脂肪塞栓症候群は外傷,骨折後に0.3%-0.9%で起こる重篤な合併症である。症例は22歳男性,交通外傷で右大腿部変形があり救急搬送となった。来院時意識清明でバイタルサインは安定し,画像検査で右大腿骨骨折を認めた。入院2日目に低酸素血症,意識障害,点状出血を認め,脂肪塞栓症候群と判断した。脂肪塞栓症候群では3徴の低酸素血症や意識障害,点状出血を認めるが,3徴全て認めることは少なく診断は困難である。特に高齢者の低酸素血症や意識障害は,誤嚥性肺炎やせん妄等と認識される可能性があるため,骨折や外傷の入院症例では脂肪塞栓症候群の合併を念頭に置いた管理が必要であると考えた。
症例は69歳の男性。カレイの卵による蕁麻疹の既往があった。直腸癌の多発肺転移に対する初回化学療法目的に当院を受診し,セツキシマブ50mg投与時点でショック状態となったため救急外来へ搬入となった。搬入時は喘鳴が高度で,全身は著明に発赤し,末梢は温かかった。アドレナリン筋注を繰り返しつつ,細胞外液の大量輸液,ノルアドレナリン持続静注を行い,人工呼吸器管理を開始した。ステロイドも併用し,救命病棟に入院とした。経過は良好で,入院2日目に抜管し,入院9日目に独歩退院となった。セツキシマブは,カレイ魚卵アレルギーの原因抗原との交差反応によりアナフィラキシーを起こしうるため,初回投与であっても注意が必要である。
若年者の突然死は,肥大型心筋症や冠動脈奇形,心筋炎などを基礎に持つ人のスポーツ中に多いとされている。ところが,1980年代の北米において,心臓病がない健康な子どもが,胸に比較的軽い鈍的外力を受けた直後に突然死する事例が続けて報告された。1995年,Maronら1)はこういった事例を心臓震盪として報告した。本邦においては,2002年に堀2)がスポーツ中の突然死として心臓震盪を紹介し,著者3)4)は国内例をまとめて報告している。ここでは,本邦における発症状況を北米例と比較して提示し,発症のメカニズム,予後について文献的考察を含め示す。尚,ここで示す本邦での1997年から2019年における49例のデータは,著者自身の症例に加え,救急隊員,学会報告,文献などから得た情報をもとにしたデータであり,著者が把握できていない症例もあることをご理解いただきたい。
成人の心停止の多くが心原性であるのに対して小児では呼吸障害やショックが原因になることが多い1, 2)。したがって小児の心停止を予防するには呼吸障害やショックをいち早く認識し対処することが重要である3, 4)。中でも歯科治療は気道に非常に近接した部位で行われ2),抗菌薬,鎮痛薬,局所麻酔薬など種々の薬剤も用いられるため,誤飲誤嚥やアレルギー5)が発生し,心停止も含めて緊急事態にいたる可能性がある。特に,当法人では,以前から障害者歯科医療を積極的に実施している上に2018年の病院の診療体系の変更に伴い,脳性麻痺や低酸素性脳症などを有する障害児の歯科受診が増え,呼吸障害やショックなどの緊急事態が発生するリスクが増加している。そこで,今後の当診療部スタッフの緊急事態への対応能力向上のために,小児の緊急事態の認識,評価,対処法に関する知識の習得状況の実態を調査したので報告する。