目的: 本稿では, 北欧を中心として提唱されている短縮歯列の概念が, はたしてすべての臼歯部欠損の患者に対して適用か否かに関して, 著者らの研究成果を中心に検討した.
研究の選択, 結果: 我々はまず, 片側性の遊離端欠損を放置した患者を対象として, 顎関節のレントゲン画像による評価と, 最大咬みしめ時における下顎頭の変位測定の2項目について検討を行った.顎関節のレントゲン画像では, 73%の被験者に顎関節の異常像が観察され, そのうち55%では欠損側と同側に限定して認められた.咬みしめ時の下顎頭変位に関しては, 欠損側下顎頭において非欠損側に比べて有意に大きな変位量が認められた.
続く研究では, 健常有歯顎者を用いて, 実験的な咬合支持の喪失と咬みしめ時の下顎頭変位との関連性について検討を行った.その結果, 咬みしめ時の下顎頭変位量は, 喪失範囲の拡大とともにどの被験者も一律同一な傾向を示すというよりも, むしろ, 変位しやすいグループと変位しにくいグループの二つに大別されることが明らかとなった.さらに, この傾向は矢状顆路傾斜角つまり関節結節後斜面の形態的影響を受けることが判明した.
結論: 以上の結果より, 遊離端欠損に対する治療方針を決める際には, 患者個々のリスクレベルに合わせた対応, つまり直ちに補綴処置を開始するのか否か, あるいはwait and seeで進めるべきかなどの複数の選択肢を考慮する必要性が示唆された.
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