日本鼻科学会会誌
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55 巻, 2 号
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原著
  • 高木 大樹, 西田 直哉, 羽藤 直人
    2016 年 55 巻 2 号 p. 129-133
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー
    電子付録

    内視鏡下副鼻腔手術(Endoscopic sinus surgery, ESS)の基本的なコンセプトを学ぶための新たな手法として,Volume rendering imageを用いたトレーニング法を考案した。この手法はCone Beam CTの閲覧用ソフトであるモリタ社のi-view®を用いて行った。i-viewには削開モードが搭載されており,任意の点を中心とした球状の空間を,マウスクリックによって削除することができる。限界領域に色付けを行うことで危険領域を認識するなど,i-viewの特性を生かした学習法が可能である。正常粘膜と病変部位の境界が識別困難であるため,現時点では副鼻腔炎などの手術シミュレーションに用いることはできないが,基本的な手術の手順や解剖の理解に有用であると考える。当科で勤務して2年以内の若手耳鼻科医5名を対象に,本トレーニングを行ったところ,操作時間の短縮だけでなく,初期にみられた不十分な蜂巣の開放や危険領域の認識などが大幅に改善するなどの成果を得られた。一方で実際の手術と比較して,内視鏡と鉗子の干渉が再現困難などの課題も見られた。本トレーニング法の有効性と今後の検討課題について,文献的考察を含め報告する。

  • 武田 桃子, 森 恵莉, 尾上 薫, 飯村 慈朗, 波多野 篤, 尾尻 博也, 鴻 信義
    2016 年 55 巻 2 号 p. 134-140
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】歯性上顎洞炎は日常でよく遭遇する副鼻腔炎のひとつである。歯性上顎洞炎の原因歯を早期発見し,早期の歯科治療介入ができれば,歯性上顎洞炎の遷延化や急性増悪を予防することが可能となる。耳鼻咽喉科医は副鼻腔Computed Tomography(CT)を見る機会は多いが,根尖周囲の病変に注目する機会は少ない。今回我々は,副鼻腔CTにおいて根尖病巣に注目して評価をし,また歯性上顎洞炎の歯科治療の介入の有無について調べたので報告する。

    【方法】平成24年10月~平成26年5月(20か月間)に当院当科で副鼻腔CTを施行した1,112例を対象とした。副鼻腔CTにおいて①上顎歯の根尖病巣,②上顎歯と上顎洞との交通,③上顎洞陰影の3項目を有するものを調べ,すべてを満たすものを本検討での歯性上顎洞炎の画像診断基準とし,詳細に根尖病変を確認し,歯科治療の介入の有無などの患者背景を調べた。

    【結果】画像上副鼻腔陰影を認めたのは882例で,その内歯性上顎洞炎と診断された患者は169例(19.1%)であった。受診時に歯科治療介入が確認できた患者は12.4%(21/169)であった。

    【考察】原因歯がありながら受診時点で治療介入がなされていない歯性上顎洞炎は約90%に及ぶ。CT施行時に副鼻腔陰影に加えて,上顎歯の根尖病巣の有無を確認し,治療介入を積極的に促すことで歯性上顎洞炎遷延化や,急性増悪の予防ができるのではないかと考えた。

  • 古川 孝俊, 阿部 靖弘, 伊藤 吏, 倉上 和也, 大江 倫太郎, 山川 光徳, 欠畑 誠治
    2016 年 55 巻 2 号 p. 141-146
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

    髄膜腫は頭蓋内の良性腫瘍として最も発生頻度が高いが,頭蓋外の髄膜腫は稀である。今回我々は,前頭洞炎を疑って手術を施行し,術後病理が髄膜腫となった症例を経験した。症例は50歳女性。15年前に近医総合病院で左前頭葉髄膜腫手術を受け,3年前に前頭葉の残存病変に対しガンマナイフが施行された。同時期から前頭部の重苦感も自覚するようになり,半年前のMRIで前頭洞炎を指摘され,手術適応につき当院へ紹介となった。本人の手術希望があったため,前頭洞の精査・治療目的に内視鏡下鼻・副鼻腔手術(V型)を施行した。手術所見は前頭洞に炎症性と思われるポリープ様病変を認めたため,鉗子とマイクロデブリッダーを併用して病変を切除した。術後経過に問題を認めなかったが,病理が異所性髄膜腫の診断となった。鼻副鼻腔に発生した髄膜腫症例は渉猟しえた限り本邦で13例の報告しかなく,非常に稀である。鼻副鼻腔原発髄膜腫の再発率は7%~84%との報告があり,頭蓋内よりも再発率が高い可能性がある。今後十分な経過観察を行う必要があると考えている。本症例の髄膜腫発症機序は,前回の前頭葉髄膜腫手術で前頭洞後壁に骨欠損が生じて髄膜腫が前頭洞に到達し,その後骨欠損が骨新生して閉鎖し,前頭洞に残存した髄膜腫が再発した可能性や,前回の前頭葉髄膜腫手術により髄膜腫細胞が頭蓋外に残存し,その後のガンマナイフの侵襲により髄膜腫細胞が前頭洞へ到達した可能性を考えた。

  • 山﨑 一樹, 花澤 豊行, 有本 昇平, 櫻井 大樹, 岡本 美孝
    2016 年 55 巻 2 号 p. 147-152
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

    若年性血管線維腫の摘出術は,内視鏡下に切除できるものから歯齦部切開,外側鼻切開や経口蓋アプローチを要するもの,更に頭蓋底手術を必要とするものまで,腫瘍の進展範囲によって様々である。一般に鼻副鼻腔内に限局している場合は内視鏡下の切除が可能とされてきたが,近年,内視鏡技術と器具の進歩により,鼻副鼻腔外に進展している症例に対しても,内視鏡下アプローチによる摘出が可能となってきている。今回,翼突窩および中頭蓋底にまで進展した若年性血管線維腫に対し,内視鏡下に切除可能であった症例を経験した。症例は16歳男性で,鼻出血を主訴に当院に紹介受診となった。初診時の鼻内所見では,右鼻腔後方を中心に上咽頭にまで充満する血管に富む紅色腫瘤を認めた。CT,MRIにて翼突窩および頭蓋底まで腫瘤は進展しており,内側翼突板の一部の破壊も確認された。術前日に血管造影下に栄養血管である顎動脈を塞栓し,手術は全過程を内視鏡下に行った。まず,顎動脈および翼突管動脈を確実に処理した上で,腫瘍摘出に移行した。腫瘍は,中頭蓋底,翼突窩および耳管の後方にまで進展していたが,分割切除を併用することで全摘出することが可能であった。翼突窩や中頭蓋底に進展していた場合でも内視鏡下手術による摘出は可能であり,そのためには栄養血管の確実な処理と腫瘍茎を確実に見極めて切除することが大事であると考える。

  • 田畑 貴久, 北村 拓朗, 寳地 信介, 喜瀬 祥啓, 武永 芙美子, 小泉 弘樹, 鈴木 秀明
    2016 年 55 巻 2 号 p. 153-158
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

    目的:アレルギー性鼻炎の外科的治療法の一つに後鼻神経切断術があるが,今回われわれは,後鼻神経の切断に高周波バイポーラシステム(コブレーター)を用い,良好な結果を得たので報告する。

    方法:対象は,2015年3月~11月に産業医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科または産業医科大学若松病院耳鼻咽喉科にてコブレーター®を用いて後鼻神経切断術を施行した9例(コブレーター群),および対照群として,2014年9月~2015年8月の間に超音波メスを用いて後鼻神経切断術を施行した10例である。後鼻神経切断術は全て全身麻酔にて経鼻内視鏡下に行った。手術方法は上顎洞膜様部後方から粘膜弁を挙上し,蝶口蓋孔より出る索状物(神経血管線維束)を同定し,コブレーター®または超音波メスにて神経と血管をいっしょに切断した。これらの症例についてレトロスペクティブに診療記録を調査した。

    結果:末梢血好酸球比率と血清総IgE値は両群間で差がなかった。超音波メスに比べてコブレーター®は操作性が良好で出血が少なく,明瞭な視野が確保された。後鼻神経切断に要した時間は一側あたり,コブレーター群で8.6±1.3分であり,対照群の17.9±1.7分と比較して有意に短かった(P<0.001)。コブレーター群では術前に比べて,鼻汁ありの症例が術後有意に減少した(P=0.009)。

    結論:後鼻神経切断術において,コブレーター®は超音波メスを上回る有用な手術支援機器であると考えられた。

  • 川島 佳代子, 松本 達始, 玉城 晶子, 岩田 伸子, 丹生 真理子, 有本 啓恵, 菊守 寛, 馬場 謙治, 入船 盛弘, 松代 直樹, ...
    2016 年 55 巻 2 号 p. 159-168
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

    従来からスギ花粉症に対しては,スギ抗原特異的免疫療法の有効性が示されているが,ヒノキ花粉に対する効果については十分に検討されていない。今回,スギ抗原特異的皮下免疫療法患者において2013年と2014年のスギ花粉飛散期とヒノキ花粉飛散期の症状の推移を検討し,ヒノキ花粉飛散期の増悪について検討するとともに2014年については,薬物初期療法群と比較してその有効性について検討し以下の結果を得た。

    1)2013年と2014年における免疫療法群の比較において,花粉飛散数の多い2013年ではスギ花粉皮下免疫療法患者はスギ花粉飛散期に症状スコアの有意な上昇がみられたが,少量飛散であった2014年ではスギ花粉飛散期に「目のかゆみ」のみ有意な上昇がみられた。両年ともスギ花粉飛散期からヒノキ花粉飛散期においてスコアの悪化を認めなかったことより,ヒノキ花粉症に対しても有効性を示すことが考えられた。しかし,患者個別に検討すると花粉飛散数の多い2013年では,スギ花粉飛散期と比較し,ヒノキ花粉飛散期において症状スコアが大きく減少する患者から増加する患者まで存在した。QOLにおいて,2013年ではスギ花粉飛散期に悪化したが,スギ花粉飛散期と比較し,ヒノキ花粉飛散期において増悪を認めなかった。2014年は,スギ花粉飛散期と比較し,ヒノキ花粉飛散において戸外活動についてスコアの悪化を認めたが,全体的にQOLスコアは低値であった。

    2)2014年において,免疫療法患者と薬物初期療法患者とを比較した検討では,免疫療法患者の症状スコアは,スギ花粉飛散期ではすべての症状において有意に低値,ヒノキ花粉飛散期には「目のかゆみ」を除いて有意に低値であった。免疫療法患者のQOLスコアは,スギ花粉飛散期においてはすべての領域で,ヒノキ花粉飛散期においては「睡眠」において有意に低値であった。症状薬物スコアの検討では,免疫療法患者は薬物初期療法患者に比較し,スギ花粉飛散期,ヒノキ花粉飛散期において有意に低値を示した。

    以上より,スギ花粉に対する免疫療法は,ヒノキ花粉に対しても有効性を示す可能性を示唆したが,花粉飛散の多い年ではヒノキ花粉飛散時期の有効性については個人差があることが示唆された。

  • 野村 研一郎, 片山 昭公, 岸部 幹, 長門 利純, 西川 典子, 横田 陽匡, 駒林 優樹, 片田 彰博, 林 達哉, 原渕 保明
    2016 年 55 巻 2 号 p. 169-175
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

    甲状腺眼症の多くはバセドウ病に合併し,外眼筋肥大などにより眼球突出等の症状をきたし,重篤な際には圧迫性視神経症により失明に至ることもある。視神経症の治療はステロイドパルス療法が第一選択で,治療効果を認めない際には眼窩減圧術が必要となる。今回我々は,甲状腺眼症による視神経症例に対して鼻内内視鏡下での眼窩減圧術を行った2症例を経験したので報告する。症例1は53歳女性で,症例2は51歳女性である。両者ともバセドウ病による甲状腺眼症であり,症例2は2回目の放射線ヨード治療を契機に視神経症を発症した。症例1は右眼,症例2は両眼の急激な視力低下をきたし,ステロイドパルス療法で視力の改善が無いため眼窩減圧術目的に当科に紹介となった。手術は鼻内内視鏡下に両側の眼窩内側壁と下壁内側の骨壁を除去し,骨膜を切開して眼窩内容物を篩骨洞内に逸脱させることで減圧した。両症例とも術後の視力は著明に回復し,およそ一年後に斜視手術を行うことで術後に悪化した複視も消失した。

    鼻内内視鏡下での眼窩減圧術は,海外では1990年代より広く普及している。しかし,国内では眼科医により眼窩減圧術が行われることが多く,耳鼻咽喉科からの鼻内内視鏡下での眼窩減圧術の報告は殆ど無い。手技的には鼻内内視鏡手術に慣れている耳鼻咽喉科にとっては比較的容易に,かつ安全に行うことが可能であり,内分泌内科,眼科との連携を取ることで本疾患での耳鼻咽喉科医の貢献が可能と思われる。

報告
  • 神田 晃, 野山 和廉, 尹 泰貴, 加島 愛, 竹野 幸夫, 岡野 光博, 泉 恵子, 大場 利治, 小林 良樹, 友田 幸一, 藤枝 重 ...
    2016 年 55 巻 2 号 p. 176-185
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/23
    ジャーナル フリー

    第53回日本鼻科学会総会・学術講演会(2014年9月:大阪)において,基礎研究に対する臨床医の知識や技術レベルの維持と向上,基礎研究に対するモチベーションの向上,各大学間の横の連携を図ることを目指して基礎研究ハンズオンセミナーを開催した。参加者へのアンケート調査結果から基礎ハンズオンセミナーの継続が期待されていることがわかった。そこで,前回指摘された改善点を反映させた内容で第54回日本鼻科学会総会・学術講演会(2015年10月:広島)において第2回目となる基礎研究ハンズオンセミナーを企画した。また,セミナー終了後に参加者にアンケート調査をおこない,本学会総会・学術講演会における基礎的演題数の追加調査をおこなった。基礎的演題数の割合は依然低かったが,アンケート調査では,実演時間に関して94%が「適切だった」と回答し,内容に関しても98%が「大変よかった」あるいは「よかった」と回答した。本報告では,今回おこなわれた基礎ハンズオンセミナーの取り組みの概要,調査結果,今後の展望などに関して報告する。

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