1998年以後,年間自殺者数が3万人を超える時代となっているが,背景には,情報通信革命による世界規模の経済構造の変革があると考えられる.働き方,価値観,コミュニケーションなどが大きく様変わりし,メンタルヘルス問題も多様化してきた.結果的にメンタルヘルスの問題に関連するコストも増大し,経営にとっても重要な課題となっている.今日,メンタルヘルスケアは,一部の労働者のケアにとどまるものではなく,すべての働く人々を対象とし,メンタルヘルスマネジメントという組織の課題として,積極的に取り組んでいくべきものとなっている.メンタルヘルスにかかわる産業医には,人事労務管理,経営,業務内容,CSR(corporate social responsibility:企業の社会的責任),関連法規など,各側面への幅広い関心と見識が求められる.こうした多角的視点によるアプローチは,心身医学の原点であり,心身医学と産業精神保健の本質は,深く重なり合う.精神科医・心療内科医に期待されるものは大きい.
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