日本補綴歯科学会雑誌
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51 巻, 2 号
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  • 斎藤 純一
    2007 年51 巻2 号 p. 183-189
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    従来より欠損歯列の診断は病態の把握という観点よりは, 補綴治療の指針として行われてきた傾向があった. にもかかわらずそれらの診断から明確な治療方針が導きだされることは少なく, 欠損という障害の程度や安定度を測る尺度として用いられてきたように思われる. このことは歯科補綴自体が欠損という障害のリハビリテーションとしての大きな役割を持つことの証でもあった. 一方で欠損を生み出す疾病の診断はう蝕や歯周病の診断に置き換わってしまった傾向も否めない. しかし近年臨床家のなかから, う蝕と歯周病だけでは解明できない症例を共通に認識するようになり, 今では「咬合力」とか「力」という言葉で原因論に加える見方が広まっている. これらの言葉の定義にはまだ統一した見解はないが, この第三の「力」は病因論を再検討するきっかけになっている.
    これらの病因を時間軸の中でみた場合, う蝕や歯周病はその時々の進行性や年齢からくる一般的な傾向など, いわゆる病態のベクトルに重きが置かれてきた. しかし咬合習癖や力といった病態には経年的に蓄積された総量や器質的な欠陥さえ考慮する必要性もでてきた. また外来の細菌感染を防ぐことによるう蝕や歯周病のリスク管理と, 個体に内在する神経筋機構のリスク管理ではまったく異なる次元のものでもある. 当然加齢や全身状態との関わりも異なり, 不調和の蓄積期間が崩壊スピードを決定する可能性もでてきた. いわゆる難症例といわれてきた症例は静的な欠損形態の診断からよりは, 自己制御できない過剰な咬合力や過剰な咬合満足感を診査することで深く理解できることが多くなったように思う. 今回は臨床例を通じて補綴治療の中に咬合力の診断の必要性を提案したい.
  • 鈴木 尚
    2007 年51 巻2 号 p. 190-200
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    欠損補綴を考えるとき欠損が何に起因するかを探ることは, 診断の最重要項目である.
    歯科の二大疾患は齲蝕と歯周病であり, これら二つの要因は歯を侵襲して崩壊させる最大のリスクファクターと位置づけられてきた. 当然のことながら欠損の成立は歯が失われることで起こる. 喪失の原因は患者それぞれに多様であるが, 既往歴から齲蝕によるものか歯周病によるものかなど, 過去の疾病傾向を把握しておくことは, 治療後の罹患傾向を推測できる点で有意義なことである. しかし多くの臨床例を経年的に観察していると, 喪失理由をこれらの疾患だけに限定するのは早計であると思われる. 一方「噛む」という行為において大きな力がだせるほど丈夫で健全な歯であるとする「健康感」が歯科医師にも患者にも定着している. つまり歯は大きな咬合力に耐えられるものだと誤解されてきた. 欠損補綴の崩壊が, 支台歯の弱体化や支台歯にかかる負荷の増大, あるいは選択した補綴維持装置の機構的要因に影響されるなど, 経年的な環境変化に加えて強すぎる咬合力やパラファンクションの存在を示唆する現症を多く経験している. このことは歯の喪失原因として「力」という要因を加える必要があるということであり, 力のありようが欠損補綴にとって大きなリスクファクターになっていると考えられる. 欠損歯列の生起にも, その後の欠損補綴の寿命にも大きく関わっていると考えられる力の臨床症状は齲蝕や歯周病のような細菌感染とは異なるために, 全く違った病態像として読み解かなくてはならないのである.
  • 武田 孝之
    2007 年51 巻2 号 p. 201-205
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    初診時の欠損歯列, 咬合の崩壊度が同じであっても治療後にさまざまな変化を来たしていることは多くの臨床例で経験済みである. その背景から欠損歯列は慢性疾患タイプの病態を示し, 時間軸という要素が非常に重要な意味を有することが浮かび上がってくる. 時間軸とはスピード, すなわち, 経時的な病態変化を意味する. 患者さんの抱えているリスクの種類大きさは多岐に渡り, さらにコントロールしやすいリスクと難しいものがある. 代表的なリスクファクターとして欠損歯列のレベルと崩壊原因があるが, これまでの義歯では複雑に要素が絡み明確にしづらかった. そこで, 従来法では変えることのできなかった欠損歯列の咬合支持レベル, 歯列内配置に対してインプラントを用いることによって擬似的に難易度を改善し経過観察を行った. その結果, 重要度が大きく, かつ, コントロールが難しいリスクとして崩壊原因の一つである過大な力が考えられた. 崩壊原因としては細菌感染を主体とした齲蝕, 歯周病, そして荷重要素としての過大な力, さらに補綴設計, 技術などがある. 宿主側に問題の主体がある歯周病を除き細菌感染は患者と歯科衛生士の協力によりコントロールが徐々につき始めている. また, 設計, 技術も最近は新素材などの臨床応用が進み問題は小さくなりつつある. しかし, 依然としてコントロールが難しいにも関わらず影響度の大きな力の要素は意識しながらも対応法に乏しい.
    実際にはさまざまな要素が複合的に絡んで崩壊が進行するが, リスクを予見し, 回避する補綴治療を行うことが機能, 形態回復のみならず, 二次予防効果を挙げるために重要である.
  • 矢谷 博文
    2007 年51 巻2 号 p. 206-221
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    目的: 補綴装置が失敗にいたるリスクファクターには何があるか, またそれらのリスクの強さは比較できるかという問いに対する答えを系統的文献レビューにより明らかにすること.
    方法: 歯冠補綴装置および部分床義歯の生存率クラウンブリッジの再製および支台歯喪失のリスクファクターについて, 適切なMeSHの選択と包含基準の設定を行ったうえで, PubMedからコンピュータオンライン検索を行った. 検索された文献の抄録を精読してさらに文献を絞り込み, レビューを行った.
    結果: 得られた結果は以下のとおりである: 1) クラウンブリッジは, 装着後10年以上経過すると合併症が増加して非生存率が1割を超え始め, 15年で約1/3, 20年で, 約1/2が機能しなくなる, 2) 部分床義歯の生存率はクラウンブリッジのそれよりも低いことは明らかで, 装着後5年を経過すると非生存率は2割を超え, 8~10年経過後には生存率が約1/2程度に低下する, 3) 補綴装置失敗のリスクファクターには, ホストに関するファクター, 細菌感染に関連したファクター, 荷重に関連したファクター, および技術・設計に関連したファクターがあり, ファクター相互に深く関連し合っている, 4) 多くの場合リスクファクターの複合により補綴装置は失敗に終わり, 再製あるいは支台歯喪失を余儀なくされる.
    結論: 補綴装置の設計と装着に際しては, 患者個々にリスクの重みづけを行い, リスクを総合的, 定量的に評価し, 評価に基づいて適切な設計, 施術を行うことが補綴装置の寿命の延長につながる.
  • 築山 能大
    2007 年51 巻2 号 p. 222
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
  • 加藤 一誠
    2007 年51 巻2 号 p. 223-230
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    部分床義歯の印象採得で成功するには, 残存歯などの変形しない硬い部分と顎堤粘膜などの変形する軟かい部分への対応の違いに配慮することが重要である. 硬い部分の鋭角な形態やアンダーカットは印象材を損傷, 変形させる. 逆に, 軟かい部分は印象材の圧力やフローなどで変形させられる. 従来の個人トレーによる機能印象法は優れた方法であるが両者を一度で印象採得することにより技術的に困難であった. このような問題に対応するために硬い部分と軟かい部分に印象を分けて行う印象採得法は従来からあるがここで改めて提案する.
    〈硬い部分の印象採得〉印象用材料に良いものが多く市販されているが材料の性能に頼るあまり, 印象のための基本的な前処置が疎かになってきているのではないかと感じられる. 基本に戻り, 正確な印象のための残存歯と歯列に対する前処置に関するスキルについて述べる.
    〈軟かい部分の印象採得〉軟かい部分の印象法としての模型変換法は優れた術式であるが技工過程が複雑で, 少数歯残存症例では適用しにくく, 時間もかかる. 本稿で紹介するのは咬合調整まで済んだ完成義歯の床下粘膜と辺縁部分に流動性の印象用ワックスを用いて修正印象を行う方法である. 利点として義歯の装着前に患者自身の機能運動を義歯床形態に反映できること, 患者自身で義歯の完成後を実感できること, また, 術者にとっては装着時の調整の必要がほとんど無くなることが上げられる.
  • 河野 文昭
    2007 年51 巻2 号 p. 231-240
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    義歯治療の目的は, 患者の機能の回復と審美性の改善残存組織の保全であり, 咬合採得は, これらを達成するための重要な診療ステップである. 部分歯牙欠損症例では, 残存歯に傾斜, 移動, 挺出, 動揺, 咬耗などが認められることが多く, 咬合平面の決定と上下顎顎間関係を記録する咬合採得の操作では, これら残存歯などの残存組織に対する配慮が必要となり, 無歯顎に比べて考慮すべき事項が多い.
    そのため, 誤りの少ない咬合採得を行うためには, 部分歯牙欠損症例の特徴を理解し, 義歯の印象, 義歯設計に対する知識だけでなく, 咬合に対する知識を整理し, 身につけておくことが重要である. また, 診療室では, いくつかの咬合採得の術式を併用しながら, 一つ一つのステップを確実に行い, チェックすることが大切である. 特に, 咬合が不安定な場合や採得した下顎位に自信がない場合には, 迷わずチェックバイト法やゴシックアーチ法によって確認することも大切である.
    そこで, 今回は咬合採得時に陥りやすい誤りを整理し, 咬合床の設計と咬合採得の基本的なスキルを中心に解説した.
  • 山森 徹雄
    2007 年51 巻2 号 p. 241-249
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    部分床義歯の設計原則として最初に挙げられるのは, 「義歯の動揺の最小化」である. 本論文では, 遊離端義歯を対象として「義歯の動揺の最小化」という観点から部分床義歯の設計に求められる項目を整理した.
    機能時における義歯の動揺に深い関わりを持つ顎堤粘膜の被圧変位量を抑制するためには, 筋圧形成による義歯床外形の決定と個人トレーによる加圧印象, 近心レストの設置が有効である. 直接支台装置の選択では, Akersクラスプ, RPIクラスプ, 双子鉤の三者間で比較すると双子鉤が最も優れており, 欠損側ガイドプレートの追加やブレーシングアームの板状化により把持作用の向上をはかることで, 義歯の動揺をさらに抑制できる. また支台歯の変位は顎堤の近遠心的傾斜による影響を受け, 顎堤が遠心傾斜している場合に支台歯を遠心方向に変位させやすいことが報告されており, その抑制のためには, 義歯床でレトロモラーパッドを被覆することと, 間接支台装置の設定が有効であることが示されている.
    患者が部分床義歯に満足するためには, 機能回復に優れ, その状態を長く持続できることが求められる.
    より適切な部分床義歯の設計のため, さらなる臨床的, 実験的データの蓄積が望まれる.
  • 松井 理恵, 河野 正司, 五十嵐 直子, 山田 一穂
    2007 年51 巻2 号 p. 250-259
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    目的: 正常咬合者のみならず不正咬合者にも, 開閉口運動に協調した頭部運動が認められている. ところで骨格性下顎前突症例では, 開口運動の様相が正常咬合者と異なることから, 頭部運動にどのような影響を与えているものか, 興味がもたれる. そこで, 正常咬合者および骨格性下顎前突症例における食物摂取時の開口運動と頭部運動を観察し, さらに, 頭部運動の存在意義についても明らかにすることを目的とした.
    方法: 被験者は顎口腔機能に異常を認めない骨格性下顎前突症患者6名 (III級群) と, 健常な個性正常咬合者10名とした. 6自由度顎運動測定装置を用い, 食物摂取時の開口量, 頭部運動量, 下顎頭移動量, 下顎の回転角について分析を行った.
    結果: III級群は, 開口時の下顎頭移動量が正常咬合者群と同様な値を示す被験者 (III級A群) と, それよりも小さな値を示す被験者 (III級B群) とが存在した. この時の頭部運動量は, 前者では, 正常咬合者群とほぼ同様の値を示し, 後者ではそれよりも大きな値を示した. また側方頭部エックス線規格写真より算出される下顎後部スペースは, III級B群では, 正常咬合者群, III級A群より大きな値を示した.
    結論: 下顎頭移動量の小さな症例では, 下顎後部のスペースを使い, 大開口を行っていることが明らかとなった. すなわち, 下顎後部のスペースの大小により, 下顎頭移動量の大きさが決まってくることが示唆された.
  • 河野 真紀子, 佐藤 裕二, 北川 昇, 椎名 美和子, 原 聰
    2007 年51 巻2 号 p. 260-269
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    目的: 超高齢社会を迎えた今, 患者のQOL向上のためには, 効率的で質の高い義歯治療が重要である, そこで, 義歯治療のテクノロジーアセスメントの手法を用いて, そのアウトカムを調査し, 新義歯治療における患者の義歯に対する評価の経時変化と, その原因を明らかにすることを目的とした.
    方法: 上下総義歯を新製した患者35名のアウトカムを検討した. 本研究では, 咀嚼機能・満足度・顎堤の状態をテクノロジーアセスメントとし, そのスコアを算出して用いた. 診査時期を,(1) 新義歯完成前の旧義歯使用時 (2) 新義歯装着後初回調整時 (3) 装着後約1ヶ月の3回とし, その評価の変動を検討した. また, 咀嚼機能評価および満足度評価の評価構成因子を分析・検討した.
    結果: 咀嚼機能評価では, 旧義歯の評価が高いほど新義歯の評価が低下する傾向が示された.満足度評価は, 経時的にスコアが上昇し, 「上顎義歯の適合性」と「下顎義歯の違和感」が満足度評価を左右する因子であることが示された. さらに, 咀嚼機能評価と満足度評価の変動には, 正の相関が示された.
    結論: 新義歯装着前後の患者の義歯に対する評価の経時変化と, その原因が明らかになり, 患者の満足度を高めるためには, 咀嚼機能および上顎義歯の適合性下顎義歯の違和感に重点をおいた治療をすべきであるという臨床的な示唆が得られた.
  • 磁性アタッチメントのくさび状間隙の状態が荷重支持能力に及ぼす影響
    菅原 孝, 佐藤 裕二, 北川 昇, 内田 圭一郎
    2007 年51 巻2 号 p. 270-279
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    目的: 磁性アタッチメントの磁石構造体が傾斜し, キーパーとの間にくさび状間隙を生じた場合には吸引力が低下すると考えられる. さらに, インプラントオーバーデンチャーの回転離脱軸の位置が変化することから, 咬合面外側に咬合力が加わった際には荷重支持能力も低下すると推定される. そこで本研究では, このくさび状間隙の状態が, 荷重支持能力に及ぼす影響を引張試験および三次元幾何学解析を用いて明らかにすることを目的とした.
    方法: くさび状間隙が生じた場合の吸引力を測定するため, アルミ箔を用いて傾斜角度0°から10.0°の間隙を設定し, 磁性アタッチメントの最大引張り強さを測定した. 得られた結果を用いて, 上顎無歯顎模型の両側第一大臼歯, 犬歯相当部にインプラントを4本埋入したと想定し, インプラントオーバーデンチャーの荷重支持能力について三次元幾何学解析を行った.
    結果: 吸引力は, 傾斜角度が増すにつれ減少した. 0°~1.0°の間で低下が著しく, 2.0°で半減し, その後は緩やかな低下を示した. 荷重支持能力は, 口蓋側に間隙がある場合は傾斜角度に応じて減少したが, 頬側に間隙がある場合には, 間隙のない場合と比較し, 大臼歯荷重で1/7, 中切歯荷重で1/3に減少した.
    結論: 磁性アタッチメントのわずかなくさび状間隙により吸引力は大きく低下し, 特に頬側に間隙がある場合には荷重支持能力の大幅な低下を招くことが明らかとなった.
  • 粘膜硬さの客観的評価法の確立
    原 聰, 下平 修, 佐藤 裕二, 北川 昇, 細野 由美子
    2007 年51 巻2 号 p. 280-290
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    目的: 有床義歯補綴治療に際し, 義歯支持組織のバイオメカニクス特性である「粘膜硬さ」は主に触診による術者の主観的感覚で診査され, 再現性や普遍性に問題があるため客観的評価は極めて重要である. 粘膜硬さの客観的評価法を確立するため, 触覚センサープローブの固定方法と接触角度が計測値に及ぼす影響を明らかにし, その補正方法を模索することを目的とした.
    方法: 4種類の擬似粘膜を製作し, 各種条件下で弾性率を計測した. 触覚センサーの接触角度の規定とプローブ先端の滑り防止を目的としたプローブガイドを製作した. 接触角度固定方法, プローブガイドの装着による計測値への影響を分析した. また, 同意の得られた有歯顎者1名の義歯支持軟組織の硬さを計測した.
    結果: 全ての計測結果において大きなばらつきはなく, 30°に傾けた時の弾性率は0°よりも大きな値を示した. 三元配置分散分析より擬似粘膜, 接触角度固定方法は全て有意であった (P<0.01). 接触角度の違いによる弾性率の関係は直線関係を示し, その回帰式より30°に傾けた時の弾性率から0°で計測した時の弾性率を16%以内の誤差で推定できることが示された.
    結論: 触覚センサーシステムを用いた義歯支持軟組織の弾性率計測時の触覚センサープローブ接触角度と固定法による影響が明らかになった. 回帰式による補正を行い弾性率を算出することで, 硬さを客観的に評価できる可能性が示唆された.
  • 細野 由美子, 佐藤 裕二, 北川 昇, 下平 修, 原 聰
    2007 年51 巻2 号 p. 291-299
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    目的: 有床義歯補綴治療のための適切な診断を行う上で, 義歯床下粘膜のバイオメカニクス特性の客観的な評価は重要である. 義歯床下粘膜のバイオメカニクス特性を総合的に評価し, 診断基準を確立するために, 義歯床下粘膜における硬さと厚さの関係を検討した.
    方法: 口蓋粘膜に異常の認めない有歯顎者10名の口蓋粘膜部における3箇所 (第一大臼歯側方部・口蓋側方部・口蓋正中部) を計測部位とした. 硬さ (ヤング率) は触覚センサー, 厚さは超音波厚さ計を用いて計測した.
    結果: ヤング率は口蓋正中部が最も高く (2.4±0.8MPa), 口蓋側方部で最も低かった (1.0±0.5MPa). 粘膜の厚さは口蓋正中部で最も薄く (1.2±0.3mm), 口蓋側方部で最も厚かった (2.8±0.7mm). ヤング率と厚さは, 直線関係を示したが, 粘膜の薄い部位ではヤング率の値が広く分布していることが示された.
    結論: ヤング率の値が広く分布する部位があり, 一概に厚さからヤング率の推定はできないことが示された. 義歯床下粘膜のバイオメカニクス特性を客観的に評価し診断基準を確立するためには, 硬さと厚さをそれぞれ評価する必要性が示唆された.
  • 樋口 大輔
    2007 年51 巻2 号 p. 300-303
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 患者は69歳の女性で, 上顎左右臼歯部の欠損を主訴に来院した. 下顎右側小臼歯部のインプラントはインプラント周囲炎のため撤去した. その後インプラント支持の補綴物を上下右側臼歯部に装着した.
    考察: インプラント支持の補綴物は欠損部補綴の一つの治療法として考えられる. 天然歯とインプラントとの連結の是非には議論があるが, 本症例では連結することが必要と判断した. 連結部は天然歯の沈下を防ぐためにリジットフォームとした.
    結論: 3年11ヶ月経過後, 特に問題なく経過しており, 固定性の補綴物に対しても患者の満足が得られている.
  • 金澤 毅
    2007 年51 巻2 号 p. 304-307
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 患者は58歳女性 (症例A) と82歳女性 (症例B), で共に上顎無歯顎, 下顎両側遊離端欠損の症例で, 前歯部顎堤に疼痛を訴えて来院した. 症例Aの顎堤粘膜は硬いが, 症例Bの顎堤粘膜は厚く柔らかなものであり, 疼痛はそれぞれ異なる原因に起因するものと考えられた. そのため, それぞれの症例に応じて, 症例Aは咬合圧印象採得法, 症例Bでは選択的加圧印象採得法にて行い, 全部床義歯を製作, 装着した.
    考察: それぞれの顎堤の状態に対応した印象採得法を選択することで, 疼痛のない全部床義歯を製作することができた.
    結論: 疼痛のない全部床義歯を製作するには各患者の口腔内の状態を把握し, それぞれに適した方法を選択することが重要である.
  • 村上 洋
    2007 年51 巻2 号 p. 308-311
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 69歳男性. 上顎前歯部の歯根破折を伴う前装冠脱離を主訴に来院した, 下顎義歯沈下による咬合支持不足と摩耗した補綴物によるわずかの咬合低下を認めたため, 全顎的な補綴処置を行った. その後1本の喪失歯はあったものの現在まで14年経過するが良好な状態が保たれている.
    考察: 咬合支持の弱体化が始まった歯列に対し積極的に補綴処置による咬合再建を行ったことが咬合崩壊を防いだものと考えられる.
    結論: 欠損歯列において良好な予後を得るためには定期的なリコールを継続していくことにより, 咬合状態の変化を注意深く観察していく事が重要である.
  • 中野 環
    2007 年51 巻2 号 p. 312-315
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 患者は初診時年齢51歳の女性で, 下顎両側臼歯部に装着された部分床義歯による咀嚼障害およびクラスプによる審美障害を主訴に来院した. 本症例に対し, 補綴主導型インプラント治療の概念に基づいたインプラント体の埋入と上部構造の製作を行い, 咀嚼機能および審美性の改善と回復を図った.
    考察: 欠損歯数と同数のインプラント体を埋入し, 遊離歯肉移植を行った後に, カスタムメイドアバットメントと陶材焼付鋳造冠を用いて単冠により補綴を行った. インプラント周囲軟組織および周囲骨のレベルは安定しており, 機能的のみならず審美的にも十分満足しうるものであると考えられる.
    結論: 最終補綴装置装着後約3年にわたり良好な経過が得られ, 部分床義歯による咀嚼障害および審美障害に対するインプラント治療の有用性が確認された.
  • 岩堀 正俊
    2007 年51 巻2 号 p. 316-319
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 患者は右側顎関節部疼痛および開口時雑音を主訴として来院した. 著しい過蓋咬合で, 残存歯および修復物の咬耗もみられた. 症状から顎関節症IIIa型と診断した. 挙上量を安静位空隙内に設定し, 下顎義歯を利用したスプリント療法を行ったところ顎関節部症状は消失した.その咬合高径で下顎残存歯の歯冠補綴および欠損部に部分床義歯を作製した.
    考察: 治療終了後3年経過するが, 顎関節部および補綴装置に特記すべき異常は見られない.
    結論: 咬合高径が低下し, 顎関節症を有している患者に対し, 下顎義歯を利用した咬合挙上装置を用い咬合高径を改善し補綴処置を行い, 良好な結果を得られた.
  • 寺澤 秀朗
    2007 年51 巻2 号 p. 320-323
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 47歳の女性.クラスプ破折に起因する上顎部分床義歯の使用不能による審美障害を主訴として, 平成12年12月4日に本学歯学部附属病院に来院した. 本症例は, 唇顎口蓋裂閉鎖術後の上口唇の瘢痕拘縮と, 上下顎の大きさの不調和を有し, 人工歯の排列位置を含む義歯の維持・安定が懸念された.
    処置とその考察: 上顎の残存歯に根管治療, 根面板/歯冠修復治療を施した後, 切端咬合と交叉咬合を付与し, 支台装置として磁性アタッチメントを使用した部分床義歯を装着し, 審美的にも, 機能的にも満足の得られる治療結果が得られた. 磁性アタッチメントを支台装置とし, 暫間義歯を兼ねた診断用義歯の利用が, 義歯の維持・安定を含む治療計画の立案に有効であることが示唆された.
    結論: 治療終了後, 約3年が経過しているが大きな問題は生じていない. 本症例から, 磁性アタッチメントの補綴歯科治療への応用が患者のQOLの改善に有効であることが示された.
  • 村上 格
    2007 年51 巻2 号 p. 324-327
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 患者は, 70歳の女性無歯顎者. 左側顎関節の開口時痛を主訴に来院. 同部に圧痛と開口障害を認めた. 下顎頭の後方変位による変形性顎関節症と診断した. 下顎位を適正化した治療義歯装着とマニュピレーション (MP) 後に, ブレード人口歯 (BT) を用いた総義歯を装着した. 治療の進行に伴い主な症状は消失し, 開口量も増大した.
    考察: 適正な下顎位でのBT使用による顎関節への負担軽減効果とMPによる顎関節の可動域拡大により断層X線オクルーザー, ゴッシクアーチ描記などの各種所見も改善を示す治療成績が得られた.
    結論: 下顎位の適正化, MPの適用, BT使用による顎関節の負担軽減により機能障害が改善された.
  • 田原 靖章
    2007 年51 巻2 号 p. 328-331
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 66歳の男性患者で, 発音障害および咀嚼障害を主訴に来院した. 咬合高径の低下および上顎総義歯の口蓋側研磨面の形態不良と診断した. 新義歯では咬合挙上を行い, 静的パラトグラム検査を用いて, 上顎総義歯の研磨面の形態を決定した.
    考察: 咬合挙上によりゴシックアーチ描記では限界運動路が拡大し, 側方セファログラム分析では下顎が術前より後下方に位置した. また, 適切な口蓋形態の付与により発音障害が改善したと考えられる.
    結論: 本症例では, 適切な咬合高径の設定および口蓋側研磨面の形態改良により発音障害は改善した. また, 顎口腔機能について新義歯装着前後で検査を行い, 客観的に評価ができた.
  • 川田 哲男
    2007 年51 巻2 号 p. 332-335
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 上顎右側臼歯部腫脹による顔貌変形と疼痛を主訴に来院した17歳女性. 粘液腫摘出後骨欠損部および上顎洞に腸骨移植, インプラント埋入を行い, 固定性上部構造を装着した.
    考察: 腫瘍再発の可能性を考慮し骨移植を行えなかった部位があったため, 補綴装置としてはバーアタッチメントを応用した可撤性義歯を装着することが一般的と考えられたが患者の強い希望により幽部に固定性補綴物を装着することとなった. 76相当部の補綴は行わなかった. 同部は術後2年間にわたり骨吸収が見られた. 現在は落ち着いているが引き続き経過観察が必要である, また咬合接触の変化が装着後6ヶ月間観察されたが, その後は変化なく3年8ヵ月経過している.
    結論: 腫瘍摘出後に生じた歯牙, 顎骨欠損部に自家骨移植およびインプラント埋入を行い, 固定性補綴装置を装着することにより, 咬合・咀嚼機能を改善し, 審美的, 社会的満足をもたらすことができた.
  • 岸井 次郎
    2007 年51 巻2 号 p. 336-339
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 患者は68歳の男性. 下顎臼歯部欠損に伴う咀嚼障害および両側顎関節部の疼痛を主訴に来院した.
    診査より低位咬合による咀嚼障害および1型の顎関節症と診断された. 治療義歯とプロビジョナルレストレーションを応用して咬合高径を回復し, 筋肉, 顎関節やその他に侮ら異常を訴えることなく良好な機能回復を行った.
    考察: 約10mmの咬合挙上も症例によっては特に問題を生じないこともある.
    結論: 治療義歯とプロビジョナルレストレーションを応用することによって, 早期に咬合の支持, 審美性の回復を行えるとともに, 咬合高径の変化に伴う異常に対して迅速な対応が可能であり, 良好な機能回復を行えた.
  • 若林 則幸
    2007 年51 巻2 号 p. 340-343
    発行日: 2007/04/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    症例の概要: 50歳の女性. 咀嚼障害を主訴に来院した. 症型分類1-1では32点のレベルIVと判定された. 上下顎新義歯により咬合の再構成を行った. 上顎はTi-6Al-4V合金の超塑性成形, 下顎は鋳造純チタンによるメタルフレームの義歯を装着した.
    考察: リコールを継続し, 13年経過した. 超塑性チタン合金床義歯は, 口蓋部に薄い床を希望した患者の要望を満足させることができた. 超塑性成形によるレストと連結子は良好な適合性と強固な支持と把持の効果を発現し, このことが長期にわたる機能の保全に効果があったと推察された.
    結論: 本症例からはチタン合金の利点が確認されたとともに, 残存歯のメインテナンスの重要性が明らかとなった.
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