ホウレンソウ萎ちょう病発生土壌で健全に生育するホウレンソウの根面から分離した非病原性
F. oxysporum S3HO3菌株はホウレンソウ萎ちょう病を発病抑制できるが,土壌施用効果は収穫期まで持続しなかった。これを改善するために,耕種的に本病を軽減できる移植栽培を組み合わせ,ホウレンソウの苗に本菌を前接種した。この場合,非病原性
F. oxysporum S3HO3菌株分生子懸濁液を,播種前の床土1g当たり10
6 cfuになるように混和すると防除価96.3で発病抑制効果が最も高く,収穫期まで持続した。一方,育苗中に本菌分生子懸濁液(10
7 bud-cells/ml)を灌注接種(床土重量の1/10容(v/w))する方法では,播種10日目(移植5日前)に灌注接種した場合の防除価は87.1で,これより早い時期の灌注接種よりも発病抑制効果が高かった。この生育中の灌注接種は,作業上簡便であるが,防除価は播種前の床土に混和接種する方法には及ばなかった。
非病原性
F. oxysporum S3HO3菌株はホウレンソウをはじめ,キュウリ,メロン,トマト,ナバナ,シュンギク,ミツバなど6科17作物に対して病原性を示さず,他の作物への影響がないと考えられたので,農家圃場において移植栽培との組み合わせによる萎ちょう病防除試験を実施した。夏取りの作型において本菌株を播種前に混和接種した床土で育苗したホウレンソウ苗を萎ちょう病汚染圃場に移植した結果,本法は直播(慣行栽培)に比較して発病を顕著に抑制し,移植単独の発病軽減を上回り,太陽熱消毒と同等の防除効果があった。
以上のことから,非病原性
F. oxysporumと移植栽培を組み合わせたホウレンソウ萎ちょう病の防除法は実用的であると考えられた。
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