・発達障害診断は発達障害とひとくくりせず, 自閉スペクトラム障害 (ASD) と注意欠如・多動性障害 (ADHD) に分けて議論しなければならない.
・大人のASDとADHD診断, および他の精神疾患の鑑別と合併に重要なのは 「大人の精神疾患全般の症状や診断をよく知る」 と 「生育環境や性格の問題の関与を十分検討しなければ, 過剰診断や過小診断につながる」 である.
・大人になってから診断されるASD, ADHDには他の精神疾患と区別しにくい症状があるといわれるが, 慎重な問診で鑑別できることが多い.
・大人においてASD, ADHDを診断するために有用なのは発達歴と経過であり, 幼小児期から特徴的な症状があり, 成人になるまで連続性をもつ. 他の精神疾患では発症時期の急な変化を見い出せることが多い.
近年, 受診する成人の背景に自閉症スペクトラム障害 (autism spectrum disorder : ASD) をもつ例が多いことがいわれている. 大学の中にも, 自閉症スペクトラム (autism spectrum : AS) 特性を背景として, 併存症や不適応問題を抱えて来談・受診する学生が増加している. 保健管理センターに来談・受診する学生に, 厳密にASD診断がつく者は一定割合はいるものの, 多くはグレイゾーンの学生たちである. 今回は, 広い意味でAS特性をもつ大学生の臨床像について報告した. 障害学生支援については, 2016年 (平成28年) 4月に障害者差別解消法の合理的配慮規定などが施行され, 修学上の支援は充実されつつある. しかしながら, 修学上の問題以外の不適応問題に取り組む必要がある. また, 大学生活への適応だけでなく, 卒業後の方向性もふまえて支援していくことが重要と思われた.
近年, 発達障害のある成人に対する就労支援のニーズが飛躍的に高まっている. しかし彼らの就労支援において, どのような支援が必要とされているかという点については, いまだ十分なコンセンサスが得られていない. 自閉スペクトラム症においては, 社会的動機づけの障害が中心的な役割を果たしていると考えられるようになってきている. また注意欠如・多動症においても遅延報酬障害が実行機能障害と並んで, 重要な役割を果たしていると考えられている. 本稿では成人発達障害者への就労支援の領域における, 動機づけの支援の必要性について考察する.
心身医療と家庭医療は似ている点が非常に多く, 双方の視点やスキルを協働することでよりよい医療が提供できると実感している. 本稿では心療内科専門医取得後に家庭医療専門医を取得した立場から, 以下の3点について述べる.
1) 心療内科と家庭医療の共通点と相違点 : どちらも全人的医療を目指している点, disease (疾患) だけでなくillness (病い) も重視する点は共通する. 心療内科医の一番の強みは “複数の心理療法が扱えること” であり, 家庭医の強みは “家族や生活背景も含めて包括的に診る力” であると考える.
2) 家庭医療/総合診療において心療内科的スキルが有用な場面 : 行動変容, 精神疾患の早期発見, difficult patientsの対応, 緩和ケア, 多職種連携など.
3) 心療内科診療においても有用と思われる家庭医療のアプローチ : 患者中心の医療の方法, 家族志向性アプローチ, 健康の社会決定要因と社会的処方など.
2018年4月より新専門医制度による総合診療専門医の育成が始まった. 専攻医が獲得を目指す7つの資質・能力の1つに 「患者中心の医療・ケア」 が示されている. 心身医学の知識やスキルを活かすことができる領域であるが, 総合診療部門に心身医学が浸透しているとはいえない. 関西医科大学附属病院総合診療科 (以下, 当科) は同大学心療内科学講座に属し, 心療内科医が総合診療外来を担当している. 当科受診患者の25~35%は専門診療科が定まらない機能的疾患で, 心身症に該当する割合が高い. 従来の診療では対応に難渋することも多いが, 当科では早期に診断・治療が行われ, 終結に至る症例も少なくない. 総合診療科と心療内科が協働するためには, 互いを理解し, 両者の長所短所を補完し合うことが求められ, その機会を設けることが重要と考える. 本稿では総合診療専門研修, わが国の大学病院総合診療部門の現状に触れ, 心療内科学講座に属する総合診療科が果たせる役割について, 私見をまじえて述べる.
不登校や発達障害などの子どもの心の問題は増加傾向にあるが, 一般の小児科医は心の診療に慣れておらず, 子どもの心の専門医は不足しているという問題がある. さらに, その親も何らかの心の問題を抱えることが多いため, 包括的な親子の心の診療が必要とされている. 筆者の勤務するふくお小児科アレルギー科では, 小児科医と心療内科医が協働して親子の心の問題の早期対応に取り組んでおり, 親への支援を介して子どもの心の問題の早期の改善につながった症例を多く経験した. 親子の心の診療では, 一般診療の時点から親子それぞれの心身症的な訴えや問題行動の発見に努め, 包括的に早期対応する必要があると考えられた. 今後は小児科と心療内科がさまざまな領域で連携を深め, 親子の心の問題に貢献する方向に期待したい.
心療内科医と産婦人科医の双方の対応を要する疾患は多い. また, 心身症患者が産婦人科を初診受診することも日常的にみられる. 例えば, 摂食障害の女性は, しばしば無月経を主訴に産婦人科を最初に受診する. 月経前症候群は, 月経前である黄体期にさまざまな症状をきたすが, 心理・社会的因子が背景にあることも少なくないため, 心身医学的アプローチが有効である.
しかし, 実際の臨床現場で心療内科と産婦人科が密に連携し協働している場面はまだまだ多いとはいえない. 考えられる問題点としては, まず, 産婦人科医における心身医学的知識の欠如, 次に, 患者の心療内科受診へのハードル, そして, 心療内科と産婦人科が併設されている病院は少ないため, 物理的に連携することが難しい点などが挙げられる.
そこで本稿では, 心身症患者への産婦人科的対応について述べ, 今後どのように協働して治療にあたっていくかを考察した.
産後うつ病の症例に対して解決志向アプローチによる面接を行い, 改善がみられたことを報告する.
症例は40代, 女性, A. 産後まもなくから子育ての不安が強く, 母親失格だと感じて気持ちが沈み, 産後9カ月で当院を受診した. 診断はうつ病性障害であり, 薬物療法とともに, 解決志向アプローチを用いた隔週20分間の面接を行った. 面接ではAの言葉である 「外に出て子どもと一緒に体を動かすこと」 をゴールに設定し, 「子どもとバスに乗る」 「親子スイミング参加」 などの具体的な課題がAから示された. 面接経過とともにAの行動は段階的に拡大し, 以前と比べて落ち込まずに仕事や育児ができるようになったと語った. 具体的かつ実践的なゴールに向けて, 小さな変化にコンプリメントを重ね, 大きな変化を育むという治療的プロセスを経て, 自己効力感が向上したと考えられる. これに伴い抑うつが軽減したことから, 解決志向アプローチが効果的であったと考えられる.