日本鼻科学会会誌
Online ISSN : 1883-7077
Print ISSN : 0910-9153
ISSN-L : 0910-9153
60 巻, 4 号
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原著
  • 大原 雄大, 西田 直哉, 高木 太郎, 羽藤 直人
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 463-467
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    副鼻腔嚢胞は原発性と術後性に分類されるが,原発性は比較的稀とされる。さらに原発性の中でも蝶形骨大翼に発生する嚢胞は非常に稀である。今回我々は内視鏡下経鼻経上顎洞アプローチが有用であった,蝶形骨大翼嚢胞例を経験した。症例は49歳男性,右頬部痛・右頬部知覚鈍麻を自覚し,その後激しい頭痛・嘔吐を伴うようになったため近医脳神経外科を受診した。頭部MRI検査にて右蝶形骨洞病変を指摘され当科紹介となった。CT,MRIで右蝶形骨大翼に限局する原発性嚢胞と診断した。内視鏡下経鼻経上顎洞アプローチにて嚢胞開窓を行い,頭痛・頬部痛は軽快し,頬部知覚鈍麻も改善した。術後1年以上経過しているが,再発所見は認めていない。蝶形骨大翼に限局する嚢胞に対しては,経鼻経上顎洞アプローチは,直視鏡下に広い術野で手術操作が可能であり,非常に有用な術式である。

  • 寺田 理沙, 赤澤 仁司, 端山 昌樹, 津田 武, 前田 陽平, 武田 和也, 小幡 翔, 中谷 彩香, 猪原 秀典
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 468-477
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:嗅覚同定検査として用いられているT&Tオルファクトメトリー(T&T)は,一般的には自由回答形式であるため,検者は回答結果の正誤判定に迷う場合がある。明確な判定を行う目的で,におい語表を用いた選択回答形式を利用する場合もあるが,におい語表自体が有用であるかは検討されていない。一方,嗅覚同定検査として国際的に広く用いられているUniversity of Pennsylvania Smell Identification Test(UPSIT)から多文化的な12種類の嗅素に集約した検査としてBrief Smell Identification Test(B-SIT)がある。今回T&Tのにおい語表を用いた選択回答形式と自由回答形式の各々の認知域値をB-SITとの相関で比較し,におい語表の有用性を検討したので報告する。

    対象と方法:2017年9月から2019年5月までに大阪大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科でB-SIT及び基準嗅力検査を受けた95例を対象とした。そのうち2018年6月以前に受診した41例をにおい語表なし群に,同年7月以降に受診した54例をにおい語表あり群に分けてT&Tを行った。この両群間において,T&T認知域値とB-SITスコアとの相関係数の比較を行った。

    結果:T&T認知域値において有意差は認めなかったものの,におい語表あり群の方がにおい語表なし群と比較してB-SITスコアと強く相関している傾向であった。疾患別では,特に特発性嗅覚障害で両群間の相関係数差が大きくなった。

    結論:におい語表を用いることでT&Tは嗅覚同定能の程度をより明確に反映できる可能性があることが示唆された。特に特発性嗅覚障害ではにおい語表を併用することが望ましい。

  • 森田 瑞樹, 朝子 幹也, 下野 真紗美, 東山 由佳, 岩井 大
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 478-484
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    頭蓋底に発生する髄膜脳瘤の頻度は35,000~40,000人に1例で髄膜脳瘤の1~10%と報告されており極めて稀な先天奇形であり,発見が遅れやすい。耳鼻咽喉科領域に出現することは稀で,鼻腔腫瘍と診断され手術を施行され,髄液瘻を招くこともあるので留意が必要である。治療は,従来は開頭手術がよく行われていたが,近年では内視鏡下で切除及び再建が行われる症例も増えている。今回我々は中国で勤務中に意識消失発作を起こし,髄膜炎が診断され,精査中に鼻腔腫瘍を指摘された症例を経験したので報告する。症例は52歳男性。帰国後直ちに当院紹介受診され,画像診断より髄膜瘤が疑われた。経鼻的アプローチとし,開頭手術への移行の可能性を考慮し脳外科待機とした。まず,患側鼻中隔に有茎鼻中隔粘膜弁を作成し,後鼻孔に落とし込んで手術操作による粘膜損傷を回避させた。粘膜下に剥離を進め髄膜瘤の全容を確認した後に,頭蓋底欠損部に近い位置から切除を行った。頭蓋底再建は,大腿筋膜と脂肪組織,鼻中隔軟骨を用いて,Gasket seal法にて閉鎖をし,最表層には鼻中隔粘膜弁を用いることで頭蓋底欠損部の閉鎖組織への血流を担保した。最終的には5層のmultilayer閉鎖とした。術後2年を経過して再発や髄液漏は認めていない。髄膜脳瘤は術前診断が極めて重要で,重篤な副損傷を回避できる。Gasket sealや有茎鼻中隔粘膜弁など有効な頭蓋底再建法が確立され,侵襲の少ない内視鏡手術がより選択されるようになってきていると考える。

  • 東山 由佳, 朝子 幹也, 宇都宮 敏生, 下野 真紗美, 桑原 敏彰, 井原 遥, 杉田 侑己, 森田 瑞樹, 河内 理咲, 濱田 聡子, ...
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 485-494
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:本邦ではアレルギー疾患が増加しており,近年では成人型食物アレルギーの有病率も増加傾向である。中でも花粉と果物が持つ共通コンポーネントによる口腔アレルギー症候群(花粉-食物アレルギー症候群,pollen-food allergy syndrome, PFAS)は食物アレルギーの特殊型で,多くは症状が口腔咽喉頭に限局しており,看過されてしまうことが少なくない。中にはアナフィラキシー症状など重篤な全身症状を引き起こす場合もあるため注意が必要である。今回,我々は関西医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科外来患者の食物アレルゲンと吸入アレルゲンの陽性率と実際に口腔・咽頭粘膜症状を発症している患者の検討を行い,口腔アレルギー症候群の危険因子となる背景を検証した。

    対象:2018年4月1日~2019年4月30日の期間にView39アレルギー検査を実施した関西医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科・頭頸部外科外来患者計277症例

    方法:吸入アレルゲンと食物アレルゲンの感作率(View39でclass1以上)と各吸入アレルゲン同士の相関,口腔アレルギー症候群の有病率について検討した。また初診時の血中好酸球数,血清総IgE値,患者の主訴や背景,実際に口腔・咽頭粘膜症状を呈した患者の背景についても検討を行った。さらに口腔アレルギー症候群の有病・非有病に対してロジスティック回帰分析を行い,統計学的に影響を与えうる吸入アレルゲンについて検討を行った。なお,上記項目は外来担当医の問診を元に診療録記載から判断した。

    結果:口腔・咽頭粘膜症状を呈する例は277例中15例であった。そのうち全例で口腔咽頭の刺激感や掻痒感の局所症状を呈していたが,中には全身症状を呈する重篤な症例も認めた。原因となる実際の食物はリンゴなどバラ科食物が多かったが,キウイやバナナも挙げられた。花粉吸入アレルゲンは2種類以上の重複感作例が多く,中でもカバノキ科感作が高い感作率であった。好酸球数と総IgE値は症状の有無で有意差は認めなかった。口腔アレルギー症候群の有病・非有病に対して行ったロジスティック回帰分析を行いオッズ比の検討を行ったが花粉アレルゲン,特にカバノキ科で有意にオッズ比が高かった。またその他の吸入アレルゲンにも多重感作している例が多かった。

    考察:口腔アレルギー症候群の発症にはカバノキ科への感作が重要であり,その他の吸入アレルゲンへの多重感作も統計学的に影響を与えうる可能性が示唆された。

    結論:特異的IgE抗体測定によって明らかになったカバノキ科感作や多重感作症例に対しては口腔・咽頭粘膜症状の有無を問診で行うことによって,口腔アレルギー症候群を有しているにも関わらず症状を訴えない潜在的な患者の検索を行える可能性があると考えた。耳鼻咽喉科医として一定数上記のような患者がいることに留意すべきであり,そのような患者には丁寧な問診と適切な治療・指導を行うことで,軽微な症状をはじめ重篤な全身症状までを予防・回避することに繋がると考えられた。

  • 小口 亜莉沙, 熊井 琢美, 岸部 幹, 高原 幹, 片田 彰博, 林 達哉, 原渕 保明
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 495-501
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    Thyroid-like low grade nasopharyngeal papillary adenocarcinoma(TL-LGNPPA)は甲状腺乳頭癌様の病理所見を示し,免疫染色でTTF-1陽性,TG陰性となる特徴を持つ上咽頭や鼻中隔後端に発生する珍しい悪性腫瘍である。今回われわれは鼻中隔後端に発生したNasopharyngeal papillary adenocarcinoma(NPPA)の一例を経験したので文献的考察を加え報告する。

    症例は50歳女性で,咽頭違和感を主訴に前医を受診した際,鼻中隔後端に腫瘤を指摘され当科紹介となった。経鼻内視鏡検査で鼻中隔後端に有茎性の腫瘤を認め,造影CTでは鼻中隔後端に6 mm大の有茎性腫瘤,造影MRIでは病変部はT1,T2ともに正常粘膜と同程度の信号である腫瘍が確認できた。腫瘍生検を施行したところ,TL-LGNPPAの所見でTTF-1陽性,TG陰性であった。全身麻酔下に内視鏡を用いて鼻中隔後端の腫瘤を完全摘出した。手術標本の病理所見では断端陰性であり,追加治療は行わなかった。また明らかな術後合併症は認めず,術後1年6ヶ月経過したが明らかな再発や転移の所見は認めていない。

  • 阿久津 誠, 金谷 洋明, 今井 貫太, 斎藤 翔太, 栃木 康佑, 中島 逸男, 田中 康広, 春名 眞一
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 502-508
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    陳旧性の眼窩内側壁骨折による換気排泄障害を原因として発症した,篩骨前頭洞嚢胞の症例を経験した。症例は75歳女性,眼球突出と眼痛を主訴に近医眼科を受診した。視力検査で左の視力低下を認めたため,精査目的に当院眼科へ紹介となり,画像検査で前頭洞内に陰影を認め,精査目的にて当科に紹介された。画像検査では左陳旧性眼窩内側壁骨折とそれに伴う眼窩内容の偏位,さらに前頭洞内に進展する嚢胞性病変を認めた。副鼻腔の換気排泄障害に起因した篩骨前頭洞嚢胞と,鼻前頭洞管閉塞による二次性前頭洞炎と診断し,内視鏡下鼻副鼻腔手術を施行した。術後は副鼻腔の換気が改善され,良好な経過を得た。

    眼窩吹き抜け骨折は顔面の鈍的外傷により発症するものであり,多くは顔面の受傷と視機能障害を呈することで自覚される。しかしながら症状が軽微で視機能障害を呈さない症例もあり,未治療で経過することがある。そのような場合,眼窩内容の偏位や副鼻腔の形態変化による換気排泄障害を原因として,二次性の副鼻腔炎や副鼻腔嚢胞を発症する恐れがある。

    今回の経験から,視機能障害を認めない眼窩吹き抜け骨折の症例においても,画像検査により眼窩内容の偏位が高度で副鼻腔の換気排泄障害をきたす可能性がある場合は,手術加療を考慮すべきだと考えられた。

  • 三國谷 由貴, 工藤 玲子, 山内 一崇, 工藤 直美, 佐々木 亮, 沢田 かほり, 鄭 松伊, 松原 篤
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 509-515
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    認知症や神経変性疾患の患者では嗅覚障害を比較的早期から発症することが知られている。我々は認知機能低下のスクリーニングとして嗅覚同定能検査の有用性を検討する目的で,一般地域住民を対象とした岩木健康増進プロジェクト健診で認知機能検査(MMSE)および嗅覚同定能検査を実施し,それらの関連性を検討した。また高齢者では必ずしも嗅覚低下を自覚しているとは限らないため,嗅覚低下の自覚症状と嗅覚検査結果との乖離が認知機能と関連するかどうかについても併せて検討を行った。

    プロジェクト健診参加者の844人(男性324人,女性520人)に対して,においの自覚症状についての問診と,スティック型嗅覚検査法(OSIT-J)のうち3嗅素を用いた嗅覚検査を行い,併せて行われたMMSEとの関連について解析を行った。

    男女ともに総MMSEスコアはOSIT-Jの結果と有意に相関しており,特に時間・場所の見当識+言葉の遅延再生と有意な関連が認められた。また,総MMSEスコアが低い群では,嗅覚低下の自覚とOSIT-Jの結果が有意に乖離することが認められた。

    軽度認知障害(MCI)はアルツハイマー型認知症(AD)の前駆期にあたり,ADへの年間移行率は約1割と言われているが,MCIの段階で早期に治療介入することによって認知症発症の予防効果が期待できる。嗅素数を少なくした嗅覚同定能検査で嗅覚が低下していること,かつそれを自覚していないことが,MCI早期発見のスクリーニング検査の一つとして活用できる可能性が示唆された。

  • 加藤 照幸, 荒井 真木, 水田 邦博, 野澤 美樹
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 516-521
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(以下SIADH)は血漿浸透圧が低下しても抗利尿ホルモンの分泌が十分抑制されず,水利尿不全から体内水貯留が進行して希釈性の低Na血症を呈する。原因に中枢性疾患,肺疾患,異所性ADH産生腫瘍,薬剤性がある。中枢性疾患は脳腫瘍,脳炎,髄膜炎,クモ膜下出血,頭部外傷等があり視床下部からのADH分泌が直接刺激されるためである。今回,蝶形骨洞炎から下垂体へ膿瘍形成を生じ,SIADHを呈した症例を経験したので報告する。症例は75歳女性,尿失禁,便失禁,意識混濁のため当院救急搬送された。Na 103.2 mEq/lと著名な低Na血症と頭部CTでトルコ鞍底部に骨溶解を伴う右蝶形骨洞炎が疑われ入院となった。頭部MRIで右蝶形骨洞から下垂体に連続する下垂体膿瘍を疑う陰影を認めた。内分泌内科医により水制限とNa補充が行われ,入院7日目に当科と脳神経外科で拡大蝶形骨洞手術を施行した。蝶形骨洞内は膿が充満し,トルコ鞍底部の骨は溶解していた。髄液漏出はなく開窓部を鼻中隔から採取した遊離骨移植で再建した。術後経過は良好で血清Naは基準値内となり臨床症状も改善し術後14日目に退院となった。本症例はトルコ鞍底の骨溶解部から炎症が下垂体へ波及しSIADHを発症したと考えられる。本経験から意識混濁を伴う低Na血症の鑑別にSIADHを考え,蝶形骨洞炎の頭蓋内への波及に注意を払うべきと考えた。

  • 本田 芳大, 武田 和也, 岡崎 鈴代, 中村 恵, 天野 雄太, 山根 有希子, 端山 昌樹, 前田 陽平, 愛場 庸雅, 猪原 秀典
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 522-530
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    副鼻腔真菌症の大部分は予後良好な非浸潤型副鼻腔真菌症であるが,まれに免疫が低下した患者において重症化し,致死的となる浸潤型副鼻腔真菌症が知られている。今回,われわれはびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)の化学療法中,骨髄抑制期に発症した副鼻腔炎に対し上顎洞開放を行い,その後より急速に進行した浸潤型副鼻腔真菌症を経験した。

    症例は69歳女性。DLBCLに対する化学療法施行後,骨髄抑制期に発熱性好中球減少症となった。経過中に右眼痛とCT検査にて右上顎洞に新規陰影の出現を認め,紹介受診となった。初診時,副鼻腔真菌症を疑い外来にて上顎洞開放を行った。上顎洞内に菌塊を認めたため除去し,明らかな菌塊の残存がないことを確認して,軟膏ガーゼを挿入した。第4病日にガーゼを抜去し,鼻内を観察すると,右鼻腔内全体に白色の粘膜病変を認め,真菌の増殖が疑われた。第5病日には右鼻腔粘膜の広範な黒色壊死を認めた。その後のCT検査にて下直筋の腫脹と眼窩内脂肪織の濃度上昇を認め,眼窩内浸潤が疑われた。内視鏡下鼻副鼻腔手術を行い,抗真菌薬全身投与継続の方針とした。その後,眼球運動障害は残存するものの明らかな増悪はなく,鼻腔内所見も著変なく経過し,第98病日に転院となった。

    骨髄抑制が遷延した状態で上顎洞を開放し,ガーゼパッキングを行ったことが広範な真菌浸潤をきたす一因となった可能性があり,骨髄抑制時の処置・手術にはその後の管理を含め細心の注意を払う必要があると考えられた。

  • 宮丸 悟, 志茂田 裕, 西本 康兵, 植田 寛之, 増田 聖子, 岡崎 太郎, 讃岐 徹治, 本田 由美, 三上 芳喜, 折田 頼尚
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 531-537
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    Human papillomavirus (HVP)-related multiphenotypic sinonasal carcinoma(HMSC)は近年提唱された鼻副鼻腔腫瘍で,腺様嚢胞癌に類似した組織像を示し,高リスク型HPV感染を伴うことを特徴とする。組織学的には高悪性度で,局所再発がみられるものの,遠隔転移は少なく比較的予後良好とされている。今回,左鼻腔に発生し内視鏡下に一塊に摘出することができたHMSCの1例を経験したため報告する。症例は37歳女性。鼻漏,鼻閉で前医を受診し,左鼻腔内に腫瘍を認めた。生検にてHMSC疑いの病理診断となり当科に紹介された。左鼻腔は腫瘍で占拠されており,奥の観察は困難であった。MRIにて腫瘍は左鼻腔内に限局し,副鼻腔への進展や骨破壊像は認めなかった。頸部リンパ節転移は認めなかった。FDG-PET/CTにて遠隔転移も認めず,病期はcT1N0M0,Stage Iであった。全身麻酔下に経鼻内視鏡手術を行った。腫瘍の基部は左鼻中隔であった。健側鼻中隔粘膜への浸潤は認めなかったため,健側の鼻中隔粘膜は温存し,鼻中隔軟骨と共に腫瘍を一塊に摘出した。切除断端の迅速病理診断はいずれも陰性の結果であった。最終病理診断はHMSCで,切除断端は陰性,鼻中隔軟骨への浸潤も認めなかった。術後の経過は良好で,術後5日目に退院となった。追加治療は行わず,現在,術後1年が経過しているが再発や転移を認めていない。長期経過後の再発例の報告もあり,今後も長期的な経過観察が必要と考えている。

  • 荻野 枝里子, 安場 広高
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 538-545
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    重症気管支喘息を合併した難病指定好酸球性副鼻腔炎(ECRS)術後再発例16例に対して吸入ステロイド(ICS)経鼻呼出法を行った後,mepolizumabをICS経鼻呼出に加えて投与し,更にmepolizumabからdupilumabに変更して投与を行った。これらの症例のECRSに対する効果を後方視的に検証した。結果は,ICS経鼻呼出法で3例,mepolizumabの追加で5例において,副鼻腔CTのLund-Mackay Score(LMS)が改善し,残りの8例はdupilumabへの変更によってLMSの改善が初めて認められた。全例で喘息の増悪は見られなかった。Dupilumabの投与を必要とした8例では,それ以外の8例と比較して,治療開始前のLMS,呼気一酸化窒素濃度(FeNO),末梢血好酸球比率,非特異的IgE値に統計学的有意差を認めなかったが,血清TARCの最高値はdupilumab投与群で有意に高値であり,400 pg/ml以上の症例が有意に多かった。喘息を合併したECRSの治療にはdupilumabが有効であるが,好酸球増多疾患がマスクされている可能性も考えると,今回のような順に治療を行っていくことが有用である。また,TARCのようなIL-4/13のマーカーが治療法の選択に役立つかもしれない。

  • 牧原 靖一郎, 大村 和弘, 宮本 翔太郎, 内藤 智之, 浦口 健介, 津村 宗近, 假谷 伸, 岡野 光博, 安藤 瑞生
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 546-552
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    若年性血管線維腫は思春期男性に好発する易出血性の血管性腫瘍で,局所浸潤性が高く,鼻腔内から翼口蓋窩を中心に周囲組織を破壊進展する。手術療法は,様々な外切開が適応とされることが多かったが,近年では手術器具,技術,ナビゲーションシステムなどの進歩により経鼻内視鏡下に摘出される報告が増えている。Endoscopic tri-port approach法とは,Omuraらの提唱したTransseptal access with crossing multiple incisions(TACMI法),Direct approach to the anterior and lateral part of the maxillary sinus with an endoscope(DALMA法)と,Weberらの提唱した鼻涙管切断を伴う下鼻甲介処置を組み合わせることで,両外鼻孔からの経鼻中隔,経鼻腔,経上顎洞前壁の3つのポートを使用して,0度の内視鏡で翼口蓋窩や眼窩などへアプローチする方法である。今回我々は17歳の男性で,鼻腔,上咽頭から翼口蓋窩に一部進展の認める若年性血管線維腫,Radkowski分類Stage IIA期に対して,術前日に選択的血管塞栓術を施行した後に,Endoscopic tri-port approach法にて一塊切除した。Endoscopic tri-port approach法は顔面の外切開や歯齦部切開を施行することなく,可能な限り鼻中隔や下鼻甲介を温存しながら,広い術野で病変部への到達が可能であり,翼口蓋窩進展を認める若年性血管線維腫に対して有用なアプローチ法と考えられた。

  • 下野 真紗美, 朝子 幹也, 宇都宮 敏生, 濱田 聡子, 岩井 大
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 553-558
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    神経鞘腫はSchwann細胞由来の良性腫瘍で,頭頸部領域では聴神経に発生することが多く,鼻副鼻腔原発は1%と非常に稀である。発生部位は,鼻副鼻腔の中では鼻中隔,篩骨洞に多く,由来神経を同定することが困難である場合が多いとされる。根治治療は手術による完全摘出が必要となるが,鼻副鼻腔原発の神経鞘腫例は術後に再発を認めることは少なく,神経脱落症状もほぼ起こらないとされる。近年では内視鏡アプローチによる摘出も広く行われるようになってきている。今回我々は術前に血管系腫瘍を疑っていたため生検が困難であり,内視鏡下鼻内内視鏡手術による摘出術を行い,病理組織診断で神経鞘腫との確定診断に至った2例を経験したので報告する。

  • 孔 憲和, 佐々木 崇暢, 新堀 香織, 堀井 新
    原稿種別: 原著
    2021 年 60 巻 4 号 p. 559-565
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    髄膜脳瘤とは頭蓋骨欠損部より髄膜や脳実質が頭蓋外に脱出する疾患である。今回われわれは,経鼻内視鏡・開頭同時手術により摘出した蝶形骨洞髄膜脳瘤例を経験したので報告する。

    症例は73歳女性。近医で脳動静脈奇形の経過観察中,頭部CT(Computed Tomography)で左蝶形骨洞に長径8 mm大の骨欠損を伴う軟部陰影を認め,左蝶形骨洞腫瘍疑いで当科紹介となった。頭部MRI(Magnetic Resonance Imaging)で左側頭葉から左蝶形骨洞内に連続する脳実質と等信号の病変と,その周囲に髄液と等信号の領域を認め,髄膜脳瘤と診断した。無症候性だが,髄液鼻漏や髄膜炎の危険性を考慮し根治手術の方針とした。

    手術は経鼻内視鏡・開頭同時手術とした。内視鏡下鼻副鼻腔手術により蝶形骨洞を開放し,蝶形骨洞側窩天蓋の骨欠損部(Sternberg’s canal)から連続する髄膜脳瘤を確認した。蝶形骨洞内に連続する脳瘤を中頭蓋窩で切断し,鼻内から脳瘤を摘出した。骨欠損部は頭蓋側からの多層再建をした。術後1年現在,再発なく経過している。

    近年,髄膜脳瘤に対し鼻内操作単独での治療報告が増加してきているが,本症例は脳動静脈奇形による頭蓋内圧亢進が考えられたこと,骨欠損が比較的大きいこと,内視鏡下頭蓋底手術の経験が乏しかったことから鼻内操作単独では骨欠損部の閉鎖が困難と予想した。今回,安全で確実な手術を目的として経鼻内視鏡・開頭同時手術を選択した。

報告
  • 意元 義政, 尹 泰貴, 熊井 琢美, 河野 通久, 林 隆介, 小山 佳祐, 木戸口 正典, 神田 晃, 岩井 大, 藤枝 重治, 清水 ...
    原稿種別: 報告
    2021 年 60 巻 4 号 p. 566-570
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

    日本鼻科学会では,鼻科学会会員を対象とした『鼻科基礎ハンズオンセミナー』を2014年より開催している。鼻科基礎ハンズオンセミナーは,研究技術の向上や研究に対するモチベーションの向上,そして各施設間の研究を通じた横断的連携を図る目的で企画された。本セミナーは,基礎研究を行っている全国の各施設の医師より構成されている。今回で7回目となる本セミナーを第59回日本鼻科学会総会・学術講演会(東京)において企画した。今年度は,①末梢血からの単核球細胞の分離,②鼻茸組織からの単核球細胞の分離,③口蓋扁桃組織からの単核球細胞の分離方法を解説した。例年では会場で直接手技を実演,指導する形式で行っていたが,新型コロナ感染症の蔓延により,事前に収録した動画を放映し,参加者からの質疑応答を行うオンライン方式で行った。参加者に対するセミナー後のアンケート調査において,「本セミナーに満足した」,「今後の継続を望む」という意見を得ている。本セミナーは本邦から発信する基礎鼻科学の新知見に直結する有意義なセミナーと考えられた。

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