日本農村医学会雑誌
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原著
  • ─アセット・モデルを用いた分析─
    井上 智代, 成田 太一, 山下 優子, 佐藤 美由紀, 伊藤 直子, 渡辺 修一郎
    2025 年 74 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
     本研究は,アセットの視点で,農村で生活する高齢者の生の声から,農村で生活する高齢者の持つストレングスを抽出し,整理することを目的に,グループ・インタビュー法を用いて調査を行ない,質的に分析を行なった。A県B市C地域D地区に在住する高齢者4名のグループを2組,E地区に在住する高齢者5~6名のグループの3組にグループ・インタビューを実施した結果,高齢者のストレングスに関する重要アイテムが133抽出された。133の重要アイテムから39のサブ重要カテゴリーに抽出し,その内容を,重要カテゴリーであるindividuals(個人),association(組織・グループ),institutions(強みを活かせる環境・資源など)に投入した結果,individuals(個人)に関する内容は18サブ重要カテゴリー,association(組織・グループ)に関する内容は11サブ重要カテゴリー,institutions(強みを活かせる環境・資源など)は10サブ重要カテゴリーとして抽出された。農村の高齢者は農村である環境を活かして個人として,グループとして地域の中で様々な役割を担って活躍していた。そのためには「農村」という環境がもたらす影響は大きく,他世代や公的機関等からの支援も重要であることが明らかとなった。今後,抽出された「高齢者の持つストレングス」を,地域住民が住み慣れた地域でいきいきと活動的に安心して生活するための方策に役立てていきたい。
研究報告
  • 風間 みなみ, 桃原 祥人, 秋田 真友, 谷田部 菜月, 安藤 美貴子, 瀬賀 雅康, 梅木 英紀
    2025 年 74 巻 1 号 p. 14-18
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
     当院は茨城県唯一の第一種感染症指定医療機関かつ地域周産期母子医療センターであり積極的にCOVID-19陽性妊婦の受け入れを行なってきた。今回,当院で管理したCOVID-19陽性妊婦58例の周産期転帰について報告する。2020年7月から2022年9月までに当院で管理したCOVID-19陽性妊婦を後方視的に検討した。管理したCOVID-19PCR/抗原陽性58例の重症度は軽症49例(84.5%),中等症Ⅰ5例(8.6%),中等症Ⅱ2例(3.4%),偽陽性2例(3.4%)であった。産科合併症として切迫早産5例,妊娠糖尿病3例,切迫流産1例を認めた。分娩となった22例の分娩様式は経腟分娩18例,帝王切開3例,他院へ搬送後の緊急帝王切開1例であった。それぞれの妊婦の分娩時は発症日を0日として,4日目が4例,5日目3例,その他1,3,7,8,14,16,21,25,29日目が1例ずつ,また経過中無症候であったが入院時もしくは家族陽性判明時のスクリーニング検査で陽性となった例が4例あった。周産期転帰の平均は分娩週数38週4日(34週2日~40週6日,標準偏差10.164),児出生体重3,042g(2,000~3,680g,標準偏差401.268),Apgar score 1分7.90点(6~9,標準偏差0.514),5分8.86点(8~9,標準偏差0.343),臍帯動脈血液ガスpH 7.304(7.120~7.360,標準偏差0.058)であった。第6波以降の期間に管理したCOVID-19陽性妊婦44例においては,軽症43例(97.7%),偽陽性1例(2.3%)であった。COVID-19陽性妊婦は非陽性妊婦と比較し早産が多いという報告も見られ,当院では切迫早産を5例に認めた。
     COVID-19陽性妊婦は周産期リスクが高いとされており,慎重な管理が求められるため当初は選択的帝王切開とする医療機関が多く,実際に当院でも他の医療機関において対応困難と判断された症例が多く紹介受診となった。しかし当院で経腟分娩となった18例では周産期予後は良好であり,重症でなければCOVID-19陽性のみを理由に帝王切開を選択することは必須ではないと考えられる。また第6波以降患者の重症度が有意に低下している理由として,ワクチン接種が浸透した影響もしくは変異株による病勢の変化の影響が考えられる。今後も妊婦へのワクチン接種の推奨を継続しつつ,COVID-19の病勢に合わせて柔軟に対応を変えていく必要がある。
  • 矢野 由香, 久我 貴之, 重田 匡利, 池下 貴広, 升井 規晴
    2025 年 74 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
     術後せん妄は手術後に見当識障害や妄想・幻覚などに関連した異常行動を呈する精神状態である。術前にせん妄発症のリスクを評価し,術後のせん妄症状とその対応について検討したので報告する。対象は2022年11月~2023年4月に全身麻酔手術を受けた患者71例。評価にはDELTAプログラムせん妄アセスメントシートを用い,入院時に準備因子を評価し1つでも該当すればハイリスクとしてせん妄症状のチェックを行なった。全身麻酔は準備因子の1つであるため71例全例せん妄ハイリスクであった。術後,症状が1つでもあればせん妄対応とし促進因子を評価,治療を行なった。術後せん妄症状を有した症例は17例であった。術後せん妄症状あり(Y群),なし(N群)に分け準備因子について検討した。Y群は70歳以上,脳器質的障害あり,認知症併存が有意に多かった。Y群の平均年齢は78.5歳,N群69.4歳と有意に高齢であった。両群間で手術時間,麻酔時間,出血量,輸血量などに有意差は認めなかった。Y群のせん妄症状は注意力の欠如15例,思考の解体8例,意識レベルの変容6例。対応として抑制15例,抗精神薬投与10例,睡眠薬投与4例。モニターやカテーテルなどの早期除去と昼夜逆転を防ぐためのリハビリテーション早期導入を全例で行なった。70歳以上,脳器質的障害を有する手術患者では特に術後せん妄発症に留意すべきと考える。準備因子を特定し,術前にせん妄発症のリスクを評価することで早期介入が可能である。
症例報告
  • 岡田 恒夫, 村上 真慧
    2025 年 74 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
     回復期リハビリテーション病棟では医薬品費の包括化のため,高薬価であるボツリヌス療法は行ないにくい。今回,脳卒中後の右片麻痺患者で,回復期リハビリテーション病棟入棟中にボツリヌス療法を施行し,良好な経過を得た症例を報告する。
     【症例】50歳女性,X年8月左視床出血を発症,保存的に治療された。発症から10日目に当院の回復期リハビリテーション病棟に入棟した。経過中に,右上下肢の痙縮が出現,増悪し,右肩運動時痛,尖足,反跳膝により,リハビリテーション進行を阻害したため,発症4か月後に右大胸筋,下腿三頭筋にボツリヌス療法を施行した。投与後,肩挙上時の疼痛改善,尖足,反跳膝が改善し,発症6か月後に短下肢装具で歩行監視,ADLが入浴以外自立となった。
     【考察・まとめ】脳卒中治療ガイドライン2021では亜急性期にボツリヌス療法を行なうことは妥当であるとされている。回復期リハビリテーション病棟入棟中であっても痙縮によるリハビリテーション進行阻害例では,ボツリヌス療法の検討が必要と考えられる。
  • 小松 紗友美, 遠藤 誠一, 秋田 真友, 竹谷 陽子, 松岡 竜也, 市川 麻以子, 坂本 雅恵, 島袋 剛二
    2025 年 74 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
     Smooth Muscle Tumor of Uncertain Malignant Potential(STUMP)は子宮平滑筋腫瘍の中で良性と悪性のどちらの基準も満たさない腫瘍であり,子宮摘出後でも再発する可能性がある。近年再発因子の1つとして,クロマチンリモデリングタンパクをコードするATRX遺伝子の消失が報告された。
     症例は62歳1妊1産,59歳の時に骨盤内腫瘤に対して腹式単純子宮全摘術と両側付属器摘出術を施行し,STUMPと診断した。62歳の時に胸腔内の多発腫瘤を認め,子宮STUMPの再発と診断した。手術適応はなくがんゲノムプロファイリング検査を行なったところ,ATRX遺伝子の変異を認めた。有効な治療法はなく再発から6か月後に死亡に至った。後方視的に手術検体の免疫染色を追加し,ATRX(-)を確認した。
     免疫染色によるATRXの発現は予後予測因子となりうることが示唆された。
  • 小林 史岳, 髙橋 佐智衛, 井村 仁郎
    2025 年 74 巻 1 号 p. 36-39
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
     精索に発生する平滑筋肉腫は稀な疾患である。症例は74歳男性。右陰嚢腫大と右鼠径部痛を主訴に受診。精索腫瘍を認め,生検し精索平滑筋肉腫と診断した後,基幹病院で高位精巣摘除術施行となった。術後補助療法は行なわず,術後2か月後に再発し,4か月半後に死亡した。文献的考察を加え報告する。
  • 小出 明奈, 山田 和佳, 深井 美樹, 土井 昭夫, 水谷 三希子, 伊藤 真由美, 北島 聖晃, 山口 桂, 宮田 栄三, 土森 有紗, ...
    2025 年 74 巻 1 号 p. 40-44
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
     悪性胸水とは,胸膜播種や腫瘍の浸潤など,癌が原因となって胸腔内に液体が貯留した病態である。原因となる腫瘍は肺癌,乳癌,卵巣癌,悪性リンパ腫が大半を占める。尿路上皮癌が原因となる悪性胸水は稀であり,細胞診検査において鑑別に苦慮する。今回尿路上皮癌が胸水に出現した症例を経験したので報告する。症例は80歳代男性。右背部痛を主訴に受診し,精査の結果,尿管癌と診断された。治療経過中に片側胸水を認め,悪性胸水疑いで細胞診検査,ならびに組織診検査が施行された。細胞診検査では不整腫大核を有する類円形の異型細胞が多数観察された。同時に作成したセルブロック組織診では免疫組織学的検討を経て,尿路上皮癌と診断された。
     体腔液における細胞診検査においては原発巣の推定まで求められることがある。細胞所見のみに留まらず,臨床所見や既往歴などを考慮し,多角的なアプローチをもって細胞選別を慎重に行なうことが肝要である。
看護研究報告
  • 宗宮 真理子, 古澤 幸江, 橋本 麻由里, 安田 みき, 宗宮 知香
    2025 年 74 巻 1 号 p. 45-55
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/06/18
    ジャーナル フリー
     本研究は,A病院の看護師長の看護管理行動を確認し,コンピテンシー・モデルを基盤とした看護管理行動が実現できる看護師長の育成に向けた課題を明らかにすることを目的とした。
     看護師長9名を対象に個別面接調査を2回実施した。新任期の看護師長が発揮できていたコンピテンシーは「自己研鑽・学習力」等他者の支援に関するコンピテンシーが該当した。努力が必要なコンピテンシーは「対人影響力」等,他者からの支援に関するコンピテンシーがあった。看護師長経験が4年目以上の看護師長が発揮できていたコンピテンシーおよび努力が必要なコンピテンシーには「組織へのコミットメント」が該当し病院全体への利益を出すことへの言及があった。
     新任期看護師長は,他者の言動を確認しながら自身の看護管理行動を振り返ることができるよう支援する必要があり,4年目以上看護師長は病院全体の利益を出す他部署への働きかけができるよう支援する必要がある。
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