日本鼻科学会会誌
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58 巻, 4 号
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総説:第57回 日本鼻科学会学術大会 招聘講演3
  • 吉原 晋太郎, 清野 宏
    2019 年 58 巻 4 号 p. 635-642
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    広大な面積を有する気道粘膜や消化管粘膜は,微生物を含む無数の有益,および有害な抗原に継続的に曝露されている。多種多様な外来抗原に対して粘膜面では,上皮-間葉系細胞,免疫細胞,および共生微生物叢などから構成される粘膜マルチエコシステムが,互いにコミュニケーションを取りながら,調和のとれた生態系を形成し,「共生と排除」という相反する生体応答を巧みに誘導・制御していることが近年の研究から明らかとなってきている。

    鼻咽頭および腸管に位置する二次リンパ組織である粘膜関連リンパ組織(MALT)は,抗原特異的免疫応答の開始地点となる重要な構造であり,抗原特異的T細胞およびB細胞の誘導のために必要な管腔側からの抗原補足,処理および提示機能を備えている。抗原提示により活性化されたリンパ球は,各種遠隔粘膜面への選択的な移行のため粘膜指向性分子(CCR9やα4β7など)を獲得し,それぞれの粘膜面で抗原特異的分泌型IgA(SIgA)抗体産生などに携わる。つまり,経鼻および経口免疫により,全身免疫誘導とともに,呼吸器,消化器,生殖器などの粘膜部位での抗原特異的な免疫応答を誘導する。

    これらの基礎的知見を基盤とし,我々はカチオン化コレステリル基含有プルラン(cCHP)Nanogelを使用した新規経鼻ワクチンシステムを開発している。cCHP Nanogelに組み込まれたワクチン抗原は,嗅球を介した中枢神経への移行がなく,強力な抗原特異的粘膜および全身性免疫応答を誘導することを明らかにしてきた。cCHPベースのNanogelは,安全で効果的な経鼻ワクチンデリバリーシステムと考えられ,呼吸器感染症に対する次世代型粘膜ワクチンとして今後の開発が期待される。

原著
  • 熊田 純子, 中屋 宗雄, 伊東 明子
    2019 年 58 巻 4 号 p. 643-646
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    MALTリンパ腫とは悪性リンパ腫の一種で,B細胞が腫瘍化する非ホジキンリンパ腫である。胃,大腸,眼科領域などに好発し,頭頸部領域においては甲状腺,唾液腺に多く発生する。治療法としては放射線治療,外科的切除,化学療法などが考慮されるが,今回我々は涙嚢原発MALTリンパ腫に対して,外科的切除で良好な経過が得られた症例を経験したので報告する。

    【症例】77歳女性

    2ヶ月前から増大する右内眼角の腫瘤と流涙を主訴に前医を受診し,当院皮膚科に紹介された。画像検査で右涙嚢から鼻涙管にかけて1.9cmの楕円形の腫瘤性病変を認め当科に紹介された。細胞診ではリンパ球が多くみられ,涙嚢原発のリンパ腫を疑い診断的治療目的のため右涙嚢腫瘍摘出術と右内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術を行った。病理組織診の結果MALTリンパ腫と診断されたが,術後のPETでは明らかな異常集積を認めず追加治療は行わず経過観察した。術後1年半以上経過しているがその後の精査でも明らかな再発なく経過している。

    【まとめ】

    外科的切除のみで臨床上1年半以上再発のない涙嚢原発MALTリンパ腫を経験した。限局期の治療法としては外科的切除や放射線治療が考慮されるが,眼付属領域の放射線治療においては結膜炎や白内障などの副作用の頻度も高い。外科的治療で完全切除できたと考えられる場合は慎重な経過観察も選択肢の一つであると考えられた。

  • 伊東 明子, 中屋 宗雄, 熊田 純子, 木田 渉, 渕上 輝彦
    2019 年 58 巻 4 号 p. 647-653
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    近年,歯性上顎洞炎の原因歯は未治療の齲歯であることは少なく,根管治療後の臼歯が多い。原因歯に対する治療は,抜歯するか保存するかについては明確な方針が定まっていない状況である。2017年4月から2018年3月までに歯性上顎洞炎の診断で内視鏡下鼻内副鼻腔手術を行った29例について検討した。平均年齢55歳(21~87歳),男性16例 女性13例であった。原因歯が根尖性歯周炎であった症例が13例,根尖性歯周炎に辺縁性歯周炎を合併していた症例が8例,原因歯が残根であった症例が2例,その他が6例であった。原因歯は,6番13例 7番11例と大臼歯が圧倒的に多かった。歯科への通院状況は,最近の通院なしが9例,診察で異常なしが3例,治療終了,治療中がそれぞれ5例,4例,抜歯後が5例であった。根尖病巣を伴う23例のうち,歯の自覚症状があったのは3割にとどまった。垂直動揺を認める原因歯と,明らかな残根は,術前/術中に抜歯し,それ以外の原因歯は副鼻腔手術を先行して経過をみた。手術は,全例で上顎洞内の病的粘膜の除去と入念な洗浄を行い,11例で経上顎洞的に根尖病巣の感染肉芽の除去を行った。術後に残根と判明した1例と,辺縁性歯周炎を合併していた1例で術後経過不良により抜歯を行った。観察期間平均10か月で,副鼻腔炎は全例で治癒し,残根を除く21例の原因歯保存率は86%と良好な結果を得た。

  • 進 保朗, 御厨 剛史, 鶴丸 修士, 梅野 博仁
    2019 年 58 巻 4 号 p. 654-660
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    眼窩骨膜下に血腫形成をきたし,内視鏡下鼻内手術(ESS)で治療した一例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。症例は77歳の女性。2017年X月Y日昼より,左眼瞼腫脹,眼球突出があり,近医眼科受診され,抗菌剤の処方をされた。Y日の2日後に当院眼科に紹介され,当科に紹介となった。副鼻腔CTでは両上顎洞,両篩骨洞,両前頭洞に陰影を認め,左眼窩内に骨膜下膿瘍を疑う所見を認めた。入院にてセフォゾプラン塩酸塩(ファーストシン®),クリンダマイシンリン酸エステル(クリンダマイシン®),ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム(ソル・コーテフ®)を開始した。X月Y日の3日後,局所麻酔下にESSを施行した。術中所見では左上顎洞,左篩骨洞,左前頭洞から膿汁排出がみられたが,出血が多く術野不良のため,紙様板への操作は行わなかった。術後,眼球突出は若干の改善を認めたものの残存し,視力障害は進行した。Y日の5日後,再度CT施行したが左眼窩内病変が改善しないため同日再手術を施行した。左眼窩上方の確認をするため,前篩骨動脈を明視下におき,眼窩紙様板を除去し眼窩骨膜下を剥離したところ,赤褐色の浸出液の排出が認められた。細菌検査で陰性であったことや,臨床経過から眼窩骨膜下血腫と診断した。術後経過良好にて再手術2日後にパッキングを抜去し,同日退院となった。病態・個体差にもよるが,適応を慎重に選択すれば前篩骨動脈を保存する眼窩上方へのアプローチが可能であると考えた。

  • 竹内 万理恵, 坂本 達則, 金丸 眞一
    2019 年 58 巻 4 号 p. 661-665
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    副鼻腔の解剖学的バリエーションについてCTを用いて検討した報告は過去にもあるが,その頻度は様々である。当科で経験した症例について,副鼻腔の解剖学的バリエーションについて検討を行った。対象は2016年4月1日より2018年3月31日までに副鼻腔炎または鼻腔形態異常に対して初回鼻内視鏡手術を行った65症例130側である。対象は全員日本人で,年齢は6歳から96歳まで男女比は2.5:1であった。疾患は両側性副鼻腔炎が24例,片側性副鼻腔炎が26例,鼻中隔弯曲症等の鼻腔形態異常が15例であった。術前CT(冠状断および軸位断)を用いて,Onodi cellやHaller cell,頭蓋底より離れて存在する前篩骨動脈(Floating anterior ethmoidal artery: Floating AEA)の保有率を検討した。全症例中,Onodi cellは32.3%,Haller callは25.4%,Floating AEAは35.0%であった。Onodi cell,Haller cell,Floating AEAの保有率は,副鼻腔の炎症の有無による有意差を認めなった(P=0.23,P=0.17,P=0.63)。

  • 平野 康次郎, 洲崎 勲夫, 徳留 卓俊, 新井 佐和, 藤居 直和, 嶋根 俊和, 小林 一女
    2019 年 58 巻 4 号 p. 666-672
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    歯性副鼻腔炎は歯性感染が上顎洞および副鼻腔に波及した疾患である。不十分な根管治療後の根尖病巣や歯根嚢胞が原因となることが多い。歯根嚢胞による歯性副鼻腔炎では原因歯の治療が必要であり根管治療や歯根端切除術などが試みられるが,開口状態で行う根管治療の限界や,歯根形態や根管形態により完全な根管治療を行うことは困難であり抜歯となるケースが多い。今回我々は,歯根嚢胞による歯性副鼻腔炎の患者に対しEndoscopic Modified Medial Maxillectomy(EMMM)によって経上顎洞的に歯根嚢胞を切除し,歯根端切除術を行うことにより歯牙を温存し良好な経過を得た症例を経験したので報告する。

    EMMMで上顎洞にアプローチし,ナビゲーションで歯根嚢胞の位置を同定し歯根嚢胞を切除した。その後に経上顎洞的にダイヤモンドバーで歯根端切除術を行った。術後経過は良好であり術後1年6か月の時点で歯牙は温存され歯根嚢胞の再発は認めていない。

    EMMMは鼻腔形態を保ちつつ上顎洞への広い視野と操作性が確保できる手術方法であり,上顎洞底部の病変である歯根嚢胞に対して有用であった。また,経上顎洞的にアプローチすることにより歯根尖切除も可能であった。今後長期の経過観察とさらなる症例の蓄積が必要であるが,歯牙温存希望の歯性副鼻腔炎の患者において選択肢の一つとなり得る術式と考えられる。

  • 東海林 静, 中屋 宗雄, 伊東 明子, 木田 渉
    2019 年 58 巻 4 号 p. 673-676
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    鼻性眼窩合併症の一つである眼窩骨膜下膿瘍に対して3回の膿瘍切開術を施行し,治療に難渋した症例を経験した。症例は20歳女性で,当院受診2日前より左眼痛を自覚し,副鼻腔炎の波及による眼窩蜂窩織炎が疑われ当科紹介となった。CTより左急性副鼻腔炎,左眼窩骨膜下膿瘍及び左眼瞼蜂窩織炎の診断で,緊急で左内視鏡下鼻副鼻腔手術(Endoscopic Sinus Surgery; ESS)および経鼻的左眼窩骨膜下膿瘍切開術を施行した。眼窩上外側を複数回洗浄したが壊死組織は除去しきれなかった。眼瞼腫脹は一旦改善認めたが入院3日目より再度増悪があり,CTで眼窩内側部分は改善を認めていたがドレーン挿入部より外側に軟部組織陰影を認め,ESSに加え眉毛部外切開併用での2回目の膿瘍切開術を施行した。入院8日目に眼窩上壁の外側後方に膿瘍残存を認め,3度目の眼窩骨膜下膿瘍切開術を施行し,さらに細菌培養検査より嫌気性菌が検出されメトロニダゾールの内服を開始した。炎症所見の改善を認め入院21日目に退院となった。

    感染巣のコントロールのためには,眼窩の機能障害を来さない範囲で壊死組織の除去を目指すべきである。本症例では,初回手術時に内視鏡下に壊死組織を確認したが,内視鏡単独の操作では壊死組織と眼窩内容物との位置関係の把握が困難であり,壊死組織の除去が不十分であった。内視鏡下で壊死組織の除去が困難であれば,外切開による手術を併用する必要があると考えられた。

  • 米井 辰一, 端山 昌樹, 野之口 由華, 日尾 祥子, 川島 貴之
    2019 年 58 巻 4 号 p. 677-682
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    鼻涙管腫瘍の一例を経験し,経鼻内視鏡下に摘出しえたので文献的考察を加えて報告する。症例は86歳女性。片側性鼻閉のため受診し,生検・画像検査により左鼻涙管オンコサイトーマと診断された。経鼻内視鏡下に鼻涙管を下鼻甲介と合併切除することで一塊に摘出しえた。術後2年以上経過しているが再発を認めていない。鼻涙管腫瘍はまれな疾患であるが,膿性鼻汁,鼻閉,流涙過多などの一般的な症状で受診することもあり,鑑別疾患として念頭に入れる必要があると考えられた。また鼻涙管腫瘍に対する手術は従来外切開での報告が多かったが,経鼻内視鏡手術の発展により,内視鏡下切除も選択肢として考慮に入れるべきと考えられた。

  • 奥野 未佳, 端山 昌樹, 前田 陽平, 川島 佳代子, 武田 和也, 津田 武, 猪原 秀典
    2019 年 58 巻 4 号 p. 683-690
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    【背景】歯性上顎洞炎は一定の診断基準や治療指針はなく,耳鼻咽喉科・歯科のどちらでも治療し得る疾患である。両科の連携も各医師や各施設により異なると思われる。今回,我々は歯性上顎洞炎に診断・治療・連携に関するアンケート調査を両科の医師に行い,報告する。

    【方法】耳鼻咽喉科医と歯科医へWebアンケート調査を行った。調査項目として画像診断や治療方針,診療科を越えた連携についてとりあげた。

    【結果】耳鼻咽喉科医へのアンケートは85名に回答を依頼し50名から回答が得られた。歯科医へのアンケートでは144名に回答を依頼し78名から回答が得られた。内訳は一般歯科が44名,口腔外科医が29名,その他が5名であった。耳鼻咽喉科医は歯性上顎洞炎の診断には98%がCTを有用と回答し,歯科医は78%がCTを,22%が歯科用単純X線写真を重視すると回答した。CTを重視する傾向が耳鼻咽喉科医において有意に高かった。また耳鼻咽喉科医の62%が歯科と相談し治療方針を決定していた。一方歯科医は耳鼻咽喉科に相談すると回答したのは22%であり,61%がまず歯科で治療を行うと回答した。

    【結語】歯科医の大半が診断にCTを有用と回答したものの,耳鼻咽喉科医と比較するとその割合は少なかった。治療方針の決定に関して,耳鼻咽喉科医は歯科と相談する割合が多かったが,歯科医は単独で治療を行うことが多かった。

  • 佐々木 崇博, 川島 佳代子, 服部 賢二, 藤田 茂樹
    2019 年 58 巻 4 号 p. 691-697
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    【症例】81歳女性【主訴】左視力消失【既往歴】20XX年に乳癌に対し他院乳腺外科にて手術およびホルモン療法を施行され,以降,局所再発所見なく外来経過観察中。【現病歴】20XX+6年,左視力消失を主訴に住友病院眼科を受診。鼻副鼻腔CTにて左鼻副鼻腔から頭蓋底に及ぶ腫瘍を認め,精査加療目的に当科紹介受診となった。【経過】当科初診時,左嗅裂から上咽頭側壁にかけて易出血性の腫瘤を認め,当科外来にて内視鏡下に左鼻腔腫瘍の組織生検を実施し,免疫染色を含めた病理学的検査にて乳癌の鼻副鼻腔転移の診断となった。乳腺外科で放射線照射およびホルモン療法を施行し,腫瘍の縮小効果が得られ,視力は光覚弁まで回復。現在,乳腺外科および当科外来にて経過観察中である。【考察】鼻副鼻腔悪性腫瘍は大部分が原発性腫瘍であり,転移性腫瘍は0.7~1.5%とまれである。転移性腫瘍の原発部位としては,腎臓あるいは肝臓が大半を占め,その他の部位からの転移はまれである。また,乳癌の転移部位としては,所属リンパ節,骨,肺,肝臓,脳が多く,頭頸部への転移は少ないとされている。本症例は,乳癌治療終了後5年以上が経過し,局所再発は無かったものの,鼻副鼻腔に遠隔転移が出現し失明を来したまれな症例である。乳癌は治療終了後,長期間を経たのちに遠隔転移を認めることもあり注意を要する。また鼻副鼻腔腫瘍は原発性腫瘍が大半であるものの,転移性腫瘍の可能性も念頭において診断を行うことが重要である。

  • 佐藤 遼介, 熊井 琢美, 岸部 幹, 高原 幹, 片田 彰博, 林 達哉, 原渕 保明
    2019 年 58 巻 4 号 p. 698-705
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    リンパ節外領域である副鼻腔原発の悪性リンパ腫は頭頸部原発の悪性リンパ腫の中でもまれで,他部位と比較して予後不良とされる。今回当科で経験した副鼻腔原発の悪性リンパ腫5例について検討した。症例は男性が3人,女性が2人で年齢は55歳から84歳(中央値75歳)であった。亜部位は全例で上顎洞であった。組織型はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が3例,濾胞性リンパ腫が1例,高悪性度B細胞リンパ腫非特異型が1例であった。病期はAnn Arbor分類でI期が2例,II期が2例,IV期が1例であった。B症状は全例で認めなかった。治療は化学療法施行後に放射線療法を施行した症例が3例,化学療法のみを施行した症例が1例,放射線療法のみを施行した症例が1例であった。初回治療では全例でCRとなったが,2例で再発した。追加治療を含めて80%の症例でCRとなった。リツキシマブを中心とした化学療法や放射線療法は副鼻腔原発のB細胞性悪性リンパ腫の治療に有用と考えられた。

  • 中村 宏舞, 山辺 習
    2019 年 58 巻 4 号 p. 706-711
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    Seromucinous Hamartoma(SH)はこれまでWHO分類には記載されていなかったが,2017年頭頸部腫瘍WHO分類第4版で呼吸上皮病変として新たに制定された。鼻副鼻腔に生じる過誤腫としてRespiratory Epithelial Adenomatoid Hamartoma(REAH)はこれまでに多くの報告・検討があるが,SHは我々が渉猟し得た範囲では報告数は24例のみである。今回我々は左鼻腔後方より発生したSHを経験したので,文献的考察を加えて報告する。症例は40歳男性。左咽頭違和感と嚥下時痛を主訴に当科を受診した。鼻腔ファイバースコープにて左鼻内に上鼻道方向から後鼻孔へ,表面凹凸のある腫瘤を認め,診断・摘出目的に全身麻酔での摘出術を施行しSHと診断した。SHは3:2で男性に多く,年齢は14歳~85歳と幅広い。発生部位は鼻中隔後端や上咽頭など鼻腔後方が多い。組織学的には表層が多列線毛上皮に覆われ,粘膜下に粘漿液腺が増殖し,ポリープ様形態を呈している。免疫組織学的には,増殖腺管を形成している単相立方上皮は基底細胞が欠落し,腺管周囲には筋上皮細胞も存在しないことが示された。今後,鼻腔後方に発生する腫瘍としてSHの存在を念頭に置く必要がある。

  • 釜谷 まりん, 中村 一博, 永田 善之, 山内 由紀, 野村 泰之, 大島 猛史
    2019 年 58 巻 4 号 p. 712-718
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    耳鼻咽喉科の休日夜間救急外来において鼻出血症は比較的頻度の高い疾患である。また,鼻出血症例の来院・診察・処置という一連の過程の中で迷走神経刺激症状をきたす神経調節性失神(Neurally Mediated Syncope: NMS)を起こす症例は多い。NMS出現は多くの場合1人で当直している耳鼻咽喉科医にとって多大な負担となり止血処置の妨げともなる。今回我々は,鼻出血とNMSの関連性について来院時バイタルサインなどの臨床的特徴からNMS出現が予め予測できないかと考え検討した。

    対象は2017年4月から2018年3月までに当院救急外来に鼻出血を主訴に来院した230例である。一般的臨床統計を行うと共に,その中で救急車で来院した134症例を抽出し年齢,性別,既往歴,来院時収縮期・拡張期血圧,来院時心拍数をNMS群と無失神群の2群にわけて比較検討した。NMS群では収縮期血圧が有意に低下していた。

    鼻出血症例は来院時高血圧であることが多いとされているが,来院時低血圧はNMS出現の予測因子である。来院時低血圧の患者ではNMSが起こることを念頭におき,バイタルサインを安定させてから止血処置を開始することが重要である。

  • 谷口 賢新郎, 太田 康, 蛭田 啓之, 北村 真, 鈴木 光也
    2019 年 58 巻 4 号 p. 719-724
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    Immunoglobrin G4(IgG4)関連疾患に関しては不明な点が多い。今回,IgG4が関連すると思われた難治性の慢性副鼻腔炎の2症例を経験したので報告する。

    症例1:47歳男性。アレルギー性鼻炎で鼻閉,鼻漏,後鼻漏症状を認めていたが,鼻症状の悪化や咳嗽が出現し,当科受診。鼻腔内に鼻茸はなく,CTで副鼻腔に軟部組織陰影を認め,血中好酸球3.7%,Japanese Epidemiological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis (JESREC) Score 7点,血清IgG4は306mg/dLと高値であった。内視鏡下鼻副鼻腔手術を施行し,副鼻腔粘膜の病理組織標本で,多数の形質細胞浸潤や線維化病変,多数のIgG4陽性細胞を認めた。術後鼻閉症状は改善し,鼻副鼻腔の内視鏡所見の増悪はないが,後鼻漏,咳嗽が残存しており,現在も経過観察中である。

    症例2:73歳男性。副鼻腔炎の治療をしていたが,鼻閉,鼻漏症状が増悪し当科受診。気管支喘息の治療中であった。鼻腔内に鼻茸はなかったが,著明な鼻漏,後鼻漏を認め,副鼻腔CTでも軟部組織陰影を認め,血中好酸球は5.9%でJESREC Score 11点と,好酸球性副鼻腔炎が疑われた。手術検体の病理組織標本では,好酸球の浸潤は乏しく,免疫染色で多数のIgG4陽性細胞を認め,血清IgG4 211mg/dLと高値を認めた。鼻閉症状は改善したが,後鼻漏,咳嗽症状は遷延し,現在も経過観察中である。

    2症例ともIgG4関連疾患の包括的診断基準を満たした。また,特徴的な症状として,持続する鼻漏・後鼻漏が認められた。

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