The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine
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57 巻, 10 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
巻頭言
Interview
第4回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会 会長インタビュー
特集『障害受容・適応再考』
  • ―誤解を解き,将来を考える―
    上田 敏
    2020 年 57 巻 10 号 p. 890-897
    発行日: 2020/10/16
    公開日: 2020/12/05
    ジャーナル フリー

    「障害の受容」の概念はリハビリテーション医療におけるキーコンセプトであり,筆者は1980年代初頭に論文・著書でこれを詳しく論じたが,これまで誤読・見落としによる「批判」を受けてきた.また,臨床の現場では正しい意味が忘れられ,患者・家族を非難する用語として誤用・悪用されてきた.本論文ではそれを批判するとともに,正しい理解を促進し,誤用を防ぐ方策を論じた.その中で当事者の障害受容と社会・家族による当事者の受容との相互作用(プラス方向とマイナス方向の)の存在を指摘した.また,今後のあるべき姿として,この語の使用をやめるのでも,類似の概念で置き換えるのでもなく,この語の正しい理解の普及に努めるべきことを述べた.

  • 細田 満和子
    2020 年 57 巻 10 号 p. 898-903
    発行日: 2020/10/16
    公開日: 2020/12/05
    ジャーナル フリー

    近年,人が病気と共に生きる過程を「患者の旅路(patient journey)」として捉える考え方が提唱されている.これは,病気の診断・告知から治療,生活の再建,終末期に至るまでを,医療者や家族や職場や地域とのかかわりなどを組み込んだ旅にたとえたもので,医療社会学における「病いの経験(illness experience)」という概念や,クラインマンによる「病いの語り(illness narratives)」に近いものである.本稿では,脳卒中になった方々の,発症に始まり,「元の自分ではなくなった」と感じる絶望,「出会い」や「変容」によって希望に向かう「新しい自分」を見出すまでの過程を「旅路」と捉え,患者の経験を理解していく.

  • ―障害受容とこころの推移
    岡本 五十雄
    2020 年 57 巻 10 号 p. 904-912
    発行日: 2020/10/16
    公開日: 2020/12/05
    ジャーナル フリー

    「現在の障害のある状態,これが自分なのだ」と認められる(受容する)ようになるまでに,一定の経過をたどるが,すべての患者が同じ経過をたどるわけではない.また,聞くまでわからないことが多い.中にはまったく,苦悩を経験しない患者もいる.経済的に安定した豊かな人生は,障害受容の大きな要因であるが,苦悩を抱えている患者も多い.患者の人生との対話という視点はきわめて重要である.

    回復期リハビリテーション病棟の多くの患者は入院中に受容し,心理症状も抑うつ傾向も改善する.患者の話をよく聞き,ともに歩むチームの真摯な努力こそが患者が自らを受け入れ(受容し),障害とともに歩み,社会に適応していくうえでの大きな力となる.

  • ―支援の場面からの一考察―
    田島 明子
    2020 年 57 巻 10 号 p. 913-919
    発行日: 2020/10/16
    公開日: 2020/12/05
    ジャーナル フリー

    本稿は,第56回日本リハビリテーション医学会学術集会における指定パネル:障害受容の教育講演に大幅な加筆・修正をした内容となっている.「障害受容」のリハビリテーション医療の臨床場面での使用法について,2007年時と2020年時のインタビュー調査結果の比較検討を行い,「障害受容」の使用法からみえる今後の課題について考察を行った.

    大きな傾向として「障害受容」の使用を控える療法士が増えていた.今後,人権を基盤としたリハビリテーション医療の推進が重要であり,そのための倫理感(観)の醸成には,「障害受容」の使用法について,障害のある当事者による講演機会や関連書籍の参照,事例検討会などを通した職場の組織体制や風土の変容が有効である.

  • ―発症10年目を過ぎた脳卒中当事者として今思うこと―
    関 啓子
    2020 年 57 巻 10 号 p. 920-929
    発行日: 2020/10/16
    公開日: 2020/12/05
    ジャーナル フリー

    発症後「10年ひと昔」の節目を越えた慢性期脳卒中当事者の言語聴覚士(ST)である筆者の障害受容について述べた.筆者は右半球損傷発症後後遺症を抱え長期にわたり多くの困難を乗り越えてきた.当初あった高次脳機能障害は専門家としてもっていた「知識」「病識」「意識」のおかげで大半は早期に消失し,現時点では利き手である左上肢の麻痺と軽度の発話障害が残存している.発症時,自分が負った障害に対して筆者は悔しい,寂しい,腹立たしい,などの負の感情を抱いた一方で,前向きな感情もあった.臨床家としての経験から,当事者は自分の障害を残りの人生をかけて負わねばならないことを筆者は知っており,過去の経緯と考え併せ,今後自分の経験を語ることによって他者に貢献することが自分の役割と判断し,発症直後から音声,動画,日記などで経験を記録し書籍2冊にまとめた.同様に,筆者は生活期に苦悩する当事者・家族のための相談機関を設立した.

    筆者の「障害受容」は当事者の内側からの「バリアバリュー」(障害を価値に変える)という考え方に集約できる.今後,障害があっても,「役割を自覚し,障害を価値に変える」生き方をし,社会に貢献していきたい.

  • 定政 由里子
    2020 年 57 巻 10 号 p. 930-935
    発行日: 2020/10/16
    公開日: 2020/12/05
    ジャーナル フリー

    小学生の頃に遭った交通事故のために障害をもちながら,リハビリテーション病院で臨床心理士・公認心理師としてこころのケアに従事してきた筆者が,どのように自身の「障害」と向き合ってきたのかを述べる.ギリシャ神話の障害をもった神,ヘパイストスの分析を通し,弱さは共通した人間性であると同時に,強さに転じる可能性であることを示す.また,自分の感情を偏りなく受け取る,優しさをもって弱さをもつ自分を許すというセルフ・コンパッションの実践が,あるがままの自分を受け入れる鍵となることを述べる.

  • ―がん患者を中心に―
    村岡 香織
    2020 年 57 巻 10 号 p. 936-941
    発行日: 2020/10/16
    公開日: 2020/12/05
    ジャーナル フリー

    がん患者は,診断から治療,治療後に至るまでさまざまな場面で強い身体的・心理的ストレスを受ける.それに対し,患者は無意識的な適応機制と,意識的なコーピングで対応し,何とか生活や治療継続が成り立つような心理状態を保てるよう適応する.支援者の配慮,サポートも適応に役立つと考えられる.さらに,がん患者においては,厳しい経験の後にそれを肯定的に捉える心的外傷後成長もよくみられるが,抑うつや不安を起こしにくいなど適応に有利な心理状態であるといえる.

  • ―本特集企画に込めた思いも含めて―
    先崎 章
    2020 年 57 巻 10 号 p. 942-947
    発行日: 2020/10/16
    公開日: 2020/12/05
    ジャーナル フリー

    筆者はかつて臨床経験から,こころ(受容)には必要以上に触れず「適応」を助けることを志向し,多職種チームを有効に機能させるための方策を述べた.障害受容を正面からは取り上げなくなっている理由として,共感疲労や誤った解釈の回避,「適応」を扱うほうが外的で明確なこと,レジリエンスやコーピングといった外来語の導入,当事者が自らを語る機会が増えたこと,がある.医療者の捉え方や役割を明らかにするという視点での研究は取り組みやすく,また理解しやすい.

    こころの問題は感染症の対策に押しつぶされてはならない.障害と共にある生活や社会参加が,ある程度のレベルで可能な社会でなければ,真の障害受容はあり得ない.障害を受けたことによる心理的な困難は,目の前にある感染症の脅威にも劣らない.活動は賢明な機会主義(enlightened opportunism)の理念に則り脈々と行い,ボトムアップ的な多様な活動体と協同すべきである.そのために3つの提言をした.障害受容の概念の保持,概念を明らかにする努力,臨床や教育の場での普及,議論の場と機会の捻出,この分野の論点を深める後進の育成が,日本リハビリテーション医学会に必要である.

教育講座
リハビリテーション医学研究のこれから
原著
  • ―多施設間での縦断的研究―
    木下 一雄, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 大谷 卓也, 安保 雅博
    原稿種別: 原著
    2020 年 57 巻 10 号 p. 976-985
    発行日: 2020/10/16
    公開日: 2020/12/05
    [早期公開] 公開日: 2020/08/11
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,後方進入法による人工股関節全置換術(THA)を施行し,術後5カ月での股関節屈曲,外転,外旋位における靴下着脱動作(以下,股関節開排法)の獲得状況を調査し,術後5カ月で股関節開排法が可能となるためのリハビリテーション治療の目標値を明らかにすることである.

    方法:対象は本学附属4病院で後方進入法THAを施行した変形性股関節症101例104股とした.調査項目は年齢,Body Mass Index,股関節可動域,膝関節と足関節の可動域制限の有無,上肢長,術前および術後5カ月時の股関節開排法の可否とし,術後5カ月での股関節開排法の獲得に関与する因子を検討した.

    結果:股関節開排法の獲得に関与する因子として,術前の靴下着脱の可否,術前の股関節外旋可動域,退院時の股関節外転可動域が抽出され,その目標値は股関節外旋可動域27.5°,股関節外転可動域17.5°であった.

    結論:股関節開排法による靴下着脱動作を獲得するには,術前から股関節開排法による動作が可能であること,THAの周術期に股関節外旋可動域,股関節外転可動域が目標値に到達していることが必要である.

症例報告
  • 藤本 侑大, 伊村 慶紀, 田中 太晶, 池田 聖児, 藤井 美希, 中 紀文
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 57 巻 10 号 p. 986-990
    発行日: 2020/10/16
    公開日: 2020/12/05
    [早期公開] 公開日: 2020/08/11
    ジャーナル フリー

    Wide resection of malignant bone and soft tissue tumors of the extremities may require resection of muscles, which correspondingly impairs limb movements. We describe a 67-year old man with a malignant soft tissue tumor of the right upper arm. Preoperatively, there was no impairment of right upper extremity function. The patient underwent wide resection of the tumor and triceps muscle. Postoperative rehabilitation included range of motion exercises, residual muscle strength exercises, and activities of daily living (ADL) exercises. One week postoperatively, the patient could independently perform the ADL exercises. Two weeks postoperatively, the patient scored 2 during manual muscle testing (MMT) for elbow extension, indicating a complete range of motion in a gravity-eliminated position. However, the patient could not raise the arm without bending it. Considering the needs of the patient, we prescribed an elbow extension brace to support the upper limb while being raised. With this brace, the patient was able to sustain elbow extension during upper limb elevation. Three months postoperatively, the patient’s elbow joint extension remained MMT 2, grip strength was 28 kg, and the International Society of Limb Salvage and Musculoskeletal Tumor Society score was 76.7%.Although the triceps muscle was resected, there was no problem with the patient’s ADL. However, the patient could not maintain elbow extension in an anti-gravity position while raising the upper limb. In such cases, prescribing an elbow brace may be useful.

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