出稼供給地域の農山村においては, 1960年代の高度経済成長以降, 出稼が常態化し, 生活を支える主要な産業となる状況が生みだされた。その結果, ずい道建設出稼, 林業出稼にみられるように, 一部の出稼が専業化する傾向が認められるようになった。本報告においては, 林業出稼をとりあげ, 地域における出稼の状況および出稼労働の労働衛生学的評価を行なうとともに, 労働現場および居住地域における健康管理の問題点についても検討を加えた。また, 出稼労働に起因する健康障害, とくに, 振動障害および労働災害をとりあげ, その有症状態について評価を行った。
林業出稼は, 地域の不安定な社会経済条件を背景として, 零細な農林業を家業とする世帯から派生していた。また, 林業出稼の労働力は, 戦後復興期から高度経済成長期にかけて需要の高まりが認められた。主な出稼先は近畿地方であった。出稼先の労働条件では, 出来高・請負制のもとで長時間にわたる労働が継続して行なわれるなど問題が認められた。また, 振動作業では, 時間規制をはるかに上回る高密度の振動暴露が長期間にわたり継続して行なわれていた。出稼に起因する健康障害として, 振動障害の発症が高率 (48.6%) に認められた。これらの患者は, 出稼現場および供給地域における健康管理が不十分なため潜在化していたものであった。さらに, 労働災害による負傷 (休業4日以上) の経験者は40.0%と高率であり, 安全対策の必要性が認められた。一方, 林業出稼の専業化により作業状況, 労働条件への影響が認められた。
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