日本鼻科学会会誌
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57 巻, 2 号
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原著
  • 許 芳行, 平野 康次郎, 森 智昭, 比野平 恭之, 小松﨑 敏光, 渡邊 荘, 小林 一女
    2018 年 57 巻 2 号 p. 121-125
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー

    近年様々な全身合併症を有する症例の内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)を施行する機会が増加している。このような症例ではESSの手技自体には直接関係しない予期せぬ合併症に遭遇し,一般病棟に帰室できず,集中治療室(ICU)管理となることがある。2012年8月から2016年7月までに昭和大学病院耳鼻咽喉科でESSを施行した症例のうち,術中,術後の合併症でICUに入室となった患者は5例であった。4例は気管支喘息を合併した好酸球性副鼻腔炎症例で,その内訳はアナフィラキシーショックが2例,回復室での喘息発作が1例,術中の血圧およびST低下が1例であった。4例ともに手術翌日には後遺症なく一般病棟に転室した。残る1例は右上顎嚢胞症例であった。術中・術直後にST上昇を伴う非持続性心室頻拍(NSVT)が出現したためにICUに入室し,循環器内科転科となった。緊急冠動脈造影検査では有意な狭窄を認めなかったが,4日後に施行したアセチルコリン負荷試験で冠攣縮性狭心症が疑われた。その後の再発は認めていない。好酸球性副鼻腔炎に合併する気管支喘息はもちろんであるが,高齢化社会になるにつれて様々な合併症を有するESS症例が今後も増加することが予想される。これらの症例の周術期管理には,より一層の注意が必要である。

  • 冨岡 亮太, 中村 一博, 服部 和裕, 塚原 清彰
    2018 年 57 巻 2 号 p. 126-129
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー

    過剰歯とは何らかの原因で過剰に形成された歯胚により歯牙が正常な数より多く作られたものである。Hattabらは過剰歯の発生頻度は0.15–3.8%と報告しており,本邦においては渡辺らが1.48%と報告している。一般的に過剰歯は上顎の正中にできる正中過剰歯が多いが,上顎小臼歯や下顎小臼歯,上顎洞内,鼻腔内に発生するものも報告がある。今回我々は本邦初の鼻中隔後端に発生した過剰歯を経験したので報告する。症例は7歳女児。鼻内悪臭,繰り返す鼻出血を主訴に近医受診し,後鼻孔に腫瘤性病変を認め当科紹介となった。初診時,鼻腔ファイバースコープ所見にて鼻中隔後端に痂皮付着を伴うポリープ様の腫瘤を認めた。診断・摘出目的に全身麻酔での摘出術を行った。手術検体より2本の歯牙が摘出され病理検査にて正常歯牙構造,腫瘤表面は扁平上皮化生であり感染を伴った過剰歯と診断した。小児では副鼻腔炎に伴う鼻内悪臭や,指刺激による鼻出血は日常臨床で多い主訴で,鼻処置や投薬のみで対応することも多い。しかし,自験例の様な腫瘤症例も混在することがある。そのため,稀ではあるが難治性の場合,内視鏡や画像検査で腫瘍の有無を確認することが望ましい。術後悪臭や鼻出血の訴えも消失した。

  • 鈴木 成尚, 藤岡 正人, 荒木 康智, 川浦 光弘, 國弘 幸伸, 小川 郁
    2018 年 57 巻 2 号 p. 130-137
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー

    2012年10月から2015年3月に後鼻神経切断術を施行した症例の治療成績および合併症について後方視的検討を行った。

    治療効果の評価には鼻アレルギー診療ガイドライン2016の重症度分類の症状アンケートを用い,くしゃみ・鼻汁・鼻閉および日常生活の支障度の4項目(0–4点の5段階のスコア)について定量的に評価した。手術を施行した44例中33例から回答が得られ,スコアの変化,有効率,薬剤使用割合,合併症について検討した。観察期間は平均10.0±6.4ヶ月間であった。術式は中鼻道経由で蝶口蓋動脈基部からの後鼻神経切断術であり,全例に粘膜下下鼻甲介骨切除術を,また必要な症例には鼻中隔矯正術も併施した。

    術前・術後のスコアはくしゃみ1.84→0.69,鼻汁2.28→1.00,鼻閉2.94→0.63,日常生活支障度2.31→0.66と低下を認めた。スコア1以上の改善を「有効」とした際の有効率はくしゃみ65.6%,鼻汁78.1%,鼻閉93.8%,日常生活支障度93.8%であった。薬剤常用者の割合は術前84.1%から術後20.5%に減少した。術前スコア「各1点,2点,3点,4点」以上を境界に分類すると,有効率はくしゃみ「77.8%,94.1%,100%,100%」,鼻汁「78.1%,95.7%,100%,100%」となった。再手術を要した術後出血は2例2側(3.0%)だった。

    後鼻神経切断術は通年性アレルギー性鼻炎患者の症状および日常生活の支障度を改善する有効な治療法と考えられた。薬剤使用割合を減少させることが期待され,特に症状スコア2以上のくしゃみ,鼻汁を訴える症例には良い適応と考えられた。

  • 浦口 健介, 牧原 靖一郎, 内藤 智之, 假谷 伸, 中川 隆之, 岡野 光博, 西﨑 和則
    2018 年 57 巻 2 号 p. 138-144
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー
    電子付録

    線維性骨異形成症は非腫瘍性の線維性骨病変であり,頭蓋顔面領域に発生することが多い。今回,蝶形骨洞線維性骨異形成症に対して内視鏡手術で摘出した症例を経験したので報告する。症例は26歳男性。前医で頭痛の精査のためCTを撮影したところ蝶形骨洞に陰影が認められ当科紹介となった。初回の内視鏡下生検手術時の病理組織検査は化骨性線維腫の疑いという診断であった。その後,経鼻内視鏡下に腫瘤摘出術を行い,最終的には線維性骨異形成症の診断となった。術後1年半経過しているが再発はなく無症状で経過観察中である。

  • 馬場 信太郎
    2018 年 57 巻 2 号 p. 145-152
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー

    頭蓋骨早期縫合症症例は顔面骨の低形成を伴うため,上気道の狭窄による呼吸障害を呈する。今回,我々は本疾患群の鼻腔咽頭狭窄による呼吸苦を呈した3症例,内訳はApert症候群2症例,Pfeiffer症候群1症例を経験した。本症例群は3例全例に下鼻甲介腫脹,2例はアデノイド肥大を呈しており,3例に粘膜下下鼻甲介骨切除術,2例に内視鏡下にマイクロデブリッダーを用いたアデノイド切除術を行い,患児の良好な呼吸状態を得た。

  • 久保田 俊輝, 飯村 慈朗, 岡田 晋一, 菊地 瞬, 三浦 正寛, 千葉 伸太郎, 太田 史一, 吉川 衛, 小島 博己, 鴻 信義
    2018 年 57 巻 2 号 p. 153-158
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー

    2015年7月1日より好酸球性副鼻腔炎が難病疾患として指定され,診断基準や重症度分類も制定された。抗菌薬は無効であり,経口ステロイドのみに反応するとされている。しかし,臨床の場においては診断基準で好酸球性副鼻腔炎であっても,従来のマクロライド少量長期投与療法にて症状が改善する症例を経験する。そこで我々はJESREC Studyを基に好酸球性副鼻腔炎疑い症例に対するマクロライド少量長期投与療法の治療効果を検討した。

    2010年4月から2011年3月,2013年6月から2013年12月に耳鼻咽喉科外来を受診し慢性副鼻腔炎と診断した患者180例を対象とした。マクロライド少量長期投与療法を12週間行い,アレルギー性鼻炎を合併する例,鼻茸が存在する例にはそれぞれ抗アレルギー薬,鼻噴霧用ステロイド薬を併用した。初診時,治療後も採血検査,CT検査,アンケート調査を施行した。対象患者の中でJESREC スコア11点以上の患者は63名で,重症度分類では軽症16例,中等症41例,重症6例であった。各群の治療前後のCT検査の結果を軟部濃度陰影の改善率で評価した。

    検討の結果,中等症以上の好酸球性副鼻腔炎においてはマクロライド少量長期投与療法の効果を得られにくいが,軽症の好酸球性副鼻腔炎においては,嗅覚障害の度合がマクロライド少量長期投与療法の効果に影響を与える可能性があることがわかった。

  • 関根 基樹, 金田 将治, 斎藤 弘亮, 山本 光, 飯田 政弘
    2018 年 57 巻 2 号 p. 159-165
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー

    上顎洞血瘤腫は,上顎洞に陳旧様々な血液成分が貯留して腫瘤状に拡大する臨床上診断名である。疾患の特異性から通常の炎症性疾患や乳頭腫のような腫瘍性疾患とは異なる手術手技が必要だが,その詳細を示した報告は少ない。内視鏡下手術を行った上顎洞血瘤腫6例を示し,手術手技の詳細について報告する。

    年齢は14歳~68歳で男性3例,女性3例であった。術前に血管塞栓術を行った症例はなかった。すべての手術はESSで行い,5例は中鼻道経由のみで,1例はendoscopic modified medial maxillectomyによるアプローチで行った。手術時間は71分~106分で,出血量は全て100ml以下だった。

    【手術法】鼻腔側に膨隆する部位を鼻涙管の位置に注意して粘膜切開する。内部の腫瘤と洞粘膜との間にガーゼを入れ,剥離をすすめる。外側や前壁,下壁方向は彎曲した鉗子や吸引管を用いて,ガーゼをまわしこむようにして腫瘤周囲に入れていくことで,周囲壁から腫瘤を挙上する。鼻腔側に腫瘤を出した時点で超音波凝固装置を用いて分割切除する。流涙がある症例では,術中に涙道通水検査を行う。

    上顎洞血瘤腫の内視鏡下手術手技の詳細を述べた。適切なデバイスを併用することで出血の制御が可能であり,術前血管塞栓術を必要とする症例はなかった。流涙がある症例では,術中に涙道評価を行う。

  • 進 保朗, 御厨 剛史, 谷川 健, 梅野 博仁
    2018 年 57 巻 2 号 p. 166-170
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー

    術後性副鼻腔嚢胞の症状は痛みを伴う頬部症状が大半を占めるが,嚢胞の進展方向によって眼症状,鼻閉等多彩な症状をきたす。今回我々は,嚢胞が外側翼突筋を圧排し開口障害をきたしたと考えられた症例を経験したので報告する。症例は72歳男性で,開口障害を主訴に来院した。開口は約15mmで,単純CT検査で左上顎部に約40×50mmの嚢胞性病変を認めた。同日局所麻酔下に緊急手術を施行した。手術は経鼻内視鏡下に施行した。可及的に開窓後,開窓部位の狭窄や閉塞を予防する目的で,下鼻道鼻腔底を茎とする有茎の粘骨膜弁を用いて開窓部位を覆った。術直後にはあまり改善は認めなかったが,手術3日後より徐々に開口障害は改善し始め,術後1週間後には日常生活には支障ない程度に改善した。術後3か月の鼻内およびCT 所見では嚢胞の再発はなく開口障害も約50mmに改善し経過は良好である。

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