心身症関連疾患に対する心身医学的対応としては一人の患者を, 婦人科身体的診断, 精神科的診断, 心身医療的診断, 東洋医学的診断の4方向から診るとより的確な診断ができる. 1976~2016年の間に筆者が扱った心身症関連疾患は11,647症例で, 1993年までの大学病院ではわずかに新患の2~3%であったが, 1995年に開業してからは20~40%を推移している. 婦人科的身体診断では更年期障害が3,190例 (27.4%), 自律神経失調症が2,086例 (17.9%), 骨盤うっ血症候群が1,866例 (16.0%), 月経前症候群が1,077例 (9.2%), 機能性子宮出血が860例 (7.4%), 萎縮性腟炎が438例 (3.8%), 月経痛が420例 (3.6%), 産後うつ病が244例 (2.1%), 性障害が212例 (1.8%), 続発性無月経が207例 (1.8%), その他1,047例 (9.0%) であった.
心身医学的立場から診断すると, 身体病型5,928例 (50.9%), うつ病型2,595例 (22.3%), 神経症型1,906例 (16.4%), 心身症型1,218例 (10.5%) であった. また, 1995~2016年までの対象者をDSM-Ⅳによる分類で診ると, 身体表現性障害が7,216例 (68.0%), 気分障害が2,105例 (19.8%), パニック障害が371例 (3.5%), 不安障害が339例 (3.2%), 摂食障害が101例 (1.0%), 適応障害が82例 (0.8%), 睡眠障害が56例 (0.5%), 月経前不快気分障害が26例 (0.2%), 双極性障害が20例 (0.2%), 発達障害が14例 (0.1%), その他が277例 (2.6%) であった. 東洋医学的診断としては, 漢方薬の投薬が8,534例 (73.3%) に用いられていた. 身体的治療のホルモン療法は2,514例 (21.6%) であった. 漢方薬と面接主体は身体病型に多く, 抗不安薬と抗うつ薬はうつ病型に多かった. 治療予後は, 78.0%が良好であり身体病型, 心身症型, うつ病型は神経症型に比べよかった. 心身症関連疾患には治療的自己やスピリチュアリティが重要であることを証明している症例を呈示した.
更年期障害は, 閉経前後にみられる不定愁訴で, 卵巣機能の低下を主たる要因とするが, これに加齢に伴う心身の変化や社会文化的環境因子などが複合的に影響することで発現するとされている. 卵巣機能の低下に起因する症状にはホルモン補充療法 (HRT) が有効であるが, HRTが有効でない症例には, 「人生の過渡期」 という視点が役に立つ場合がある. 更年期は, 身体的変化だけでなく, 複数の喪失体験, 老いや死の実感などを経験しながら, 老年期に向けてそれまでとは違ったあり様を模索しはじめる時期であり, この時期の女性が経験する心理的葛藤は, 心理学上の中年期危機に相当する. 患者の中には, この過渡期の変化を受容できないことが原因と考えられる場合があり, このような症例では, 薬物療法で症状の緩和を図りつつ, 患者がこれらの変化を受容し, 次のライフステージに適応していくことを促すような, 心身医学的視点をもったアプローチが有用である.
日本において心身医学を立ち上げた先人たちの教育方針が, 現在の医学教育の根幹をなしているといえる. そこで, 本学の医学教育の変遷とともに, 女性診療の視点での心身医学教育を検討してみた. 女性診療における心身医療を学ぶうえで重要なアウトカムは, “世代ごとの女性ホルモンの変化や女性特有の疾患が女性の心身に及ぼす影響を理解し, それに配慮して診療ができる” ことであると考える. そこで, われわれは女性診療に関する講義と, 女性診療のシミュレーション実習や臨床実習を試みてきた. その中で, 女性ホルモンの周期的変化が作り出すさまざまな心身症状や, 女性ホルモンの低下と心理的・社会的背景が関与する周閉経期の医療について, 医学生や研修医が能動的に学ぶ教育を目指している. すなわち単に病気を診るだけでなく, 一人の女性に起きた心身の変化とその相関および社会的背景を理解できる医療者が育つ環境を作っていきたい.
疼痛は産婦人科を受診する患者の主訴として最も頻度の高いものの一つである. その原因として子宮内膜症や卵巣腫瘍などの有無が検査対象になるが, 実際には器質的な疾患としてとらえられないことのほうが多い. 骨盤内うっ血症候群もその代表的な疾患であるが漢方薬や抗うつ薬の投与でほとんどの症例が改善する. しかし, 疼痛部位が坐骨神経, 恥骨結合部などに限局した下腹部痛では治療が困難である. このような症例には対角線上にある経絡に治療穴を取る陰陽太極鍼による鍼治療が有効である. 延べ100例の限局した骨盤痛の患者に対して鍼治療を施行したところ95例がほぼ即効的に痛みは消失した. 疼痛部位は坐骨神経が37例, 恥骨結合部が30例, 鼠径部が25例, 尾骨が9例, 股関節が5例, その他9例であった (重複例を含む). 効果のなかった5症例は, 瘀血が3例, 器質的な炎症が1例, 統合失調症が1例であった.
生体腎移植手術によってレシピエントのQOLは改善するが, 移植手術は身体的側面に加えて, 心理社会的側面にも負担が大きいため, 移植手術前と手術後の両面で, レシピエントのメンタルヘルスに多大な影響が及ぶ. 一方, ドナーも臓器提供という非日常的なストレッサーにさらされることや自身の臓器が移植されるレシピエントの手術後の生活や体調に対する不安を強く抱くことが報告されている. したがって, レシピエントへの対応では, メンタルヘルスにも着目し, 移植手術の適応の可否のみならず, 手術を進めていくうえで, あるいは手術後に必要な配慮や心理学的支援を検討することが重要である. また, ドナーへの支援はレシピエントと比較して, 見過ごされやすいが, ドナーのメンタルヘルスも的確に把握し, 必要とする心理学的支援を提供することが必要である.
腎移植患者において, 免疫抑制剤の良好な服薬アドヒアランスは, 移植腎機能の維持のために不可欠である. しかし, アドヒアランス不良は多くの患者にみられ, その実態を医療者が十分認識できていないという問題もある. アドヒアランス不良には, うつをはじめとするメンタルヘルスの問題, 薬の副作用や服薬回数, 医療者と患者の関係などさまざまな要因が関与する. 特にうつの合併は, 免疫抑制剤の服用だけでなく, 運動や食生活を含むさまざまな健康行動への動機づけの低下などから, 移植腎機能の廃絶や死亡リスクとの関連が指摘されている. 情報提供などの教育的な内容と行動面の支援の双方を含むことが, 免疫抑制剤のアドヒアランス改善を目的とする介入で, より効果を示している.
本稿では10年間実施してきた筆者らの心理士チームによる生体腎移植患者の移植に関する意思決定の第三者確認について実践報告する. 第三者確認は, ①患者の基礎情報の確認と移植コーディネーターとの情報共有, ②レシピエントとの面談, ③ドナーとの面談, ④移植コーディネーターへのフィードバックの手続きで行われる. レシピエントとドナーにはそれぞれ質問票に回答いただき, その回答を活用することで円滑に面談を進めることができる. また, 診察室とは離れた別室で面談することで患者の自由な発言を促進することができる. 移植コーディネーターへのフィードバックでは移植への意思確認の結果だけでなく, 患者が求める情報や心配していることや患者の精神状態, さらに移植医療者に対して患者への具体的な対応方法を伝えることもある.
症例は28歳, 男性. アレキシサイミア, うつ状態を伴う高度肥満症であった. 行動制限療法に準じた治療を行った. 患者は症状の改善を自覚することができず, 治療法や治療者に対して不信感を抱いた. 二人の自分の概念を導入し, 口頭で二人の自分と治療者の関係について説明した. 患者は二人の自分を区別できるようになったが不信感を募らせ, 治療者に激しい怒りの感情を表出した. 二人の自分と治療者の相関図を見せながら三者の関係について再度説明したところ, 患者は自分や治療者との関係を客観視できるようになった. その結果, 治療者に投影された陰性感情は緩和され, 患者・治療者関係は改善した. その後は落ち着いて内省を続けていけるようになり, 肥満, アレキシサイミア, うつ状態は改善した. 二人の自分と治療者の相関図を用いた視覚的アプローチが客観視を可能にし, 内省の促進や治療的信頼関係の構築につながることを本症例は示唆してくれた.
反復するげっぷと腹部膨満感を主訴とする27歳男性患者に対して, 各種身体検査にて器質的な消化管疾患を除外し, RomeⅢ基準に基づいて空気嚥下症と診断した. 一般的治療に対して反応性に乏しく, 職場不適応といった心理社会的背景をもつ症例と考えられたので, 生物心理社会的な治療アプローチを試みた. 生物学的観点からは, 空気嚥下の動画や腹部X線写真での腸管ガス像の変化といった生物学的変化を明示して病態理解を促した. 心理的観点からは, 失感情症傾向に対して受容的に関わりながら感情表出を促すとともに, 過剰適応傾向に対して自分の趣味に時間を割くことの重要性を説明して行動変容を促した. 社会的観点からは, 患者の知能特性として処理速度が有意に低いことに基づき職場における環境調整を行った. このような多角的治療アプローチを有機的に組み合わせることで, 難治性消化管症状の改善につながった空気嚥下症症例を経験したので報告する.