心身医学
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62 巻, 3 号
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巻頭言
第62回日本心身医学会総会ならびに学術講演会
教育講演
  • ―診立てのコツと一般外来での工夫―
    野間 俊一
    2022 年 62 巻 3 号 p. 215-219
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/01
    ジャーナル フリー

    摂食障害の治療は容易ではないが,その精神病理を理解し適切に診立てることで,患者に応じた精神療法を行うことができる.摂食障害の症状の本質は「こだわり」であり,その背景には自己存在の不確かさに由来する「完璧主義」が認められる.症状が慢性化しやすい理由としては,摂食障害が「嗜癖」という側面をもっていることと,他者からの評価を過剰に意識する「自己過敏傾向」が存在することが挙げられる.診立てるためには,摂食障害のステージ,パーソナリティのタイプ,動機づけレベルの3つの軸から評価すべきである.すなわち,ステージは初期・持続期・慢性期,タイプは反応葛藤型・固執型・衝動型,動機づけレベルは回復の段階・怯えの段階・否認の段階と分けて病理の深さを評価する.外来診療では,簡易版認知行動療法を中心に据えながら,病理の深さに応じた治療的アプローチを行う.治療者が患者とともに回復のイメージを共有することが重要である.

シンポジウム 「こころ」と「身体」と「行動」の基礎と臨床
  • 岡本 百合, 宮岡 等
    2022 年 62 巻 3 号 p. 220
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/01
    ジャーナル フリー
  • 宮岡 等, 宮岡 佳子
    2022 年 62 巻 3 号 p. 221-224
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/01
    ジャーナル フリー

    ・ヒトを「こころ」「身体」「行動」という視点からみるとき,行動の評価は慎重にする必要がある.行動の多くは思考,知的能力などの精神症状に起因することが多い.

    ・BPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)では行動のみから異常と判定される面があり,行動評価における不適切な概念といえるかもしれない.

    ・うつ病の重症度は気分,思考,行動などから総合的に評価する必要がある.

    ・行動の問題がうつ病を疑うのに役立つ情報となることがある.

    ・うつ病では生得的な要因,性格形成途上の環境要因,環境ストレス,身体的要因などを総合的に評価して治療に当たる必要がある.

  • 関口 敦, 菅原 彩子, 勝沼 るり, 寺澤 悠理
    2022 年 62 巻 3 号 p. 225-229
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/01
    ジャーナル フリー

    近年,心身相関の認知科学的な背景の1つとして「内受容感覚」が注目されてきた.内受容感覚とは,呼吸・心拍・腸管の動きなど身体内部の生理的な状態に対する感覚を指し,ホメオスタシスの維持に必要な機能と考えられている.内受容感覚の障害はさまざまなストレス関連疾患で認められており,「脳」と「身体」をつなぐメカニズムでもある.

    Damasioらの研究により,リスク行動を選択する際には危険を認知する前に交感神経反応が亢進していることが確認されていることから,「身体」と「行動」の関連も説明可能で,内受容感覚は行動を規定する因子とも考えられる.

    本稿では,「脳」と「身体」と「行動」の相互連関の因果関係を示した研究として,われわれが行った内受容感覚訓練実験を紹介する.内受容感覚を強化する認知訓練により,不安および身体症状の軽減,行動の変化を観測し,将来的なストレス関連疾患治療への応用が期待された.

  • 水原 祐起
    2022 年 62 巻 3 号 p. 230-234
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/01
    ジャーナル フリー

    摂食障害はその診断基準に「こころ」と「身体」と「行動」のすべての項目が含まれており,発症から回復まで,心身相関の中で病態が変化していく.その病型を越えて,完全主義,自己評価の低さ,感情不耐性といった「こころ」の病理が認められる.また,拒食によって引き起こされる低体重では,るい痩,浮腫,ホルモン異常,代謝障害などの「身体」症状を呈し,生命危機に陥ることも少なくない.過食・嘔吐や下剤乱用により,逆流性食道炎や電解質異常といった身体合併症を伴い,遷延化すると慢性的な腎機能障害に至ることもある.こういった「こころ」や「身体」の症状は,その「行動」に大きく影響を与える.自己評価の低さや食行動異常,対人過敏性は,障害福祉サービスなどの社会復帰のための支援を回避させてしまう.治療においては,こういった「こころ」と「身体」と「行動」それぞれの側面から病態水準を把握し,包括的な介入を行っていく必要がある.

  • 岡本 百合
    2022 年 62 巻 3 号 p. 235-239
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/01
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)は,その名のとおり,カテゴリー的なものではなく連続的に移行するスペクトラム概念でとらえられるようになった.最近の大規模疫学調査では2%程度にみられるという報告もあり,コモンディジーズととらえる傾向にある.社会性の乏しさ,コミュニケーションの困難さから孤立しやすい,強いこだわりや柔軟性の乏しさから環境変化に適応しにくいなど,さまざまな困りごとを抱えやすく,併存症を伴いやすい.ASDがすべて治療や支援が必要なわけではない.私たちの臨床場面に登場するのは,併存した問題に困っている人たちである.

    本稿では,ASDの「こころ」と「からだ」と「行動」について,併存症,心身症を含む身体症状,自殺行動などについて,相互の関連性とともに,支援のあり方について論じた.

原著
  • 岡本 恵, 名越 泰秀, 佐藤 豪
    2022 年 62 巻 3 号 p. 240-247
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/01
    ジャーナル フリー

    心臓リハビリテーション患者のストレスコーピングにおける自己効力感(coping self-efficacy:CSE)の検討を行った.65歳以上の心臓リハビリテーションに参加した入院中の患者群(122名)と地域在住の健常群(115名)に,CSEと感情についての質問紙調査を行った.その結果,高齢者のCSEとして,認知,回避,問題解決,気分転換の4因子が抽出された.また,患者群は健常群に比べて認知CSEが低く,女性患者では問題解決,気分転換CSEが低かった.認知,問題解決,気分転換CSEは精神的健康との関連が,一方で女性患者の回避,気分転換CSEは怒り-敵意との関連がみられた.本研究により,患者群,特に女性のCSEは健常群に比べて低い傾向があることが明らかになった.有効な介入のためには,本研究で示された各CSEの傾向を考慮する必要があるだろう.

  • 照井 みのり, 佐藤 菜保子, 村椿 智彦, 佐藤 章子, 石田 孝宣, 福土 審
    2022 年 62 巻 3 号 p. 248-262
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/01
    ジャーナル フリー

    子育て中の乳がん患者の不安・抑うつの程度には,子育てに関連する要因が影響することを明らかにすることを目的とした.20歳以上で,診断から10年以内,0~18歳の同居している子が少なくとも1人以上いる患者に質問紙調査を行った.HADS,BCWI,FACT-Gを用いて,quality of life(QOL)や心配,不安・抑うつの程度を調査し,子どもとの関わりについて独自質問尺度を用意した.不安高群では,将来,身体,対人・社会に対する心配が低群と比較し有意に高く,また,心理面,機能面のQOLが有意に低かった.抑うつ高群では,社会・家族面,心理面,機能面のQOLが低群と比較し有意に低かった.重回帰分析により,抑うつには病状の深刻度が影響する可能性が示された.因子分析により,【病気が子どもに与える負の影響への懸念】【親子の関係性】【良い親でありたいという思い】の3つの因子が子育ての懸念として抽出された.子育て中の乳がん患者が抱く特有の懸念に対して心理的ケアが必要である.

連載 心身医療の伝承―若手治療者へのメッセージ
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