日本補綴歯科学会雑誌
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51 巻, 4 号
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  • 咬合・咀嚼が創る健康長寿の実現へ向けて
    平井 敏博
    2007 年 51 巻 4 号 p. 691-698
    発行日: 2007/10/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    歯科補綴学は生命科学や健康科学をベースとする実学であり, 人々の健康・福祉の向上に貢献する役割を担っている. またその臨床は, 損なわれた形態的機能的障害の改善や回復を目指す口腔リハビリテーションであり, その究極的な目標はQOLの維持・向上であるといえる. 歯科補綴学における研究, 教育, 臨床は不可分であり, それらが一体となることによってさらに大きく社会に貢献できる学問, 人々から望まれる学問となる. 特に, 生活に関する諸要因の健康へ及ぼす影響を身体・精神・社会的な面からのアプローチによって科学的に究明し, その成果に基づいて健康の保持増進を実現する健康科学としての歯科補綴学を構築し, 推進する必要があると考える.
    「補綴歯科専門医」の広告開示は, われわれの悲願である. 専門医制度は医療水準の向上, 患者に対する情報提供病診・診診連携の推進に有効であるとされている. 一方, 専門医はこれまで以上に多くの国民から質の高い診療の実践を厳しく求められ, また評価される. さらに, 社団法人である日本補綴歯科学会には, 今後さらに重要性を増す歯科医療の主軸となり, 社会に対して必要な情報を確実かつ迅速に伝達し, オピニオンリーダーとしての提言を行う義務と責任がある. このためには, さらなる歯科補綴学研究とそれに基づく補綴歯科臨床の充実が必要である. われわれ会員ひとり一人の自覚と努力が必要である。
  • 山下 秀一郎, 丸山 雄介, 桐原 孝尚, 小池 秀行
    2007 年 51 巻 4 号 p. 699-709
    発行日: 2007/10/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    目的: 本稿では, 北欧を中心として提唱されている短縮歯列の概念が, はたしてすべての臼歯部欠損の患者に対して適用か否かに関して, 著者らの研究成果を中心に検討した.
    研究の選択, 結果: 我々はまず, 片側性の遊離端欠損を放置した患者を対象として, 顎関節のレントゲン画像による評価と, 最大咬みしめ時における下顎頭の変位測定の2項目について検討を行った.顎関節のレントゲン画像では, 73%の被験者に顎関節の異常像が観察され, そのうち55%では欠損側と同側に限定して認められた.咬みしめ時の下顎頭変位に関しては, 欠損側下顎頭において非欠損側に比べて有意に大きな変位量が認められた.
    続く研究では, 健常有歯顎者を用いて, 実験的な咬合支持の喪失と咬みしめ時の下顎頭変位との関連性について検討を行った.その結果, 咬みしめ時の下顎頭変位量は, 喪失範囲の拡大とともにどの被験者も一律同一な傾向を示すというよりも, むしろ, 変位しやすいグループと変位しにくいグループの二つに大別されることが明らかとなった.さらに, この傾向は矢状顆路傾斜角つまり関節結節後斜面の形態的影響を受けることが判明した.
    結論: 以上の結果より, 遊離端欠損に対する治療方針を決める際には, 患者個々のリスクレベルに合わせた対応, つまり直ちに補綴処置を開始するのか否か, あるいはwait and seeで進めるべきかなどの複数の選択肢を考慮する必要性が示唆された.
  • 池邉 一典, 枦山 智博, 高橋 利士, 松田 謙一, 権田 知也, 野首 孝祠
    2007 年 51 巻 4 号 p. 710-716
    発行日: 2007/10/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    Shortened dental archを支持する立場の研究は, 大臼歯欠損を放置した症例でも, 咬合は経年的にも安定しており, 顎関節に影響はみられず, また義歯による補綴介入の効果も明らかでないという論調が多い. しかし, これらの研究データを精査してみると, なぜこのような結論が導かれたのか理解に苦しむものもある.
    今回は, 60歳以上の921名を対象としたデータから, SDAの頻度やその中での義歯装着者の割合, 義歯装着者と非装着者の咬合力や咀嚼能率の比較また, 患者の視点から見た治療法の選択などについて提示した. 今後SDA症例に対して, 義歯による口腔機能への効果を明らかにするためには, 義歯装着前後における口腔機能の変化を同一個人で比較する縦断研究や, 義歯装着症例と非装着症例を無作為に割り付けるランダム化比較研究が必要であると思われる.
  • 馬場 一美, 五十嵐 順正
    2007 年 51 巻 4 号 p. 717-725
    発行日: 2007/10/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    短縮歯列 (Shortened Dental Arch: SDA) 概念を提唱した, Kayser等による一連の研究により, 一定の条件を満たしていれば臼歯部に欠損が生じても患者の主観的な口腔健康状態は大きく損なわれないことが示されている.
    近年, 患者の口腔健康状態の評価指標として口腔関連QoLが重要視されているが, SDA患者を対象とした報告は見当たらない. そこで, 本マルチセンターリサーチにおいて臼歯部咬合支持の喪失と口腔関連QoLの関係についての横断研究を行った.
    被験者は本マルチセンター・リサーチに参画した6大学において連続サンプリングされたSDA患者115名である (2006年6月, 1ヶ月間;平均年齢58.5±100歳, 女性71%). 各被験者の欠損歯数. 歯種を調べ喪失したOcclusal Unit: OU数 (小臼歯の咬合=10U, 大臼歯部=20U, 最大120U) を算出し欠損OU値とした. 口腔関連QoLの評価には日本語版Oral Health Impact Profile (OHIP) を用いその合計値を算出した. 統計分析は, 欠損OU値を独立変数OHIP合計値を従属変数として線形回帰分析を行った. さらに, OUの欠損パターンによりSDA患者をグループ化しOHIP合計値のグループ間比較を行った.
    線形回帰分析の結果, 欠損OU値とOHIP合計値の問に有意な正の相関が認められた. また, グループ間比較の結果, 欠損が第2大臼歯に限局しているグループのOHIP合計値は他のグループより有意に低くなった. また, 第1大臼歯OUが残存するグループのOHIP合計値は大臼歯をすべて喪失したグルー・プより有意に低かった (p<0.05).
    以上の結果よりSDA患者の口腔関連QoLは, 臼歯部咬合支持の喪失により低下することが明らかになり, 特にその傾向は第1大臼歯の咬合支持を失った場合に顕著であった.
  • 研究計画についてこれだけは知っておこう
    田上 直美
    2007 年 51 巻 4 号 p. 726-732
    発行日: 2007/10/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    いかなる分野の研究でも, 研究のデザイニング, 即ち「研究計画」は最も重要である. 研究計画とは研究目的を達成するために研究手法を構築するものであり, どんな研究もまずは研究計画をたててから始める必要がある. 研究テーマは何か, どのような研究背景・文献があるか, どのようなデータが必要か, どのような分析をするか等を研究に先立って計画することは, 回り道のようで実は確実に近道である. 実証研究の伝統的なスタイルであり歯科補綴学でも大半を占める仮説検証型研究は, データと統計学理論を用いて「仮説」を証明するものであるため, 統計学を踏まえた研究手法を含む研究計画が必須である. 特に, 仮説検証型研究の臨床版である臨床試験においては, 治験実施計画書に統計学的方法の記載が義務づけされていることを考えても, 統計学を踏まえた研究計画なしでは研究が成立しないことが明白である.
    本稿では, 歯科補綴学研究を計画するにあたり, これだけは知っておきたいと思われる基礎的事項について叙述する.
  • 村原 貞昭, 梶原 浩忠, 堀 沙弥香, 嶺崎 良人, 鬼塚 雅, 田中 卓男
    2007 年 51 巻 4 号 p. 733-740
    発行日: 2007/10/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    目的: 市販接着システムを用いたジルコニアに対するレジンセメントの接着耐久性におけるシランカップリング処理と, 10-Methacryloyloxydecyl dihydrogen phosphate (以下MDPと略す) 接着性モノマーの影響を検討すること.
    方法: ジルコニアを用いて2種類の大きさの円板を作製した. 被着面を50μmのアルミナでサンドブラスト処理し, 4種類 (うち1種類はMDPを含有) のレジンセメントのいずれかで接着した. シラン処理群は, サンドブラスト処理面にセメントごとに付属のシラン処理剤 (うち2種類はMDPを含有) で前処理を行った. 各条件ごとに試験片を5つ作製し, 熱サイクル耐久試験後に勇断接着強さを測定し, 測定値を統計的に解析した.
    結果: 非シラン処理群では, MDPを含有するレジンセメントで接着した試験片が有意に高い接着強さを示したが, MDP非含有のレジンセメントでは熱サイクル中に剥離した. シラン処理群では, MDP含有のシラン処理剤と, MDP非含有のレジンセメントで接着した試験片が最も高い接着強さを示し, MDP含有のシラン処理剤と, MDP含有のレジンセメントで接着した場合がこれに次ぐ接着強さを示した. MDP非含有のシラン処理剤と, MDP非含有のレジンセメントを使用した場合では熱サイクル中に剥離した.
    結論: ジルコニアに対するレジンセメントの接着耐久性の向上には, MDP接着性モノマーが効果的であった.
  • 藤井 芳仁, 河野 正司, 林 豊彦, 本蔵 義信, 小林 博
    2007 年 51 巻 4 号 p. 741-750
    発行日: 2007/10/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    目的: 咬合高径を失った症例に対して垂直的顎問関係を決定する際に, 基準位の一つである下顎安静位は様々な要因により変動している. 本研究では下顎安静位の連続的測定が可能であり, 小型軽量な磁気センサを応用した上下的下顎位測定装置を開発し, その有用性を検討した.
    方法: MI (Magneto-impedance) センサ (AMI302) を4mm間隔で6個並列し, センサユニットとした. センサユニットは, メガネ型センサホルダを介して頭部に固定される. 標点となる磁石 (直径3mm, 長さ12mm) はレジン板にはめ込み, 両面テープによりオトガイ部皮膚に固定した. 1) 精密移動ステージを用いた基礎実験を行った. 2) 正常有歯顎者1名 (25歳) を被験者とし, 開口量10mmの開閉口運動を行わせた. 開閉口運動の前後には, 5秒間の咬頭嵌合位を保持させ記録した. 測定中は6自由度顎運動測定装置を用いて同時測定を行った.
    結果: 基礎実験の結果, 二乗平均誤差は0.06mmであった. 位置精度の二乗平均誤差は0.35mm, 開閉口運動前後にとらせた咬頭嵌合位再現性の二乗平均誤差は, 0.33mmであった. これらの二乗平均誤差は, 下顎安静位のシフト現象の変動幅 (約2.2mm) に対して約16%の測定誤差であった.
    結論: 磁気センサを応用した本装置を用いて, 上下的顎間距離を臨床的に必要な精度で, 連続的に測定ができることが明らかとなった.
  • 石原 広, 北川 昇, 佐藤 裕二, 原 聰, 細野 由美子, 石橋 彩子
    2007 年 51 巻 4 号 p. 751-759
    発行日: 2007/10/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    目的: 無歯顎者の顎堤高さにおける簡便で客観的な評価方法を確立するために, 当教室の臨床研究に基づいて新たに開発した診査用スケールの有用性を検討した.
    方法: 上下顎無歯顎者の研究用模型 (100組) の左右第一大臼歯相当部を評価部位とした. また, 臨床経験7年以上の歯科医師8名と3年未満の歯科医師8名による3段階 (高い, 中間, 低い) の主観的評価と診査用スケールを用いた評価を行った. 客観的評価はデジタル式ノギスを用いて顎堤の垂直的な高さを計測した. そして, 主観的評価と診査用スケールを用いた評価それぞれの客観的評価との一致度を検討するため, カッパ値を算出し比較検討した.
    結果: 主観的評価と客観的評価の関係では, 臨床経験を問わず, 一致度を表すカッパ値は低かった (上顎: 臨床経験7年以上032, 臨床経験3年未満0.38, 下顎: 臨床経験7年以上0.43, 臨床経験3年未満0.35). スケール評価と客観的評価の関係では, 一致度は高かった (上顎: 臨床経験7年以上0.69, 臨床経験3年未満0.68, 下顎二臨床経験7年以上0.60, 臨床経験3年未満0.57).
    結論: 無歯顎者の顎堤高さに関して, 新たに開発した診査用スケールを用いた評価では, 臨床経験を問わず客観的評価と良く一致していた. したがって診査用スケールの有用性が高いことが示唆された.
  • 安藤 良子, 中村 恵子, 鱒見 進一
    2007 年 51 巻 4 号 p. 760-767
    発行日: 2007/10/10
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    目的: 本研究の目的は口蓋床装着が咀嚼に引き続いて行われる自発嚥下に及ぼす影響およびその順化について検討することである.
    方法: 健常有歯顎者を被験者とし, 厚さ1.5mmの口蓋床を装着させ, 被験食品として寒天を用いて, 自発的な咀嚼に引き続いて行われる嚥下時の下顎運動と表面筋電図を記録し, 咀嚼時間, 咀嚼回数, 咀嚼終了-咽頭期開始時間, 咽頭期時間について非装着時と口蓋床装着直後の変化について検討するとともに, 口蓋床装着2週間の咀嚼終了-咽頭期開始時間の経日的な変化から順化について検討した.
    結果: 口蓋床装着前後で咀嚼時間, 咀嚼回数, 咽頭期時間に有意差は認められなかったものの, 食塊形成および口腔から咽頭への送り込み時間に相当する咀嚼終了-咽頭期開始時間に有意な延長が認められた. この時間は1日後には減少して装着前との間に有意差は認められなくなった. その後も非装着時との間に有意差は見られなかった. 装着直後との比較では, 1日後は有意な減少が認められたものの, 2日後は有意差が見られず, 3日後以降は有意な減少が見られた. またこの値の被験者内変動は, 装着日数による有意な変化は見られなかった.
    結論: 口蓋の被覆は食塊形成および口腔から咽頭への送り込み時間に影響を及ぼすものの, 装着3日後以降に順化が得られることが示唆された.
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