日本農村医学会雑誌
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68 巻, 2 号
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原著
  • 大村 玲次, 杉山 基, 大野 南奈, 和宇慶 晃一, 桐岡 智二, 玉内 登志雄
    2019 年 68 巻 2 号 p. 113-119
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)は,急性期病院にて原疾患の治療が終え,病状の安定した患者が以前の生活に戻るために集中的にリハビリテーション(以下リハビリ)を行なう病棟である。当院では,理学療法士(以下PT),作業療法士(以下OT),言語聴覚士(以下ST)のセラピストによるリハビリや病棟にて看護師が行なうリハビリ(以下病棟リハビリ)を積極的に行なっている。問題となってくるのが,患者の1日の予定の管理,また効率良くリハビリを取り入れていく中で同一の目的を持つ多職種での情報共有である。そこで全患者の予定を一元管理できる「患者予定表」,床頭台にて各患者の予定が確認できる「リハビリ予定ボード」,ADLの状況や目標を記入した「ADLパネル」を導入した。結果,「患者予定表」により患者の提供単位数の調整や疲労に考慮した予定が組みやすくなった。「リハビリ予定ボード」によりベッドサイドでの予定の確認と患者自身も日課に意識した生活を送ることが出来るようになった。また「ADLパネル」により看護師とセラピストがADLの情報の共有が行なうことが出来るとともに患者自身も現状と目標を把握できるようになった。患者を含めて多職種が関わる回復期病棟では,同じ目的のリハビリを実施していく中で情報共有が必要で,「患者予定表」,「リハビリ予定ボード」,「ADLパネル」は有用である。
  • 武永 智, 秋葉 靖雄, 田口 圭祐, 水戸 裕二朗, 吉田 卓功
    2019 年 68 巻 2 号 p. 120-126
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     本邦では妊娠41週の妊婦の管理について一定の指針が決まっておらず,各施設に管理方針が委ねられている。当院では妊娠41週の妊婦に対して症例によって分娩誘発を行なっているが,分娩転帰として緊急帝王切開に至る症例,分娩後に弛緩出血で治療を要する症例や児がNICUに入室する症例を経験する。そこで,どの症例にこのような事象が起こりやすいかを後方視的に検討した。
     2013年1月から2015年12月までの3年間に当院で分娩した3,492例のうち,妊娠41週に分娩となった382例を対象とした。経産婦の緊急帝王切開率が1%であったのに対して,初産婦は21%と高値であったため,初産婦に焦点を当てて検討した。
     382例の中で,初産婦は258例あり,妊娠41週まで未破水,未陣発のために分娩誘発を行なった初産婦は122例(以下,誘発群)と妊娠41週になり陣痛発来もしくは前期破水した初産婦は136例(以下,非誘発群)であった。誘発群は非誘発群と比較し,高年妊婦や妊娠中に体重増加した妊婦が多く,緊急帝王切開となるリスクも高かった。一方で,児がNICUに入室する割合に有意差は認められなかった。誘発群に絞った検討では,誘発日数を要した症例や高年妊娠になるほど緊急帝王切開率が高かった。
     妊娠年齢の高齢化に伴い,妊娠中の体重増加のリスクに関して啓蒙していく必要がある。
  • 本間 崇浩
    2019 年 68 巻 2 号 p. 127-133
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     血液センター遠隔地にある当院は,緊急時に備え一定量の術前血液製剤を院内に備蓄してきたが,血液製剤の廃棄率が全国平均の10倍強と多いことが問題であった。血液センター開設は困難であったため,予定運搬量以上の血液製剤を搭載した血液運搬車を当院駐車場に待機することとなった。法律上,血液運搬車は血液センターが保管することと同義となるため,血液製剤の迅速な確保が可能になった。適切な術前準備血液量を算出するため,最大手術血液準備量(Maximal Surgical Blood Order Schedule; MSBOS)及び手術血液準備量計算法(Surgical Blood Order Equation; SBOE)を導入し,無理なく術前準備血液の中止と赤血球製剤廃棄の削減を可能にした。
研究報告
  • 水谷 彰史, 鈴木 千波, 久保 淳一, 佐藤 公人
    2019 年 68 巻 2 号 p. 134-140
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     Sodium Glucose co-Transporter 2(SGLT 2)阻害薬は血糖低下作用だけでなく,副次的効果として様々な効果が期待されている。そこで,有効性と副次的効果について検討した。対象は2014年6月~2017年3月末。2型糖尿病患者に対しSGLT 2阻害薬が新規に投与された86症例。Body Mass Index(BMI)は28.69±4.91kg/m2。投与前,投与2か月後の比較で体重,BMI,ヘモグロビンA1c(HbA1c),アスパラギン酸アミノ基転位酵素(AST),アラニンアミノ基転位酵素(ALT),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP),推算糸球体濾過量(eGFR),トリグリセリド(TG),尿酸(UA)に有意な低下,ヘマトクリット値(HCT),血中尿素窒素(BUN),クレアチニン(Cre),高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)に有意な上昇が認められた。HbA1c,体重,AST,ALT,γ-GTP,BUN,低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C),UAの投与前と投与2か月後の変化量に有意な負の相関が認められた。投与前のHbA1cが高い患者でよりHbA1cが低下し,投与前の体重が重い患者でより体重の減少が認められた。以上のことからSGLT 2阻害薬はコントロール不良肥満合併2型糖尿病患者に有効性が高い可能性が示唆された。また,心血管イベントのリスク因子となるデータや肝機能検査値の改善が認められ,長期服用で心血管イベントの抑制に繫がる可能性があり,脂肪肝改善の可能性についても考えられた。しかし,HCTの上昇や腎機能の低下が認められたため,投与初期の水分補給や腎機能の継続したモニタリングが必要であると思われる。
  • 鈴木 千波, 久保 淳一, 佐藤 公人
    2019 年 68 巻 2 号 p. 141-147
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     Irinotecan(CPT-11)の用量規定因子は好中球(NEUT)減少や下痢であり,それらの副作用発現には活性代謝物SN-38の抱合に関与するUDP-グルクロン酸転移酵素(Uridine diphosphate-glucuronosyltransferase,UGT)1A1の遺伝子多型との関連性が報告されている。そこで今回,FOLFIRI±α治療を行なった患者のUGT1A1遺伝子多型と副作用発現状況について調査した。調査期間は2008年11月から2017年3月とし,UGT1A1の遺伝子検査を実施し,FOLFIRI±αを投与された25症例を対象とした。年齢,性別,身長,体重,Body surface area(BSA),UGT1A1の遺伝子型(*1/*6hetero(*6he型),*1/*28hetero(*28he型),ホモ型,複合hetero型(複合he型),wild型に分類),治療併用薬について調査した。また,CPT-11/5-FU bolusの初回投与量,初回Relative Dose Intensity(RDI)(%),1クール目の血液毒性を調査した。年齢は70.4±8.6歳,UGT1A1遺伝子型は*28he型5症例,*6he型6症例,wild型14症例であり複合he型,ホモ型は0例であった。初回投与量,初回RDIに有意差は認めなかった。白血球(WBC)減少はGrade(G)3が*6he型で2症例,G 4が*28he型で2症例であった。血小板(PLT)減少はG 4が*28he型で2症例,NEUT減少はG 3が*6he型で3症例,G 4が*28he型で2症例,*6he型で2症例であった。今回の調査において,*6he型,*28he型,wild型では初回投与量,初回RDIに有意差はみられなかった。しかし,*28he型,*6he型にG 3以上の血液毒性がみられた。このことからもhe型はwild型に比較し副作用発現頻度は高い傾向があると考えられた。今後はhe型の減量基準を明確にする必要があると考えられる。
  • 大橋 史嵩, 田中 壮周, 越智 裕太, 丸山 卓哉, 後藤 悠, 嘉屋 則子, 田畑 裕和, 稲垣 育宏, 小寺 隆二, 柴波 明男
    2019 年 68 巻 2 号 p. 148-154
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     人工透析では血中のリンを除去する為に吸着薬を使用する。リン吸着薬は鉄を含有しているため,鉄過剰を起こすおそれがあり,適切な管理が必要である。近年,使用可能となったスクロオキシ水酸化鉄(SO)は従来のクエン酸第二鉄水和物(FCH)と比較し,鉄吸収が少なく鉄過剰を起こしにくいとされている。しかしわが国で実施したSOの臨床試験では,血清フェリチン(Ft)およびトランスフェリン飽和度(TSAT)が上昇傾向を示しており,FCH同様鉄過剰を起こすおそれがある。そこで,SOについてリン吸着効果と共に,鉄関連値について検討したので報告する。
     対象患者12例中,鉄関連値異常は3例でみられ,下痢,悪心等の有害事象は7例でみられた。24週まで服用を継続した8例において,血清リン(P)は24週で減少,FtおよびTSATは増加,ESAは減少傾向であった。Ftの変化率は,SO開始時が100ng/mL未満の5例は100ng/mL以上の3例と比べ大きかった。
     SO投与によりPの減少および鉄欠乏を改善する傾向がみられた。また,赤血球造血刺激因子製剤の投与量減少がみられ,薬剤費削減に寄与する可能性も示唆された。一方,鉄欠乏例では3例で鉄関連値異常が認められ,約半数では投与開始後4週間で自覚症状を伴う有害事象が発現した。そのため,SOの投与はFCHと同様に鉄関連値への影響を考慮し,投与初期から臨床検査値および有害事象のモニタリングを行ない,状態に応じSOまたはESAの投与量を調節することが重要であると考えられる。
  • 野口 博生, 山田 利信
    2019 年 68 巻 2 号 p. 155-163
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     2015年12月から2016年9月にかけて秋田県北秋田市で小学生を中心とした百日咳の地域的流行があった。症状から疑われた138例を検査して最終的に74例を百日咳と検査診断した。2018年の届け出基準には特徴的な症状と検査の組合せで62例が該当した。施設別の患者発生経過表から学校内の感染が家庭を経由して地域に拡がっていくことが推察された。保健所と医療機関,教育委員会とで情報共有に努め,流行は10か月間で終息した。百日咳では病初期の感冒様症状から徐々に特徴的な咳になるのが典型的な経過とされていて2017年までの感染症法では「咳が14日以上続く」事が必要だったが,今回の診断症例の26例(35%)が7日未満での受診で14日以内に症状は軽快した。百日咳は一般診療で遭遇する機会は多くはないが,地域的流行がある時には疫学的な情報収集と積極的な検査で早期診断と治療が期待できる疾患である。
  • 在宅介護の継続要因の分析
    仲根 よし子, 中田 久恵, 大槻 優子
    2019 年 68 巻 2 号 p. 164-173
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     本報告は,農村過疎地域の女性介護者が在宅介護を継続している要因を明らかにし,在宅での介護を継続するためにどのような支援が必要かを検討する基礎資料を得ることを目的とした。調査方法は,農村過疎地域において,65歳以上の要介護の方を自宅で1年以上介護した経験のある女性5名を対象に半構造化面接方法によりインタビューを実施した。分析はMayring(2000)の内容分析の手法を用いて行なった。分析の結果,在宅介護の継続要因として【在宅サービスの有効活用】,【介護者自身の時間の確保】,【家族の支援体制】,【理解者の存在】,【介護の知識・技術の獲得】,【過疎地域における交通事情】の6つのカテゴリーが抽出された。
     農村過疎地域における女性介護者に対して,専門職が支援すべき2つの特徴が明らかになった。1つ目は,介護仲間づくりのための支援である。特に嫁の介護者は【理解者の存在】を求めており,在宅で介護をしている介護者同士をつなぐ場や交流の機会の設定が必要である。2つ目は,農村過疎地域の特徴として,【過疎地域における交通事情】により,在宅サービスの活用が制限される地域があることから,地域の実情や状況を踏まえた支援方法の検討が示唆された。
  • 佐々木 高信, 照屋 孝夫, 平野 惣大, 喜瀬 真雄, 花城 和彦, 青木 一雄
    2019 年 68 巻 2 号 p. 174-179
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     2009年4月より2016年12月までの期間に,琉球大学医学部附属病院にて頭頸部癌(口腔,咽頭,喉頭,その他)からの肺転移巣を切除した21症例27切除術を後方視的に検討した。全症例の肺転移巣切除後5年全生存率(overall survival: OS)は56.7%,生存期間中央値(median survival time: MST)は21か月と報告された文献における肺転移切除群と比較し良好な成績を得た。肺転移巣の腫瘍径≥2.0cmが有意な予後不良因子であった(p=0.0157)。多変量解析では独立した予後不良因子は得られなかった。以上より2.0cmより小さい径の肺転移巣に対し,積極的な切除が予後改善に貢献する可能性が示唆された。今回の結果は悪性疾患の肺転移治療に関し,意義のある知見と考え,報告する。
症例報告
  • 篠原 宏美, 市川 裕平, 村上 穣, 大沢 紘介, 佐々本 格, 降籏 俊一, 塩澤 哲, 池添 正哉
    2019 年 68 巻 2 号 p. 180-184
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     患者は80歳代,女性。顔面の違和感,流涎が出現し,右顔面神経麻痺の診断で前医に入院した。入院時検査で,血清クレアチニン0.54mg/dL,推算糸球体濾過量79mL/min/1.73m2であることが確認された。入院後からバラシクロビル3,000mg/日の内服が開始されたが,その6日後より全身倦怠感,めまい,嘔吐が出現した。血清クレアチニン4.99mg/dLの急性腎障害に加えて軽度の意識障害が認められたことから,アシクロビル脳症の合併が疑われ当院腎臓内科に転院した。アシクロビル除去目的に3日連続で血液透析を施行し,意識レベルは清明となった。急性腎障害の原因検索目的で施行された腎生検により,アレルギー・免疫学的機序を介した急性尿細管間質性腎炎と確定診断された。退院後,腎機能は血清クレアチニン0.67mg/dLまで改善し,血液透析導入前の血中アシクロビル濃度が11.9μg/mLと異常高値であったことから,アシクロビル脳症に矛盾しないことが確認された。
  • 小林 史岳, 唐澤 忠宏, 吉田 敏一, 安達 亙
    2019 年 68 巻 2 号 p. 185-191
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     Edwardsiella tarda(以下,E. tarda)による子宮付属器膿瘍で発症し,診断・治療に苦慮した虫垂癌を経験した。起炎菌となったE. tardaは感染性腸炎の原因になるものの,自然治癒することが多いが,免疫不全患者においては腸炎の重症化,軟部組織感染や膿瘍形成の合併などにより致死率も高いため,早期の感染巣除去が必要とされている。
     症例は83歳女性で,約1年4か月前に発熱を主訴に受診した。複雑性尿路感染と診断し加療を開始したが,E. tardaによる子宮付属器膿瘍からの敗血症であることがわかった。手術が必要と考え基幹病院へ転送したが,この際は抗菌薬投与のみで治癒した。しかし今回,発熱を主訴に当院救急外来を受診,子宮付属器膿瘍の再燃であることがわかり入院した。抗菌薬投与のみでは改善しなかったため,他の基幹病院へ転送し,手術を行なった。最終的に虫垂癌が原因の子宮付属器膿瘍であることが判明した。
  • 石井 政嗣, 大杉 頌子
    2019 年 68 巻 2 号 p. 192-197
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー
     症例は70代女性。来院2日前からの嘔気嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した。炎症反応の軽度上昇と腹部造影CT検査にて少量の腹水,腸閉塞,回腸に隆起性病変を伴う腸重積と思われる所見を認めた。血流障害を伴う小腸腫瘍による腸重積と診断し,同日腹腔鏡下イレウス解除術を施行した。回盲部より約40cmの漿膜面に充血を伴った小腸腫瘍と考えられる部位を認めたが,重積,重積の跡は認めなかった。病変部位を臍部創より体外に出し,腫瘍を露出しないように小腸部分切除術を施行した。術後に小腸を切開したところ,内部より椎茸が検出された。術後経過は良好であり,術後14日目に退院した。
     小腸腫瘍に伴う腸重積と術前診断したが,結果的に食餌性イレウスであった症例であり,鑑別診断を考えるうえで有用であると思われたので報告する。
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