アレキサンダー以降のバセドウ病甲状腺機能亢進症における心身医学的研究により, 発症要因としてライフイベント, 日常いらだち事が, 増悪要因としてライフイベント, 日常いらだち事, 抑うつ, 神経症傾向, アレキシサイミア, 摂食障害, エゴグラムのACが, 改善要因としてAとFCが見い出されている. 心身医学的アプローチとしては, 抗不安薬やカウンセリング併用が抗甲状腺薬治療寛解率を上げることを示唆する研究報告がある.
本態性高血圧では行動医学導入によりリスク因子として, 職場関係のストレス, 睡眠障害, 時間切迫感/焦燥感, 達成努力/競争心, 敵意性, 抑うつ, 不安が見い出されている. また, 従来は本態性高血圧とされた中に高率に原発性アルドステロン症が含まれていることが近年になってわかってきたが, 不安障害との関連を示唆する研究がみられる. 心身医学的アプローチのメタアナリシスによると, バイオフィードバックと身体技法の併用が最も降圧効果が大きいようである.
内科的疾患を, 生理学的視点と情動性によって結びつけたAlexanderの書『心身医学』は, 数々の示唆に富んだ解釈理論を提供した名著である.
消化性潰瘍では, 「依存的欲求や受容的傾向の挫折」 により慢性化した情動的刺激が, 心窩部痛や胸焼けなど 「神経性胃」 の症状を呈し, このうちの一部が胃液の慢性分泌を促し潰瘍形成に至るという1つの仮説を提唱した. 現代では酸分泌抑制薬の出現により重症の胃十二指腸潰瘍はほぼ皆無となった一方, 「神経性胃」 に相当する胃食道逆流症や機能性ディスペプシアが現在の心身医学で扱う上部消化管疾患の中心的存在になっており, 大変興味深い.
一方下部消化管病変の代表である潰瘍性大腸炎は, 増悪および再発の因子として, 物事を完遂しようとする野望の挫折などの関与が記されている. さらに情動性葛藤による大腸への神経性の興奮, 腸内の液体成分の移動速度の変化, 解剖学的な潰瘍形成の局在性なども病変に関与することも記されている. これ以外に慢性下痢と攻撃的依存欲求, 慢性便秘と悲観主義, 敗北主義などの否定的感情との関係性なども取り上げている. こうした病態と現在の下部消化管病変の中心的存在である過敏性腸症候群や機能性下痢および便秘症との類似性などについても触れていく.
心理的ストレスが気管支喘息などのアレルギー疾患を増悪させる機序については, さまざまな視点から研究が行われている. 本シンポジウムでは, ①慢性咳嗽の鑑別診断, ②ストレスが気管支喘息を増悪させる心身医学的機序, ③気管支喘息患者におけるbio-psycho-adherence (social) の評価, について, これまでの報告をもとに紹介する.
抑うつ状態は関節リウマチ (RA) 患者の約15%に合併し, ①RAの疾患活動性に起因するもの, ②合併した他の病態によるもの, ③社会経済因子などによるものに分けられる. RAに対する抗リウマチ薬 (DMARD) 治療の進歩は著しく, 特に生物学的製剤 (bDMARD) では, 治療が有効であることに比例して合併する抑うつ状態も改善する. このことからもRAに合併する抑うつ状態の治療を行う際には, まずRAに対する十分なDMARD治療を行うことが重要であることが示された. RAに合併する抑うつ状態が改善するメカニズムとしては, tumor necrosis factor-αやinterleukin-6などのサイトカイン, dehydroepiandrosterone sulfateやオキシトシンなどのホルモンの関与が検討されているが明確なものはない. 現在の問題点としては, ①抑うつ状態が改善するメカニズムが不明であること, ②RAの疾患活動性を制御しても残存する抑うつ状態をきたす患者群があること, ③合併する疾患による抑うつ状態が改善できないことがunmet needsとして存在しており今後の課題である.
交流分析の理論はわかりやすいが現場ではエゴグラムの解説で終わってしまう, ゲームや脚本分析は複雑で実践しにくい, と言われることがある. ここでは日常診療の場面の交流における治療者の自我状態の使い方と, 患者の脚本を見立て治療のアプローチを見極めるツールとしてラケットシステムと人格適応論を症例の提示を含めて紹介する.
臨床で心身医学的治療として行動医学を利用するコツについて説明します. 実際の臨床時間である10分以内を想定して, 行動医学的治療法をどのように臨床に生かせるかを筆者の臨床経験と現在の行動医学的エビデンスを含めて概説します. 前半は行動変容を起こすための背景としての動機づけ面接と治療的自我についての概説. 後半は頻例として経験する, 「過敏性腸症候群」 「会社への適応障害から睡眠障害を発症し, うつ病に至ったケース」 に対する行動療法について具体的に説明します.
自律訓練法 (AT) は不安緊張の持続により生じている心身の不調を緩和する, リラクセーション法として用いられることが多いが, それを超えて患者の心理社会的特徴を理解することにも役立つ方法である. 提示した症例では, ATの導入により精神交互作用, 完全主義, ネガティブ思考が明らかとなり, 病態の理解が深まった. ATの目的を再確認すると同時に, 患者がATを行いやすいように工夫した. いったん患者が訓練に意欲をもって取り組むようになると, リラクセーション反応と相まって, 患者の患者自身との関わり方だけでなく他者や環境との関わり方にも変容が生じた. ATは治療の手段として熟知する価値のある治療法である.
症例は16歳の女性. 2年前から続く体重減少の精査加療のため近医婦人科より当科紹介受診した. 初診時のBMIは13.1kg/m2であった. 症例は定期的に通院するものの内服薬や点滴には強く抵抗した. しばらく症状の改善はみられなかったが, 1カ月後に微熱を訴え予約外受診. 胸痛, 呼吸困難, 頻呼吸などの症状はなかったが, 右肺の呼吸音の低下を認めた. 胸部X線検査より右自然気胸と診断, 入院となった. 気胸は保存的治療で改善し7日後に退院した. 症例は入院を契機に摂食量が明らかに増え, 退院後も順調に体重が増加した.
神経性やせ症において偶発する疾患は, ときに回復の徴候であり改善の転機となる可能性がある. 本稿では先行文献をレビューし, 気胸の発症が患者-医師関係に与えた影響について考察した.