日本鼻科学会会誌
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鼻副鼻腔炎診療の手引き
原著
  • 橋本 健吾, 今岡 理仁, 都築 建三
    原稿種別: 原著
    2024 年 63 巻 1 号 p. 86-93
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/22
    ジャーナル フリー

    【はじめに】我々は,鼻副鼻腔疾患の症状を評価する簡便で有用な問診票としてSaitoらの鼻症状アンケート(nasal symptoms questionnaire, NSQ)を用いて,鼻症状とQOLの評価を行っている。このNSQを用いて,慢性副鼻腔炎手術症例における症状の特徴,術前後の変化について検討した。【対象と方法】2020年4月から2022年10月の2年7か月間に,当科で内視鏡下副鼻腔手術を施行し,術前後のNSQを評価しえた慢性副鼻腔炎症例27例を対象とした。男性18例,女性9例,平均年齢53.8±17.5歳(23–80歳)。NSQスコアおよび各項目について術前後の症状の変化を比較した。術前後のNSQスコアと鼻症状VAS,術前Lund-Mackay CTスコアおよび術後内視鏡所見(Eスコア)との相関性を検討した。また好酸球性副鼻腔炎群(ECRS群;n=13),非好酸球性副鼻腔炎群(non-ECRS群;n=14)に分け,各群の症状の特徴について検討した。【結果】術後NSQスコアは術前NSQスコアから有意な低下(p<0.001, n=27)を認めた。術前後ともに,NSQスコアは鼻症状VASと有意な相関性(p<0.01)を認めた。NSQ各項目スコアは,「鼻閉」(p<0.05)と「嗅覚の低下」(p<0.01)がnon-ECRS群と比較してECRS群で有意に不良(高値)であった。ECRS群では「鼻閉」「後鼻漏」「嗅覚の低下」「痛み」「生活面での支障」の項目で術後有意な改善を認めた。

    【考察】NSQは慢性副鼻腔炎手術症例において,症状の特徴を捉え,術前後の治療反応性を評価しえた。

  • 大和 賢輔, 岡本 由香子, 竹野 幸夫, 川住 知弘, 竹本 浩太, 石川 智慧, 石野 岳志, 弓削 類, 黒瀬 智之, 寺西 正貴
    原稿種別: 原著
    2024 年 63 巻 1 号 p. 94-102
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/22
    ジャーナル フリー

    体性幹細胞である間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells(MSCs))を用いた再生医療の研究は,主に脳梗塞,脊髄損傷などを対象にすでに国内外で臨床研究や治験が行われている。MSCsは腸骨,臍帯,脂肪から採取され,部位依存性的に分化能が異なることが知られている。今回我々は,正常ヒト鼻副鼻腔粘膜からのMSCs細胞の単離と培養を試みた。副鼻腔炎病態を有さない篩骨洞及び下鼻甲介より回収した細胞を培養し,MSCs特異的細胞表面抗原マーカーの発現,骨芽細胞,脂肪細胞,神経細胞への分化能について解析し,両部位間の比較を行った。

    機械的・酵素処理により分散播種し得られた細胞は紡錘状の形状で接着性を有しており継代培養可能であった。細胞の細胞表面抗原の解析では,MSCsの陽性マーカーであるCD44,CD73,CD90,CD105の高発現とCD34,CD45の陰性が観察された。また,骨芽分化誘導した細胞ではAlizarin red染色陽性のカルシウム沈着,脂肪分化誘導した細胞ではオイルレッド染色陽性の脂肪滴沈着が観察され,神経誘導した細胞では神経細胞のマーカーであるTuj1,NF-M,NeuNの陽性所見が観察された。これらの結果は,国際細胞治療学会によるMSCsの定義条件に合致していた。また篩骨洞と下鼻甲介由来の細胞間で抗原陽性率と分化能に関して相違は観察されなかった。以上よりヒト顔面骨の広範な領域を被覆している鼻副鼻腔粘膜にはMSCsとしての潜在能力を有している間葉系細胞が豊富に存在しており,再生医療における新たな可能性に寄与することが示唆された。

症例報告
  • 佐々木 崇暢, 若杉 亮, 鎌田 悠志, 高野 哲, 新堀 香織, 池田 良, 堀井 新
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 63 巻 1 号 p. 103-111
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/22
    ジャーナル フリー

    好酸球性副鼻腔炎(eosinophilic chronic rhinosinusitis: ECRS)はtype2炎症が関与する難治性の副鼻腔炎である。近年,type2炎症を抑制する生物学的製剤が開発され,抗IL-4/13受容体抗体であるdupilumabが鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に対して適応となっている。dupilumabのECRSに対する効果は高く安全性も高いとされているが,時に重篤な副反応を呈することがある。今回われわれはECRSに対してdupilumab投与中に好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis: EGPA)を発症した症例を経験したので報告する。

    症例は37歳女性,重症喘息に対するbenralizumab(抗IL-5受容体抗体)の投与中止から14か月後にECRSを併発した気管支喘息に対してdupilumabの投与を開始した。投与後速やかに嗅覚は改善し,dupilumab開始から4週後に全身性ステロイドを中止した。dupilumab開始後20週に血中好酸球の著明な増加および咳嗽の悪化がみられ,dupilumabを中止した。22週に筋肉痛,両手足のしびれ,皮疹,両肺の浸潤影が出現し,EGPAの診断で入院となった。全身性ステロイドを漸減投与し全身状態は改善,28週時点で退院した。

    DupilumabによるEGPA発症の機序は解明されていないが,抗IL-5製剤からの切替や全身性ステロイドの中止により急激な好酸球の増加が誘発され,好酸球による組織浸潤,血栓塞栓などがEGPAを引き起こした可能性が考えられる。ECRSに対しdupilumabを投与する際はEGPA発症のリスクを念頭に置き,血中好酸球のモニタリングに加え咳嗽や手足のしびれなどの症状の慎重な経過観察が求められる。

  • 沖田 奈菜, 吉田 晴郎, 田中 藤信, 三浦 史郎
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 63 巻 1 号 p. 112-118
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/22
    ジャーナル フリー
    電子付録

    鼻腔内逆生歯の明確な発症機構は解明されていない。今回,稀な両側の鼻腔内逆生歯を4年8ヶ月の経過観察後に摘出した症例を経験したので,本邦における鼻腔内逆生歯の臨床統計を加えて報告する。症例は2歳女児で,咳嗽があり受診した耳鼻咽喉科医院で両側の鼻腔内腫瘤を指摘され,副鼻腔単純CTで両側の鼻腔底に歯牙様の陰影を認めた。低年齢であることと鼻腔内が狭いことを考慮し,保護者の同意が得られた7歳で内視鏡下鼻内術を行い摘出した。両側とも鼻粘膜と有茎性に癒着しているのみで摘出は容易であり,病理組織検査で逆生歯と診断された。術後経過に問題はみられなかった。

    過去の報告の臨床統計より,逆生歯の6割超は過剰歯由来であり,両者には診断時年齢,男児に多いなどの共通点があるが,逆生歯が左に多い点のみが異なる。本症例でも,右側の逆生歯は,初診時のCTでは左側より低位にあり鼻口蓋管に接していたが,2年5ヶ月後のCTでは上顎骨から離れ鼻腔内に存在していた。矢状断による評価は,組織が軟弱な切歯間縫合や鼻口蓋管付近から,過剰歯が鼻腔内に萌出してくる可能性など,鼻腔内逆生歯の機序解明に有用と考えられた。両側性の鼻腔内逆生歯では,病変が左右対称の場合には診断が困難な可能性があり,将来的な齲歯などの合併症の予防のためにも,鼻腔内腫瘤の鑑別疾患として本疾患を念頭に置き,診療に臨むことが望ましいと考えられた。

  • 北岡 杏子, 吉田 晴郎, 隈上 秀高
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 63 巻 1 号 p. 119-126
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/22
    ジャーナル フリー

    難病にも指定されている原発性免疫不全症候群(primary immunodeficiency: PID)は,先天的に免疫担当細胞や分子に異常をきたす,単一遺伝子異常を伴う疾患の総称である1)。今回,成人後に急性増悪を繰り返す副鼻腔炎を契機にPIDと診断した症例を経験した。症例は30歳男性で,副鼻腔炎を発症するまでは免疫不全を示唆するエピソードはなかった。初診時は通常の副鼻腔炎と考え内視鏡下手術を行ったが,退院後に副鼻腔炎の急性増悪や肺炎を繰り返し診断に至った。診断後は免疫グロブリン補充療法により経過良好である。

    PIDは全てが小児期に発症するとは限らず,成人期になって初めて症状を呈する疾患もあるなど多様性がある。感染症を扱うことも多い耳鼻咽喉科領域において,本疾患について深く理解しておくことは重要といえる。特に,繰り返す中耳炎や副鼻腔炎を伴う症例では,過去の感染症の頻度や家族歴を丁寧に聴取し,必要に応じて免疫グロブリン測定を行うなど免疫不全症の可能性を検討することが重要である。

  • 久保 寿美, 藤田 祐一
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 63 巻 1 号 p. 127-133
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/22
    ジャーナル フリー

    鼻口蓋管嚢胞(切歯管嚢胞)は胎生期の鼻口蓋管の上皮遺残に由来する顎骨の非歯原性嚢胞であり,上顎の中切歯後部に発生する比較的まれな疾患である。口腔外科領域での経歯齦部または経口蓋アプローチによる嚢胞摘出術の症例報告が多いが,近年では内視鏡下鼻副鼻腔手術の普及に伴って,より低侵襲な内視鏡下の嚢胞開窓術が選択肢としてあげられるようになった。

    症例は38歳男性,鼻腔内視鏡で両側鼻腔底に隆起性病変を認め,CT,MRIで鼻口蓋管嚢胞と診断された。我々は鼻口蓋管嚢胞に対して内視鏡下鼻内手術を施行し,右鼻腔底より嚢胞の開放を試みた。術後は両側鼻腔底の腫脹は消失し,術後約1年経過後も閉鎖を認めていない。

    内視鏡下鼻内手術を経験している耳鼻咽喉科医であれば十分応用可能な手技であり,侵襲の少ない内視鏡下での嚢胞開窓術は従来法と比較しても大変有用であると考えられる。しかし鼻口蓋管嚢胞より発生した扁平上皮癌などの悪性腫瘍も報告されているため適応を十分検討する必要があり,また手術の際には鼻口蓋管神経の損傷による知覚異常等の合併症にも注意が必要である。これらの知見を踏まえて,今回我々が手術に対して工夫したことについて述べる。

  • 和家 旭志, 寒川 泰, 秋山 貢佐, 星川 広史
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 63 巻 1 号 p. 134-138
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/22
    ジャーナル フリー

    先天性鼻涙管嚢胞は涙嚢開口部にあるRosenmüller弁と鼻涙管遠位端にあるHasner弁の閉塞によって内容物が貯留することにより生じる先天性疾患である。嚢胞の大きさや鼻閉の程度などによっては症状を呈さない場合や自然治癒する例もあるといわれているが,鼻呼吸が中心である新生児では鼻腔内の閉塞によって重篤な呼吸障害をきたすこともあり,気道確保や早期の治療を要した例も報告されている。今回我々は呼吸障害を呈し,内視鏡下に開放を行った両側先天性鼻涙管嚢胞例を経験したので報告する。

    症例は男児。産科医院にて経腟分娩で出生後,日齢1に呼吸促拍を認め,総合病院新生児内科に救急搬送され緊急入院となった。入院後も呼吸状態は悪化したため気管挿管し人工呼吸器管理となった。画像検査で両鼻内を占拠する軟部陰影を認め,鼻呼吸障害の原因と推測されたため,日齢10で当院に転院となった。CT・MRIでは両側下鼻道に下鼻甲介を内側に圧排する腫瘤性病変があり,両側の鼻涙管から下鼻道にかけて連続する軟部陰影を認めた。両側先天性鼻涙管嚢胞による呼吸障害と診断し,同日全身麻酔下に内視鏡下鼻内手術を施行し両側の鼻涙管嚢胞を開放した。日齢11で抜管し,その後は呼吸状態や哺乳は問題なく経過した。術後2年が経過するが再発を認めず経過良好である。本症例のように鼻涙管嚢胞は新生児における呼吸障害の要因となり得る疾患であることを念頭に置いておく必要があると考えられた。

第62回日本鼻科学会総会・学術講演会
日本鼻科学会賞受賞講演
会長講演
Presidential lectures of KRS and TRS
日韓台シンポジウム(JKT symposium)
International session 1
International session 2
International session 3
特別企画1:鼻科学会発 最新の診療指針を理解する
特別企画2:医療データベースの利活用
特別講演・専門医領域講習
パネルディスカッション:日常臨床における鼻科手術教育を考える
ラウンドテーブルディスカッション:鼻科診療における病診連携
シンポジウム1:小児アレルギー性鼻炎を多面的に考える
シンポジウム2:上気道の難治性疾患病態~non-Type2炎症を中心として~
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