ファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬)が,ラット一過性前脳虚血モデルで神経・組織学的予後を改善するか調べた。雄SDラットに虚血2日前と前日に生食又はファスジル3,10,30 mg/kgを腹腔内投与した(C,F3,F10,F30)。両頸動脈閉塞+低血圧で前脳虚血とし,10分後再灌流した。3日後の神経スコアはF10がCより有意に良好であった。海馬CA1正常細胞はF3,F10がCにより有意に多かった。海馬CA1TUNEL陽性細胞はF3,F10がCより少なかったが統計的有意差はなかった。ファスジル10 mg/kg前投与は,神経・組織学的予後を改善したが、その効果にアポトーシスは関与しないものと考えられた。
重症外傷患者の蘇生時にダメージコントロール戦略(DCS)は必要とされるが,その適応基準は定まっていない。DCSの導入に,麻酔科医が主導的な役割を果たした症例を経験した。多発外傷に伴う若年男性の骨盤骨折手術中に不安定な血行動態が続き,腹腔内出血を疑い腹腔内検索の必要性を提言した。開腹止血術により血行動態は改善したが,腹腔内微小出血と血液検査異常が遷延しており,麻酔科医の立場からDCSを提言し救命し得た。全身管理を行う麻酔科医は,緊急手術中の血行動態の不安定な患者の場合は特に,術中の身体診察と最新の検査所見から総合的判断を行い,DCS等の治療方針決定に主導的な役割を果たすべきである。
術中のアナフィラキシー発症では必ずしも皮膚症状などの特徴的な所見が認められるわけではなく,その診断に難渋する場合がある。本症例では造影剤投与後に突然の循環不全を認めた。鑑別にはアナフィラキシー,さらには胸部大動脈ステントグラフト内挿術の合併症としてデバイス関連や血管損傷の可能性も考えられが,迅速に原因検索を行いアナフィラキシーと診断して対処した。急激な循環不全のみの場合,手術手技も合わさり,その鑑別に難渋する場合があるが,早急に診断し対応することができた。