日本小児腎臓病学会雑誌
Online ISSN : 1881-3933
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ISSN-L : 0915-2245
26 巻, 2 号
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原著
  • 好川 貴久, 桑門 克治, 澤田 真理子, 田中 紀子, 藤原 充弘, 武田 修明
    2014 年 26 巻 2 号 p. 177-181
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    小児のステロイド感受性ネフローゼ症候群において,プレドニゾロン投与開始から初回寛解に要する日数と寛解後6 か月以内の早期再発の有無,2 年間の再発状況との関連について後方視的検討を行った。初発の特発性ネフローゼ症候群の患者のうち,ISKDC のプロトコール(国際法)で治療開始後4 週以内に寛解,かつ8 週後に治療を中止した患者で,2 年間以上経過観察できた25 例を対象とした。そのうち,7 日以内に寛解したものが15例,8 日以上を要したものが10 例であった。寛解後2 年以内にステロイド依存型ネフローゼ症候群に進展した例は後者で有意に多く(p=0.014),寛解後6 か月以内の再発の有無については2 群間に有意差を認めなかった(p=0.234)。特発性ネフローゼ症候群において初回寛解に要する日数によって層別化を行い,各々に応じた治療プロトコールを設けることで治療成績の改善と副作用の軽減が可能ではないかと考える。
  • 濵平 陽史, 堀之内 智子, 井上 道雄, 岡本 光宏, 坂田 玲子, 大西 徳子, 黒川 大輔, 早野 克典, 藤原 安曇, 伴 紘文, ...
    2014 年 26 巻 2 号 p. 182-186
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    小児の尿路感染症では抗生剤の採尿前投与などで起炎菌が同定されず,診断に苦慮することも多く,膀胱尿管逆流症の精査を受けずに後に逆流性腎症,末期腎不全として発見される例もある。今回,我々は尿路感染症が疑われる児や熱源が不明である児に対して腹部超音波検査で腎血流の低下を検出することにより尿路感染症と診断した症例もしくは尿培養陽性をもって尿路感染症と診断した症例を起炎菌検出の有無,腎血流低下の有無を基に3 群に分け比較検討を行った。起炎菌同定かつ腎血流正常[UC(+)US(−)]群では他の2 群と比較して有意に低月齢であった。起炎菌同定ができずかつ腎血流低下[UC(−)US(+)]群では抗生剤の前投与が有意に多かった。膀胱尿管逆流症は腎血流低下[UC(−)US(+),UC(+)US(+)]群で50 %,47.1 % と腎血流正常[UC(+)US(−)]群での18.4%と比較して有意に高率であった。腹部超音波で腎血流を評価することは熱源の特定および膀胱尿管逆流症を予測するうえで有用であると考えられた。
  • 深山 雄大, 和田 尚弘, 鵜野 裕一, 山田 昌由, 北山 浩嗣
    2014 年 26 巻 2 号 p. 187-193
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    Yersinia pseudotuberculosis(Ypt)は健康小児の急性腎不全の原因として重要である。今回われわれはYpt 集団感染をした5 例を経験し,そのうち2 例が急性腎不全を合併した。2 例の便培養からYpt 5a が検出され,他の2 例は血清抗体価の上昇にて診断した。もう1 例は抗Yersinia pseudotuberculosis derived mitogen(YPM)抗体の上昇を認めた。腎不全を合併した2 例は腎生検を施行し,尿細管間質性腎炎(TIN)と診断した。TIN を合併した症例と非TIN 症例で血清サイトカインを測定し比較したところ,TIN 症例で可溶性腫瘍壊死因子受容体(sTNFR)-1,sTNFR-2,インターロイキン(IL)-6,IL-17,可溶性インターロイキン-2 受容体α(sIL-2Rα)の明らかな高値を認めた。特にsTNFR の上昇は著しく,腎障害進展に腫瘍壊死因子(TNF)-αが関与している可能性が示唆された。
  • 松村 千恵子, 倉山 英昭, 安齋 未知子, 金本 勝義, 伊藤 秀和, 久野 正貴, 長 雄一, 本間 澄恵, 石川 信泰, 金澤 正樹, ...
    2014 年 26 巻 2 号 p. 194-203
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    千葉市3 歳児検尿システムでは,蛋白・潜血±以上,糖・白血球・亜硝酸塩+以上の1 次検尿陽性者に,2 次検尿と腎エコーを施行。1991~2011 年度154,456 名の精査陽性率は1.5%で,膀胱尿管逆流(VUR)16 名(血尿5,細菌尿11,尿単独3),アルポート症候群,ネフローゼ症候群,巣状分節状糸球体硬化症(FSGS),糸球体腎炎等が診断された。11,346 名の腎エコーで,先天性腎尿路奇形(CAKUT)92(0.8%),うちVUR 24 名(エコー単独11),両側低形成腎2,手術施行17 であった。VUR 全27 名中,VUR III 度以上の頻度は細菌尿例において非細菌尿例より有意に高かった(各々10/11,7/16,p<0.05)。10 名(7 名両側IV 度以上)は多発腎瘢痕を有し,うち7 名はエコー上腎サイズ異常を認めた。FSGS 1 名が末期腎不全に至った。千葉市3 歳児検尿システムはCAKUT 発見に有用と考えられた。
総説
  • 中井 秀郎
    2014 年 26 巻 2 号 p. 205-212
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    2010 年に米国泌尿器科学会からVUR 診療ガイドラインが発表された。その内容は期待した実用性に乏しかったが,エビデンス不足の現状を周知させ,今後に必要な科学的診療指針の手引き書といえる。関連領域の研究が進歩し,CAKUT 理論やUrodynamics の発展,出生前診断,RI 診断の普及などは,VUR 診療の根底に大きく影響している。大きな潮流として,VUR は内科的疾患であるという認識が挙げられる。その際の予防的抗菌療法の意義に関するRCT が進行中である。幼児期以後は排尿機能発達との関連が強く,その面の治療の重要性が認識されるようになった。一部に早期から手術が不可欠な例が存在するが,特殊例である。10 年の経過で自然治癒していく例が大部分だが,もし治癒しない場合,女児ではVUR を青年期に持ち越すことは危険である。最近,内視鏡注入術というオプションが加わり低侵襲治療の道が開かれたが,将来過剰治療や不確実治療と評価されることになりかねないエビデンス不足がある。
  • 横山 仁
    2014 年 26 巻 2 号 p. 213-219
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    腎臓病総合レジストリー(J-RBR; Japan Renal Biopsy Registry /J-KDR; Japan Kidney Disease Registry)は,日本腎臓学会が腎臓病の実態解明(疫学)と臨床研究を促進するために立ち上げたWeb 登録システムであり,腎臓病の基礎統計とその解析(一次研究)および関連した臨床情報収集(二次研究)を行っている。2013 年5 月で21,483 例が登録されており,腎臓病診療を受けた腎生検例と非腎生検重点疾患例における,臨床診断分類,病理組織診断分類および通常診療で得られるデータ(年齢,性別,尿検査,血液検査,腎機能検査など)に関して,経年的に調査されている。加えて,二次研究として難治性ネフローゼ症候群(JNSCS),IgA 腎症(J-IGACS),急速進行性糸球体腎炎(JRPGN-CS),多発性囊胞腎(J-PKD),糖尿病性腎症(JDNCS)などの難治性疾患を中心とした前向き臨床疫学研究を実施している。これらにより不明な点が多かったわが国における小児から超高齢者に至るすべての年齢階層における腎臓病の実態が明らかとなることが期待されている。
  • 土井 俊夫
    2014 年 26 巻 2 号 p. 220-226
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    糖尿病性腎症は糖尿病合併症において最も重要であり,腎症は末期腎不全に陥る最も多い疾患であるばかりでなく,心血管疾患の主たる要因でもある。その対策は医療上,社会上,経済的側面からも21 世紀医療における最重要課題である。その病態で重要なのはメサンギウム基質増生と糸球体基底膜肥厚である。そのうちメサンギウム基質増生は腎機能低下と相関を認め,病態に特異的な病変であると考えられる。糖尿病性腎症の診療で早期腎症の診断とその対策は腎症治療の基本である。現在,早期腎症の診断は微量アルブミン尿でなされているが,その意義と病理学的所見とは必ずしも一致しない。したがって,腎症診断の問題点は現在の糖尿病診療における重要な課題である。治療も血糖コントロール,RAS 系阻害薬による治療,蛋白制限などが行われているが,未だ腎不全対策ということより十分に対策ができていない。さらに,糖尿病性腎症における網膜症のとらえ方についても言及し,診断・治療の課題について述べる。我々は糖尿病性腎症の機序にメサンギウム細胞増殖,糸球体肥大症,メサンギウム細胞の形質変化,細胞外基質産生制御などが関与することを一連の研究で明らかにしてきたが,それら遺伝子制御の機構を解析し,その責任分子としてSmad1 を認めた。さらにSmad1 が糖尿病性腎症を惹起させる新たな転写因子であることをin vitro およびin vivo で証明した。最近のこれら一連の研究の進展について記す。最後にヒト糖尿病性腎症におけるこれら関連分子の意義とその応用の可能性について解説する。
  • 香美 祥二
    2014 年 26 巻 2 号 p. 227-231
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    レニン・アンジオテンシン系(RAS)は,腎臓レニンの発見以来,血圧や体液調節に必須の全身性調節機構(systemic RAS)という古典的コンセプトの時代を経て,RAS阻害に基づく降圧剤の開発とその臨床応用,新たな局所RAS(local RAS)コンセプトの時代へと目覚ましい展開を遂げている。特に腎臓RAS は,1)胎児期の腎発生,2)乳幼児期の腎発達,3)小児期の腎臓病の発症・進展への関与という,ライフステージの各過程における意義が異なることが明らかとなってきた。現在,小児期の慢性腎臓病(CKD)の治療法としてRAS 阻害薬が使用され臨床効果のエビデンスが積み重ねられつつある。
  • 追手 巍
    2014 年 26 巻 2 号 p. 232-241
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    腎死に至る糸球体硬化への進行性阻止を目指した治療戦略を確立するために,筆者らが用いてきた動物実験モデル,そしてそのモデルを用いた解析手法,病態の解析結果,進行性機序の抑制を図る治療法について述べる。解析方法のなかでも,筆者らが開発してきた微小循環動態解析法の活用が心血管系イベントを引き起こす慢性腎臓病の早期診断,予後判定,従来の腎保護作用を持つ薬剤,および新規治療薬の薬剤効果判定に大きく貢献しうることを強調する。
  • 飯島 一誠
    2014 年 26 巻 2 号 p. 242-244
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    日本人小児のCKD の原因として,遺伝性腎疾患は極めて重要であるが,その病因・病態は未だに不明な点が多く,遺伝子診断体制も整備されておらず,有効な治療法もないのが現状である。遺伝性腎疾患診療における遺伝学的アプローチは,確定診断や遺伝相談の重要な情報を提供するだけでなく,病態解明や治療法の選択にも関わる重要なものである。本稿では先天性腎尿路奇形を中心として,最新のテクノロジーも含めた遺伝学的アプローチの方法や実施上での注意点などの実例を紹介するとともに,平成24 年度より発足した「腎・泌尿器系の希少難治性疾患群に関する調査研究」班の現状についても概説する。
  • 敦賀 和志, 田中 完
    2014 年 26 巻 2 号 p. 245-249
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    近年,糸球体性腎疾患において病態や病勢を評価する非侵襲的な方法として,尿沈渣細胞中に発現する各種機能分子群の遺伝子発現の検討がなされ,その有用性が報告されている。一方,発現する機能分子群は多種に渡ることから,検討目的とその目的を前提とした候補分子群の絞り込みが課題となる。われわれはこれまで培養ヒトメサンギウム細胞を用いた実験系において,ウイルスの疑似感染を惹起することでToll-like receptor (TLR)3 を起点とした各種炎症関連分子群が誘導されることを確認してきた。ウイルス感染が発症起点や病態悪化に関与することが想定されるIgA 免疫複合体関連腎炎のIgA 腎症(IgAN)と紫斑病性腎炎(PN)を対象として,患者から得られた尿沈渣細胞に発現するTLR3 を介して活性化する各種機能分子群のmRNA 測定を行い,疾患病勢との関わりを検討した。尿沈渣細胞を用いた機能分子群mRNA の測定は,将来的に腎疾患の非侵襲的な病態,病勢評価法の開発へとつながる可能性が示唆された。
  • 里村 憲一
    2014 年 26 巻 2 号 p. 250-255
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    成人期発症の非感染性慢性疾患の発症リスクは,遺伝的素因や成人における生活習慣だけでなく,胎児期や乳児期の環境に影響されるというDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)仮説は,多くの疫学調査や動物実験で支持されている。慢性腎臓病発症の危険性もまた,胎児期や乳児期の成育環境に影響される。胎児期・乳児期の成育環境が悪いとネフロン数が減少し,糸球体の高血圧や過ろ過が起こり,全身の高血圧,蛋白尿や腎機能障害を来すと考えられている。これまで,DOHaD仮説に関連する慢性腎臓病は成人期に発症すると考えられていた。しかし,我々は極~超低出生体重で出生した児では,小児期からDOHaD 仮説に基づく慢性腎臓病発症リスクが高いことを報告した。小児の慢性腎臓病においても,正確な診断や早期治療のために,胎児・乳幼時期の生育環境を詳しく聴取することが必要である。本邦での平均出生体重は減少を続け,2.5 kg 未満の低出生体重児が増加している。DOHaD 仮説に関連する疾患の増加が予想され,そのことは医学的のみならず,社会経済的にも大きな問題が近い将来起こることを意味している。国民に対してライフサイクルの視点を踏まえた健康教育を行うことが重要と思われる。
症例報告
  • 檜山 麻衣子, 波多江 健, 金政 光, 中川 兼康, 原田 達生, 曳野 俊治, 竹田 洋子, 久野 敏
    2014 年 26 巻 2 号 p. 257-261
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    症例は14 歳女児。微熱と咳嗽が出現後,5 日目に肉眼的血尿を認めたため前医を受診し, 腎機能障害(Cr 1.7 mg/dℓ)を指摘され当科に入院した。入院時,血尿,蛋白尿および腎機能障害(eGFR 45.0 mℓ/min/1.73 m2)を認めたが,高血圧や尿量減少,低補体血症はみられなかった。発熱,咳嗽の原因がマイコプラズマ肺炎と考えられたことから,本感染症による慢性腎炎の急性増悪を考慮したものの,肺炎改善後も血尿,蛋白尿,腎機能低下が遷延した。尿細管障害(尿中β2MG 45,400 µg/ℓ)も認めていたことから,確定診断のために腎生検を行った。組織は,軽微なIgA 腎症を伴った急性間質性腎炎で,急性尿細管壊死が認められた。腎機能障害,尿細管障害は自然経過で改善し,マイコプラズマ感染症が急性間質性腎炎の発症に関与した可能性が考えられた。
  • 佐藤 公則, 粟津 緑, 伊藤 麻美, 植田 恵介, 山田 全毅, 石井 智弘, 新庄 正宜, 浅沼 宏, 高橋 孝雄
    2014 年 26 巻 2 号 p. 262-267
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    5 か月男児。胎生38 週に胎児エコーで両側Grade(Gr.)IV の水腎水尿管症と巨大膀胱を指摘された。日齢4 に実施した排尿時膀胱造影で両側Gr. V の膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux; VUR)を認め,日齢4 よりcefaclor の予防内服(5 mg/kg/ 日)を開始した。5 か月時,VUR に対する術前評価のため経静脈的尿路造影(intravenous pyelography; IVP)を尿道カテーテル挿入下に行った。翌日発熱し来院。膿尿を認め,尿塗沫でグラム陰性桿菌多数であり,抗菌薬投与を開始した。後日血液・尿培養より緑膿菌が検出され,計2 週間の抗菌薬投与後に手術を予定し退院した。IVP 時の尿道カテーテル挿入が感染の契機となったと考えられる。重度尿路異常患者へのカテーテル挿入前には,保菌状態の確認と,要すれば挿入前後における感受性のある抗菌薬の投与が有用であると考える。
  • 藤田 直也, 山本 雅紀, 深山 雄大
    2014 年 26 巻 2 号 p. 268-273
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    学校検尿で尿蛋白陽性を指摘されたことをきっかけに巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)と診断された発達障害と下肢の痙性麻痺を伴う8 歳女児例を報告した。過去の記録では3 歳時の尿検査ですでに尿蛋白(2+)を指摘されており,それ以前の乳児期早期からすでに尿蛋白が出現していた可能性が推測された。原因の明らかにされていない発達障害,下肢の痙性麻痺を伴うことからAngelman症候群やその他の症候群,ミトコンドリア病などの可能性も示唆されたが診断には至っていない。てんかんや精神運動発達遅滞にともなうFSGS の過去の報告例では,原因となる症候群や病態には様々な種類があり,今後の原因や病態の解明が期待される。本症例においても今後,遺伝子解析などの検索を進めていく予定である。
  • 原 太一, 仲川 真由, 渡邊 常樹, 伊藤 亮, 村上 仁彦, 藤永 周一郎
    2014 年 26 巻 2 号 p. 274-277
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    Down 症候群に膜性増殖性糸球体腎炎(以下MPGN)を合併した男児例を報告した。症例は13 歳男児,持続する血尿・蛋白尿・低補体血症のため慢性腎炎を疑い腎生検を施行。病理学的にはMPGN II 型に相当する組織像であり,ステロイド治療を開始したが血尿・蛋白尿・低補体は持続した。そのためシクロスポリンを導入したところ5 か月後に血尿・蛋白尿は消失した。2 年後の2 回目の腎生検において,基底膜への高密度電子沈着物が減少していた。また蛍光抗体法でC3 優位で免疫グロブリン陰性でありC3 glomerulopathy と診断した。以降,シクロスポリン,ジピリダモール,アンギオテンシン受容体拮抗薬,プレドニゾロンによる治療で寛解維持している。Down 症候群は免疫学的異常や易感染症を呈する場合がある。本症例では過去に中耳炎や気管支炎を繰り返していた。Down 症候群の糸球体疾患合併の報告は稀であるが本症のように頻回に感染症の既往のある症例では慢性腎炎発症に留意し定期的な検尿が必要である。
  • 橋本 淳也, 浅野 貴子, 加藤 環, 釜江 智佳子, 若松 太, 尾田 高志, 大橋 隆治, 長田 道夫, 野々山 恵章
    2014 年 26 巻 2 号 p. 278-284
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    ネフローゼ症候群,遷延する蛋白尿,反復する肉眼的血尿発作など,溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)としては非典型的な経過をたどった症例を経験した。症例は11 歳男児。一過性の肉眼的血尿発作の3 か月後に溶連菌感染に伴う肉眼的血尿・蛋白尿を認めた。低補体血症はなく,慢性腎炎の急性増悪と考えたが,感染から約3週間後に,肉眼的血尿・ネフローゼ症候群・低補体血症を伴う急性糸球体腎炎を発症した。初回腎生検では,高度な炎症所見を伴うPSAGN と考えられ,NAPlr も陽性であった。ステロイドパルス療法を含む多剤併用療法を実施したが,顕微鏡的血尿・蛋白尿は遷延した。治療開始から5 か月後の病理所見では,メサンギウム増殖が主体でIgA は陰性であった。発症から9 か月で蛋白尿が消失し,約1 年で血尿も消失したため,治療を終了したが,以後も再燃はない。臨床経過からはIgA 腎症とPSAGN の合併,病理学的見地からはPSAGN の重症型が疑われたが,複雑な経過を一元的に説明することは困難であった。
  • 岡 政史, 大塚 泰史, 稲田 由紀子, 佐藤 忠司, 吉田 瑶子, 藤村 吉博, Fan Xinping, 宮田 敏行, 濱崎 雄平
    2014 年 26 巻 2 号 p. 285-291
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    近年,病原性大腸菌および肺炎球菌感染を伴わない非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome; aHUS)の半数以上は補体制御因子の障害が原因であると報告され,その病因の違いによる治療反応性や予後に関心が集まっている。我々はHUS の4 歳男児を経験した。児は嘔吐と水様便を伴って発症したものの,軽度の低補体血症がありベロ毒素および病原性大腸菌は検出されなかった。そのため我々はaHUS と判断し,大量血漿輸注および血漿交換を行った。児は血漿治療に反応し,1 か月の経過で回復した。その後の検査により抗CFH 抗体の存在,CFHR1 蛋白の欠損,CFHR1 遺伝子のホモ接合性欠失を証明し,DEAP-HUS の診断に至った。患者は現在,寛解状態を維持しているが,再発に注意し観察を行っている。
  • 駿田 竹紫, 木全 貴久, 北尾 哲也, 山内 壮作, 辻 章志, 岩本 幸久, 金子 一成
    2014 年 26 巻 2 号 p. 292-296
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    Henoch-Schönlein 紫斑病(Henoch-Schönlein purpura; HSP)は50~70%に消化器症状(腹痛,血便)を合併するが,腹痛に対してはステロイドが著効する。今回筆者らは,遷延するHSP の経過中に,両側尿管結石による急性腎後性腎障害を呈した小児例を経験した。本症例では,HSP による難治性の腹痛で,ステロイドの減量および中止が困難であったためその副作用である骨粗鬆症の予防目的にビタミンD 製剤を開始した。その結果,高カルシウム尿症を生じ,両側尿管にリン酸カルシウム結石が陥頓し,急性腎後性腎障害をきたしたものと思われた。加えて,HSP による血管炎のために両側尿管炎を呈し,尿管狭窄を生じたことも,結石陥頓の誘因となったものと考えられた。以上から,HSP において,ステロイド製剤投与中はビタミンD 製剤などの結石形成促進因子の使用には慎重であるべきと思われた。
  • 濵平 陽史, 稲熊 洋祐, 堀之内 智子, 五百蔵 智明, 久呉 真章, 石森 真吾, 貝藤 裕史, 飯島 一誠
    2014 年 26 巻 2 号 p. 297-303
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    Dent 病は低分子蛋白尿,高カルシウム尿症,腎石灰化/腎結石を特徴とし,成人期には腎不全に至る可能性があるX 染色体性遺伝疾患であり,主たる原因はクロライドチャンネル5(ClC-5)遺伝子(CLCN5)の異常による。英国からの報告例ではくる病は多いとされるが,日本ではくる病を呈するものは少ないとされ,報告例も少ない。また治療・管理については確立されたものはない。症例は2 歳4 か月の男児で,兄がDent 病であったため,1 歳時に尿検査を施行し,尿β2 ミクログロブリンの異常高値,腎エコーにて両側腎に微細石灰化を認め,Dent 病疑いとして経過観察していた。2 歳4 か月時にO 脚を認めたため,膝関節X 線を撮影したところ,くる病変化を認めた。血液検査にてALP の高値,低リン血症を認めた。遺伝子検査にてCLCN5 遺伝子のnonsense mutation を認めDent 病に合併したくる病と診断,リン製剤の内服を開始したところ,骨変形は改善した。Dent 病ではくる病の発症に注意して診療に当たる必要があり,我が国のDent病患者でのくる病合併の頻度の把握と管理指針の確立が必要であると考えられた。
海外論文紹介
  • S Sethi, FC Fervenza, Y Zhang, L Zand, NC Meyer, N Borsa, SH Nasr, RJ ...
    2014 年 26 巻 2 号 p. 305-306
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/14
    ジャーナル フリー
    感染後糸球体腎炎は感染に引き続き生じる腎疾患で,ほとんどの場合は感染の終息に伴い,数日から数週間で腎機能が完全に回復する。しかし少数の患者においては回復に時間がかかり,持続性の血尿・蛋白尿,あるいは末期腎不全に進行することがある。また一方,持続性の血尿・蛋白尿を示す患者の中に,先行感染が不明な場合でも腎生検で感染後糸球体腎炎像を示すことがある。このような「非典型的」感染後糸球体腎炎を引き起こす機序は,現時点では不明である。本論文で著者らは非典型的感染後糸球体腎炎患者のほとんどが,補体第二経路の制御異常を持つことを明らかにした。補体制御異常として,補体制御蛋白の遺伝子変異とC3 変換酵素に対する抗体(C3 nephritic factors; C3Nef)のいずれか,あるいは両方を認めた。その結果として,感染が終息した後も補体第二経路の活性化が継続し,持続的な糸球体への補体の沈着が炎症および非典型的感染後糸球体腎炎を引き起こすものと考えられた。
各地方会の二次抄録
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