心身医学
Online ISSN : 2189-5996
Print ISSN : 0385-0307
ISSN-L : 0385-0307
62 巻, 6 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
巻頭言
第62回日本心身医学会総会ならびに学術講演会
教育講演
  • 本郷 道夫
    2022 年 62 巻 6 号 p. 451-457
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    腸内細菌は,多種にわたり大量に腸管内に存在する.腸管粘膜は,上皮細胞間のタイトジャンクションにより緊密に結合し,表面は粘液により被覆される.粘液はその物理的性状,粘液中に分泌されるs-IgAおよび抗菌蛋白により免疫学的に管腔内物質の生体への侵入を予防し,上皮内の樹状細胞,上皮下の免疫細胞およびs-IgAによってより強固な防御機構を形成する.加齢や心理社会環境ストレスは粘液産生低下および免疫機能低下により腸管バリア機能が低下したleaky gutを誘発する.その結果,精神神経系,消化器系,代謝系,免疫系の多彩な腸内細菌関連疾患を誘発する.その主要な機序は,炎症,細菌代謝物などの侵入もしくは吸収,免疫反応である.精神神経疾患の病態においては,精神疾患は主として炎症反応が脳血液関門を障害し,神経炎症を引き起こすこと,神経変性疾患では腸管で吸収された物質が求心性神経を経由して中枢神経系で凝集すること,がその主要な病態と推測される.

シンポジウム 「社会医学」の視点から求める「心身医学」
  • 菅谷 渚, 中尾 睦宏
    2022 年 62 巻 6 号 p. 458
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー
  • ―Bio-Psycho-Social Modelの実践のために―
    中尾 睦宏
    2022 年 62 巻 6 号 p. 459-465
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    心身医学はbio-psycho-social modelに立脚した臨床・実践活動を基本としている.ところが, 心身医学においては今まで心身相関に焦点を当てた研究・教育が主流であったため, socialの位置づけについては十分な議論が尽くされていなかった.そこで, 心身医学の社会的側面についてさらに考えるために本シンポジウムを企画した.「社会医学」は非常に幅広い分野を有するため, 当学会でもなじみが深い「行動医学」の専門家を招聘し, 社会医学とは何であるか, 心身医学はどのように社会医学を取り込めるのか, 逆に社会医学に心身医学は何を貢献できるのか, 議論をした.心身症に影響する心理社会的因子に関しては, 個人や家族のレベルだけでなく, 職場や社会構造など大きな枠組みでとらえないと理解できない問題がある.その意味で, 心身医学は医療・保健全体をまたぐ大きな学問分野である.

  • 堤 明純
    2022 年 62 巻 6 号 p. 466-470
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    政治的な選択(制度)や,所属している集団の文化や規範によって影響を受ける社会的な構造(収入,教育,職業など)が,健康の格差を生む最大の要因として注目されており,健康の社会的決定要因と呼ばれる.個人の力では対応しきれない「原因の原因」と健康障害が発生するメカニズムは,bio-psycho-socialモデルに基づいて,その科学的検証と対策が図られており,現代における,社会医学の最大の課題の1つである.医学的な管理や心理学的な介入のみでは解決に至らないため,患者の生活を支えるための資源へのアプローチを容易にする介入―社会的処方―が注目されている.一方で,健康格差の評価は,その後のアプローチの有無いかんで,患者に有害な影響があり,倫理的な問題もはらむ.臨床場面では,健康の社会的決定要因を評価し,その患者の課題解決のための資源をノン・ヘルスセクターにも広げて患者のケアにあたることが実践され始めている.

  • ―ワーク・ライフ・バランスに注目して―
    島津 明人
    2022 年 62 巻 6 号 p. 471-475
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,労働者のメンタルヘルスについて,特にワーク・ライフ・バランスに注目して言及する. 従来の労働者のメンタルヘルス対策,特に第1次予防対策では,職場環境や働き方に焦点を当て,管理監督者教育,職場環境の改善,セルフケアの支援などが行われてきた.しかし,労働者のメンタルヘルスのあり方は,職場環境や働き方だけでなく,ワーク・ライフ・バランスや休み方など,仕事外の要因によっても影響を受ける.

    筆者らは,2008年にTWIN study(Tokyo Work-life INterface study)を立ち上げ,未就学児をもつ共働き夫婦のワーク・ライフ・バランスのあり方が自己とパートナーの健康に及ぼす影響をTWIN study Ⅰ,自己・パートナー・子どもの健康に及ぼす影響をTWIN study Ⅱの2つの大規模コホート研究を通じて明らかにしてきた.さらに,TWIN study Ⅲでは,労働者・夫婦・子どもの3者の健康を支援するプログラムを新しく開発し,その効果を無作為化比較試験によって評価してきた.

    本稿を通じて,心身医学と社会医学および心理学との協働が促進され,労働者の心身の健康の維持・向上につながれば幸いである.

  • 井上 茂, 薫 一帆, 天笠 志保
    2022 年 62 巻 6 号 p. 476-481
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    身体活動の効果は誰もが知るところだが,その習慣化は難しい.これまで,身体活動推進のために行動心理学的な方法が用いられてきたが,2000年頃より身体活動支援環境に関する研究が盛んになった.例えば,地域の住居密度,用途地域の混在度,道路ネットワークなどと身体活動,肥満との関連には多くのエビデンスがある.これらの研究成果に基づいて,健康日本21では「運動しやすいまちづくり・環境整備に取り組む自治体数の増加」が目標となっている.国土交通省の関心も高く,都市をコンパクトにして歩いて暮らせる地域を作ることが国土開発の目標となっている.社会学的要因は,生物学的要因,心理学的要因とともに人々の習慣を形成し,健康を決定している.日本行動医学会は臨床医学,心理社会行動科学,社会医学の3領域の専門家によって構成されており,bio-psycho-social modelの枠組みで研究の場を提供している.心身医学と社会医学との連携によりさまざまな健康課題の解決が可能になると考える.

原著
  • 芦谷 道子, 大平 雅子
    2022 年 62 巻 6 号 p. 482-489
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/01
    ジャーナル フリー

    近年,毛髪コルチゾール濃度(HCC)が中長期的なストレス評価指標として注目を浴び,主観的評価ではとらえられない客観的な心理的指標となる可能性が指摘されている.本研究では,前思春期~思春期の時期にある一般的な小児を対象に,毛髪に蓄積したHCCおよび抗ストレス指標であるDHEA,レジリエンス指標であるDHEA/HCC比を測定し,性差や発達差について検討し,生体指標と主観指標の関連性を調べた.その結果,毛髪によるストレスホルモンの生体指標が,思春期的な心理的危機の一端を示す可能性が示され,小児のストレス把握に貢献する可能性が示唆された.男子においてはDHEA,DHEA/HCC比指標と主観的ストレスとの関連性が高く,HCCのみならずDHEAへの着目の意義が示唆された.女子においては生体指標と主観指標との関連が示されず,今後他の心理的指標を用いてさらに検討する必要があると考えた.

地方会抄録
総目次・人名索引・項目索引
feedback
Top