心身医学
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56 巻, 5 号
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巻頭言
第56回日本心身医学会総会ならびに学術講演会
会長講演
  • 村上 正人
    2016 年 56 巻 5 号 p. 403-410
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/01
    ジャーナル フリー
    時代は大きく変貌を遂げつつあり, 従来の心身医学の理念や概念, モデルでは対応できない諸問題も浮き彫りにされてきている. 心身症の病態研究に留まらず, IT化・合理化に伴う人間関係の希薄化, 共感性・協調性・情緒応答性の欠如, うつ病に代表されるメンタルヘルスの悪化など, 最近多発する社会問題や事象の背景に隠された病理を心身医学的に取り組む姿勢が求められる. また先端的研究の方向性として, 最新のテクノロジーを駆使したDNA配列・タンパク質・代謝物質の網羅的解析を可能にするゲノム・プロテオーム・メタボロームの手法, 後天的要因や環境による遺伝子発現の違いを解析するエピジェネティクス研究, 腸内・口腔内細菌叢による免疫調節, 脳画像による神経活動の解明, 諸ストレス関連疾患のバイオマーカーの探索など, 心身医学が取り組むべき基礎的研究は限りない. 時代的背景を踏まえたグローバルな視野からのストレス研究と対策が望まれる.
特別講演
  • 長谷川 和夫
    2016 年 56 巻 5 号 p. 411-417
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/01
    ジャーナル フリー
    高齢化社会の現在, 高齢者の幸福度は健康, 家族そして収入であろう. ことに高齢になると身体機能の衰退に加えて精神機能が低下し心身医学的な保健, 医療, 福祉の対応が基盤として整備されていることが必要になり, 私たち日本心身医学会に期待されている. 中でも認知症への対応は喫緊の課題であり, 薬物療法や対応するケアそして一般市民への啓発活動を行って, 虚弱高齢者を含めた地域ではぬくもりのある絆を作っていくことが求められる. 認知症ケアの国際的な主流であるパーソンセンタードケアの実施, すなわち個別的な自分史を十分に理解し, その人らしさを尊重する支え方が大切になる. さらに認知症の当事者が自分の体験を語る機会が増えているが, 患者さんや利用者の想いを取り入れていくことや, 介護する家族らを支えていくことなど, 私たち心身医療者へのなすべき責務を痛感する次第である.
シンポジウム/線維筋痛症の心身相関と全人的理解
  • 細井 昌子, 仙波 恵美子
    2016 年 56 巻 5 号 p. 418
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/01
    ジャーナル フリー
  • 仙波 恵美子
    2016 年 56 巻 5 号 p. 419-426
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/01
    ジャーナル フリー
    線維筋痛症 (FM) の発症や維持における脳の役割, すなわち脳の過剰興奮と抑制系の減弱ということが注目されている. FM患者の脳画像の特徴として, ①脳の過剰興奮, 痛み刺激に強く反応, ②疼痛にかかわる脳領域の萎縮, ③安静時の脳内ネットワークの変化, が挙げられている. 安静時fMRIによるFM患者の脳内ネットワークの特徴として, ①前帯状回 (ACC), 島皮質 (IC) など情動に関連した領域間の結合が増強し, ②ACCと中脳中心灰白質 (PAG), 吻側延髄腹内側部 (RVM) などの下行性抑制系との結合が減弱していることが報告されている. FM患者における鍼治療や認知行動療法により, 症状の改善とともに脳内ネットワーク結合が変化したとの報告がある. また, FM患者の日常の活動量と脳内ネットワークおよび痛みの程度に相関がみられている. これらの結果は, FMの病態解明と有効な治療法の確立に向けて重要な示唆を与えるものである.
  • 岡 寛
    2016 年 56 巻 5 号 p. 427-432
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/01
    ジャーナル フリー
    線維筋痛症 (FM) は, 2012年にpregabalinが, 本邦初保険収載され, さらに本年度にduloxetineの承認追加もあり, 薬物療法が浸透してきている. 本シンポジウムでは, FMの薬物療法中心に筆者の治療経験を紹介した. 通常, 300人の患者集団において, 薬物療法としてpregabalinおよびワクシニアウイルス接種家兔炎症皮膚抽出液含有製剤 (ノイロトロピン®, 以下NRT) を第1選択薬としている. 小児, 学生, 車の運転を必要とする患者, 精密機械を扱っている患者では, pregabalinの投与対象ではない. このような患者に対しては, NRTの高容量を最初に使用している. 他には, clonazepam, duloxetine, mirtazapine, tramadol, gabapentin enacarbilなどを組み合わせ投与している. ただし, FM治療においては単なる薬物療法のみに頼ることなく, 症例によってトリガーポイント注射, 温熱療法, 体質改善のための漢方治療, ストレッチングなどの運動療法, 心理カウセリング, 認知行動療法などのテーラーメイドの医療が必要である.
  • —こじれた痛みと悩み—
    橋本 裕子
    2016 年 56 巻 5 号 p. 433-438
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/01
    ジャーナル フリー
    こじれた痛みには原因がそれなりにある. 現状では患者の訴えは理解しがたいと受け止められており, 医療者にとっては負担になる場合がある. 理解されることを切実に望んでいるが上手に表現できず, 「過剰な説明」に追われ, 空回りしながら説明に疲れ果てる患者. 一方で静かな患者がいる. 社会生活の中で「常態化」, 「pacing」, 「持ちこたえ」, 「身体の作り変え」を行って, 痛みとの折り合いをつけ, さらには「知覚・認識の作り変え」まで行われているのではないかと筆者は考える. しかしそのことで疾患をよりわかりにくくし, 治療者にもみえなくする. 「沈黙の患者」となってしまうのだ. どの患者も痛みのバックグラウンドを理解され, 一つひとつ改善して, 快方に向かっていることを実感できれば, 希望をもてると思う. そんな試みが始まっていることは患者にとって心強い. こじれた痛みと悩みを患者の相談事例の中から紹介し, どのようにひもとけばよいのか, 一緒に考えていただければと思う.
  • 金 外淑, 村上 正人, 松野 俊夫, 釋 文雄, 丸岡 秀一郎
    2016 年 56 巻 5 号 p. 439-444
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/01
    ジャーナル フリー
    線維筋痛症は身体症状の複雑化とともに, 怒り, 不安, 抑うつなど多岐にわたる心理的状態をきたすため, 心理的支援に限らず, 種々の専門科の専門性を生かした適切な支援の充実が必要とされている. 本研究では, 線維筋痛症患者特有の痛みが起こる状況を取り上げ, これまでの調査, 臨床での実践研究を通して得られた知見をもとに, 痛みが起こる諸要因の動きに着目し, 患者個人に応じた支援を充実させる心理的支援の方策を探った. その結果, 痛みが起こる背後に隠れている複数の要因を4つのタイプに分類し, それをもとに心理的支援の新たな基盤づくりを試みた. また, 患者が訴える痛みの強度や頻度に意識を向けるだけではなく, 痛みと向き合える心身の健康づくりや, 家族面接を契機に痛み症状の改善につながった例を取り上げ, 臨床の実際について提言した.
  • 細井 昌子, 安野 広三, 早木 千絵, 富岡 光直, 木下 貴廣, 藤井 悠子, 足立 友理, 荒木 登茂子, 須藤 信行
    2016 年 56 巻 5 号 p. 445-452
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/01
    ジャーナル フリー
    線維筋痛症は病態が未解明な部分が多いが, 独特な心理特性, 免疫学的異常, 脳機能異常, 自律神経機能異常など多面的な病態が近年の研究で報告されている. 本稿では, 九州大学病院心療内科での治療経験をもとに, ペーシングの異常, 受動的な自己像が構築される背景と過剰適応・過活動, 安静時脳活動の異常について, 線維筋痛症における心身相関と全人的アプローチの理解促進のために, 病態メカニズムの仮説について概説した. 線維筋痛症では, default mode networkと呼ばれる無意識的な脳活動が島皮質と第2次感覚野と強く連結しているといわれており, これが中枢性の痛みとして, 過活動に伴う筋骨格系の痛みや自律神経機能異常といった末梢性の痛みと合併し, 複雑な心身医学的病態を構成していると考えられる. ペーシングを調整し, 意識と前意識や無意識の疎通性を増すための線維筋痛症患者に対する全人的アプローチが多くの心身医療の臨床現場で発展することが望まれる.
原著
  • 薗田 将樹, 若林 邦江, 田村 奈穂, 石川 俊男
    2016 年 56 巻 5 号 p. 453-459
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/01
    ジャーナル フリー
    目的 : 摂食障害は慢性難治性の疾患で, さまざまな身体合併症がみられる. その中でも腎機能障害がしばしば認められる. 今回, 当院の入院摂食障害患者の腎機能障害についてretrospectiveに調査検討を行った. 方法 : 対象は2010年4月~2013年11月までに当科に入院した摂食障害患者で, 書面で研究の同意を得た198例 (ANbp 93名, ANr 52名, BNp 32名, EDnos11名) であった. 対象の病型, 入院時年齢, 入院時BMI, 罹病期間, 生化学所見を診療録より調査し, 欠損値のある症例を除いた計149例に対して, 統計学的手法を用いて病型別に検討した. 結果 : 149例のうち, 慢性腎臓病 (chronic kidney disease : CKD) を合併していた入院摂食障害患者数を調べたところ, 38.3% (57/149名) であり, 病型別の割合はANbp : 58.4% (45/77名), ANr : 18.4% (7/38名), BNp : 19.2% (5/26名), EDnos : 0% (0/8名) であった. 各病型のeGFR (estimated glomerular filtration rate) はANbp : 中央値 ; 54.3, 四分位範囲 (39.4~74.8), ANr : 中央値 ; 76.8, 四分位範囲 (62.2~92.0), BNp : 中央値 ; 77.7, 四分位範囲 (61.7~89.8), EDnos : 中央値 ; 78.7, 四分位範囲 (74.2~92.9) であった. ANbpはANr, BNp, EDnosに比較してeGFRの有意な低下がみられた (p≦0.05). ANbpで, eGFRとBMI, eGFRと罹病期間の項目間で有意な相関がみられた (eGFRとBMI : r=0.38, p<0.01, eGFRと罹病期間 : r=0.44, p<0.01). また, BNpでeGFRと罹病期間の間に有意な相関がみられた (eGFRと罹病期間 : r=−0.60, p<0.05). 各病型のeGFRにおいて, 低カリウム (K) 血症 (K<3.5mEq/l) の有無の群間でMann-WhitneyのU検定を行ったところ, ANBpとBNpで群間に有意差がみられた. 考察 : ANbpでは摂食障害の他の病型と比較して, eGFRの統計学的に有意な低下がみられた. また, ED患者においてBMI低値, 長期間の罹病期間, 低K血症がCKDのリスクとなるという結果であった. 結論 : ED患者の腎機能障害は頻回に遭遇する病態と考えられ, 腎機能保護を考慮した治療が必要である. 特にANBpにおいては高度の腎機能障害のリスクが高いため, 早期よりの評価・介入が望ましい.
症例研究
  • 町田 知美, 町田 貴胤, 田村 太作, 遠藤 由香, 福土 審
    2016 年 56 巻 5 号 p. 460-466
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/05/01
    ジャーナル フリー
    14歳, 女児. 11歳から不登校傾向, 対人恐怖が顕在化しA病院精神科に通院開始した. 中学入学頃から食事量も減りはじめやせ願望も明らかになった. 14歳 (中学2年生) になると30kgまで体重が減少したため神経性やせ症 (摂食制限型) と診断され当科に入院した. 入院時は身長149cm, 体重26.6kg, BMI 12.0. 初めは経口摂取カロリーは1日500kcal以下でほとんど体重は増加しなかったが, コミュニケーション能力の低さと対人恐怖のために心療内科的介入は困難だった. 内科的治療を主体とせざるを得なかったが, 行動観察の中で食行動に自閉症的な独特のこだわりがあることがわかった. これを生かした食事の工夫を試みたことで摂取カロリーを1,400kcalまで増やすことができ, 体重は33.5kgに達して退院した. 自閉症スペクトラム合併症例での治療では, 患者特有の特徴を理解したうえで独自の工夫が必要である.
連載:初心者・心理職のための臨床の知 ここがポイント!~病態編~
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