日本鼻科学会会誌
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50 巻, 2 号
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原著
  • 中下 陽介, 福入 隆史, 野田 礼彰, 宮原 伸之, 石野 岳志, 竹野 幸夫, 平川 勝洋
    2011 年 50 巻 2 号 p. 113-119
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/01
    ジャーナル フリー
    後鼻漏とは鼻腔後部に何かがあると感じ, これが繰り返しの嚥下など意図的な排除運動で除去できない状態をいう。わが国では後鼻漏の原因のほとんどが副鼻腔炎であると考えられており, それらに関する報告は多くみられる。一方でアレルギー性鼻炎など副鼻腔炎以外の疾患に伴う後鼻漏に関しての詳細な臨床調査は行われていないのが現状である。そこで今回われわれは後鼻漏のアンケート調査を行い, 後鼻漏の臨床的特徴について検討した。
    調査対象施設における調査年 (平成20年) 1年間の平均外来患者数は月に868.8人であり, そのうち139.0人 (16.0%) に後鼻漏症状がみられた。
    後鼻漏の原因疾患の割合は慢性副鼻腔炎が最も多く45%, 次いでアレルギー性鼻炎が多く23%の順であった。
    結果, 今後調査結果を実地臨床の参考にし, 難渋する後鼻漏の診断や治療に適切に対処することが重要であると考えられた。
  • 田中 秀峰, 村下 秀和, 米納 昌恵, 大原 浩達, 田渕 経司, 原 晃
    2011 年 50 巻 2 号 p. 120-126
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/01
    ジャーナル フリー
    一般に前篩骨動脈は, 前頭洞後端から第3基板までの篩骨蜂巣天蓋にあるとされるが, より詳細な走行部位は個人差が大きい。前篩骨動脈の損傷は, 出血量の増加だけでなく, 頭蓋内血腫や眼窩内血腫の原因ともなる。さらに, 眼窩内血腫が形成され眼窩内圧の上昇が起きた場合, 約1時間以内に除圧されない限り, 視力障害や失明に至る重大な合併症の原因となりえる。したがって, 危険部位を術前に把握しておくことは, 術中術後の合併症を回避しつつ, 副鼻腔の単洞化手術を施行するうえで重要である。
    我々は日本人を対象として, 前篩骨動脈の走行部位とfrontal recess (前頭陥凹) との詳細な位置関係について検討を行った。術前に0.6mmスライスCTから多断面再構成像を作成し, 前篩骨動脈の走行を(1)前頭洞の直後を走行, (2)frontal bulla cellやsuprabullar cellの直後を走行, (3)篩骨胞の中から第3基板までを走行するものの3つに分類した。さらに頭蓋底からの距離について, (A)頭蓋底に接して走行, (B)頭蓋底から離れ, 頭蓋底との間に隔壁を認めるものの2つに分類した。結果, (2)の群が98側 (59.7%) で最も多く, (3)の群が35側 (21.4%), (1)の群が31側 (18.9%) であった。また, 頭蓋底からの距離については, (A)群が59.8%で, (B)群が40.2%であった。
  • 成尾 一彦, 細井 裕司, 高瀬 彩子
    2011 年 50 巻 2 号 p. 127-135
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/01
    ジャーナル フリー
    前頭洞炎から波及した硬膜下膿瘍と静脈洞血栓症が生じた鼻内頭蓋内合併症の一例を経験した。症例は, 22歳男性で左眼瞼腫脹, 右片麻痺, 意識障害があり当院へ紹介となり, CTならびにMRIで副鼻腔炎を伴う硬膜下膿瘍ならびに静脈洞血栓症の診断をえた。高度救命救急センターの集中治療室に入院となり, 広域スペクトラムの抗菌薬が投与され全身麻酔下に内視鏡下鼻副鼻腔手術が施行された。術後6時間後, 脳ヘルニアにより瞳孔散大と対光反射消失が生じた。脳保護のため低体温療法とバルビツレート療法が開始され, 浸透圧利尿薬ならびに抗凝固剤のヘパリン療も投与された。その後MRIで複数の硬膜下膿瘍を認め脳神経外科医により開頭ドレナージが施行された。術後経過は良好で, 左動眼神経麻痺以外は後遺症なく退院となった。
    2000年以降本邦で報告された頭蓋内合併症 (本症例を含む) 34症例を検討した。男性26例, 女性8例, 年齢は10歳から68歳で平均23.4歳であった。原因となる副鼻腔は, 前頭洞24例, 篩骨洞4例, 蝶形骨3例, 上顎洞1例, 不詳2例であった。頭蓋内合併症の内訳 (重複含む) は硬膜下膿瘍21例, 化膿性髄膜炎19例, 脳膿瘍6例, 静脈洞血栓症 (本症例) 1例であった。副鼻腔手術は27例に, 脳外科でのドレナージが24例に施行され, 全体の死亡率は8.8%であった。
  • 五十川 修司, 鳥谷 龍三, 田中 文顕, 鳥谷 尚史, 大礒 正剛, 本田 達也, 犬童 直哉, 中野 幸治, 神埼 祐一, 江浦 正郎
    2011 年 50 巻 2 号 p. 136-142
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/01
    ジャーナル フリー
    2009年1月から3月 (スギ花粉飛散累計総数: 4,289個/cm2) までに熊本県内10施設を受診したスギ花粉患者86名に対して, ロイコトリエン受容体拮抗薬 (LTRA) モンテルカスト10mgによる初期療法を行った。モンテルカスト単剤で治療開始から飛散終了までの鼻症状をコントロールできた症例は35症例 (40.7%) であった。一方, モンテルカスト服用中にもかかわらず鼻症状が増悪した51症例 (59.3%) のうち, 他の薬剤を追加したのは34例, モンテルカストを中止し他の薬剤へ変更したのは17症例であった。
    モンテルカスト治療脱落群51症例のうち, 単独では効果不十分と感じた日を具体的に聞き取りができたのは48症例であった。そのうち22例は, 本格的飛散が認められる2月13日以前に鼻症状が増悪していることから, 少量花粉に対するアレルギー反応もコントロールできていないことになり, いわゆるLTRAに対するnon-responderである可能性が考えられた。
    次の24症例が脱落したのは, 最初の飛散ピークであった2月16日前後で, 2回目の飛散ピークであった3月1日前後の脱落は2症例のみであった。これらの結果から, モンテルカスト単独投与の初期療法により花粉飛散早期のピークを軽微な症状で乗り切ることができた症例では, そのシーズンを通して他の薬剤の追加投与なしで症状をコントロールできる可能性が高いと予測された。
  • 秋山 貢佐, 唐木 將行, 武田 純治, 森 望
    2011 年 50 巻 2 号 p. 143-150
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/01
    ジャーナル フリー
    Pott's puffy tumor (以下PPT) は1768年にPercival Pottが初めて報告した疾患であり前頭洞炎の非常にまれな合併症の一つである。近年では抗菌薬の発達とともにPPTに遭遇する機会は少なくなり, 特に成人例は非常にまれである。
    今回我々は成人PPTの2症例を経験した。1例は基礎疾患に再生不良性貧血があり顆粒球減少を認め, 急性前頭洞炎と前額部腫脹をきたした症例であった。前頭洞ドレナージ手術と抗菌薬投与などにより良好な経過が得られた。もう1例は巨大下垂体腺腫のために複数回の手術既往があり, 人工骨 (レジン) による前頭洞再建を施されていた症例であった。レジンが感染源となったと考えられる難治性前頭洞炎をきたしており, 2度の鼻内手術ではコントロール不良であったため, 最終的には鼻外アプローチによるレジンの全摘出術を必要とした。2例目は古典的なPPTの定義とは異なるが, 類似した病態の症例であった。
    PPTは非常にまれな疾患ではあるが, 診断, 治療開始の遅れが重大な合併症を引き起こす恐れがあり耳鼻咽喉科医にとっては現在も留意すべき疾患であると考えられる。我々が経験した2症例について文献的考察を加えて報告する。
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