レーザー照射によるエナメル質表面の性状については, 従来よりNd: YAGレーザーによるものやCO2レーザーによる報告は見られるが, その効果については明らかにされていない.私は, 保存学的立場より, Er: YAGレーザーをエナメル質面に照射し, エッチング効果が生じるかどうかについて検討を行った.歯科領域にレーザーを使用する場合, 使用するレーザー光の波長によって吸収係数が異なるため, また光の到達深度も異なってくる.この場合, あらかじめ正確に歯質の吸収係数を測定し, 到達深度を見積もっておくことが必要であり, 適切なレーザーを選ぶに当たって, 臨床応用には重要なことの一つである.熊崎 らは, 第1回レーザー歯学研究会において, 歯質の光吸収係数を詳しく検討した結果を報告し, 日本レーザー歯学会誌第3巻第1号 (1992) に発表した.その結果, エナメル質, 象牙質の吸収係数は3μm前後と10μm前後に大きな吸収を認め, 使用するレーザーの選択に当たっては, この2つの波長を有するレーザーが有効と考えられる.
CO2レーザーについては, 日本歯科保存学会において熊崎らが既に発表を行ったので, 今回は3μm前後の波長を有するEr: YAGレーザーについてエナメル質の表面処理効果 (エッチング効果) の検討を行った.
実験方法: 牛下顎前歯エナメル質にEr: YAGレーザーを9段階のパワーで照射を行い, それぞれの段階において歯質表面処理後にレジン充填を施し, 引張強さを測定し, エネルギー密度と引張強さとの関係について攻究した.
さらに照射レーザービームの評価についてはSpiricon Type LMP32×32-81 (スピリコン社製) レーザービーム評価システムを用いて行った.
さらに各々の照射条件におけるSEM像との対比において最適条件を決定し, 臨床応用に一段と近づいたものと考えている.
実験結果: Er: YAGレーザーによる歯質表面処理効果 (エッチング効果) が生じることが, 引っ張り試験およびSEM像により明らかになった.牛歯エナメル質エッチングによる引張強さでは, エネルギー密度8.5J/cm2で139.7kg/cm2を示し, 酸エッチングの118.9kg/cm2より強い引張強さを示した.このことは明らかに表面にエッチング様変化が変こったものと考えられる.
また, SEM像においてもエッチングによる像によく似た状態が見られる.レーザーによる表面処理効果の発生が考えられた.
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