(1) 農作業従事者のストレスとその要因を, 農業や生活における地域の特性に対応して解析し, 健康づくりにつながる農業の良い面を引き出すことのできる調査票 (生活と健康調査票) を完成させ, この調査票を用いて, 農業従事者のストレスの実態とその関与因子と因子間の相互関連の様相を解析した。
(2) この調査の結果, 農業従事者の健康の様態を明らかにするために「生活満足度 (QOL)」および「ストレス」が極めて有効な指標であることが確かめられた。
(3) 農業従事者は, 他産業労働者と同等のストレスを感じているが, その要因構造には他産業のそれと異なった特性や, 農業問においても, 作目や地域による比較的明瞭な差異が認められた。
(4) 一般に, ストレスは女性が男性に比し, 若年者が高年層に比して強い傾向が見られた。
(5) 生活要素別に不満の多い項目は, 男女共通の項目として「農業政策」「農業収入」が, 女性では「家事」「自由時間」が, 男性では「農協の支援」「情報」があげられた。
(6) 強いストレッサーとしてあげられた要素は, 仕事の性質 (Demand/Control Model) としては「時間に追われる」「困難なしごと」が, 仕事の要素 (作業態様/作業環境/作業編成) としては「時間が長い」「炎天下作業」「重量物の運搬」「立ち作業」が, ライフイベントとしては「減収」「ケガや病気」「借金」「子供の教育」「老人介護」などであった。
(7) 農作業従事者のQOLの向上につながるストレス関与因子の構造モデル (A/B) を作成し, その妥当性と地域健康活動における有用性を確認した。この結果, 一般に,「生活満足度 (QOL)」を阻害する最も大きい, 直接的な要因は「ストレス」であり, それを緩和し, QOLを高める最も大きな要因は「社会的支援度」であることが明らかにされた。さらに, モデルAは,「ストレス」を規定する要因の構造における, 性差や地域差を明らかにする上で有用なモデルとして活用できることが示唆され, モデルBは,「生活満足度」を規定する要因の構造に関する地域差を明らかにし, 地域の諸特性に応じたストレス対策を呈示していく上で有用なモデルであることが確かめられた。
(8) 関連用語の統一見解を検討することにより, 農業における安全と健康の向上や地域社会における健康活動の展開に役立つ知識や考え方が得られた。
(9) これからの効果的な農村地域健康活動を構築するためには, この調査票を使った比較的小さな地域集団における介入研究の手法を開発し, それを実施して行くことが不可欠のものになってくるのではないかと思われた。
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