日本公衆衛生看護学会誌
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最新号
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巻頭言
原著
  • 佐伯 実南, 蔭山 正子
    2024 年 13 巻 3 号 p. 150-157
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
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    目的:アルコール依存症当事者のPerceived stigma(当事者が認識するStigma)を明らかにすることを目的とした.

    方法:医師からアルコール依存症の診断を受けている20歳以上の者に個別インタビューを行った.14名の逐語録を質的記述的に分析した.

    結果:アルコール依存症当事者のPerceived stigmaとして,【飲酒をコントロールできないのは当事者である自分の意志の問題だと思われている】,【当事者である自分が社会通念から逸脱していると思われている】,【アルコール依存症という病気の特徴に関して理解されていない】,【アルコール依存症当事者であるというだけで人間性を否定的に評価される】,【アルコール依存症当事者は危険で迷惑だから拒絶されている】という5つの大カテゴリが生成された.

    考察:アルコール依存症当事者は周囲から病気を正しく理解されず,人間性を否定的に評価されたり,拒絶されていると感じており,苦痛を抱えていると考えられる.

  • 小出 恵子, 岡本 玲子, 岡田 麻里, 中瀬 克己
    2024 年 13 巻 3 号 p. 158-166
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
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    目的:本研究の目的は,市町村が主体的に実施する既存の保健事業の改善を図るための公衆衛生看護技術を明らかにすることである.

    方法:研究参加者は,保健事業を改善した経験のある経験年数5年以上の保健師とした.半構造化個別面接を実施し,質的記述的に分析した.

    結果:既存の保健事業の改善は【保健事業の改善の必要性の判断】を契機とし,【効率的・効果的】かつ【地域特性に応じた改善策】の検討を行う場合と,【実施上の課題に即応する改善策の検討】から始まる場合があった.保健師はその後【組織の合意形成】を行い,必要時に【実行性を高めるOn the Job Training】を設定していた.全てのプロセスにおいて【保健師・関係者の意思決定の推進】がみられた.

    考察:【実施上の課題に即応する改善策の検討】とは,保健事業の方法や内容を一部変更することにより継続するための技術と考えられた.保健師による保健事業の改善のプロセスには,熟考しながら効果と効率性を目指すものと,実施上の課題に速やかに対応し,保健事業の継続を目指すものがあることが示唆された.

  • 山本 佳子, 岡本 玲子, 小出 恵子, 下田和 美怜, 宮本 圭子
    2024 年 13 巻 3 号 p. 167-176
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
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    目的:事業実装における保健師の重要度の認識と実施度の実態と課題を明らかにする.

    方法:全国の都道府県・保健所設置市の本庁・保健所に勤める保健師を対象とし,事業実装点検シート31項目を用いた郵送自記式質問紙調査を行った.

    結果:有効回答数は702であった.重要度・実施度の合計得点の1項目(0–5)当たりの平均は,順に4.2,3.7であった.保健師経験5年以下,6年以上役職無,6年以上役職有の3群比較において,重要度では24項目で有意差がなかった.一方実施度では28項目で有意差が見られ(P<0.05),6年以上役職有群が他の2群より31項目すべてで高値であった.

    考察:保健師の事業実装に対する重要度の認識は全体的に高いものの,実施度はそれに比し低く,キャリアレベルによって差がある実態が明らかになった.今後は,キャリアレベルの特徴に応じた能力開発と体制整備が必要であることが示唆された.

  • 瀬尾 采子, 平野 美千代
    2024 年 13 巻 3 号 p. 177-185
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
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    目的:本研究は,都市部に在住する中壮年期男性が捉える今の近隣とのつきあいの認識を明らかにすることを目的とする.

    方法:研究デザインは質的記述的研究とし,区役所に勤務する50~64歳の男性15名を対象に半構造化面接を実施した.

    結果:都市部に在住する中壮年期男性の近隣とのつきあいの認識として,【一線を越えたくない】,【関係性はなかなか発展させづらい】,【互いを認識できる関係性はあった方がよい】,【関係作りにはきっかけがいる】,【現在や将来の生活を守りたい】,【トラブルを起こさず安心して暮らしたい】の6カテゴリー,《今と将来の生活のための潜在的な予防線》の1コアカテゴリーが抽出された.

    考察:これからの近隣とのつきあいの促進について,中壮年期のうちから近隣の人と挨拶を行い,互いを認識する程度の緩いつながりが途切れない地域づくりを行っていくことの重要性が示唆された.

研究報告
  • 竹内 葵和子, 嶋津 多恵子, 野尻 由香, 鈴木 茜
    原稿種別: 研究報告
    2024 年 13 巻 3 号 p. 186-195
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
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    目的:相談支援事業に携わる精神障害をもつピアサポーターが経験する困難とピアサポーターの活動を支える要因を明らかにすることである.

    方法:ピアサポーター9名に半構造化面接を行い質的記述的に分析した.

    結果:ピアサポーターが経験する困難には【支援者としての力不足を感じる】,【当事者である自分がピアサポーターとして活動する自信が持てない】等があり,【ピアサポーターの立ち位置が定まらない】ことに繋がっていた.活動を支える要因には【支援に力を発揮できるように自己管理する】,【ピアサポーターの存在意義が認められる環境で働く】等があり,【ピアサポーターの存在意義を自覚する】ことに繋がっていた.さらに,活動の中で【利用者との相互作用による癒しの経験を得る】ことであった.

    考察:協働する専門職や職場が,ピアサポーターの専門性やそれを発揮できる職場環境を理解することが,立ち位置の定まらなさの改善に必要と考えられる.

  • 津禰鹿 すみれ, 岡本 玲子
    2024 年 13 巻 3 号 p. 196-204
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
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    目的:境界知能を持つ当事者の日常生活場面での体験や認知の特徴を明らかにすること.

    方法:境界知能を持つ当事者4名を対象とし,インタビューガイドを用いた半構造化面接を行い,目的に沿って質的記述的分析を行った.

    結果:概念的領域では〈年齢相応の学習内容を理解できず勉強ができなかった体験〉など計2カテゴリー,社会的領域では〈他者の言動・思考の意味・理由が分からず対人関係・社会行動に困難があった体験〉など計5カテゴリー,実用的領域では〈療育手帳は境界知能でも生きていくうえで必要なものであるという判断〉など計3カテゴリーが生成された.

    考察:境界知能を持つ当事者は知的機能等の脆弱さや境界知能の不可視性が影響し,周りから普通の人と扱われる体験や,そこから自己評価の低下や対人関係の問題を体験・認知しやすい対象であることが示唆された.

  • 遠藤 直子, 嶋津 多恵子, 鳩野 洋子, 麻原 きよみ, 吉野 純子, 今野 弘美, 清水 雅子
    2024 年 13 巻 3 号 p. 205-214
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
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    目的:全国自治体におけるプリセプター保健師研修の方法や内容と研修の必要性を明らかにすることを目的とした.

    方法:都道府県,保健所設置市,特別区に所属する統括的立場または研修担当の保健師,各自治体につき1名を対象に無記名自記式の質問紙調査を実施した.

    結果:66人(有効回答率44.0%)から回答が得られた.研修実施群は38人(57.6%),未実施群は28人(42.4%)であった.研修の必要性は全体の98.5%が必要と回答した.研修内容には組織が求める保健師像やプリセプター同士が互いの経験を共有し意味づける内容を含むこと,実施上の課題では研修の位置づけの曖昧さや人材育成方針がないことなどがあった.

    考察:プリセプター保健師研修は多くの自治体で必要と認識されていた.研修実施に向けてプリセプター保健師研修を自治体の研修体系に位置付け,職場全体で人材育成を行う体制をつくることや,根拠に基づく活用しやすいプログラムの開発が必要と示唆された.

  • 横山 潤美, 嶋津 多恵子, 山谷 麻由美, 野尻 由香
    2024 年 13 巻 3 号 p. 215-224
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
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    目的:依存症とともにある女性の回復支援施設の利用を通した体験を明らかにすることを目的とした.

    方法:女性専用の依存症回復支援施設に通う女性9名に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.

    結果:依存症とともにある女性は,回復支援施設の利用を通して,《女性の仲間が鏡となり自身の内面を直視する》等の【女性の仲間が鏡となり自己への気づきを得る】体験と《女性同士の仲間と共に自分らしさを取り戻し人生をやり直す》等の【女性のみの安心できる場で支えがあることを実感する】体験により,【一人の女性としての新たな目標が生まれる】体験をしていた.

    考察:本研究では,依存症と向き合いながら一人の女性として成長するプロセスに寄り添い,依存症の女性が自身を大切に考え地域において肯定的な支えを実感できるよう,自治体や専門医療機関,回復支援施設等が連携し,継続的に支える重要性が示唆された.

  • 佐甲 文子, 嶋津 多恵子, 野尻 由香
    2024 年 13 巻 3 号 p. 225-233
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
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    目的:組織における統括的な役割の継承に向けた統括保健師の取り組みを明らかにする.

    方法:過去1年以内に統括保健師の役割を担った8名の保健師に対し半構成的面接を行い,質的記述的に分析した.

    結果:統括保健師は【統括保健師の役割が機能する地固め】を基盤とし,全ての【保健師が生き生きできる土壌の醸成】を図っていた.そして,将来を担う後輩保健師にとって統括保健師を考える手本となるよう【統括保健師として目指す姿の明示】をするとともに,次に統括保健師を担える人材を見極め【次期統括保健師を託す保健師の能力の見極めと働きかけ】をしていた.

    考察:統括保健師は,次期統括保健師に対し組織内で役割を継承する仕組みをつくり,その仕組みを機能させていくために組織や人に合った方法を見極め,統括保健師としての実践を積み重ねていくことの必要性が示唆された.

活動報告
  • 岡野 明美
    2024 年 13 巻 3 号 p. 234-243
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
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    目的:委託型地域包括支援センターに地区診断が導入・継続されることを目指して,行政保健師とともに取組んだ研修の企画・実施・評価を記述し,地区診断の導入・継続を可能にする要因の示唆を得ること.

    方法:委託型包括3職種を対象に2年間で研修を6回実施した.研修後,受講者に無記名自記式調査,A市保健師に面接調査を行った.

    結果と考察:1年目研修後,受講者の地区診断の実施状態では地区診断の導入・継続は困難と判断し,次年度も研修が継続された.2年目研修後,地区診断の実施状態は改善され,導入出来る状態は確認されたが,実施体制が整っていない等,継続するための課題が残されていた.そこでA市保健師が継続される体制作りを行った.地区診断の導入・継続を可能にするには,委託型包括の地区全体を見る視野と地域支援につなげる視点の形成,包括担当部署保健師の委託型包括の地域支援の現状理解や体制づくり等,両側の要因が必要であった.

学術実践開発委員会報告
国際委員会報告
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