日本農村医学会雑誌
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61 巻, 2 号
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原著
  • 福間 美紀, 塩飽 邦憲
    2012 年 61 巻 2 号 p. 69-76
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/11/21
    ジャーナル フリー
     高齢者の死亡に関する研究は生活習慣病が関与していることが多く報告されている。しかし,加齢に伴う身体機能や生活機能の虚弱が,生活習慣から独立して死亡に影響するか否かは十分に明らかになっていない。このため,高齢者の死亡への生活習慣と虚弱の関連を明らかにすることを目的に,島根県雲南市の生活機能の低下した新規の要支援認定高齢者 (軽度障がい高齢者) 66人と,生活自立している高齢者 (元気高齢者) 72人の2群について3年間の前向き調査を実施した。軽度障がい高齢者の死亡率は元気高齢者と比べ多い傾向であったが,有意差は認められなかった。すでに虚弱の進行した軽度障がい高齢者の死亡には,性 (男性が女性よりも有意に増加) のみが関連し,生活習慣や虚弱は関連していなかった。元気高齢者の死亡には,生活習慣の喫煙と虚弱要因の歩行障害が有意に関連していた。このように高齢者の死亡には,生活習慣と虚弱が独立して関連していることが明らかになった。
  • 馬庭 瑠美, 岩本 麻実子, 山崎 雅之, 塩飽 邦憲
    2012 年 61 巻 2 号 p. 77-87
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/11/21
    ジャーナル フリー
     高齢者では身体機能や生活機能が低下しがちであり,栄養の維持改善が重要である。しかし,高齢者での栄養改善効果は,病院での重度な栄養不良患者を対象とした研究が多く,地域での高齢者で栄養改善が有効かどうかの研究は少ない。そこで,自立高齢者を対象とした介護予防プログラム (食・運動習慣改善支援) において,牛乳摂取による栄養と身体機能への効果を検討した。対象は出雲市在住で3か月間の介護予防プログラムに参加した高齢者45名 (平均年齢73.7±5.7歳) で,牛乳介入群22名と対照群23名の2群に分けた。牛乳介入群には,宅配により牛乳を提供し,介入前後に栄養摂取量,運動機能,体格,血液生化学等の調査を行なった。牛乳介入群では,牛乳・乳製品の摂取量が有意に増加し,栄養指数であるBMI,HDL-コレステロール,ヘモグロビンの改善が認められた。一方,対照群では栄養指数の改善は認められなかった。介入による変化量では,牛乳介入群のBMI,アルブミン,HDL-コレステロール,ヘモグロビン,HbA1c,必須アミノ酸/非必須アミノ酸比が対照群に比較して有意に改善した。運動機能では,介入前に対照群の運動機能が不良であり,運動教室の影響が強く現れたために,対照群が介入群よりも運動機能の改善が顕著であった。以上より,良好な栄養状態の高齢者でも牛乳摂取が栄養状態を改善させることが明らかになった。
  • 南部 泰士, 南部 美由紀, 佐々木 英行, 桐原 優子, 月澤 恵子, 今野谷 美名子, 高橋 俊明
    2012 年 61 巻 2 号 p. 88-96
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/11/21
    ジャーナル フリー
     健康日本21最終報告書 (2011) により,「アルコール関連問題が特に増加していると推定される女性・高齢者の飲酒指標等の目標値の追加が考慮されるべきであり,今後有効な対策を立て,評価を行なうためには,必要な調査の実施,データの集積を行なう必要がある」と,今後の課題が述べられている。
     本研究は秋田県横手市の農村地域に在住する高齢者448人 (男性206人,女性242人) について,飲酒習慣と生活機能・肝機能検査値に着目し,今後の一次予防活動における基礎情報の提供を目的に調査を行なった。男性は,1日にアルコールを21g以上摂取する人の,基本チェックリスト25項目中19項目の生活機能が低下していた。特定高齢者候補者の88.9%が,1日にアルコールを21g以上摂取していた。女性は,飲酒習慣とBMI・肝機能検査値に関連性はみられなかったが,特定高齢者候補者の1日のアルコール摂取量が多かった。
     飲酒習慣は高齢者の肝機能検査値・生活機能と関連しており,要介護リスクを判断する指標になりうることが明らかになった。高齢期以前から,ライフサイクルに応じた,「節度ある適度な飲酒」に関する知識の普及を,より推進する必要があると考えられた。
報告
  • 松村 美穂
    2012 年 61 巻 2 号 p. 97-101
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/11/21
    ジャーナル フリー
     近年,様々な施設でラテックスアレルギー (Latex-Allergy: LA) 患者に対する手術室管理が問題となっている。当院でも過去に術中LA発症患者の経験から危機管理目的で2010年1月にラテックスアレルギー対策チーム (CTLA) を立ち上げた。
    〔対策〕①当院でのラテックスを含む全製品のリスト作成,②術前LA情報収集の強化,③ラテックスフリー製品を揃えたワゴン作成,④LA対策マニュアル作成を行なった。
    〔結果〕①医療材料の組成を明確にした。②LA情報を元に対応している。③緊急対応可能なラテックスフリーワゴン作成。④マニュアルを基盤にLAに関してスタッフの意識が変わった。
    〔今後の課題〕手術室内での安全管理は確立されたが,外来・病棟でのLA対策はなされていない。今後,CTLAが中心となり病院全体での対応が必要と考えられる。
  • 伊東 宏也, 三好 佳仁, 井上 友美, 杉谷 政剛
    2012 年 61 巻 2 号 p. 102-108
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/11/21
    ジャーナル フリー
     当院は2010年10月に機器更新に伴い放射線治療装置トモセラピーを導入した。トモセラピーはヘリカルの強度変調放射線治療が可能で,メガボルトCTを用いたイメージガイドシステムを備えている。これらの技術により,腫瘍の形状に合わせた照射ができ,かつリスク臓器への線量を抑えた照射ができるようになり,また照射位置精度を向上させることが可能となった。頭部,頸部,腹部,骨盤部への照射に関してはこのヘリカル照射が適している。我々はヘリカル照射にて昨年度150名近い患者を治療することができた。
     しかし,ヘリカル照射では低線量領域が従来の照射法に比べて広くなってしまうことが問題となる。肺に対して低線量の照射体積が大きくなると放射性肺炎のリスクを増加させる恐れがある。
     そのため胸壁や縦隔等の胸郭病巣への照射は困難であると思われたが,このような症例の場合トモダイレクトを使用することで解決できる。
     トモダイレクトは,従来の照射法と同様のガントリー固定の治療計画ができるようになった。ただし,ヘリカル照射と同様に寝台移動をしながら照射を行ない,強度変調放射線治療が可能である。トモダイレクトにて昨年度20名以上の患者を治療することができた。
  • 永美 大志, 八百坂 透, 前島 文夫, 西垣 良夫, 夏川 周介
    2012 年 61 巻 2 号 p. 109-112
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/11/21
    ジャーナル フリー
     本学会関連の一施設から,某中学校において集団有機リン中毒発生の報告があり,患者を受け入れた地域の4医療施設を対象に調査した。
     7月下旬,学校関係者がアリの駆除のため,有機リン系殺虫剤メチダチオン40%製剤の原液を,10時から11時の間に校舎近くのアリの巣に散布した。付近の教室内にガスが流入し,中学生たちが自覚症状を訴えて,昼ごろから16名が4病院に搬送された。
     患者の訴えた症状は,「頭痛」13名,「吐気・嘔吐」11名,「めまい」4名などであった。うち1名は2回嘔吐した。コリンエステラーゼ活性値,瞳孔径および対光反射は,いずれも正常範囲内であった。3名が経過観察のため入院したが全員治癒し後遺症は見られず,軽症に止まったものと考えられる。
     しかし,劇物である有機リン殺虫剤の原液を,そのまま中学校の教室付近で散布したことは,厳に戒められるべきであり再発防止が図られる必要がある。
  • 平川 仁尚
    2012 年 61 巻 2 号 p. 113-117
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/11/21
    ジャーナル フリー
     少子高齢化,核家族化などにより,高齢者世帯や高齢者独居の割合が増加している。高齢者,とりわけ認知症高齢者に地域で安心して暮らしてもらうための環境の整備のためのリソースとして,民生委員がいる。民生委員とは,地域住民の福祉向上のための相談,指導,調査などの自主的な活動や,福祉事務所などへの協力活動を行なう民間奉仕者である。民生委員には,認知症を正しく理解し,ソーシャルワーカーらと連携して早期発見から複雑な倫理的諸問題まで全人的な視点で高齢者の生活を支援する役割能力が求められる。そこで,今回,地域住民,特に民生委員向けの認知症教育プログラムの開発を行なうための第一歩となる民生委員の学習ニーズを明らかにし,それに基づいてプログラムを試作・実施した。プログラムの時間は2時間半で,各セッションは「ワークショップとは」,「認知症の予防法」,「対応に困った認知症の方や家族の方の経験」,「現場の苦悩~事例検討1」,「現場の苦悩~事例検討2」となった。参加者アンケート調査の結果では,ワークショップの全項目で概ね全体の90%以上が理解できたと回答した。参加者から高い評価を得たが,今回のプログラムを広く各地で実施し,ノウハウとデータの蓄積を行なう必要があると同時に,ファシリテーターの養成等を通じた一般化にも取り組む必要があると考えた。
症例報告
  • 佐藤 友紀, 川崎 芳英, 加藤 愼之介
    2012 年 61 巻 2 号 p. 118-123
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/11/21
    ジャーナル フリー
     症例は81歳女性で,道路を横断中,軽トラックに左側から衝突され救急搬送となった。肉眼的血尿と左側腹部痛の訴えがあり,造影CTにて左腎中極の深在性腎損傷を呈す本邦腎外傷分類Ⅲb型の腎外傷と診断し入院とした。保存的に加療し,状態は安定していたが,受傷18日目に突然の肉眼的血尿が出現した。貧血の進行のため赤血球輸血を要した。受傷側の腎動脈造影を行なったところ動静脈瘻と仮性動脈瘤をみとめたため,液体塞栓物質とマイクロコイルにて経カテーテル的動脈塞栓術 (以下TAE: transcatheter arterial embolism) を施行した。術後は血尿の再発や貧血の進行を認めず,経過良好であったが,心不全を併発し長期の内科的治療を要した。受傷14か月後の時点で動静脈瘻の再発や腎梗塞の出現,腎機能低下も認めずTAEは有効であった。腎動静脈瘻に循環器疾患が併発することが文献からも報告されており,長期的な患者管理を行なう上で重要となる合併症である。
  • 武藤 桃太郎, 山本 昌代, 下田 瑞恵, 林 明宏, 石川 千里, 井上 充貴, 高橋 裕之, 萩原 正弘, 青木 貴徳, 橋本 道紀, ...
    2012 年 61 巻 2 号 p. 124-129
    発行日: 2012/07/31
    公開日: 2012/11/21
    ジャーナル フリー
     症例は86歳女性。急な上腹部痛にて受診し,腹部超音波およびCT検査で胆嚢の腫大と著明な壁肥厚を認め,胆嚢炎の診断で入院となった。胆嚢内に結石や腫瘍は認めなかった。保存的加療にて改善しないため,経皮経肝胆嚢ドレナージ術 (PTGBD) を施行したところ胆汁は血性であり,壊死性胆嚢炎が疑われ緊急胆嚢摘出術を施行した。開腹所見ではGrossⅡ型遊走胆嚢で,胆嚢頸部を軸として時計方向に360度捻転しており,腹腔内には胆汁の漏出を認めていた。捻転解除後に胆嚢摘出を行なったところ,術後経過は良好で第15病日に退院となった。レトロスペクティブにCTを確認すると,胆嚢頸部に渦巻き像が確認され,術前に胆嚢捻転症を疑うことは可能であった。原因を指摘できない胆嚢炎においては胆嚢捻転を疑い画像を詳細に検討する必要があると考えられた。またPTGBDに関しては胆汁性腹膜炎の危険があるため,本症が疑われた場合の適応については慎重に判断するべきである。
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