日本農村医学会雑誌
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58 巻, 5 号
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シリーズ「農村医学を考える」
原著
  • 福間 美紀, 塩飽 邦憲
    2010 年 58 巻 5 号 p. 516-525
    発行日: 2010/01/30
    公開日: 2010/04/01
    ジャーナル フリー
     介護保険制度の発足後に増加した要介護軽度者は,介護サービス受給によって要介護度の悪化が認められたことから,要介護軽度者へは予防を志向した制度改革が実施された。しかし,要介護軽度者の要介護度変化について解析した研究は少ない。このため,居宅要介護者について,要介護度を追跡し,変化とその関連要因を解析した。対象は出雲市の居宅要介護認定者で,2000年コホート1,965人,2002年コホート2,547人であった。それぞれ2年後の要介護度変化 (維持・改善,悪化,死亡) をコホート間で比較し,関連する要因を検討した。2002年コホートは,2000年コホートと比較して,全要介護度で維持・改善が増加し,悪化が減少した。その傾向は要介護度軽度者 (要支援・要介護1) で顕著であったが,死亡率には有意な差を認めなかった。要介護認定方法はこの間大きな変化はなく,介護サービスの量的な変化も少ないため,要介護度変化の改善をもたらしたとは考えにくい。このため,利用者やサービス事業者の介護やサービスの質が要介護度改善に寄与したことが示唆された。介護サービスを改善するためには,要介護度変化の経年的な評価により要因を明確にすることが重要と考えられた。
  • 庄司 浩孝, 山本 泰三, 井上 朋子, 老川 千鶴, 安達 奈津美, 新谷 周三, 日野 太郎
    2010 年 58 巻 5 号 p. 526-532
    発行日: 2010/01/30
    公開日: 2010/04/01
    ジャーナル フリー
    〔目的〕経口摂取に際し嚥下リハビリテーションなどを含めた専門的な対応が必要と思われる症例を判別する摂食・嚥下フローチャートを作成する。
    〔対象〕嚥下造影 (videofluorography: 以下VF) を施行した嚥下障害患者28例 (平均年齢78.7±11.3歳)。
    〔方法〕反復唾液テスト,改訂水飲みテスト,食物テストの代表的テストを評価し,VF所見,藤島の摂食・嚥下能力のグレードとの関連を調査した。
    〔結果〕反復唾液テスト (感度0.83,特異度0.22),改訂水飲みテスト (感度0.56,特異度0.72),食物テスト (感度0.33,特異度0.75),嚥下造影,藤島の摂食・嚥下能力のグレードを検討した結果,改訂水飲みテスト,食物テストを採用した。しかし改訂水飲みテスト,食物テストがカットオフ値以上であった4例は誤嚥していた。この4例はいずれも脳卒中後遺症のある症例であったことも考慮して,フローチャートを作成した。
  • 百瀬 義人, 畝 博, 林 雅人, 武山 直治, 青柳 潔
    2010 年 58 巻 5 号 p. 533-540
    発行日: 2010/01/30
    公開日: 2010/04/01
    ジャーナル フリー
    〔目的〕秋田,岐阜,福岡,長崎の四地域の農村部住民を対象とした生活習慣調査,食事調査,身体計測結果を用いて,食べる速さと肥満との関連を明らかにする。
    〔方法〕対象者は,2004~2005年の基本健康診査受診者のうち,40~79歳の2,239名 (男性782名,女性1,457名)。肥満の定義は,body mass index (BMI)≤25kg/m2とした。簡易型自記式食事歴法質問票 (BDHQ) の結果から,食べる速さ (遅い,普通,速い),総エネルギー摂取量 (kcal),脂肪エネルギー比 (%),およびアルコール摂取量 (g) を指標とした。他の関連要因として,喫煙習慣はBrinkman index (1日の喫煙本数×喫煙年数),身体活動レベルは国際標準化身体活動票 (IPAQ) を用いて1日の消費エネルギー量 (kcal) を算出した。肥満と食べる速さの関連は,BMIを従属変数,独立変数を食べる速さ,喫煙習慣,アルコール摂取量,身体活動レベル,総エネルギー摂取量,脂肪エネルギー比,年齢,および地域として,共分散分析法により検討した。
    〔結果〕肥満の割合は男性21.1%,女性21.4%だった。食べる速さが速い群は男性40.3%,女性34.7%で,食べる速さが速い群ほど男女ともに年齢は若く,BMIが高かった。一方,食べる速さは総エネルギー摂取量と関連があり,BMIは地域差を認め,総エネルギー摂取量,アルコール摂取量,脂肪エネルギー比,身体活動レベルと関連があった。そこで,共分散分析により年齢,地域を含めた関連要因の影響を調整した結果,調整後においても,男女ともに食べる速さが速い群はBMIが高かった (男性: p<0.001,女性: p<0.01)。
    〔結論〕中高年の農村住民において,食べる速さと肥満の間には有意な正の関連を認め,食べる速さが速いことが,肥満の背景にある可能性が示唆された。
  • 新保 義勝, 富川 勝, 高桑 一彦
    2010 年 58 巻 5 号 p. 541-548
    発行日: 2010/01/30
    公開日: 2010/04/01
    ジャーナル フリー
     低髄液圧性頭痛に類似して,むち打ち症で脳脊髄液が脊髄腔から漏出していること,ブラッドパッチが有効であることが我が国で報告された。その報告以降,患者の増加により診断について混乱が生じている。診断基準とブラッドパッチの効果について自験例にて検討した。14例のうち7例は外傷歴のない特発性,7例は交通事故後の外傷性 (むち打ち症) であった。診断は脳脊髄液減少症研究会ガイドライン2007と同様の基準で行なった。特発性でCT・RIにて漏出部位を特定できなかったのは7例中1例で,この例は他5例と共に起立性頭痛と典型的頭部MRI所見を示していたことから,全例で診断確定された。外傷性では起立性頭痛や典型的MRI所見を示す症例はなかった。外傷性7例中漏出部位の不明は2例。うち1例はガイドライン基準のRIの早期膀胱集積と低いRI残存率を示し,ブラッドパッチにて改善を示した。以上からガイドライン2007は診断基準として妥当と思われた。ブラッドパッチの成果は特発性7例全例で改善。外傷性では複数回のブラッドパッチが行なわれ,以前の状態に戻れた良好な改善が3例,やや改善2例,不変1例,再診なし1例であった。改善例では,起きていられない,家事が出来ない,ドライブや仕事が続けられない,など倦怠や疲労に基づく訴えに対して効果があった。ブラッドパッチにより以前の生活を取り戻せることは大きな社会的効果である。
  • 稲垣 弘, 山田 晴生, 三輪 裕通, 近藤 一男, 福澤 嘉孝, 角田 博信
    2010 年 58 巻 5 号 p. 549-557
    発行日: 2010/01/30
    公開日: 2010/04/01
    ジャーナル フリー
     新型インフルエンザの発生がみられ,世界保健機関が世界的な流行 (パンデミック) を宣言した。日本国内でも,新型インフルエンザ発生に伴い,一部で,大きな社会的影響が生じ,経済的損失の発生がみられた。今後,愛知県下の農協等の役職員の中からも新型インフルエンザに罹患するものが生じる事が予想され,農協等の活動にも大きな影響が生じる恐れが考えられる。そこで,今回,日本政府の発表している被害想定をもとに,各種統計資料から愛知県下の農協役職員に生じると思われる職場コストを試算した。政府の想定の中では最も低い欠勤率20%の場合でも愛知県下の農協等で7.4億円の職場コストの増加が試算された。その結果,政府の想定の中で最大の欠勤率40%の場合では14.8億円の職場コストの増加が試算された。個々の農協では,一部で1億円を超える大きな職場コストの増加が試算された農協も見られた。これらのことから,あらかじめ,新型インフルエンザに対して十分な情報収集を行なった上で,適切な対策を行ない,影響を最小限にすることが,重要と考えられた。
報告
  • 矢口 豊久, 加藤 信也, 松浦 豊美
    2010 年 58 巻 5 号 p. 558-562
    発行日: 2010/01/30
    公開日: 2010/04/01
    ジャーナル フリー
     がん診療連携拠点病院の整備に関する指針が2008年3月1日厚生労働省より出された。その中でがん診療連携拠点病院は診療所と連携してクリティカルパスの一覧を作成・共有することが求められている。この連携を進める準備として愛知県海部医療圏の医療施設にアンケートを送付し,意識調査を行なった。
     その結果,病院側の予想しないところで,診療所により考え方が大きく異なることが判明した。がん患者の受け入れ態勢のある施設は52.6%で約半数であった。また,すべての病期を受け入れると表明しながら,緩和ケアの受け入れができない施設が存在した。診療所は紹介がん患者の逆紹介を必ずしも望んでいないことが判明した。これら結果をもとに今後病院と診療所が連携を進めることが有用であると考えられた。
  • ——緩和ケア委員会の活動を通して——
    渡邊 沙耶花, 谷畑 英一, 伊藤 晴子, 鶴見 昌子, 鈴木 三栄子, 桜井 理恵, 神田 尚子, 雨谷 なを江, 福岡 俊彦, 岡本 浩 ...
    2010 年 58 巻 5 号 p. 563-568
    発行日: 2010/01/30
    公開日: 2010/04/01
    ジャーナル フリー
     当院では平成12年より月1回緩和ケア委員会を開催している。委員会ではがん患者数,緩和ケア対象者数,鎮痛剤使用患者数,告知の有無などの実態調査を月毎に行ない,その内容を検討している。平成19年度のがん患者1,583名に対するがん告知率は88.4%であった。同年10月市民開放病院祭りで46名に対し無記名のアンケート調査を行ない,「正確な説明を受けたい」は95.7%であり,患者へのがん告知は本人の意向を反映するには至っていないと考えられた。がんの告知は本人への告知が基本であり,家族への説明には本人の了解を得る必要がある。下半期では患者の思いを汲み取り,心理・社会的背景を含めた情報収集を意識的に行ない,医療従事者間で共有したところ,告知率は92.6%に上昇した。アンケート調査による希望する人生最期の場所は自宅が60.9%と最も多く,在宅緩和ケアが必要とされているため,訪問看護ステーション,在宅療養支援診療所,居宅介護支援施設と協力連携し,緩和ケア提供体制を整備しなければならない。一般市民の緩和ケアや医療用麻薬に関する知識は必ずしも十分ではない事がわかったので,講演会など市民に対する情報提供が必要であると思われる。
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