基礎理学療法学
Online ISSN : 2436-6382
25 巻, 1 号
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原著
  • 岡 真一郎, 新郷 怜, 濱地 望, 池田 拓郎, 光武 翼
    原稿種別: 原  著
    2022 年 25 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/17
    [早期公開] 公開日: 2022/02/04
    ジャーナル フリー

    腰部への持続的圧迫刺激(以下,CPS)後の自律神経活動が腸音(以下,BS)の変化に与える影響を検討した。対象者は健康な若年成人男性10 名とした。BS は,左下腹部に聴診器をあて録音し,周波数解析により音圧を算出した。自律神経活動の評価は,心電図RR 間隔を用いて心拍変動解析を行った。循環動態は血圧を測定した。CPS は,T12 からL2 棘突起の3.5 cm 外側に50 mmHg で押圧を開始し,10 分間持続した。CPS 後10 分で313 Hz のBS の音圧が上昇した。CPS後5分のBS,LF/HF,DBP の変化がCPS 後10分のBS の上昇に影響していた(CMIN =1.214,p =0.750,GFI =0.941, RMSEA <0.001)。これらの結果は,CPS が心臓や末梢血管の副交感神経活動を修飾し,腸の蠕動運動を促進することを示唆している。

  • 時田 諒, 佐藤 尚輝, 谷尻 豊寿, 戸田 創
    原稿種別: 原  著
    2022 年 25 巻 1 号 p. 10-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/17
    [早期公開] 公開日: 2022/02/05
    ジャーナル フリー

    3 次元相同モデルを用いて現代日本人における肩甲骨全体形状のバリエーションの抽出を試みた。全頂点の3 次元座標に対する主成分分析の結果,第1 から第5 主成分までで累積寄与率が約50% となった。第1 主成分は,肩甲骨体部の彎曲が強まるにつれて,関節窩や烏口突起の前方への傾きが強まる成分であった。第2 主成分は,肩甲骨体部が頭尾方向に長くなるにつれて,棘上窩に対する棘下窩の面積が大きくなる成分であった。第3 主成分は,肩峰の前傾に伴い棘上窩の幅が小さくなる成分であった。第4 主成分は,肩峰が外側に張り出すにつれて棘上窩の幅が大きくなる成分であった。第5 主成分は,肩甲棘から肩峰にかけての前傾に関する成分であった。肩甲骨には多くのバリエーションが存在し,全体形状を包括的に解析する重要性が示唆された。今後は同手法を用いることで,肩甲骨全体形状と肩関節疾患の関連性の解明などが期待できる。

  • 宇佐美 優奈, 舩越 逸生, 国分 貴徳
    原稿種別: 原  著
    2022 年 25 巻 1 号 p. 18-26
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/17
    [早期公開] 公開日: 2022/02/06
    ジャーナル フリー

    【目的】正常発達過程において,下肢に加わるメカニカルストレスの変化が筋腱複合体における遺伝子発現および形態学的発達に及ぼす影響を探索した。【方法】胎生期および生後早期C57BL/6 を対象として,立ち直り反応試験,歩行観察による行動評価を行った。併せて,下腿三頭筋とアキレス腱における成長関連因子であるTGF-β,腱細胞に発現する転写因子Scx のmRNA 発現レベルを確認した。組織学的解析ではAlcian Blue, HE 染色,Picrosirius Red 染色にて形態発達を観察した。【結果】行動発達により,筋収縮と自重により生じる関節運動によるメカニカルストレスの増大に伴い,腱成熟に関連する因子の発現と段階的組織成熟を認めた。【結論】未熟な組織の成熟に,メカニカルストレスの変化が影響している可能性が示唆された。本研究における知見は,小児期発達や損傷腱の治癒過程における理学療法介入への応用可能性が期待される。

  • 久保 大輔, 髙木 武蔵, 鈴木 智高, 菅原 憲一
    原稿種別: 原  著
    2022 年 25 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/17
    [早期公開] 公開日: 2022/06/21
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,予測的姿勢調整を制御するために補足運動野が活動するタイミングを経頭蓋磁気刺激(Transcranial magnetic stimulation:以下,TMS)を用いて検討することである。【方法】健常成人11 名は,ビープ音に反応して上肢を挙上する課題を行った。課題中,ビープ音から0 ms,30 ms,50 ms,70 ms 後のタイミングで補足運動野へTMS を付与し,三角筋と大腿二頭筋から筋電図を記録した。【結果】三角筋の筋活動開始のタイミングから前100 ms の時間帯にTMS が補足運動野へ付与された場合,TMS のない試行と比較して大腿二頭筋の筋活動開始のタイミングが有意に遅延した。【結論】立位での上肢挙上課題において,補足運動野が活動するタイミングは三角筋の筋活動開始から前100 ms の時間帯にあると推察された。

  • 井上 創太, 太田 大樹, 田口 徹
    原稿種別: 原  著
    2022 年 25 巻 1 号 p. 35-42
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/17
    [早期公開] 公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     社会的敗北ストレス(以下,SDS)は痛覚過敏を惹起するが,その病態機構は未解明である。本研究では,SDS 誘発性疼痛の脊髄機構の解明を試みた。SDS 誘発性疼痛モデルは,Sprague-Dawley ラットに対し,体格の大きなLong-Evans ラットを直接および間接的に接触させて作製した。ホルマリンテストを用い,モデルラットの疼痛関連行動を調べた。また,ホルマリンによる痛み刺激後の脊髄ニューロンの興奮性を定量化するため,神経活性化マーカーであるc-Fos 陽性細胞のL3 ~L5 腰髄後角での分布と数を調べた。SDS モデルでは,ホルマリンテストの第Ⅱ相において疼痛関連行動が顕著に亢進し,侵害受容に重要な後角表層におけるc-Fos 陽性細胞数が増加した。これらの結果より,SDS 誘発性疼痛モデルラットでは痛み刺激に対する脊髄後角表層ニューロンの興奮性が増大し,これが疼痛関連行動の亢進にかかわると考えられた。

総説
  • 田中 貴士, 上野 将紀
    原稿種別: 総説
    2022 年 25 巻 1 号 p. 43-49
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/17
    [早期公開] 公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー

     脳損傷はしばしば重篤な運動機能障害を引き起こし,自立した社会生活を困難にする。傷害された神経回路の再編は機能回復に重要であるが,成体の中枢神経における再編能力は限定的である。脳損傷後において,神経分子を標的とした治療やリハビリテーション等,様々なアプローチが試行されてきたが,未だ十分な機能回復は達成されていない。したがって,再編と機能回復を強化する新しいコンセプトの治療法が求められている。例えば我々は,神経軸索の伸長を阻害しているチロシン脱リン酸化酵素(src homology 2-containing phosphatase-1:以下,SHP-1)に着目し,遺伝学的なSHP-1 の欠損と自発的運動の併用が脳損傷モデルマウスの神経回路の再編や機能回復を相乗的に高めることを報告してきた。本稿では,中枢神経損傷のモデル動物における神経回路の再編についての知見を整理し,リハビリテーションや分子標的がもたらす再編や機能回復への効果とその機序について概説する。

  • 宮脇 裕, 村井 昭彦, 大谷 武史, 森岡 周
    原稿種別: 総説
    2022 年 25 巻 1 号 p. 50-55
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/17
    [早期公開] 公開日: 2022/08/27
    ジャーナル フリー

     運動主体感(Sense of agency)とは,自分が自分の運動を制御しているという感覚を指す。この感覚は,運動の感覚フィードバックに対しフィードバック制御を駆動する役割をもち,感覚入力と運動出力を紐付けるMediator の役割を担っていると考えられている。運動主体感の誘起には,運動に伴う内的予測などを含む感覚運動手がかりと,運動に直接関連しない知識や信念などの認知的手がかりが関与する。手がかり統合理論によると,状況に応じたこれら手がかりの信頼性に基づき,運動主体感への貢献度を決める重み付けが変化する。この理論に基づき,我々は運動制御時に感覚運動手がかりと認知的手がかりがどのように利用され運動主体感が導かれるのか,その重み付け変化(i.e., 手がかり統合戦略)の実態について検証を進めてきた。これらの研究成果を中心に,本稿では,運動主体感について運動制御との関係性を概観し,手がかり統合理論の観点からそのメカニズムを議論する。

  • 廣野 哲也
    原稿種別: 総説
    2022 年 25 巻 1 号 p. 56-60
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/17
    [早期公開] 公開日: 2022/08/29
    ジャーナル フリー

     筋力を評価する際,その多くは最大随意筋力が用いられる。しかしながら日常生活動作では最大随意筋力を必要とする場面は少なく,弱い運動強度の筋力をいかに制御しながら発揮するかが重要である。その評価方法として一定の筋力を保持している最中の力変動を評価する筋力調節能力(Force Steadiness:以下,FS)がある。FS は加齢や中枢神経疾患によって,変動が大きくなる。FS は目標値を低強度から高強度まで設定可能であり,さまざまな運動強度での能力を評価することができる。今回,足関節底屈筋のFS と姿勢動揺との関連に着目した。健常若年者を対象とした場合,安定面上での姿勢動揺には最大筋力の5% のFS のみが関連し,不安定面上での姿勢動揺には20%のFS のみが関連した。一方で高齢者を対象とした場合,安定面上での姿勢動揺にはいずれのFS も関連を示さず,不安定面上での姿勢動揺に20%のFS のみが関連を示し,強度ごとに関係する運動課題が異なることを示唆した。

  • 齋藤 悠城, 千見寺 貴子
    原稿種別: 総説
    2022 年 25 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/17
    [早期公開] 公開日: 2022/08/30
    ジャーナル フリー

     細胞老化はがん抑制や個体発生,さらには組織再生など生体に重要な機能を果たす一方で,加齢や慢性炎症などを進展する二面性が報告されている。近年,骨格筋への運動ストレスが細胞老化を誘導して骨格筋の修復や再生を促進するだけでなく,慢性炎症や線維化など骨格筋病態へも関与することが明らかになってきた。細胞老化制御機構の解明は新たな骨格筋治療の突破口になる可能性を秘めている。本稿では,運動による骨格筋の細胞老化と組織修復プロセスを中心に,骨格筋における細胞老化の影響について概説する。

  • 新藤 愛
    原稿種別: 総説
    2022 年 25 巻 1 号 p. 69-79
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/17
    [早期公開] 公開日: 2022/09/28
    ジャーナル フリー

     我が国における急速な高齢化に伴い,認知症および認知機能低下を呈する高齢者の人口は増加傾向にある。認知症の予防は,高齢者自身の生活の質の維持など,社会的かつ臨床的に意義が高い。中高齢者の認知機能の維持・向上を図るためには,運動や食事など生活習慣の改善による非薬物療法の介入効果が期待されている。そこで著者は,遂行機能の改善および脳活動における脳酸素化動態と加齢に伴い低下する中心動脈スティフネスに着目し,ラクトトリペプチド(lactotripeptides:LTP)摂取は中心動脈スティフネス,脳酸素化動態を改善し,有酸素性運動を併用することで遂行機能も含めさらに改善することを明らかにした。また,介入による遂行機能や脳酸素化動態の改善に,中心動脈スティフネスの低下が関連することも明らかにした。我々の知見は,中高齢者における習慣的な有酸素性運動とLTP 摂取が認知機能の維持・向上に効果的である可能性が示唆され,認知症の発症・進行予防の一助となることが考えられる。

  • 山越 聖子
    原稿種別: 総説
    2022 年 25 巻 1 号 p. 80-85
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/17
    [早期公開] 公開日: 2022/09/29
    ジャーナル フリー

     慢性腎臓病(以下,CKD)患者は,様々な合併症や廃用により身体活動量や運動耐容能が低下し,それらの低下が死亡リスクの増加と関連している。近年,CKD に対する運動療法が,身体機能や生命予後の改善のみならず,腎機能を改善することが報告されている。CKD モデルラットを用いた基礎研究において,運動による腎保護効果についての報告が散見される。しかしながら,その詳細な機序については明らかでない。我々はCKD のステージ進行に伴ってみられる腎間質線維化に着目し,運動による腎間質線維化抑制効果の機序について,腎コラーゲン代謝と腎レニン- アンジオテンシン系の関与を報告した。これらの結果から,CKD における運動は,腎間質線維化を予防し,腎不全の進行予防効果をもたらすことが期待される。

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