日本小児腎臓病学会雑誌
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11 巻, 2 号
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原著
  • 川村 尚久, 竹中 義人, 山口 仁, 山崎 剛, 井上 雅美, 河 敬世, 島川 修一, 芦田 明, 玉井 浩
    1998 年 11 巻 2 号 p. 129-134
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     骨髄移植後急性白血病を既往歴に持つ患児のベロ毒素産生性大腸菌 (VTEC) O157感染後溶血性尿毒症症候群 (HUS) 発症例を報告した。症例は急性リンパ性白血病の12歳男児で,骨髄再々発後にHLA適合非血縁者間移植を2年2カ月前に施行。移植前処置は全身放射線照射+melphalan+thiotepaで,免疫抑制剤はFK506を投与した。複数の移植後合併症あるも無事生着,FK506投与中止1年5カ月後に集団食中毒によるVTEC O157感染症に罹患し,腹痛,血便等の消化器症状出現第3病日より入院加療した。早期より抗生剤・γグロブリンを投与したが,第7病日に血小板減少,溶血性貧血,腎機能障害を認めHUSを発症した。本例はVTEC感染後のD(+)HUSであるが,既往歴に様々なD(-)HUSの発症危険因子があり,それらが臨床経過に何らかの影響を及ぼした可能性を否定できないため,診断や治療方針に苦慮した。抗癌剤,免疫抑制剤等の投与や放射線療法の治療歴のある疾患群がVTECに感染した場合はHUS発症が予想される既往歴として健常児とは別に考えるべきであると思われ,D(+)・D(-)HUSの鑑別診断の重要性が再確認された。
  • 中村 みちる, 白石 裕比湖, 浜野 雄二, 桃井 真里子, 伊東 紘一
    1998 年 11 巻 2 号 p. 135-138
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     腎生検は腎疾患の診断ならびに治療方針決定,また経過観察に重要な役割を持っているが,安静を保てない幼小児の場合の手技が問題とされる。我々は栃木県内の主要病院にアンケート調査を行い現状を調べたところ,幼小児の腎生検は呼吸管理下の全身麻酔で行われるか,他院へ紹介転院となる場合が大部分であることが判明した。我々の施設においてはこの12年間にわたり,600症例以上の小児の心カテーテル検査を経直腸麻酔下に施行しており,現在まで麻酔が原因の合併症は生じていない。この経験を生かし,幼小児の腎生検にも経直腸麻酔を導入した。睡眠持続時間にばらつきはみられたが,生検自体は安全に短時間で施行可能であり,今後患児の負担を軽減するためにも導入を検討されるべき麻酔手技と考えた。
  • 此元 隆雄, 服部 元史, 甲能 深雪, 川口 洋, 伊藤 克己
    1998 年 11 巻 2 号 p. 139-145
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     紫斑病性腎炎 (HSPN) に対する血漿交換療法 (PP) の有効性とその限界を明らかにする目的で,PP単独療法を実施した小児重症HSPN17例 (男女比: 10/7,発症年齢: 8.1±3.2歳) の臨床経過をretrospectiveに検討した。PP治療開始時には全例で高度蛋白尿 (4.7±2.5g/m2/日) がみられ,うち11例で腎機能低下 (51.6±14.1ml/min/1.73m2) が認められた。発症からPP開始までの期間は平均76.1±86.5日であったが,うち11例は発症後2カ月以内にPPが開始されたのに対し,1例は発症後1年以上経過してからPPが開始された。PP開始直前に実施された腎生検では,半月体/分節性病変形成率は平均71.8±11.1%であった。PPは導入療法として週3回の割合で2週間,その後週1回の割合で6週間,合計12回を目途に実施した。PPの短期的治療効果 (治療開始3カ月後) として,発症後1年以上経過してからPPが開始された1例を除く16例で有意な蛋白尿の減少 (1.2±0.7g/m2/日,p<0.01) が,また同様の1例を除く10例で明らかな腎機能の改善 (89.9±14.0ml/min/1.73m2,p<0.01) が認められた。長期的治療効果として治療開始3カ月以降の蛋白尿の推移を検討したところ,(1)蛋白尿が引き続き減少し最終的に陰性化した群: 蛋白尿消失群 (n=11) と,(2)蛋白尿が再び増加した群: 蛋白尿持続群 (n=6) の2群に分かれた。蛋白尿消失群のなかで腎機能が低下した症例はなかったが,蛋白尿持続群6例中3例が透析導入に至った。透析導入例のうち1例はPPによる短期的治療効果がみられなかった症例であった。PPは小児重症HSPNに対して有効な治療法である。しかし,PPによる大きな効果を得るためには,発症後早期から実施することが肝要である。一方,疾患活動性が長期にわたり持続する症例に対しては,ステロイドや免疫抑制剤による後療法の必要性が示唆された。
総説
  • 田中 亮二郎, 飯島 一誠, 村上 龍助, 徐 虹, 井上 裕司, 白川 卓, 西山 馨, 中村 肇, 吉川 徳茂
    1998 年 11 巻 2 号 p. 147-151
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     血小板活性化因子 (PAF) は,炎症前駆細胞の活性化や血管透過性亢進作用を有し,腎炎の発症進展に関与することが報告されてきた。最近日本人の家系にPAF分解酵素 (PAF acetylhydrolase) 遺伝子エクソン9の点変異 (G994T) が発見され,ホモ,ヘテロの遺伝子型は,血中PAF分解酵素レベルが低下していることが判明した。このような点変異を持つ人では,PAF濃度の上昇が容易に生じ,より強い炎症を引き起こす可能性が考えられる。今回私たちは,IgA腎症の発症進展にPAF分解酵素の遺伝子変異が関与しているかどうかを検討した。神戸大学小児科にて腎生検を受けたIgA腎症小児89名を対象とし,また,100名の健常成人をコントロールとした。末梢血白血球よりDNAを抽出後,PCR法を用いて,遺伝子変異 (G994T) を明らかにし,決定されたgenotype (GG: GT: TT) と臨床病理所見とを比較検討した。遺伝子変異は,IgA腎症群と正常コントロール群では差異はなかった。しかし遺伝子変異を持つ群 (GT/TT genotypes,N=30) は,持たない群 (GG genotype,N=59) に比較して,1日尿中蛋白排泄量が有意に増加していた。また,腎組織所見では,メサンギウム増殖を示す糸球体の割合は,遺伝子変異を持つ群が,持たない群に比較して有意に増加していた。PAF分解酵素遺伝子エクソン9の点変異 (G994T) は,小児期IgA腎症の蛋白尿やメサンギウム増殖などの病態に関与する。
  • 吉岡 加寿夫, 大橋 靖雄, 酒井 糾, 伊藤 拓, 吉川 徳茂, 中村 肇, 谷澤 隆邦, 和田 博義, 牧 淳
    1998 年 11 巻 2 号 p. 153-155
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     頻回再発型ネフローゼ症候群 (FRNS) の治療はステロイド剤のみでは困難で,これまでシクロフォスファミド,クロラムブシル,シクロスポリンなどの免疫抑制剤が使用されている。しかし,これらのいずれの薬剤にも重大な副作用がある。小児のFRNSは加齢とともに再発が減少 していく傾向をもつ予後良好な疾患であるので,有効でかつ安全に使用できる治療薬が望まれている。
     ミゾリビンはEupenicillium brefeldianumの産生する抗生物質としてわが国で発見された薬剤である1)。これまで腎移植における拒絶反応の抑制,ループス腎炎,慢性関節リウマチ,ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群2)に対してコントロール試験が実施され,有効性と安全性が確認され,既に市販薬として使用されている。他の免疫抑制剤に比べ安全性が高く,長期の連用が可能なことが特徴である。本剤の小児のFRNSに対する有効性を明らかにする目的で二重盲検比較試験が実施された。
  • 村田 由佳, 竹村 司, 柳田 英彦, 日野 聡, 岡田 満, 吉岡 加寿夫
    1998 年 11 巻 2 号 p. 157-160
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     新しい成長因子であるheparin-binding epidermal growth factor-like growth factor (HB-EGF) のメサンギウム細胞における発現の証明とその誘導因子,ならびに糸球体腎炎の発症・進展過程における役割について検討した。培養ラットメサンギウム細胞を用いた検討では,HB-EGFは,H2O2によるoxidative stress,炎症性cytokineであるTNF-αやIL-1βにより誘導された。また,proteinase C (PKC) activatorであるphorbol esterによっても誘導されること,またそのblockadeであるstaurosporinにて発現が抑制されたことから,HB-EGFの発現は,PKC dependent pathwayによることが明らかとなった。recombinant HB-EGFの添加により,メサンギウム細胞増殖は,コントロールと比較して,4~5倍に増強され,また同時にtype I,III collagenの発現亢進が認められた。ヒト腎生検組織やメサンギウム増殖性腎炎モデルであるラット抗Thy 1.1抗体腎炎モデルを用いた検討によりHB-EGFの発現は,メサンギウム細胞の増殖と強く相関すること,また糸球体内での発現細胞は,メサンギウム細胞と浸潤細胞であることが明らかとなった。以上のような成績から,HB-EGFは,自身の分泌によりautocrine的に,また浸潤炎症性細胞からparacrine的に分泌され,メサンギウム細胞の増殖と細胞外マトリックスの産生促進作用を介して糸球体腎炎の進展に関与しているものと思われる。
  • -三次元培養での検討-
    竹村 司, 日野 聡, 村田 由佳, 柳田 英彦, 八木 和郎, 福島 強次, 岡田 満, 吉岡 加寿夫
    1998 年 11 巻 2 号 p. 161-163
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     膜結合型heparin-binding epidermal growth factor-like growth factor (proHB-EGF) の尿細管形態形成作用について検討した。胎生ラット (16~18day) 腎組織では,HB-EGF蛋白は,尿管芽に強く認められ,またmRNAレベルでも強い発現を認めた。phorbol esterにて,soluble formのHB-EGFを切断した後のproHB-EGF発現細胞は,無血清のPlastic dish上のmonolayer cultureにて,branching像を呈した。その機序として,proHB-EGFの細胞運動能の促進,自身のreceptorであるEGF receptorのupregulationや切断されたproHB-EGFの細胞接触面での局性を持った回復が重要な役割を持つことが示唆された。また,無血清type I collagen gelを用いたthree dimensional culture systemでのproHB-EGF発現細胞の培養では,管腔側にmicroviliを持つapical surfaceを,外側にはbasal surfaceを示す管腔構造特有の性格を示しながら分裂した。一方,soluble formのHB-EGFを添加したempty vector cellならびにwild NRK 52E細胞のmonolayerおよびcollagen gel cultureでは,これら一連のbranchingやtubulogenesisは観察されなかったことから,proHB-EGFのjuxtacrineを介した細胞間結合ならびに細胞外基質との相互作用が,尿細管形態形成に重要な要素であることが示唆された。
  • 久原 孝, 香美 祥二, 玉置 俊晃, 黒田 泰弘
    1998 年 11 巻 2 号 p. 165-170
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     Matrix metalloproteinases (MMPs) は,細胞外基質 (ECM) 成分の分解に働き,ECM代謝のホメオスターシス に必要な蛋白分解酵素である。実験腎炎において,MMPsは病変の進行に深く関与していることが明らかにされているが,ヒト糸球体腎炎でのMMPsの発現や働きに関しては依然不明な点が多い。今回,ヒト糸球体腎炎でのMMPsの役割を調べるため,各種腎炎糸球体でのMMP-2,-9の免疫組織学的な発現変化と糸球体培養上清中のそれぞれの活性についてgelatin zymography法にて検討した。組織染色では,MMP-2の発現は正常および腎炎糸球体のいずれにも確認できなかった。MMP-9の染色は正常組織ではほぼ陰性であったが,IgA腎症,紫斑病性腎炎,ループス腎炎などのメサンギウム増殖性糸球体腎炎と糖尿病性腎症では主にメサンギウム領域にMMP-9の染色が増加した。膜性腎症では主病変である上皮下にMMP-9はほとんど認められなかった。gelatin zymography法による解析では,培養ヒトメサンギウム細胞はMMP-2,9の両者を分泌し,活性強度はMMP-2>MMP-9であった。一方,ヒト糸球体培養上清ではMMP-9活性とわずかのMMP-2活性を認めた。また,メサンギウム増殖性糸球体腎炎の糸球体培養上清中には正常糸球体に比較し,MMP-9活性の増加した症例が多く見られた。これらのことからMMP-9がメサンギウム増殖性腎炎の進展に関与していることが推察された。
  • 小川 哲史, 新井 英夫, 渡部 登志雄, 小林 靖子, 森川 昭廣, 丸山 健一, 服部 浩明, 江頭 徹
    1998 年 11 巻 2 号 p. 171-175
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     我々は,血漿アポEの高値および特徴的な腎組織像からリポ蛋白糸球体症と診断した4歳発症の女児例を経験した。本例は検索した範囲では世界最年少例と思われた。
     本症の病因の一つとしてリポ蛋白代謝異常が示唆されているため,患児のアポEの検索を行った。表現型と遺伝子型に不一致がみられたことより,さらに検索を進めたところ,アポE遺伝子exon 4において9塩基の欠失 (480-488nt) が認められた。これによって合成される患児のアポEは,3個のアミノ酸 (Arginine,Lysine,Leucine) が欠け,296個のアミノ酸から成る変異体であると推測された。また,現在無症状である母親および弟にも同遺伝子変異が確認された。この変異はアポEにおいてレセプターとの結合領域と考えられている部分に存在しており,これによって生じる変異体はリポ蛋白代謝異常さらには本症の発症に何らかの形で関与している可能性が示唆された。
  • 仲里 仁史, 服部 新三郎, 吉牟田 純一郎, 古瀬 昭夫, 辛嶋 眞如, 河野 智康, 牛嶋 正, 平松 美佐子, 松本 真一, 遠藤 文 ...
    1998 年 11 巻 2 号 p. 177-180
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     家族性特発性低分子蛋白尿症 (familial idiopathic low-molecular-weight proteinuria: FILMWP) は,低分子蛋白尿を呈する腎尿細管障害で本邦にて報告された。一方,腎結石症を伴うDent病などの3つの遺伝性腎尿細管障害が欧米で報告され,クロライドチャンネルCLCN5遺伝子の異常であることが報告された。これらの疾患には臨床上の類似性がみられるが,FILMWPでは腎不全やくる病がないことで区別される。
     私達はFILMWP患者5例についてCLCN5遺伝子を解析し,一塩基挿入2例,一塩基欠失2例,ナンセンス変異1例を認めた。FILMWPの多くは本遺伝子の異常でおこると考えられ,これら4つの腎尿細管疾患は1つの疾患の亜型と考えられる。またCLC5蛋白のドメイン11に変異が多く存在する (自験例5例中2例)。遺伝子型と表現型の関係はまだ明らかではない。本遺伝子の変異だけでなく,修飾遺伝子,環境因子が表現型に影響を与えるものと考えられる。
原著
  • 吉川 賢二, 小國 龍也, 山城 国暉, 芦田 明, 余田 篤, 地嵜 剛史, 玉井 浩, 高橋 泰生
    1998 年 11 巻 2 号 p. 181-183
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     1. Salmonella enteritidis腸炎 (D群) 経過中に急性腎不全を合併した8歳女児を経験した。
     2. 入院時BUN,クレアチニンは正常であったが腎エコー輝度が上昇しており,腎エコーは腎障害発見に有効であった。
     3. 急性腎不全の原因は,サルモネラ腸炎による間質性腎炎が考えられた。
     4. サルモネラ腸炎は近年増加傾向にあり,特にSalmonella enteritidisの増加が顕著である。その合併症として腎障害にも注意が必要と考えられた。
  • 辻 祐一郎, 成井 研治, 高柳 隆章, 近岡 弘, 瀧田 誠司, 飯倉 洋治, 酒井 糾
    1998 年 11 巻 2 号 p. 185-190
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     ヘノッホ-シェーンライン紫斑病 (HSP) は,非血小板減少性紫斑,腹痛などの消化器症状と関節症状などを主徴とする疾患である。紫斑病性腎炎が予後を左右するため,腎炎には種々の薬物療法が行われている。しかし紫斑に対する治療法は,止血剤の投与や安静などの対症療法が主である。長期に紫斑が持続したり,出没を繰り返す症例では,紫斑に対する積極的な治療が患児のQuality of Life (QOL) 面から必要になる。我々は長期に紫斑が持続したり反復したりする症例に,ロイコトリエン受容体拮抗剤であるpranlukast hydrate (商品名オノン) を投与し,紫斑の軽快が得られた症例を5例経験したので報告する。
  • 樋口 洋一, 錦井 友美, 松永 有美子, 木下 英一, 松本 正, 辻 芳郎, 下條 由紀, 冨増 邦夫
    1998 年 11 巻 2 号 p. 191-196
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     Salmonella enteritidisによる急性腸炎に併発した急性腎不全の12歳女児例を経験した。本症例は腸炎発症早期より頻回の下痢による脱水症と意識障害を認め,輸液治療により脱水症と意識障害は改善したが,腎機能低下と電解質異常が出現した。透析は必要とせず保存的治療により腎機能は改善したが,FENaや尿中β2ミクログロブリンなどの結果から腎性腎不全であったと考えられた。
     本症例において腎不全発症早期に血液中の腫瘍壊死因子α (TNF-α) とインターロイキン6 (IL-6) の上昇が見られ,感染症に伴う全身性の炎症反応が急性腎不全の発症に関与した可能性が考えられた。また腎不全後の組織再生に関与する血液中の肝細胞増殖因子 (HGF) も腎不全早期に上昇していた。
  • 浅野 直美, 槇 明子, 矢嶋 茂裕, 鷹尾 明, 兼村 敏生
    1998 年 11 巻 2 号 p. 197-202
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     症例は生後3カ月の男児。生後2カ月頃より徐々に浮腫が出現し当科入院となった。入院時低蛋白血症,高コレステロール血症,1日尿蛋白10gを認め,ネフローゼ症候群と診断した。腎組織検査はdiffuse mesangial sclerosisであった。ステロイドおよび免疫抑制剤は無効であった。1歳よりACEI (エナラプリル0.06mg/kg/day) 投与を開始したところ尿蛋白は減少し始め,エナラプリル投与を0.2mg/kg/dayまで増加した時点で尿蛋白は消失した。2回目の腎生検 (2歳) では,糸球体硬化病変は進行し,間質への細胞浸潤が増加していた。エナラプリル投与開始2年6カ月後の現在,腎機能は正常範囲を維持し,身体発育,精神運動発達は良好である。またエナラプリルによると考えられる副作用は特に認めていない。したがって本症例のような多剤に抵抗性の乳児ネフローゼ症候群においても,ACEIは試みられるべき治療法と考えられた。
総説
  • 塚原 宏一
    1998 年 11 巻 2 号 p. 203-208
    発行日: 1998/10/30
    公開日: 2009/03/06
    ジャーナル フリー
     特発性膜性腎症 (IMN) に対しては,副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制剤などが治療に用いられることが多いが,その評価に関しては統一的な見解はいまだない。本稿では,わが国の小児におけるIMN症例の臨床経過および治療の現況とそれらの特徴を集約してとらえ,諸外国の症例と対比させながら,日本人小児のIMNに対する管理方針について論じた。
     成人例よりも自然寛解率が高く,とくに欧米の患児よりも予後の良好な日本人小児のIMNの治療指針としては,現段階では次のように考えるのが妥当であろう。すなわち,ネフローゼ症候群を呈さない症例の場合は,一過性の可能性が高く,腎機能障害を残す危険性もきわめて低いので,ステロイドあるいは免疫抑制剤の治療を要しない。すなわち,対症療法のみを行う。ネフローゼ状態がある期間続く場合には,腎機能障害を呈する危険もありうるので,あるいは,ネフローゼ症候群そのものによる合併症を抑止する目的で,ステロイド剤を試みてもよい。また,免疫抑制剤については,日本人小児には原則として使用すべきではないと思われる。
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