日本小児腎臓病学会雑誌
Online ISSN : 1881-3933
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9 巻, 1 号
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優秀賞
—原著—
  • 川村 研, 本田 雅敬, 上山 泰淳, 宇野 拓, 田中 百合子
    1996 年 9 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     小児末期腎不全患児の腹膜透析療法において,サイクラーを用いたAPDが導入され,医学的,社会的に患者および保護者のQOLは向上している。しかし一方で,NPDへ移行した特に無尿の患児では口渇感や高血圧を訴える患児が多い。さらにこれらの患児は高Na血症を合併していることが多いため,今回NPDにおけるNa除去能と,血圧の変動についてCAPDと比較検討した。対象はCAPDからNPDに移行した無尿の患児6例(2.3~13.9歳) で,NPDの処方はいずれも1サイクル60分の10サイクルである。それぞれの条件での血圧の変動,Na除去量について比較検討した。血圧はNPDへ移行後全例で上昇し有意差を認めた。(CAPD: 111.4±l0.7mmHgvs. NPD: 125.3±15.2mmHg) 透析液中Na濃度および除水量から求めた1日Na除去量は,NPDで有意に低値であった。(CAPD: 6.1±2.1g/ dayvs. NPD: 1.1±0.7g/ day) また透析液中のNa濃度はNPDで有意に低値であった。これらのことから,貯留時間が短く除水量の多いNPDでは1日Na除去量が少なくなり,高Na血症を来してその結果口渇感が増し高血圧を来すものと考えられた。
  • 松永 明, 服部 元史, 甲能 深雪, 川口 洋, 伊藤 克己
    1996 年 9 巻 1 号 p. 5-10
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     膜性増殖性糸球体腎炎 (MPGN) に特徴的な組織病変がfocal,segmentalに認められるfocal MPGN例に対する治療・管理方法については未だ一定の見解は得られていない。本研究では,focal MPGN例に対するステロイド治療の有用性を検討する目的で,小児focal MGPN 5例を対象として,ステロイド治療の効果を尿所見,血清補体価,病理組織所見の点から,またその副作用を主に成長障害の点から検討した。その結果,全例でステロイド治療に伴って尿所見,血清補体価,そして病理組織所見の改善がみられ,一方,成長障害を始めとする重篤な副作用は認められなかった。以上の結果より,小児期focal MGPN例に対するステロイド治療は有用であると考えられた。
—総説—
  • 香坂 隆夫, 池谷 健, 小林 登
    1996 年 9 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     膜性増殖性腎炎 (MPGN) において低補体血漿を伴うことはよく知られている。また低補体血漿を伴うpartial lipodystrophyに膜性増殖性腎炎が発症することより低補体血漿がその発症の一要因として重要視されている。
     母から子に遺伝する低C3血症については,Westらが2家系を報告したのに始まり1)2)H因子に対して結合を異にするC3異常症と,腎生検組織所見によってMPGN typeIIの所見をあわせて示すことより,腎炎の発症機序と低補体の関連について興味がもたれた。我々はC3の機能異常を伴う例について,遺伝子学的検索を行い,C3のI因子の作用部位に異常を示す症例について報告した3)。現在まで家族性の低C3血症を示すその他の例についてもI因子,H因子,F,Sの移動度を決定する部位についての遺伝子学的検討を行った。しかしながらI因子,H因子の部位の遺伝子配列に関しては異常は認められず,またF,Sの部位についてはすべてSであり,特にcontrolとの遺伝子学的な差異を見い出しえなかった。これらの患者にしばしばC3NeF活性や,補体のbreakdown productsの存在が認められることより,補体の活性化による低下という面からの検討を行った。
     Spitzerらは,C3NeFについてはidiotype検体の出現があり,これがC3NeFは産生亢進,抑制を認節している可能性について報告4)5)している。このような観点から家族性低C3血症について検討し,idiotype検体の問題点について患者および母親について検索したのでその結果について報告する。
原著
  • —側副血行路の描写と腎静脈血流について—
    武市 幸子, 美濃和 茂, 矢崎 雄彦, 新家 雪彦, 岩田 光良, 河口 信治, 千原 克, 古賀 佑彦, 高橋 正樹, 大橋 一郎
    1996 年 9 巻 1 号 p. 17-20
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     非糸球体性血尿の原因として注目されているNutcracker現象における超音波ドップラー法の有用性について検討した。
     血尿を主訴とし,腹部超音波検査および腎血管造影でNutcracker現象と診断した5症例に対し,腹部超音波ドップラー法を施行し,腎静脈の血流動態を検索した。その結果,全例で腎静脈血流速度では左側が右側に比し減少し,腎静脈血流量も同様に左側で右側に比し低下した。これらは,側副血行部への血流量の増加のためと考えられ,Nutcracker現象の血流動態を反映していると考えられた。
     Nutcracker現象において,超音波ドップラー法は侵襲がなく外来でも施行でき,血管造影とほぼ同様の血流動態を得ることが可能で,本疾患の診断において有用であると思われた。
  • 吉川 賢二, 余田 篤, 田辺 卓也, 川崎 康寛, 小國 龍也, 山城 国暉, 地嵜 剛史, 鹿毛 政義, 美濃 真
    1996 年 9 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     HBウイルスに合併する腎障害はよく知られているが,最近HCウイルス感染に合併する腎障害の報告が散見されるようになってきた。今回我々は単心室根治術後に輸血後肝炎を発症,HC抗体陽性となった患児を経験し慢性活動性肝炎と診断した。患児は術前の学校検尿等においても尿所見の異常を認めなかったが,肝炎罹患後に蛋白尿を認めるようになったため腎生検を施行し,膜性腎症 (Membranous glomerulonephritis: MGN)と診断した。肝炎罹患後に発症したことと組織所見よりHCウイルスが腎症発症に関連があることが示唆された。本症例にインターフェロン-αの治療を施行,HCウイルス量の陰性化は見られなかったが,蛋白尿の改善と蛍光抗体において毛細血管基底膜に沿って認められたIgGの沈着の改善を認めた。
  • 藤原 史博, 高屋 和志, 大野 邦彦, 和田 紀子, 木原 美奈子, 秋本 和美, 小谷 功, 川勝 秀一, 沢田 淳
    1996 年 9 巻 1 号 p. 27-31
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     尿所見に乏しく,不明熱の精査としてのエコー,CT,MRI等の総合的な画像診断にて,急性巣状細菌性腎炎acute focal bacterial nephritis (AFBN) と診断し得た1カ月男児例 (本邦最年少報告例) を経験したので報告した。症例は,血液検査上強い炎症反応を認めたが,尿所見に異常を認めず,不明熱として精査入院。左腎の病巣は腹部超音波検査にて,低エコーレベルの腫瘤,造影CT上は塊状の低吸収域,MRIのT2強調画像では,境界不明瞭なhigh signal intensityとして描出され,AFBNと診断された。また,これまでの本邦報告例の診断過程の検討から,18例中8例 (44%) が初診時尿所見に異常を認めず,尿路感染症としては非定型的な経過をたどることも多いことが明らかとなった。不明熱に遭遇した場合は,尿所見に異常がなくとも本症も念頭において,MRIを含めた総合的な画像診断を積極的かつ経時的に施行する必要があると思われた。
  • 伊藤 滋
    1996 年 9 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     小児期の特発性ネフローゼ症候群の90%はステロイド反応性であるが,その大半は再発し,一部は頻回再発やステロイド依存性の経過をたどる。ネフローゼ症候群の再発の原因は明確になっていないが,従来から行われている小児腎国際研究班による方法 (国際法) でステロイドを大量投与し短期間で中止することが再発の誘因となるとの指摘もある。今回昭和63年1月から平成6年6月までに発症し松山赤十字病院小児科で治療したステロイド反応性ネフローゼ症候群31例 (発症年齢1歳1カ月~13歳7カ月,平均6.7歳) に対し,ステロイド大量投与後,計9カ月間で漸減中止する長期漸減法による治療を行った。観察期間 (1年~6年11カ月,平均3.8年) 中12例が再発せず,寛解後6カ月以内に再発したのは10例で,国際法に比し再発率に有意な差はなかったが早期の再発例は有意に少なく,ステロイドによる副作用は一過性で重篤なものはなかった。ステロイド長期漸減法は小児期ネフローゼ症候群の初期治療法として有用と考えられた。
  • 清水 次子, 舘石 捷二, 北條 誠, 石割 康平, 山崎 裕通, 野村 康之
    1996 年 9 巻 1 号 p. 39-42
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     溶血性尿毒症症候群 (hemolytic uremic syndrome: HUS) の典型例7例において,発症早期からの尿中への溶質排泄動態を検討した。7例中6例で腎不全発見時からナトリウムの排泄分画 (FENa) は高値を,クレアチニンの尿/血清比 (Cr-U/S) は低値を示した。一方,間質・尿細管病変を伴わない腎炎による急性腎不全例ではFENaは低値を,Cr-U/Sは高値を示した。以上からHUS典型例では腎血管障害や糸球体障害と同時に早期より尿細管・間質病変が起こっていると考えられたが,例外的な症例も1例認められた。
  • 小松 博史, 天谷 英理子, 清水 芳隆, 高田 洋, 中原 哲朗, 岩崎 康
    1996 年 9 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     経カテーテル動脈塞栓術 (TAE) により,保存的治療に成功した仮性動脈瘤をともなった腎裂傷の1小児例を報告した。患児は10歳の女児で,一輪車で転倒し腹部を打撲し,腹痛・嘔吐を主訴に当科へ入院した。腹部CT・腎動脈造影では,右腎前下内側部が断裂し,同部から前下方にかけ一部傍腎腔に及ぶ巨大血腫・尿腫を認め,その断裂腎組織への腎動脈分枝途中に仮性動脈瘤の形成を認めた。また,腎盂・腎杯の損傷も合併していた。仮性動脈瘤部位へのコイル塞栓およびその末梢へのゼラチンスポンジでの塞栓術を施行し,約4カ月後には血腫ないし尿腫の縮小を認めた。尿路系もほぼ完全に修復し,高血圧などの合併症も認めていない。腎は腹部臓器の中では最も外傷を受けやすく,特に小児では筋肉組織・後腹膜による保護が弱いことや,位置が低く胸郭の囲みが十分でないことからとくに注意を要する。その治療に関しては,軽傷例では保存的に,重症例では外科的に治療されるが,腎裂傷では治療の選択は意見が分かれている。TAEは,主な出血源が特定できる,尿路系の保存的修復が期待できる,あるいは仮性動脈瘤の形成を認める場合などに有効な治療法と考えられた。
     腎は解剖学的には後腹膜腔内にあり,筋膜や腎周囲脂肪組織に包まれ,下位肋骨,脊椎骨,腰筋群,腹腔内諸臓器に保護され,比較的外傷は受けにくい位置に存在する臓器である。しかし,腎動静脈によって腎茎部で固定されているため減速型の損傷に弱く,また,小児では,(1) 成人に比べ腹部における腎臓の容積が相対的に大きいこと,(2) 腎周囲の脂肪組織,腹壁の筋層や後腹膜が未発達で保護が弱いこと,(3) 腎の位置が比較的低く胸郭の囲みが十分でないこと,(4) 胎生期の分葉構造がしばしば残存しているため,分葉に一致して裂けやすいこと,などから外傷を受けやすく,特に異常腎は外傷を受けやすい1)~6)。その治療に関しては,軽傷例では保存的に,腎破裂・腎茎部損傷などの重症例では外科的に治療されることが多いが,腎断裂症では保存的治療か外科的治療かの選択は意見が分かれている5)~9)12)。今回,我々は転倒事故による腎裂傷に対して,経カテーテル動脈塞栓術 (Transcatheter arterial embolization,TAE) により,保存的治療に成功した1例を経験したので文献的考察を加え,報告する。
  • 倉澤 剛太郎, 河村 研一, 五味渕 一三, 出口 靖, 長谷川 頼康, 永倉 俊和, 岡部 武史, 岩室 紳也, 古田 昭, 波多野 孝史 ...
    1996 年 9 巻 1 号 p. 49-52
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     3歳,女児。発熱,下腹部痛を主訴に入院。入院時,肉眼的混濁尿を認めた。画像検査にて異所性尿管瘤,重複尿管と診断した。しかし,入院当初,施行した経静脈性尿管造影法 (IVP),超音波検査にては,膀胱内に突出する尿管瘤を認めなかった。再度施行した超音波検査において,側腹部を圧迫し,水尿管内に貯留した尿を膀胱部に圧排し尿管瘤の内圧を高めることにより,膀胱内に尿管瘤を描出することができた。本症の診断については,超音波検査はIVPにとって変わるべきであるとする報告もある。われわれも,IVPのみにては診断にいたる情報は得られず,超波検査を最初に併用すべきであった。その際,われわれが行った側腹部圧迫による異所性尿管瘤の描出は非常に有効であった。膀胱圧迫法による膀胱尿管逆流の診断と同様,水尿管に対する側腹部圧迫法も,異所性尿管瘤の診断において試みるべき手段であると考えられた。
  • &mdash:腎不全回復過程における腎血流速度の検討を加えて—
    辻 祐一郎, 新垣 成子, 高場 恵美, 高柳 隆章, 近岡 弘, 瀧田 誠司, 奥山 和男, 飯倉 洋治
    1996 年 9 巻 1 号 p. 53-59
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     腎後性の急性腎不全を発症したOpitz症候群の男児を経験した。Opitz症候群は,1965年にOpitzらが報告した眼間開離と尿道下裂を主徴とする疾患である。患児は,両側の高度水腎症が認められ,右腎は膀胱尿管逆流現象 (VUR) V度で,すでに無機能であった。我々が検索した限りでは,同症候群において,腎不全,水腎症の合併の報告は見当たらない。また腎不全回復過程において,経時的に腎血流速度の計測を,機能が残存していた左腎において行った。その結果,腎不全回復過程においてクレアチニンクリアランス (Ccr) と区域動脈,葉間動脈の収縮期最高血流速度との間によい関連が得られた。以上の2点より貴重な症例であり,若干の考察を加えて報告する。
  • —電顕による近位尿細管の微細構造—
    津留 徳, 時枝 啓子, 新居見 和彦, 緒方 博子, 満留 昭久, 竹林 茂夫
    1996 年 9 巻 1 号 p. 61-64
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     MELASの臨床症状の1つとして,腎尿細管障害が記載されている。病因・病態が解明されつつある本症で,ミトコンドリアに富む腎組織,ことに尿細管に病変が生じることは,十分に予測されることである。しかし,細胞レベルの異常が臨床症状として発現してくる臓器レベルの異常に,どのように反映されるかは不明である。
     今回,末期腎不全を呈した本症の1女児例で腎生検を施行した。光顕では,末期腎不全の病変で特異的な所見はみられなかった。電顕では,近位尿細管細胞でのミトコンドリアの数の増加と腫大を認めた。メサンギウム領域でも,同じくミトコンドリアの腫大が観察された。MELASにおける近位尿細管のミトコンドリア異常の報告は少なく,貴重な症例であると思われる。
  • —特に低補体血症遷延例についての検討
    西田 吉伸, 武田 修明, 河村 一郎, 佐々木 博, 田中 陸男
    1996 年 9 巻 1 号 p. 65-69
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     過去20年間に当科で治療した溶連菌感染後急性糸球体腎炎の臨床像を検討した。診断は,急性腎炎症状に加え病初期の一過性の低補体血症,溶連菌関連抗体の上昇に重点をおいた。低補体血症が8週以後も持続したものを低補体血症遷延例とすると14例で,全体の16%に該当した。低補体血症遷延例では非遷延例に比べ発症時の血清C3値が有意に低く,発症後3カ月の時点で血尿が続いているものが有意に多かった。浮腫,高血圧,蛋白尿の持続期間には両群間で差は認めなかった。発症後1年では14例すべてで血尿は消失していた。うち2例では,先行感染が不明なこと,血尿が持続することなどから診断確定のために腎生検を施行した。これらではhump様depositsの遷延が認められた。PSAGNは予後良好な疾患と考えられるが,持続する低補体血症がある場合には膜性増殖性腎炎などとの鑑別のために腎生検を考慮する必要がある。
  • —糸球体硬化機序に関する仮説の提唱—
    原 正則, 柳原 俊雄, 高田 恒郎, 山本 格, 川崎 克俊, 木原 達
    1996 年 9 巻 1 号 p. 71-77
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     糸球体上皮細胞 (GEC) は非常に機能分化した細胞であるためにCytokinesisを伴う細胞増殖を起こしにくいとされている。また糸球体硬化につながる管外性病変の形成に重要な役割を演じていると考えられている。これらのことより我々は“尿中に剥離脱落したGECを算定すれば管外性病変や硬化性病変の進行を予測できる”という仮説を設定した。本研究ではこの仮説の妥当性を実験的半月体形成腎炎および小児期IgA腎症で検討した。ラットの腎不全に陥るような100%半月体形成腎炎では多数のGECが尿中に出現していた。経過中の全GEC数を算定すると60万個にもなり,これはラットの糸球体の総GEC数1,000万個の約6%に相当した。小児期IgA腎症患児では種々の程度に尿中にGECが出現していた。このうち2症例で経時的腎生検施行期間中の尿中GEC数を算定した。症例1では1,350万個のGECが脱落し,これは人の糸球体の総GEC数6億の約2%に相当した。さらにこの症例では管外性病変が進行しており,尿中GEC数より病変の進行を予測できた。一方,管外性病変の見られなかった症例2は尿中剥離数も少数であった。以上,小児期IgA腎症例,実験腎炎における尿中に剥離脱落したGECを算定し,管外性病変形成および進行についての我々の仮説の妥当性を検討した結果,経時的に尿中剥離GEC数を算定すれば糸球体硬化を予知できる可能性があるという結論に達した。
  • 奥川 敬祥, 早川 広史, 大久保 総一郎, 冠木 直之, 富沢 修一, 内山 聖
    1996 年 9 巻 1 号 p. 79-84
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     ヘパリンを併用した抗凝固・ステロイド療法を施行した小児IgA腎症症例49名,平均年齢12.7±2.8歳を対象とした。対象を治療後尿蛋白消失群と治療後尿所見持続群の2群に分類し,それぞれの臨床的,組織学的特徴を後方視的に検討した。病理組織は,急性期と慢性期の2つに分け,それぞれを管内,管外,問質性病変の3つに分けてスコア化して評価した。結果,急性期スコアが高くても発症1年以内であれば治療効果が期待できることを確認した。また,尿所見持続群では,発見から腎生検までの期間と組織スコアとの間に有意な相関を認めた。時間経過と共に組織スコアが増悪することから,早期診断,早期治療の重要性を確認した。治療前後で再生検した14症例では,急性期スコアの有意な改善を認めた。使用したIgA腎症組織スコアは,治療選択基準,治療方法の有効性を比較検討するのに有用であり,予後の推定にも有用であると思われた。
  • —コサイナ一法による分析—
    奥川 敬祥, 富沢 修一, 西澤 和倫, 早川 広史, 冠木 直之, 内山 聖
    1996 年 9 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     腎機能正常な腎疾患患児23名と正常血圧児11名を対象とし,携帯型自動血圧計 (ABPM-630) により血圧日内変動を測定し,コサイナー法により分析した。対象をステロイド剤服用の有無により分類し,治療の影響を対照群と比較検討した。ステロイド治療群を含む多くの者が,有意な日内変動を示した。ステロイド治療群,またステロイド内服治療前後1カ月測定群でも有意な収縮期血圧MESORの上昇を認めた。Amplitudeは,有意な変化を認めなかった。Acrophaseは各群間で明らかな差を認めず,ステロイド治療による日内リズムの消失,逆転はほとんど認めなかった。また,SLE症例で急性期と安定期に複数回血圧測定を施行したところ,血圧と心拍のリズム回復時期に解離を認め,血圧にも心拍とは別の内因性リズムが存在することが示唆された。
  • 荒井 美和子, 稲場 進, 酒井 由紀, 黒瀬 京子, 石原 俊二, 山本 習子, 松倉 裕喜, 高井 里香, 宮脇 利男
    1996 年 9 巻 1 号 p. 91-95
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     胎児超音波検査により発見された腎尿路奇形13例において,出生後早期の超音波所見により高度変化群6例,軽度変化群7例に分類し臨床経過を検討した。高度変化群では利尿レノグラムによる排泄能検査で閉塞パターンを呈し,出生後1年以内に腎盂形成術,膀胱尿管新吻合術等の処置を必要とした。軽度変化群は,VUR1例,孤立性腎嚢胞1例,腎盂拡張のみの症例が5例であった。利尿レノグラムではVUR症例以外は正常もレくは排泄遅延パターンで,腎盂拡張のみの5例では経過観察中に超音波所見の改善または正常化がみられた。腎尿路奇形では超音波検査は予後の判定も可能と考えられ,また非侵襲的に繰り返し検査可能であることから,治療方針決定および経過観察上有用である。
  • 黒瀬 京子, 稲場 進, 荒井 美和子, 酒井 由紀, 石原 俊二, 高井 里香, 山本 習子, 松倉 裕喜, 宮脇 利男
    1996 年 9 巻 1 号 p. 97-101
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     小児の尿185検体において,検尿の各過程を可能な限り定量して行い,試験紙法による尿潜血反応と,鏡検法による尿沈渣中の赤血球数との関係について検討した。
     尿中赤血球数は,尿潜血(-)の検体では平均0.27±0.37個/HPFと低値であったが,(±)以上では検体によるばらつきが大きかった。両法の不一致に影響を与える因子については,尿潜血が同程度でも,尿比重や尿浸透圧の低い検体において尿中赤血球数が低値である傾向が認められた。尿比重や尿浸透圧は,赤血球の溶血しやすさなどに関与し,両法の不一致に関係していると推測された。
     スクリーニング目的の一次検尿においては試験紙法単独でも有用であるが,医療機関などで血尿の正確な評価が要求される際には,手技を統一しても試験紙法または鏡検法単独では限界があり,尿比重や尿浸透圧も含め総合評価すべきと思われた。
  • —腎生検例での検討を中心に—
    林 篤, 岡田 晋一, 金田 朋治, 佐々木 佳裕, M. A. サマド, 宇都宮 靖, 林原 博, 岡空 輝夫, 白木 和夫, 笠置 綱清 ...
    1996 年 9 巻 1 号 p. 103-106
    発行日: 1996/04/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     1983年度から1992年度の10年間における鳥取県米子市の学校検尿の実態についてまとめた。特に腎生検を必要とした慢性腎疾患例については,同期間内に学校検尿以外で発見された症例も含めて調査し,その腎生検所見,発症様式,予後等について比較検討した。鳥取県米子市においては特に事後処置を徹底させることにより学校検尿を確実に行った。10年間に延べ約17万人の小,中学生が学校検尿を受検したが,そのうち18例が慢性腎炎として腎生検を施行された。同時期に,学校検尿以外で発見され腎生検を必要とした症例は13例認められたが,急性発症が多く予後も比較的良好で,学校検尿で発見できなかったために予後に影響を与えたと思われる慢性腎疾患例は見いだせなかった。学校検尿はその事後処置を含め確実に行えば,慢性腎炎の早期発見に有効であると考えられた。
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