCR/ABL遺伝子再構成をはじめ, 20種類もの染色体転座に伴う遺伝子の再構成がPCR増幅可能でMRD診断に応用されている.一方, 多くのリンパ系腫瘍では, 免疫グロブリンH鎖, T細胞受容体δ・γ鎖遺伝子が単クローン性に再構成している.再構成の結合部塩基配列はクローン特異的であり, これをPCR増幅することでMRDの診断が行われている.また, 白血球分化抗原をモノクローナル抗体で検出する細胞免疫学的方法も2個以上の抗原のパネルをマーカーとし, flow cytometry (FCM) を利用することで, 感度と特異性をあげている.これらの方法を利用して多施設共同臨床研究において治療経過の定時に骨髄でのMRD定量を行い, MRDと予後との関連を調べた結果, 治療早期のMRDと予後との強い相関が明らかになった.また, 再発例に対する治療 (salvage therapy) においても, 早期MRDと予後の関連が認められ, 再発例に対する造血幹細胞移植においても, 移植前のMRDは予後を決定する因子であることが報告されている.このような知見を得て, MRD結果を治療に応用する試みが始まっている.早期MRD量に基づいて, 治療介入を行うプロトコールはドイッを中心としたBFMグループや日本のCCLSGグループで2000年から始まっている.
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