日本鼻科学会会誌
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56 巻, 2 号
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原著
  • 今野 渉, 柏木 隆志, 宇野 匡祐, 後藤 一貴, 春名 眞一
    2017 年 56 巻 2 号 p. 97-102
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/26
    ジャーナル フリー

    好酸球性副鼻腔炎(eosinophilic chronic rhinosinusitis,以下ECRS)は難治性で内視鏡下副鼻腔手術(endoscopic sinus surgery,以下ESS)の後に再燃することが少なくない。今回我々は,ECRS術後の再燃をコントロールするために,ECRS再燃例24例に対してトリアムシノロンアセトニド注射液(ケナコルト®)添加サージセル®を篩骨洞,嗅裂に留置する処置を行い,その効果を検討した。1度処置を行ったA群と2週間の間隔で2度処置を行ったB群を比較すると,2週間後では自他覚所見ともに有意に改善効果が得られた。しかし,1度目の処置後4週間ではB群では改善効果は維持されたが,A群では減弱する傾向が得られた。1度目の処置後4週間に測定した血中ACTHとコルチゾール値は正常範囲であり,ステロイド薬による副作用の危険性は少ないと考えられた。ECRS術後の再燃時に経口ステロイド薬を使用しないで,局所ステロイド処置でコントロールできる可能性が示唆された。

  • 後藤 理恵子, 米崎 雅史
    2017 年 56 巻 2 号 p. 103-109
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/26
    ジャーナル フリー

    悪性リンパ腫は全身疾患であり様々な初発症状を生じるが,脳神経の単神経障害を初発症状とすることは稀である。しかし蝶形骨洞や翼口蓋窩周囲に病変が存在する場合には動眼神経や三叉神経障害を呈することがあり,鑑別疾患の一つとして留意しておく必要がある。今回,頭蓋内に明らかな病変がないにもかかわらず三叉神経の単神経障害を初発症状とした非常に稀な悪性リンパ腫症例を経験したので報告する。

    症例は73歳女性。右口腔内の痛みと右下口唇・下顎部のしびれをきたし歯科口腔外科を受診した。歯科的な異常は認められず脳神経外科紹介となったが,頭部MRIで副鼻腔炎を認めたため当科を紹介された。右三叉神経第2・3枝領域の知覚障害があり,右鼻腔に壊死を伴うポリープ病変を認めた。またCTでは,右後篩骨洞から蝶形骨洞にかけて一部骨破壊や骨の菲薄化を伴う軟部陰影があり,右外側翼突筋周囲にも腫瘤陰影がみられた。鼻内からの生検の結果,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と診断された。FDG-PETで複数の節外臓器に集積を認めたためStage IVと診断され,血液内科でR-CHOP療法と放射線治療を施行し寛解がえられた。

  • 佐々木 崇暢, 石岡 孝二郎, 若杉 亮, 池田 良, 池田 正直, 奥村 仁, 堀井 新
    2017 年 56 巻 2 号 p. 110-118
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/26
    ジャーナル フリー

    副鼻腔真菌症は真菌が眼窩内や頭蓋内へと浸潤し致命的となる浸潤型と,限局した病変を呈する非浸潤型に大別される。我々は3年間に6例の浸潤型副鼻腔真菌症を診断加療し,その臨床的特徴と予後に関して検討した。

    症例は71から86歳の男性で,発症からの経過により急性浸潤型1例,亜急性浸潤型4例,慢性浸潤型1例と分類した。3例でβ-Dグルカンおよびアスペルギルス抗原の上昇を認め,急性浸潤型症例では共に高値であった。全例に手術による病変除去を行ったが,慢性浸潤型を除く5例で副鼻腔外へ進展する壊死組織が見られ,重要臓器近傍の病変は残存した。病理学的検査では3例で真菌の粘膜下浸潤が確認できたが,壊死組織では真菌の浸潤は検出できなかった。病原菌はいずれもアスペルギルスだった。周囲組織浸潤を伴う5例に抗真菌薬の全身投与を行い,β-Dグルカン,アスペルギルス抗原を治療効果判定の1つとした。急性浸潤型の1例は術後4か月で他病死となったが,残る亜急性・慢性浸潤型は5例全例再燃なく経過している。

    浸潤型副鼻腔真菌症の治療には外切開による広範囲手術が推奨されているが,ESSによる病変除去に加え,厳格な全身管理,抗真菌薬の全身投与により急性浸潤型も含めてある程度の病勢制御は可能と考えられた。アスペルギルスが病原菌の場合,β-Dグルカンやアスペルギルス抗原が浸潤程度と相関し,病型とともに予後判定因子として有用である可能性が示唆された。

  • 西田 直哉, 高橋 宏尚, 高木 大樹, 能田 淳平, 羽藤 直人
    2017 年 56 巻 2 号 p. 119-124
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/26
    ジャーナル フリー

    髄液鼻漏は経蝶形骨洞手術(transsphenoidal surgery, TSS)の重要な合併症の一つで,その頻度は1.5–40%と報告されている。通常,髄液鼻漏は術後数日以内に発生し,遅発性に髄液鼻漏が発生した報告は少ない。今回我々はTSS後,遅発性に髄液鼻漏を生じ,鼻中隔粘膜弁を用いて閉鎖術を行った2例を経験したので報告する。

    症例1は59歳,女性で,頭蓋内・海綿静脈洞に浸潤する下垂体腺腫に対してTSSによる摘出術を行い,残存腫瘍に対して放射線治療を計50Gy行った。術後15か月後に髄液鼻漏発症し,脂肪と筋膜による閉鎖術施行されたが,その4か月後髄液鼻漏再発し,鼻中隔粘膜弁を用いた多重閉鎖法を行い,その後再発は認めていない。

    症例2は61歳女性で,他院での頭部MRIにてトルコ鞍部腫瘍を指摘され,TSSによる生検を施行したところ,肺腺癌の下垂体転移と診断された。化学療法を行うも腫瘍増大傾向を認めたため,同部位にガンマナイフ治療施行され,その後化学療法継続していた。TSS後17か月目に意識消失発作あり,近医に救急搬送され,頭部CTにて気脳症を認め当院へ転院となった。全身麻酔下に鼻中隔粘膜弁を用いた多重閉鎖法による髄液鼻漏閉鎖術を行った。その後髄液鼻漏の再発はなかったが,病状の進行により,術後1年11か月後永眠された。

    今回の症例のように,TSS術後遅発性に髄液鼻漏が生じた例では,放射線治療の既往など,閉鎖材料が生着しにくい要因があるため,鼻中隔粘膜弁を用いた閉鎖方法が非常に有用であると考えられた。

  • 松見 文晶, 清水 雅子
    2017 年 56 巻 2 号 p. 125-133
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/26
    ジャーナル フリー

    鼻中隔膿瘍は日常臨床で遭遇することは少ないが,鞍鼻や頭蓋内合併症などを来さないよう適切な対応が求められる。今回我々は,稀な真菌性鼻中隔膿瘍の1例を経験したので報告する。

    症例は89歳男性。発熱,鼻根部痛にて前医を受診し急性副鼻腔炎の診断で入院,抗菌薬治療を受けたが改善せず,当科を紹介受診した。鼻背は腫脹し圧痛を認め,鼻中隔は高度に発赤腫脹していた。副鼻腔CTでは鼻中隔前方の腫脹と左上顎洞に石灰化を伴う軟部陰影を認め,右副鼻腔は全て陰影を認めた。鼻中隔穿刺にて膿が吸引され鼻中隔膿瘍と診断し,切開排膿・ドレーン留置と抗菌薬投与を行ったが改善に乏しく,膿からの糸状菌検出と血清β-Dグルカン上昇から真菌性鼻中隔膿瘍と診断しVRCZの投与を開始した。副鼻腔病変の関与を疑い両ESSと鼻中隔の生検を施行した。両上顎洞内に認めた乾酪様物質は病理学的にAspergillusの菌塊と診断され,鼻中隔軟骨に真菌浸潤を認めた。後日,鼻中隔の膿培養からAspergillus fumigatusが同定された。症状軽快にて第26病日退院となったが鞍鼻は残存した。6ヶ月間VRCZ投与を行い,治療終了後も再燃は認めていない。

    真菌性鼻中隔膿瘍は易感染性宿主や糖尿病合併例,副鼻腔真菌症合併例がリスクといえる。これらの背景を持つ鼻中隔膿瘍患者では,真菌も原因微生物として当初から鑑別に挙げて対応することが必要である。

  • 武田 淳雄, 矢富 正徳, 小川 恭生, 野本 剛輝, 勝部 泰彰, 岩澤 敬, 縣 愛弓, 田中 英基, 塚原 清彰
    2017 年 56 巻 2 号 p. 134-139
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/26
    ジャーナル フリー

    ADH不適合分泌症候群(以下SIADH)は血漿浸透圧の低下にも拘らず非生理的なADH分泌が続く状態である。原因に脳外科手術後,頭蓋内疾患,肺疾患,薬剤性がある。今回蝶形骨洞炎術後に発症したSIADHの1例を経験したため報告する。症例は33歳男性,頭痛を主訴に近医を受診した。頭部MRIにて右蝶形骨洞炎が疑われ,症状出現から6日後当科を受診となった。CT,MRIにて右蝶形骨洞炎を認めた。髄膜炎の合併を疑うも腰椎穿刺で否定され同日当科入院となった。保存的加療に抵抗性で,入院4日目に内視鏡下副鼻腔手術を施行した。術中蝶形骨洞内は膿汁が充満し,トルコ鞍底骨に小穿孔を認めた。髄液漏は認めないと判断し,遊離粘膜弁で穿孔部を閉鎖し手術を終了した。術後3日目に頭痛が再出現し,採血でNa 126mEq/Lと低Na血症を認めた。点滴補正を開始したが,術後4日目にも頭痛増悪あり,嘔気も出現し,Na 119mEq/Lと更なる低下を認めた。SIADHと診断し,点滴補正の強化と飲水制限を開始した。経時的にNaは上昇し,臨床症状も改善した。術後11日目に退院となった。本症例はトルコ鞍底骨の小穿孔から下垂体へ手術侵襲がかかり,術後SIADHを発症したと推測している。本経験から蝶形骨洞に手術操作を加える際はSIADHを含む下垂体ホルモン異常による術後合併症にも注意を払うべきであると考える。

  • 赤澤 仁司, 前田 陽平, 岡﨑 鈴代, 端山 昌樹, 武田 和也, 津田 武, 識名 崇, 猪原 秀典
    2017 年 56 巻 2 号 p. 140-146
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/26
    ジャーナル フリー

    オスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)は,皮膚・粘膜の毛細血管拡張や多臓器の動静脈奇形を特徴とする常染色体優性遺伝疾患で,鼻出血・奇異性脳塞栓・消化管出血などの症状を呈する。特に鼻出血はオスラー病患者の90%以上に認められる。オスラー病による鼻出血に対する外科的治療の一つに鼻粘膜焼灼術があり,KTPレーザーが広く用いられてきたが,近年は高周波電気凝固装置コブレーションシステム(コブレーター)を用いた鼻粘膜焼灼術による報告も散見される。コブレーターは低温処理可能なバイポーラーシステムであり,周囲組織への熱損傷が軽減される。また近年,オスラー病に伴う鼻出血の重症度を表す指標としてEpistaxis severity scoreが国際的に多く用いられている。

    今回,保存加療に抵抗するオスラー病に伴う鼻出血に対して,コブレーターを用いた鼻粘膜焼灼術を6例12件施行した。術前後経過を正確に追えた10件のEpistaxis severity scoreについて検討を行った。Epistaxis severity scoreは術前と比較して,術後2週間・術後2ヵ月で有意に低下していた。コブレーターを用いた鼻粘膜焼灼術は保存加療に抵抗する場合は有用な選択肢と考えられた。

  • 岸川 敏博, 西池 季隆, 田中 秀憲, 中村 恵, 大島 一男, 富山 要一郎
    2017 年 56 巻 2 号 p. 147-153
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/26
    ジャーナル フリー
    電子付録

    浸潤型副鼻腔真菌症は骨破壊や周囲組織への浸潤を来し,かつては予後不良な疾病として知られていたが,近年では治療奏功例の報告も増えている。当院では過去2年間に同疾患2例の加療を行ったので報告する。症例1は77歳男性,受診2週間前より右頬部痛を生じ,右上顎洞に骨破壊病変を認めたことから,経鼻内視鏡下に右上顎洞から生検を行いアスペルギルス症と診断した。術後抗真菌薬投与を継続したが,7ヵ月後に右頬部痛が再発,病巣の翼口蓋窩への浸潤を認め,右内視鏡下上顎側壁開窓術を行った後に,厳重な抗真菌薬のコントロールによって良好な経過を得た。症例2は71歳男性,受診5ヵ月前から右目の視力が低下し,3ヵ月前に失明,1ヵ月前から右前額部痛が生じた。右眼窩先端から蝶形骨洞に広がる腫瘤影と視神経の圧迫を認め,右蝶形骨洞・眼窩内からの経鼻内視鏡下生検でアスペルギルス症と診断した。術後抗真菌薬継続も7ヵ月後に前額部痛の増強と内視鏡所見の悪化を認め,真菌症の増悪を疑い経鼻内視鏡下に眼窩先端部掻爬術を行った後に,抗真菌薬のコントロールによって良好な経過を得ている。両症例ともに病変の進展度に応じた減量手術が有効であったと考えられた。浸潤型副鼻腔真菌症の治療には速やかな確定診断と適切な抗真菌薬投与・外科的治療,また慎重な術後経過観察が重要である。

  • 讃岐 徹治, 秀 拓一郎, 湯本 英二
    2017 年 56 巻 2 号 p. 154-159
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/26
    ジャーナル フリー

    嗅神経芽細胞腫は嗅粘膜上皮から発生する悪性腫瘍で,今まで鼻腔側および頭蓋側の両側からのアプローチによる摘出術が行われてきた。近年,内視鏡下鼻内手術の適応拡大が急速に進み,頭蓋底疾患に対しては良性腫瘍や一部の悪性腫瘍においても内視鏡下鼻内手術が用いられてきている。嗅神経芽細胞腫に対しても内視鏡下鼻内手術による摘出術の報告が多くみられ,本邦においても良好な成績が報告されている。しかし硬膜浸潤の有無により5年生存率が大きく異なると報告され,特に頭蓋内浸潤したKadish分類 Stage Cにおける術式選択は施設間により異なる。

    我々は頭蓋内進展を伴った嗅神経芽細胞腫に対し経鼻内視鏡的アプローチにより摘出した一例を経験したので報告する。症例は60歳男性,鼻閉,嗅覚障害を主訴に当院を紹介受診となった。鼻内内視鏡所見にて総鼻道を占拠する赤色腫瘤を認め,副鼻腔MRI所見では総鼻道から嗅裂最深部に広がる腫瘍性病変を認め,頭側は篩骨篩板を越えて頭蓋内へ進展していた。全身麻酔下で内視鏡下に鼻内から腫瘍を摘出した後,大腿四頭筋膜と鼻腔底粘膜を付けた大きな鼻中隔粘膜弁を用いて頭蓋底を再建した。術後放射線治療を実施し,術後12ヶ月を経た現在合併症や再発は認めていない。頭蓋内に伸展する嗅神経芽細胞腫の場合でも内視鏡下手術による摘出は可能であり,そのために耳鼻咽喉科医と脳神経外科医とで経鼻内視鏡頭蓋底手術チームを結成が重要と考える。

  • 飯村 慈朗, 中上 桂吾, 積山 真也, 森 恵莉, 浅香 大也, 宮脇 剛司, 小島 博己, 鴻 信義
    2017 年 56 巻 2 号 p. 160-166
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/26
    ジャーナル フリー

    今回我々は,Killian approach軟骨保存法による鼻中隔矯正術後に安静時の鼻閉は改善するも斜鼻が増悪し,労作時の左鼻閉を訴え,open septorhinoplastyによる再手術を要した症例を経験した。機能的鼻閉の原因として鼻弁狭窄があることが再認識された。そして斜鼻が増悪したのは,鼻中隔軟骨切開により外鼻と鼻中隔との力の均衡がくずれたことが主な原因と推測した。鼻中隔矯正術の術式決定は,鼻中隔の形態のみから判断するのではなく,外鼻変形なども考慮し,鼻中隔と外鼻を一連のものとして矯正するべきと考える。

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