神経幹細胞からの神経細胞の産生 (神経新生) は, 胎児期に爆発的に生じるが, その後も生涯にわたり海馬などの脳の一部では維持される. 生後の神経新生は外界の影響を受けやすく, 自発運動によって向上したりストレスによって低下したりすることがモデル動物において知られている. われわれは神経新生の低下と, 統合失調症などのエンドフェノタイプとみなされるプレパルス抑制テストの低下の間に因果関係を見い出し, 幼若期の神経新生低下が成体になってからの感覚ゲート機構や不安に大きくかかわることを明らかにした. われわれは神経新生が精神神経疾患の治療や介入のターゲットになりうるのではないかと考えている. 今後, 神経新生やグリア新生の様態についての解析が進むことにより, 精神疾患発症予防におけるレジリエンスの理解につながることが期待される.
約30年前に脳画像による研究が一般化して以来, 目に見えないストレス状況も脳活動として視覚的に示されるようになった. 特に心身医学, 精神医学, 心理学領域では, その病態研究において非常に大きな貢献をしてきたといえる. 病態を研究するうえでのこれまでの脳画像研究のスタンダードな手法は, ある病態とその対照条件との比較という形で示されてきた. しかし, この手法は主に, ある病態, あるいは, 現象に関係して活動する脳の部位はどこか, という検索であり, 病態解明には非常に興味深いツールであるものの, 実際の臨床場面では, どれほどの意味があるのかという疑問ももたれてきた. 近年, アルゴリズムに基づいてデータから情報を抽出する機械学習の手法が応用されるようになり, 脳画像情報から, ある状況, あるいは疾患を分類する特徴を描出することが可能となった. 脳活動のパターンから, 臨床診断, 治療効果の予測などができる可能性が出てきた.
近年の疫学研究により, 糖尿病はアルツハイマー病 (AD) 発症の危険因子として注目されている. さらに, 画像解析技術の進歩により頭部MRIを用いて脳の容積を部位別に定量的に計測することが可能となり, 糖尿病と脳の形態学的変化との関連を検討した疫学研究の報告が散見されるようになった. 福岡県久山町の疫学調査 (久山町研究) の過去約30年の成績によると, 認知症, 特にADの有病率は人口の高齢化を超えて急増し, また糖尿病など糖代謝異常の有病率も上昇している. 久山町研究ではこれまでに糖尿病がAD発症や剖検脳における老人斑形成と関係することを報告した. また, 2012年に65歳以上の久山町住民を対象に実施した頭部MRIデータを用いた脳画像研究では, 糖尿病者, 特に糖負荷後2時間血糖値が高い者は, 正常耐糖能者に比べ海馬容積が有意に小さいことを明らかにした. さらに, 糖尿病の罹病期間が長く診断時期が早期であるほど, 海馬萎縮がより顕著であった.
近年, 神経科学領域でトピックになっている機能的MRIによる安静時の脳機能分析において, 注目されているネットワークの一つにDefault Mode Network (DMN) がある. 自己生成的思考, 自己参照処理に関係しているといわれており, うつ病では抑うつ的反芻との関連が指摘されている.
心身医学領域においても, アレキシサイミア (失感情症) に代表される情動処理の障害や, 不適切な生活習慣や行動パターンは自動思考や自己参照処理と関係し, さまざまな身体疾患の発現に結びついていると考えられるため, DMNを精査することは有用と考えられる.
われわれは神経性やせ症の安静時機能的MRIを撮影し, DMNの変容について研究した. その結果を提示したうえで, このネットワークの分析が, 心身医学領域における疾患の病態理解に有用であるか検討した.
人間の脳活動の複雑な変化をとらえる方法としてMRI画像に対する機械学習の応用が注目されている. 医学の分野でも認知症, 統合失調症, うつ病など中枢神経疾患の診断や病態解析に用いられている. 心身医学関連の分野でも有効性が報告されており今後の研究の発展が期待される.
症例は40代, 男性. 中学生の頃から咽喉頭部の狭窄感, 嚥下困難があり改善, 増悪を繰り返していた. 種々の薬物療法, 心理療法を受けたが改善せず, 食事摂取量・体重が減少してきたため入院となった. アレキシサイミア, うつ状態を伴っていた. 行動制限, 二人の自分の概念の導入, 患者の記載するレポートをもとにした面接を行った. 患者は症状が改善しないことにいらだち, 治療者に激しい怒りの感情を投影したため, 二人の自分の対話という形式でレポートを記載することを患者に提案した. しぶしぶではあったが実践し, 次第に治療者に投影された陰性感情は緩和された. 治療者との信頼関係も改善され, 治療が中断されることなく継続されるうちに, 患者は内省が可能となり, 食事も摂取できるようになった. 二人の自分の対話という形式でのレポート記載は, 治療者に投影された患者の陰性感情の緩和, 良好な治療関係の構築, 内省の促進に有効であると考えられた.
女性外来の受診者は多彩な症状を訴えることが多いが, 器質的疾患による症状であることも少なからずある. 今回, バセドウ病であった症例 (症例1) と, 副甲状腺機能亢進症の治療後にバセドウ病を発症した症例 (症例2), 当科通院中に橋本病を発症した症例 (症例3) を経験したので報告する.
2005年3月の当科開設以来2014年3月までの当科受診者3,553人を主病名で分類した結果, 器質的疾患が約10%であった. 器質的疾患としては内分泌疾患が多く, 特に甲状腺機能異常は当科受診者の約8%にみられたため, 女性外来では甲状腺の視触診と必要に応じた甲状腺機能検査が有効だと考えられる.
器質的疾患が疑われた症例については, 積極的に鑑別診断を行い, 早期の専門医へのコンサルトを考慮する. そして, 器質的疾患が診断された後も専門医と連携を取りながら, 必要に応じて心身医学的アプローチを続ける必要がある.