日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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60 巻, 12 号
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  • 市成 秀樹, 松崎 泰憲, 枝川 正雄, 前田 正幸, 清水 哲哉, 関屋 亮, 鬼塚 敏男
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3077-3082
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胸腔鏡下手術は術後疼痛が少ないといった理由などから呼吸器外科領域において急速に普及してきた.教室における胸腔鏡下手術症例は156例(1992年7月~1998年7月)であり,1992年はわずか7例であったが1997年には48例と増加してきている.これらを治療目的と診断目的に大別すると前者が144例(肺部分切除74例,気胸手術33例,縦隔腫瘍18例,肺葉切除12例,温熱化学療法4例,胸壁・胸膜疾患3例)で,後者が12例であった.教室では従来の胸腔内温熱化学療法を最近は胸腔鏡下に施行し効果をあげている.胸腔鏡でアプローチしたものの開胸に変更した症例は7.7%であり,合併症を3.8%に認め,出血や気瘻の遷延であった. 1996年に教室で行った九州地区の胸腔鏡下手術に関するアンケート調査結果や症例呈示を含め教室における胸腔鏡下手術症例について検討を加えて報告する.
  • 梅森 君樹, 牧原 重喜, 小谷 一敏
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3083-3087
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    細気管支肺胞上皮癌(以下BAC) は,その進展様式として経気道散布と思われる進展を示し,治療に難渋するものが多い.今回われわれは, BACの切除例16例についてその腫瘍細胞の細胞亜型と進展様式,治療成績を検討した.細胞亜型は杯細胞型10例, Clara細胞型3例, II型肺胞上皮細胞型3例であった,肉眼的な腫瘍の広がりは,区域内にとどまっているものを1型(14例)とし, 1葉にまで及ぶ進展を示したものをII型(2例)とした. II型の2例とも杯細胞型であった. II型は2例とも67カ月後と12カ月後に肺内再発し, 67カ月後再発の1例は再発後6カ月で死亡し, 12カ月後再発の1例は現在担癌生存中である. I型は全例再発なく8~82カ月間生存中である. BACは肺内進展の程度が予後を決定すると考えられ, I型は予後良好であったが, II型は完全切除がなされても癌細胞の経気道性進展により再発,死亡すると考えられ,予後不良であった.
  • 田邊 和照, 二宮 基樹, 池田 俊行, 朝倉 晃, 小野田 正, 塩崎 滋弘, 大野 聡, 檜垣 健二, 小林 直弘, 岡村 進介
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3088-3092
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    t2, t3胃癌560例を対象として,適切なリンパ節郭清の指標とするため2群までのリンパ節群に関して検討を行った.組織型別の検討では各リンパ節群の転移頻度に差を認めなかったものの,未分化型では有意にリンパ管侵襲,特にly3の頻度が高率で,逆に分化型では有意に静脈侵襲陽性頻度が高率であった.占拠部位別の検討ではC領域ではNo.3の転移頻度が高く, t2胃癌においては噴門側胃切除術は適応外と考えられた.またMC領域においては局在が大彎もしくは後壁の場合はNo.10の郭清が必要と考えられた. A領域ではmp症例においてもNo.1の確実な郭清が必要であると考えられた.そしてM領域においては深達度seの場合はNo.10の郭清が必要と考えられた.これらの結果より,進行胃癌でも占拠部位と局在,そして深達度を考慮した適切なリンパ節郭清が必要であると考えられた.
  • 内視鏡的粘膜切除術の適応について
    加治 正英, 小西 孝司, 木村 寛伸, 温井 剛史, 五箇 猛一, 荒川 元, 大西 一朗, 前田 基一, 薮下 和久, 辻 政彦
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3093-3097
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    粘膜内胃癌症例を対象としリンパ節転移陽性症例の臨床病理学的特徴を求め,内視鏡的粘膜切除術の適応を検討した.粘膜内胃癌744例のうちリンパ節転移陽性症例は9例(1.2%)であった.リンパ節転移陽性症例は,全例70歳以下であり,肉眼型では,混合型が,隆起型,陥凹型に比しリンパ節転移陽性率が高い傾向がみられた.リンパ節転移陽性9例中潰瘍病変(ulceration,以下UIと略記)を伴う症例が6例みられ全体の67%を占めていた.組織型では分化度の低い癌に,腫瘍径では腫瘍が大きくなるに従いリンパ節転移率が上昇していた.以上より,粘膜内癌,分化型, UI(-),隆起型で40mm以下,陥凹型で20mm以下の場合リンパ節転移がないと予想できた.しかし,内視鏡的粘膜切除術では一括切除を原則とし,切除後組織診断で不完全切除が疑われた場合,外科的切除を考慮する必要があると考えられた.
  • 水上 健治, 高 勉, 有本 裕一, 福長 洋介, 堀井 勝彦, 谷村 慎哉, 松山 光春, 山崎 修, 藤本 泰久, 東野 正幸, 奥野 ...
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3098-3105
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    大腸癌肝転移切除後再発に対する外科的切除の意義を検討する目的で,過去15年間に治癒切除を施行した大腸癌肝転移切除43例(同時性17例,異時性26例)を対象に再発例の再発巣切除率,再手術に伴う合併症,生存率とquality of life (以下QOLと略記)を検討した.再発25例の再発部位は残肝20例,肺9例,腹膜6例,リンパ節3例,胸膜2例,腹壁2例,骨1例,脳1例,骨盤内1例であった.残肝再発6例に延べ9回の再肝切除,肺再発3例に延べ5回の肺切除(うち肺肝同時切除2回),腹壁再発1例に1回の腹壁切除を行った.計7例に施行した延べ13回の再発巣切除術の術後在院日数の中央値は15日で,術死,在院死,術後6カ月以内の死亡はなく全例社会復帰し,初回肝切除後の5年生存率は71%であった.大腸癌肝転移切除後再発は早期発見と積極的な再発巣切除によって,短い在院期間で良好なQOLの回復と生存率の向上が得られた.再発巣の外科的切除は意義ある治療法と考えられた.
  • 森田 克哉, 山村 浩然, 石黒 要, 石川 暢己, 小島 一人, 持木 大, 和田 真也, 中村 寿彦, 八木 真悟, 山田 哲司, 北川 ...
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3106-3110
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    脾腫瘍は原発性,転移性ともに比較的稀な疾患である.今回,当科で経験した13例について臨床的に検討を行った.原発性腫瘍は11例であり,リンパ管腫4例,血管腫1例,過誤腫1例,悪性リンパ腫3例,血管肉腫2例であった.転移性腫瘍は2例であり,原発巣は卵巣癌,胃癌各1例であった.症状は原発性良性腫瘍では巨大なリンパ管腫例で脾腫よる心窩部不快感,血管腫例に破裂を認めたが,残り4例は偶然に発見された.原発性悪性腫瘍では5例すべてに症状を認めたが,転移性腫瘍の2例は腫瘍マーカーの上昇が発見の契機となった.術前診断は原発性良性腫瘍6例中4例で悪性病変との鑑別がつかなかった.原発性悪性腫瘍5例中4例,転移性腫瘍は2例とも術前診断可能であった.脾腫瘍は術前の質的診断が困難であり,良性腫瘍であっても自然破裂によるショック例もあることから,現時点では,すべてに手術適応があると考えられた.
  • 井戸 弘毅, 利光 鏡太郎, 木村 圭一, 佐藤 知洋, 貝塚 真知子, 林 理佐子, 寺田 信國
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3111-3116
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    最近7年間に当科に入院したイレウス症例のうち一般的な原因となる術後癒着性,癌性腹膜炎,麻痺性,および原因不明を除いた,特殊な型のイレウス症例65例を対象に,その診断における腹部超音波検査の有用性について検討した.大腸癌イレウスではほとんどの症例で大腸の拡張が認められ,また, pseudokidney signと呼ばれる腫瘍自体の描出も60%で可能であった.外ヘルニア嵌頓イレウスでは小腸の拡張と腹壁外に脱出した腸管の描出により診断可能であった.腸重積症はmultiple concentric signにより診断は容易であった.小腸アニサキス症では比較的多量の腹水とcorn signで診断できた.輸入脚閉塞症では輸入脚に限局した腸管拡張と肝内胆管の拡張が特徴的であった.腹部超音波検査は内ヘルニア,腸捻転を除きほとんどの特殊な型のイレウス症例の診断に有用であり,イレウスの診断においては必須の検査法と考えられた.
  • 高島 健, 向谷 充宏, 平田 公一, 岡田 洋次郎, 八十島 孝博, 伝野 隆一
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3117-3121
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    河川,海での外傷や生魚介類摂食の既往のない64歳男性に発症したAeromonas hydrophila(以下, AH)感染症の1例を報告した.十二指腸乳頭部癌の診断にて膵頭十二指腸切除術を施行. 1 PODに突然40°C以上の発熱,頻脈が出現し,白血球数の著明な減少および胸部X線写真でびまん性浸潤影を認めたためsepsis, ARDS, DICを疑った.ICUにて集中治療管理を行った結果, 5PODには症状の改善傾向を認めた.発症時の血液培養にてAHが検出された.AH感染症は比較的まれであるが, Major Surgery術後や肝硬変・糖尿病併存例など感染防御能低下時には重篤な敗血症にいたることがあること,ペニシリン系および第1世代セフェム系抗生物質には低感受性であることなど,注意すべき外科術後感染症と思われた.
  • 清水 忠夫, 泉雄 勝, 梅原 有弘, 濱口 佳奈子, 田畑 良夫, 相羽 元彦
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3122-3125
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    乳房温存手術後微小な第2癌を検出し,乳房温存手術を施行し得た3例について報告
    する.症例1は46歳.第1癌は44歳時,右Cの0.8×0.7cmの乳頭腺管癌でBq+Axを施行.第2癌は右Aの0.7cmの乳頭腺管癌.非触知で超音波検査(USG)で検出し, Bpを施行した.症例2は49歳.第1癌は44歳時,左Cの1.3×1.3cmの乳頭腺管癌で,Bq+Axを施行.第2癌は右Aの0.8cmの管状癌.非触知でUSGで検出し, Bq+Axを施行した.症例3は46歳.第1癌は41歳時,左ABの1.5×1.4cmの非浸潤性乳管癌で, Bq+Axを施行.第2癌は,左Aの0.8×0.8cmの乳頭腺管癌で, Bqを施行した.3症例とも第1癌はn0, 切除断端陰性,非照射であった.また,第2癌はいずれも1.0cm以下の微小癌で,腫瘤非触知例ではUSGが早期発見の契機となった. USGは乳房温存療法後の小腫瘤型癌巣の存在診断に極めて有用と考えられた.
  • 宇野 雄祐, 平野 誠, 村上 望, 横井 健二, 野澤 寛, 橘川 弘勝
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3126-3130
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,女性.検診の腹部超音波検査で肝腫瘍を指摘され,精査目的で当院に入院した.腹部超音波検査・CT検査の結果,肝門部レベルから腎静脈レベルに及ぶ後腹膜腫瘍と判明した.腹部MRI検査で腫瘍による下大静脈および左腎静脈の閉塞が認められた.血管造影でも下大静脈,左腎静脈の閉塞が確認され,いずれも側腹血行路により還流されていた.以上から下大静脈原発腫瘍と診断し手術を行った.腫瘍は肝門部から右腎静脈直上にわたる最大径9.5cmの後腹膜腫瘍であり,下大静脈と一塊になっていた.左腎静脈を結紮切離した後,腫瘍の頭側,および右腎静脈直上で下大静脈を切離し,腫瘍とともに摘出した.病理組織検査の結果,下大静脈壁原発平滑筋肉腫と診断された.
  • 古畑 善章, 志村 恵, 高橋 朋子, 増田 亮, 田中 勲, 武村 民子
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3131-3134
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肺分画症に気管支嚢胞を合併している症例は極めて稀で,本邦で3例,外国で6例が報告されているのみである.症例は25歳の女性で,発熱・咽頭痛が持続したので胸部X線検査を受けたところ左心陰影に重なる腫瘤影を発見された,縦隔または肺の嚢胞性腫瘤の術前診断で胸腔鏡下手術 (VATS) を試みたが,術中所見から下行大動脈から直接分岐する短い流入血管を持つ肺葉外肺分画症と気管支嚢胞の合併例と判明したので小開胸を加えて両者を摘出した.
  • 花岡 俊仁, 藤井 徹也, 高橋 寛敏, 石田 数逸, 三原 康生, 白川 敦子
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3135-3138
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例1は56歳,男性.血痰を主訴に受診した,胸部CTにて右S9に径1.5cm大の辺縁不整な結節影を認め,胸腔鏡下肺部分切除術を施行した.病理組織学的に結節の中には肉芽組織の形成と胚中心を伴うリンパ濾胞が多数認められた.症例2は49歳,男性.検診にて胸部異常陰影を指摘され受診した.胸部CTにて右S8に径3cm大,右S4に径1cm大の辺縁不整な結節影を認めた.胸腔鏡下肺部分切除術を施行し,2個の結節とも胚中心を伴うリンパ濾胞が形成されていた.
    肺のinnammatory pseudotumorは比較的稀な疾患であり,臨床像と画像所見は特徴に乏しく,術前確定診断が困難である.自験例は辺縁不整な結節影に末梢血管の収束像を伴っており,肺野型腺癌との鑑別が困難であった.本症の予後は一般に良好で,手術では肺機能温存に留意すべきである.胸腔鏡下手術は侵襲が少なく, IPTの確定診断・治療に有用な手技であると考えられた.
  • 西村 謙吾, 中村 広繁, 田中 宜之, 谷口 雄司, 石黒 清介, 応儀 成二
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3139-3142
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は69歳の女性が胸部X線の右下肺野に異常陰影を指摘され,当科を受診した.術前に経気管支肺生検(TBLB)とコンピューター断層撮影(CT)ガイド下肺生検を施行したが確定診断が得られなかった. 1998年1月19日,胸腔鏡下に生検を施行し,迅速病理検査にて肺癌と診断されたため,右中下葉切除とR 2aのリンパ節郭清を施行した.術後病理検査によりB 5b末梢の気管支から発生したと考えられる肺粘表皮癌と診断された.
    末梢発生する肺粘表皮癌はまれであり頻度の高い中枢発生とは臨床像が異なるので,診断に留意する必要がある.
  • 平良 勝己, 比嘉 昇, 比嘉 淳子, 城間 寛
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3143-3147
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    血管造影検査で術前に診断しえた大網のみを内容とするMorgagni孔ヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は64歳,女性.住民検診で縦隔腫瘍を疑われ当院に紹介された.胸部X線で右心臓横隔膜角に手拳大の腫瘤影を認めた.胸部CTで胸骨後部の心陰影の右側に接して脂肪濃度の腫瘤影を認めた.胸部MRI矢状断で心膜と前胸壁に接して腹腔内と連続する脂肪濃度の腫瘤影を認めた. Morgagni孔ヘルニアが疑われたが,縦隔腫瘍も否定できないため血管造影検査を施行した.腫瘤影へ走行する右胃大網動脈の大網枝が確認できた.以上より大網のみを内容とするMorgagni孔ヘルニアと診断し手術を行った.手術は経腹的に大網を還納し,ヘルニア嚢を腹腔内へ反転切離後,ヘルニア門を閉鎖した.本症の診断に血管造影検査が有用であると考えられた.
  • 市村 龍之助, 村川 力彦, 菅野 紀明, 森山 裕, 川端 真, 浜野 哲男, 奥芝 俊一, 加藤 紘之
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3148-3152
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は24歳女性, Prader-Willi症候群(以下PWS)で高度肥満を呈しさらに糖尿病を発症したため,高度肥満に対する外科的治療の一つである垂直遮断胃形成術: verticalbanded gastroplasty(以下VBG)を施行した.周術期に重篤な合併症を認めず,体重は術前の750kgから術後7カ月で60.0kgとなり,空腹時血糖も術後5カ月で正常値近くまで改善した.しかしその後体重は増加に転じ,血糖コントロールも再び不良となった.この原因として,内科薬休止に加え, PWSに特徴的な摂食行動の異常による総摂食量の増加,嗜好の偏りによる高カロリー食摂取などが関与していると考えられた. PWSの高度肥満,糖尿病は単純な高度肥満と比べより複雑な要因を有するため,今後さらに治療法につき検討していくことが必要と思われた.
  • 坪井 俊二, 前田 正司, 亀岡 伸樹, 藤城 健, 小松 俊一郎
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3153-3157
    発行日: 1999年
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,女性.主訴は心窩部痛,嘔吐,腹部膨満感.幼少時より横隔膜挙上を指摘されていた.平成3年,心窩部痛,嘔吐にて入院,経鼻胃管にて症状は改善し退院となった.しかし退院後も度々食後の腹痛は続いていた.平成9年11月,いつもより多量の昼食を摂取した後,急激な心窩部痛,筋性防御,嘔吐,腹部膨満感が発現し,受診した.腹部単純X線写真にて,胃の著明な拡張を認めた.上部消化管造影では,食道胃接合部の尾側腹側への偏位と胃の倒立像を認め,間膜軸性の胃軸捻症と診断した.経鼻胃管による減圧後,胃は自然整復し,症状は消失した.内視鏡下経皮的胃瘻造設により胃固定術を行った.現在まで軸捻の再発はなく,経過良好である.
  • 柴崎 信一, 木田 晴海, 新海 清人, 久野 博, 矢野 洋, 能村 正仁
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3158-3161
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,女性.嘔気を主訴に近医を受診し,腹部超音波検査にて胆嚢に高エコー像を呈す隆起性病変を指摘された.腹部CT検査にて造影効果のある腫瘤を認め,胆嚢腫瘍が疑われ,精査加療目的で当科紹介となった.点滴静注胆嚢造影で胆嚢頸部に径10mm大の陰影欠損を認め,悪性疾患も否定し得ないことから,手術を実施した.手術は胆嚢摘出術を行い,術中迅速病理診に提出,悪性所見は認めなかった.術後の固定標本による病理組織学的検索にて,病変は胆嚢頸部の粘膜層から筋層にかけて存在し,胃底腺,幽門腺組織よりなる異所性胃粘膜と診断された.
    胆嚢異所性胃粘膜は稀な疾患であり,われわれが検索し得た限りでは本例は本邦10例目の症例である.若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 吉田 孝太郎, 林 恒男, 田中 精一, 今里 雅之, 鈴木 修司, 羽生 富士夫
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3162-3166
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃癌胃全摘術後の吻合部再発に対して開胸開腹下再切除により根治できた1例を報告する.症例は62歳の男性.昭和60年Stage IIIa 3型の胃癌にて胃全摘術施行.初回手術時の病理所見は胃前庭部から噴門部までの3型, mucinous adenocarcinoma with signet ring cell carclnoma, ss, ly3, v1, aw(-), ow(-), n(2群)(+)で,術後5年9カ月後に嚥下時違和感出現,上部消化管内視鏡検査で吻合部の狭窄とその部分の生検でsignet ring cell carcinomaが検出された. CT, 注腸検査などで他部位の再発は認められず,再切除可能であり,手術適応と判断されたが.しかし,ただちには手術の同意が得られず, UFT-Eの内服による化学療法を行った.しかし狭搾が強くなり,再発診新から1年4カ月後に左開胸開腹下に再発部位を切除できた.再手術時の病理結果はmucinous adenocarcinoma with signet ring cell carcinoma, ss, ly2, v1, n (吻合部傍)(+)であった.再手術後6年5カ月(初回手術後13年6カ月)後の現在,再発,転移は認められず,元気に社会復帰している.胃癌局所再発が初回手術後5年9カ月目に胃癌局所再発として認められ,さらに1年4カ月後に根治切除術ができた貴重な症例と考えられ報告する.
  • 湯橋 崇幸, 吉井 修二, 湯橋 十善, 民上 英俊, 田代 健一, 橋本 慶博
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3167-3171
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.胃進行癌手術施行約4カ月後に左前腕部の無痛性腫瘤を主訴に来院した.触診にて左前腕部に可動性のある弾性硬の腫瘤を触知し,同部の超音波検査にて,筋肉内に比較的境界明瞭な低エコー腫瘤を認めた.左前腕部腫瘍の診断にて摘出手術を施行した.腫瘍は橈側手根伸筋内に存在した.切除標本は, 2.9×1.7×1.5cm大で薄い被膜に覆われた割面乳白色の腫瘍であった.組織学的所見は筋組織内に低~中分化腺癌を認め,胃癌の筋層内転移と診断された.摘出術後,肺,肝,を含め全身的に転移の検索を行い,明らかな転移巣は認めなかったが,約2カ月後に左前腕部の筋層内転移再発を認め,さらに右側胸部(右前鋸筋内)にも同様の腫瘤を認めたため,再び腫瘍摘出手術を行い,病理組織より筋層内転移の再発と診断された.
    自験例を含めた胃癌の筋層内転移の本邦報告例17例の検討では筋転移は下肢に多くみられ,組織型は一定した傾向は持たなかった.
  • 伊神 剛, 長谷川 洋, 小木曽 清二, 塩見 正哉, 籾山 正人, 太平 周作, 高橋 祐, 雨宮 剛, 上原 圭介, 宮崎 晋
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3172-3176
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は76歳の男性で,黒色便を主訴として受診し,腹部CTで左上腹部全体を占める巨大な腫瘍が発見された.精査の結果,早期胃癌,胃gastrointestinal stromal tumor (GIST), 肝転移,胆石症と診断し,胃全摘出術,膵体尾部・脾合併切除術,肝部分切除術,胆嚢摘出術を施行した.摘出標本では,胃GISTは腫瘍径23×12×11cm, 肝転移は腫瘍径1.2×1.1cm, 胃癌は1.2×1.1cm のIIc型早期癌であった.組織学的所見では,胃GISTおよび肝転移はuncommitted typeでいわゆる狭義のGIST, 胃癌は壁深達度mの中分化型腺癌であった.
    自験例を含めた本邦における胃GISTとしての報告例は17例でこれらの症例の検討も加えて報告する.
  • 日比野 茂, 高 勝義, 片山 信, 小倉 豊, 新井 利幸
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3177-3180
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,女性.以前より上腹部違和感あり,当院の健康診断,上部消化管造影検査にて十二指腸下行脚に50×20mmの腫瘤を認め精査入院となった.低緊張性十二指腸造影検査にて上十二指腸曲から下行部に落花生様の腫瘤を認め,十二指腸大彎やや前壁寄りに基部を認めた.圧迫にてその辺縁は不整像を示した.腫瘤は軟らかく可動性を認めた.腹部CTにて十二指腸に28×21mmのlow densityの境界明瞭な腫瘤が存在し, CT値100HUで脂肪組織とほぼ同一であった.以上の所見より十二指腸下行脚に発生した脂肪腫と診断した.腫瘤は大きく無茎性で病変は筋層近傍にまで及んでいると考え,内視鏡的切除は穿孔の危険性が高いと判断し,十二指腸部分切除を施行した.摘出した腫瘤の大きさは50×30mmで基部は広く漿膜面に露出するように存在しており,内視鏡での切除では穿孔をきたすことが示唆された.病理組織学的に脂肪腫と診断した.
  • 土川 貴裕, 下沢 英二, 田中 栄一, 高橋 弘, 加藤 紘之
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3181-3184
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は69歳男性で,下部腹痛,便秘を主訴に来院した.左上腹部にソフトボール大の腫瘤を触知した.腹部CT, MRIでは同部位に最大径16×10cm, 内部に嚢胞成分を有する充実性腫瘤を認めた.小腸壁由来の非上皮性腫瘍の診断にて手術を施行した.腫瘍は十二指腸水平脚と連続して管外性に発育しており,また,腹膜播種も認めた.十二指腸壁とともに腫瘍切除し,十二指腸一小腸側々吻合を行った.病理組織学的には, HE染色にて腫瘍は類円形細胞の充実性増殖からなり,束状の配列を認め,上皮様の胞巣を形成しており,十二指腸原発類上皮平滑筋肉腫と診断された.術後,化学療法を施行して外来にて経過観察中であったが,癌性腹膜炎にて術後18カ月目に死亡した.十二指腸原発類上皮平滑筋肉腫は稀な疾患で,われわれの調べ得た限りでは,本邦報告例は自験例を含め17例であった.
  • 植木 秀功, 須田 武保, 谷 達夫, 二瓶 幸栄, 江畑 智希
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3185-3188
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,女性.当院にて胆石症の術前精査中に,上部消化管内視鏡で十二指腸乳頭部のやや口側に,陥凹性病変を認めた.生検で高分化腺癌の診断であった.幽門温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病変は13×5mm大のIIc型の早期癌で,深達度はmであった.十二指腸癌を見逃さないためには,上部消化管内視鏡検査を行う際に,下行脚までの観察を行うことが重要である.十二指腸腫瘤に関しては,形態的に可能であれば内視鏡的切除による完全生検を行うことが,治療方針の決定の上で最良と考える.陥凹型十二指腸癌は極めて稀な疾患であり,自験例を含め本邦では23例の報告があるのみである.これらの報告例を含め,若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 土居 幸司, 松村 光誉司, 堀内 哲也
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3189-3192
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy: PEG)は内視鏡ガイド下に比較的容易に行えるため,経口摂取不能の長期栄養管理を要する患者に広く行われている.
    今回われわれはPEGにより留置した胃瘻チューブが原因と思われる成人腸重積症を経験した.症例は76歳,女性.主訴は下痢,嘔吐.来院時胃瘻チューブ先端が小腸内に達していたため,内視鏡下に胃内に引き戻したが,後日施行した腹部CT検査にて多層性の肥厚した腸管を認め,本症と診断した.
    PEGの合併症として本症も念頭におく必要があると思われた.
  • 花城 徳一, 近藤 肇彦, 青木 克哲, 西井 博, 居村 暁
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3193-3196
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤・腸管瘻は,腹部大動脈瘤の破裂の特殊な疾患である.一般に消化管のうち十二指腸水平脚に破裂することが多い.大動脈瘤・腸管瘻は吐下血や敗血症をきたし予後不良の疾患である.今回われわれは腹部大動脈瘤・空腸瘻の1例を経験したので報告する.症例は67歳女性で吐下血を主訴に緊急受診した.腹部では7.0×7.0cmの拍動性腫瘤を触知した.そこで腹部CTならびに血管造影を行ったところ腹部大動脈瘤・腸管瘻が疑われたため緊急手術を施行した.腹部大動脈瘤は腎静脈下に位置し空腸と強く癒着していた.腸管瘻はトライッ靭帯より5cm肛門側に認められた.以上の所見より十二指腸水平脚から瘻孔部空腸ならびに動脈瘤壁を合併切除した.再建はY型人工血管による置換術ならびに十二指腸・空腸吻合術を施行した.術後経過は比較的良好であり人工血管への感染もみられなかった.退院前の消化管透視ならびに血管造影は良好であり術後50日目に退院した.
  • 雨宮 剛, 長谷川 洋, 小木曽 清二, 塩見 正哉, 籾山 正人, 伊神 剛
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3197-3201
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    比較的稀とされる内翻したMeckel憩室による腸重積症を経験したので報告する.症例は37歳女性. 1カ月以上続く下痢,腹痛を主訴として当院を受診した.腹部CTでは,右下腹部に壁の肥厚した管状構造を, USでは,層状構造を認めた.小腸造影では,回腸に「鳥のくちばし像」を認め腸重積症と診断した.原因として, Meckel憩室を疑いTcシンチグラフィーを施行したが異常所見は認められなかった.腹痛が増悪したため緊急手術を行った.開腹所見では,回腸一回腸型の重積を認め先進部に隆起性病変を触知した.重積腸管を整復した後,隆起性病変を含め小腸部分切除術を施行した.隆起性病変はLangerhans島を欠くHeinrich II型の迷入膵組織を伴った内翻したMeckel憩室であった.
  • 山下 和城, 山村 真弘, 林 次郎, 木元 正利, 山本 康久, 角田 司
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3202-3205
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,女性.大腸の術後癒着性腸閉塞に対し3回の開腹術を受けた.最終手術から17年後の平成7年1月から腹痛,腹満が出現し,絶食IVHにて1年数カ月間保存的治療を受けたが難治のため手術となった.開腹すると端側吻合1カ所,側々吻合2カ所,短絡1カ所を認め,1つの側々吻合部には長さ20cmにおよぶ盲嚢を認めた. blind pouch syndrome (BPS)と診断し盲嚢切除とともに各吻合を端々吻合に再建した.
    BPS は blind loop syndrome (BLS)と同様の発生機序でありながら,吸収障害はきたさず,腹痛,出血といった局所症状が主でBLSとは独立した疾患として扱われる傾向にあるが,その臨床的特徴はあまり知られていない.今回, polysurgery後17年後に発症したBPSを経験したので報告した.
  • 丸尾 啓敏, 川合 重夫, 富永 秀次, 久米 進一郎, 金井 弘一, 飯原 久仁子
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3206-3209
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,女性.急性虫垂炎の診断で虫垂切除術を施行した.虫垂は著明に発赤腫脹し,肉眼的には急性蜂窩織炎性虫垂炎の所見であった.術後の病理検査では,杯細胞類似の腫瘍細胞が漿膜下まで広範に増殖しており,神経周囲浸潤を認めた.また粘液産生性を認め,散在性に銀反応陽性であった.虫垂の杯細胞カルチノイドと診断し,進行癌に準じてリンパ節郭清を伴う結腸右半切除術,両側卵巣摘出術を追加施行した.腫瘍の転移,遺残はみられなかったが,右卵巣に境界悪性腫瘍を認めた.虫垂の杯細胞カルチノイドは癌に近い悪性度があるといわれており,卵巣転移の報告例が多いが,本症例のように原発性卵巣腫瘍との重複例はまれと思われた.
  • 野口 洋文, 堀見 忠司, 市川 純一, 岡林 孝弘, 西岡 豊, 長田 裕典
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3210-3214
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    原発性虫垂癌は稀な疾患である.また術前診断が困難であり,術後の病理学的検索により初めて虫垂癌と判明することが多い.今回われわれは原発性虫垂癌の4例を経験したので報告する.術前診断は症例1, 3が回盲部腫瘍,症例2が卵巣癌,症例4が虫垂原発腹膜偽粘液腫であった.症例1は虫垂切除,症例2は回盲部切除および子宮卵巣摘出,症例3は回盲部切除,症例4は虫垂切除および腹腔内洗浄(5%ブドウ糖液2,500ml)を行った.術中,症例2, 4では腹膜偽粘液腫を認めた.病理診断は症例1, 2, 4は粘液嚢胞腺癌,症例3は腺癌であった.術後,症例2はシスプラチンの腹腔内投与およびピラルビシン,シクロホスファミドの静脈投与を行い,症例4では腹腔内洗浄および5-FUの腹腔内投与を行った. 4症例とも現在生存中である.
  • 今野 広志, 海法 恒男, 橋本 正治, 澁谷 浩, 平野 裕, 高野 一彦
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3215-3218
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    Free airを契機に発見した腸管嚢胞様気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis;以下, PCIと略記)の2例を経験した.症例1は73歳女性で右下腹部痛を主訴に受診.胸腹部単純X線検査上横隔膜下に中等量のfree airがあり手術施行.盲腸,脾結腸曲,下行結腸, S状結腸に気腫性変化があり,明らかな腸管穿孔は認めなかったが,盲腸は特に変化が強く,穿孔の危険回避の目的で回盲部切除術を行った.症例2は73歳女性.パーキンソン病にて通院中胸部痛あり,胸部単純X線検査にて,横隔膜下にfree airを認めた.腹部CTにて結腸壁に嚢胞が存在し, PCIと診断.高濃度酸素を投与したところ保存的に軽快した. Free airがあっても腹膜刺激症状に乏しい場合は本疾患を考慮に入れてCT検査を行い,診断がつけば最初に高濃度酸素療法を選択すべきと考える.
  • 福井 貴巳, 横尾 直樹, 加藤 達史, 東 久弥, 白子 隆志, 山口 哲哉
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3219-3223
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    S状結腸に穿孔をきたした慢性血液透析の1例を経験したので報告する.患者は66歳の男性で,慢性腎不全に対して血液透析が導入されていた.突然の下腹部痛をきたし直ちに当院受診.腹部全体に圧痛・反跳痛・筋性防御著明で,胸部単純X線写真および腹部CTにて腹腔内遊離ガス像を認めたことより消化管穿孔と診断,即日全身麻酔下に緊急開腹術を施行した.腹膜翻転部より15cm口側のS状結腸に径4cm大の穿孔を認めたが,同部およびその肛門側に腫瘍の存在は認めなかった.腹腔内洗浄後,S状結腸を一期的に切除・吻合した.病理組織学的には,憩室を認めた.
    術後は概ね良好に経過し,第32病日に退院した.慢性腎不全合併例の緊急手術に際しては,周術期管理上細心の注意が要求される.今回,持続血液透析により安全かつ良好な体液管理が可能であった.腎不全合併例の周術期管理上,持続血液透析の有用性を再確認した.
  • 木村 正美, 山口 祐二, 松下 弘雄, 甲斐 正徳, 竹内 尚志, 上村 邦紀
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3224-3227
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    Gardner症候群は癌化が高率なため予防的に大腸全摘術を行われることが一般的である.今回,われわれは,予防的大腸全摘術を行わず,ポリペクトミーと大腸部分切除で発癌部のみを切除する方針で,初診から17年経過中の症例を報告する.本例は,初診時, Gardner症候群と診断され, S状結腸に早期癌を認め,低位前方直腸切除術を受けた.その後,3カ月ごとの大腸内視鏡検査を受け,初診と併せて計9回の発癌を認め,内視鏡的切除と開腹手術を受けた.最終的には25cmの大腸を残し,現在,化学的発癌防止の目的でsulindacを投与中である.大腸検査,内視鏡治療が進歩し,フォローアップが容易となった今日,すべての症例に予防的大腸全摘を行わずともよいと考え,症例を報告する.
  • 石橋 洋則, 佐藤 栄吾, 飯田 道夫, 山崎 繁
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3228-3233
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は68歳男性. 1998年1月右肺癌に対し手術施行.同年3月頃より右下腹部痛出現,注腸造影では上行・横行結腸に狭窄を認め,大腸内視鏡検査では2cm程の境界明瞭な潰瘍を伴う粘膜下腫瘍様病変を認めた.以上より肺癌大腸転移を疑い5月7日右結腸切除術を施行.切除標本では肝彎曲部を中心に腸間膜側に7cm程の腫瘤を形成し,粘膜面に潰瘍を有する転移性大腸癌であった.
  • 長谷川 茂, 今津 浩喜, 松原 俊樹, 桜井 洋一, 落合 正宏, 船曵 孝彦
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3234-3239
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は68歳男性, 10年前に冠動脈狭窄にてA-Cバイパス手術の既往あり, 2年前に膀胱癌で膀胱部分切除と放射線照射をうけ,放射線性直腸炎による出血,直腸狭窄のため人工肛門を造設した.外来通院中の平成9年4月仙骨部より膿汁の排出あり,瘻孔造影で複雑性直腸皮膚瘻と診断し外来治療を続けていた.平成9年11月17日38.7°Cの熱発と白血球35.×104/mlと炎症反応の上昇を認め,意識障害も出現し緊急CT施行した. CTで瘻孔形成部より腸腰筋から骨盤内におよぶ後腹膜の貯留液を認め,腸腰筋膿瘍と診断した.全身状態不良で全麻下手術不能と判断し緊急で局麻下切開排膿ドレナージ術を行った.その後, MRSA敗血症状態となり再度のドレナージと厳重な全身管理が必要な状態となったが,離脱し難治性瘻孔は存在するものの腐骨部切除を加え,退院し外来通院中である.難治性直腸皮膚瘻に合併した腸腰筋膿瘍の1治験例を経験したので報告する.
  • 稲葉 圭介, 鳥井 彰人, 安井 健三, 清水 泰博, 森本 剛史, 紀藤 毅
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3240-3245
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,男性.発熱・全身倦怠感を主訴に近医を受診,肝腫瘤を指摘され当院に紹介された. AFPの上昇および画像診断から肝細胞癌 (HCC) と診断したが,発熱,白血球増多および血中G-CSF濃度が高値を示し, G-CSF産生HCCを考えた.拡大肝左葉切除術を施行後,発熱は消失し白血球数も漸減したが,再び発熱,白血球数の増加が出現し, CTで縦隔腫瘍が存在した.他の転移はなく,孤立性縦隔リンパ節転移と診断し縦隔腫瘍切除術を施行した.再手術後,白血球数および血中G-CSF値は正常に復し発熱も消失した.病理学的に肝腫瘍は低分化なHCCで,縦隔腫瘍はそのリンパ節転移であった.免疫組織化学的に肝腫瘍,縦隔腫瘍ともに腫瘍細胞のG-CSA産生を認めた. G-CSF産生腫瘍のHCCでの報告は少なく, HCCの孤立性縦隔リンパ節転移症例も稀であるため,文献的考察を含め報告する.
  • 西山 宗一郎, 横山 成邦, 島田 友幸, 寺島 秀夫, 中島 芳道, 平山 克
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3246-3250
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胆石症で肝管胆嚢十二指腸瘻をきたした稀な1例を経験したので報告する.症例は61歳女性.主訴は右季肋部痛. 3年前から近医で胆嚢結石を指摘されていたが,症状なく放置していた.最近になり時々右季肋部痛を自覚するようになったため当院を受診した.検査成績では肝機能障害を認めなかったが,超音波検査で胆嚢結石と肝内胆管の拡張を認めた. ERCでは三管合流部を含め,肝臓側の胆管が描出されなかった. PTCでは肝管が肝門部で途絶し十二指腸への瘻孔の形成を認めた.内視鏡検査では瘻孔が十二指腸の下行部口側に開口しているのを確認した.胆嚢結石症による肝管胆嚢十二指腸瘻の診断で1997年6月9日に胆摘胆管切除兼十二指腸瘻孔部縫合閉鎖術を行った.
  • 鈴木 聡, 三科 武, 金田 聡, 石塚 大, 竹石 利之
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3251-3256
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胆嚢・総胆管結石症の診断で手術を施行し,組織学的検索で初めて診断がついた,腫瘍長径4mmの胆嚢微小カルチノイドの1例を経験した.症例は83歳,男性.右季肋部痛を主訴に来院.腹部超音波検査,CT等の術前検査で胆嚢・総胆管内に結石を認めたが,腫瘍性病変は指摘できず,胆嚢摘除, Tチューブドレナージ術を施行した.術後の固定標本で胆嚢頸部に4×2mmの隆起性病変を認め,病理組織学的には核の異型性が低く,分裂像も認めない,深達度mp, Grimelius染色陽性, chromogranin A染色陽性の古典的胆嚢カルチノイドと診断した.術後11カ月経過した現在再発の徴候は認められない.過去5年間の胆嚢カルチノイドの本邦報告例は自験例を含め僅か13例と極めて稀で,腫瘍径4mmの微小カルチノイドを報告したのは自験例のみであった.高度な胆嚢炎を合併する場合,微小腫瘍性病変の同定には,胆嚢切除標本の充分な検索が必要と思われた.
  • 田島 秀浩, 澤崎 邦廣, 塩澤 邦久, 野手 雅幸, 藤田 秀春
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3257-3261
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    気腫性胆嚢炎はガス産生菌を起炎菌とし,胆嚢内や胆嚢壁周囲にガス像を呈する比較的稀な疾患である.今回,胆管内および腹腔内遊離ガス像を伴った気腫性胆嚢炎を経験した.症例は腹部膨満感を主訴に当科外来を受診した81歳の男性.入院時眼球結膜の黄染と38度台の熱発を認めたが腹部に明らかな圧痛や筋性防御は認めなかった.腹部CT上,胆嚢は壁肥厚はないが,内部にガス像を伴ってniveauを形成しており,右横隔膜下と胆管内にもガス像を認めた.消化管穿孔の所見はなく気腫性胆嚢炎に伴う腹腔内および胆管内のガス像と診断し胆嚢摘出術を施行した.病理診断は壊疽性胆嚢炎で胆嚢内にはガスと膿汁を認めたが明らかな穿孔や結石はなく,腹腔内遊離ガスは胆嚢から滲出したものと考えられた.経過は良好で術後16日目に退院した.胆管内ガスや腹腔内遊離ガス像を伴う気腫性胆嚢炎は稀であり,文献的考察を加えて報告した.
  • 岡田 章一, 井上 哲也, 木下 一夫, 澤 敏治, 吉光 外宏
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3262-3266
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胆管内気腫,総胆管狭窄を合併した気腫性胆嚢炎の症例に対しpercutaneous transhepatic gallbladder drainage (PTGBD)を行い症状の軽減をはかり,腹腔鏡下胆摘術を施行したので報告する.症例は63歳女性.右季肋部痛を主訴に1999年1月30日当院受診,超音波検査にて胆石,胆嚢壁の肥厚を認め胆嚢炎の診断にて入院となった.抗生剤投与にて治療を行ったが,入院3日目の超音波検査,腹部単純X線にて胆嚢内にガス像を認め, computed tomography (CT)で肝内胆管にもガス像を認めた.以上より胆管内気腫像を伴った気腫性胆嚢炎と診断しPTGBDを行った.造影にて総胆管の著しい狭窄を認めたが,症状は速やかに軽快した.総胆管狭窄の軽減を待ちドレナージ施行後6日目に腹腔鏡下胆摘術を施行し得た.気腫性胆嚢炎に対して早期手術が推奨されているがPTGBD後,待期的に腹腔鏡下胆摘術を行うことは良い選択肢の1つと考えられた.
  • 大城戸 政行, 横川 泰, 高橋 信, 中垣 充
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3267-3271
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    インスリノーマの治療は外科的切除が基本であり確実な局在診断が必要である.今回超選択的カルシウム動注負荷後肝静脈採血法により局在診断し切除し得たインスリノーマの1例を経験したので報告する.症例は41歳,女性で全身倦怠感を主訴に来院した.入院時一般検査および内分泌学的検査ではインスリノーマに特徴的な所見はなかったが腹部超音波検査, CT, MRI, 血管造影で膵体部に径1cmの腫瘤を認めた.カルシウム動注負荷後肝静脈採血法で脾動脈,大膵動脈領域の血中インスリン(IRI)の増加がみられ膵体部インスリノーマと診断し手術を施行した.術後に症状,検査値の著明な改善を認めた.今回大膵動脈から超選択的にカルシウム負荷した結果,より詳細な情報を得ることができた.今後手技上の工夫によりさらに精細な局在診断が期待される.
  • 村岡 篤, 鶴野 正基, 國土 泰孝, 立本 昭彦, 香川 茂雄, 津村 眞
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3272-3277
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    膵solid cystic tumor(SCT)手術後8年目に肝転移をきたした1例を経験したので報告する.
    症例は79歳,女性. 1989年,膵SCTにて膵体尾部,脾合併切除術. 1997年5月,近医にて右季肋部の腫瘤を指摘され,当院来院する.腫瘤は,画像上6cm径大で,被膜を有しており,内部は出血を伴い,嚢胞性成分と充実性成分が混在し,肝下縁から突出するように存在していた.肝細胞癌あるいは膵SCTの肝転移と診断し,肝部分切除術を施行した.術後経過は良好で,病理組織検査にて膵SCTの肝転移と判明した.膵SCTは,若年女性に好発し,通常転移ないし再発がない予後良好な腫瘍とされているが,未だ不明な点も多い. SCTの転移が最も多いとされている肝転移について自験例を含め可及的に検索し得た本邦25例について集計し,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 鈴木 秀昭, 久保田 仁, 上松 俊夫, 川井 覚, 中尾 紀久子
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3278-3282
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は50歳,女性,主訴は軽度の腹痛.腹部Computed tomography (CT)と超音波検査で膵体部に径4cmの充実性の腫瘤と近傍のリンパ節の腫脹を認めた.内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)で主膵管の狭窄と狭窄部に合流する分枝を,腹部血管造影で脾動脈の軽度の圧排を認めた. anaplastic carcinomaや悪性リンパ腫を疑い,膵体尾部切除術を行った.腫瘍は4×4×3cm, 充実性で,病理組織検査,および免疫組織学的検査で, non-Hodgkin's lymphoma, diffuse large cell, Bcell typeと診断された.術後28日目の腹部CTで腹部リンパ節の腫脹と肝転移を認め,化学療法目的で他院に転院した.
  • 河野 世章, 渡辺 義二, 鍋谷 圭宏, 松田 充宏, 唐司 則之, 佐藤 裕俊
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3283-3287
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は78歳男性.主訴は下血.膵体尾部に超音波でlow echo, 単純CTでlow density, 造影CTにて内部が不均一にenhanceされる境界不明瞭な腫瘍が認められ,周囲臓器への直接浸潤が疑われた. ERCPは膵管内に挿入できなかった.血管造影では同部位に不整な腫瘍濃染像と周囲の側副血行路が認められ,膵体尾部原発の平骨筋肉腫の疑いで平成9年1月8日手術を行った.腫瘍は周囲臓器に浸潤して一塊となっており,術中迅速組織診にて膵島細胞腫の診断を得た.手術は膵体尾部切除,噴門側胃切除空腸間置術,脾,横行結腸,左副腎,左腎皮膜切除および胆摘を行った.また膵頭部膵管内を進展する腫瘍がみられたが,用手的に摘出できた.腫瘍は大きさ9×7×3cmで,病理所見は悪性の膵島細胞腫であった.膵ホルモンはいずれも正常値であり,特異な臨床症状もみられず,非機能性膵島細胞癌と診断した.術後1年8カ月経過した現在も再発の兆候はみられていない.
  • 上原 浩文, 橋本 正人, 阿部 一九夫, 鈴木 雅行, 加藤 紘之
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3288-3292
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は46歳男性で,右肺癌の診断で右肺中下葉切除術を施行された.病理学的に腺扁平上皮癌 (t4n2: Stage IIIb) であった,術後11カ月を経過した平成10年3月よりCEAおよびCA 19-9の上昇を認め,腹部CTで右副腎腫瘍を指摘された.肺癌の孤立性副腎転移とともに,原発性副腎腫瘍の可能性も考慮し右副腎摘出術を施行した.手術施行時, CEA; 50.4ng/ml, CA 19-9; 1,511U/mlと高値を認めた.病理組織学的に肺癌の副腎転移であり, CEAおよびCA 19-9は,右副腎摘出後より急速に低下し正常範囲内となった.またCEAおよびCA 19-9の半減期を求めたところ,CEAは約5日, CA 19-9は約4日であった.肺癌の孤立性副腎転移は,全身状態によっては積極的に切除すべきであると考える.
  • 中尾 武, 稲次 直樹, 吉川 周作, 高村 寿雄, 増田 勉, 中野 博重
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3293-3296
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    Fournier's gangreneは外陰部を中心とした壊死性筋膜炎である.急速に進行する細菌感染症で,ショックや呼吸不全を呈する重症例もある.早期に診断し,徹底的に切開ドレナージおよびデブリードマンを行うことが重要である.患者は51歳,男性.基礎疾患として糖尿病を有し,頻回の水様便,全身の浮腫で来院した.肛門周囲,会陰部から右腎部,右大腿部へかけての発赤,腫脹,疼痛がみられ,右臀部皮下組織は一部壊死に陥り膿瘍を形成していた.骨盤CTでは右腎部から直腸周囲までガス像を認めた.大腸内視鏡検査では直腸(RbRa)に2型の腫瘍を認めた.可及的に壊死に陥った皮下組織,筋膜のデブリードマンを行った.術後に行った注腸造影検査では腫瘍の潰瘍底より仙骨前面に造影剤の漏出がみられ,直腸癌の穿通による本疾患の発症の可能性が示唆された.
  • 尾上 重巳, 加藤 岳人, 千木良 晴ひこ, 松尾 康治, 鈴木 正臣, 柴田 佳久
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3297-3300
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は38歳女性.健康診断の腹部超音波検査にて肝腫瘍を指摘された.入院時軽度の貧血を認め,左上腹部に鶏卵大の腫瘤を触知した.血圧,脈拍は正常であった.術前検査にて肝右葉に2個,左尾状葉に1個の腫瘍と小腸間膜にも腫瘍を認めた.術前肝腫瘍の針生検では原発性肝癌と診断された.術中肝左葉にも腫瘍を認めたため肝右葉切除術,尾状葉切除術,肝左葉部分切除術と小腸間膜腫瘍を含む小腸切除術を施行した.組織学的検査で腫瘍細胞は類円形の核と好酸性の胞体を持ち,胞巣状,リボン状,偽管状に配列し,血管に富む結合組織により分葉され,核分裂像を認めた.肝転移,リンパ節転移を伴う小腸間膜原発パラガングリオーマと診断された.術前採取した血液の血清学的検査ではアドレナリン,ノルアドレナリンは正常で,ドーパミンは850pg/mlと高値を示した.患者は術後2年の現在無再発生存中である.
  • 和田 靖, 新谷 史明, 上野 公彦, 本多 博, 川口 信哉, 阿部 道夫
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3301-3305
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は65歳男性. 1992年4月,間質性腎炎による慢性腎不全のため腹膜透析(CAPD)を導入. 1997年10月,交通事故による腹腔内出血のため, CAPDを中止し血液透析(HD)に変更した. 1999年1月14日,腹痛,嘔吐を主訴に近医を受診.下腹部に腫瘤を触知し,腹部単純X線にてニボーが認められたため当院を紹介された.絞扼性イレウスの診断で緊急開腹術を施行した.開腹時,多量の血性腹水の貯留が認められた.また全腸管が肥厚した腹膜で覆われ,回腸全体が一塊となり,これがイレウスの原因であると考えられたため,一塊となった回腸を切除した.術後,硬化性被嚢性腹膜炎と診断され,ステロイドの内服を開始した.
    本症は発症頻度は低いものの, CAPDのもっとも重篤な合併症とされる.反復性にイレウス症状を繰り返すCAPD施行患者では,常に念頭におくべき疾患である.
  • 長野 真, 中迫 幸男, 川見 弘之, 佐藤 宮雄, 山縣 司政
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3306-3311
    発行日: 1999/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    難治性腹水に対し腹水濾過濃縮再静注法を1年4カ月間にわたり計73回施行した症例を経験した.症例は, 61歳男性で満腹感,食欲不振,全身浮腫を主訴に来院し薬物療法,食事療法を行ったが改善なく腹水濾過濃縮再静注法を施行した.腹水量は平均7,627mlと大量であった. 73回という施行回数は,本邦の中では最も多い回数であった.
    本症例においては,腹水濾過濃縮再静注法により著明に尿量が増加し,クレアチニンクリアランスの改善が認められた.大量の腹水による腹圧の上昇,それによる腎血流量の低下が長期にわたり腹水が貯留した原因に関与していたと思われる.腹水濾過濃縮再静注法は高ビリルビン値の症例では重篤な合併症を来すが,それ以外の症例では長期にわたる腹水の治療にも有効であると思われる.
  • 堅野 国幸, 五明 良仁, 山代 豊, 松井 孝夫, 岸本 弘之, 日野原 徹
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3312-3316
    発行日: 1999年
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,男性.シートベルトを着用して低速で乗用車を運転中,前方を走行中の他車に追突した.約1カ月後より左季肋骨から背部にかけての鈍痛を自覚,次第に増強し当院を受診,入院となった.腹部超音波検査では,脾下極および膵尾部に各々径約6cm,約2cmでいずれも内部が均一な低エコーの腫瘤が認められた.ERPでは膵尾部に直径約2cmの造影剤貯留が認められた.さらにCT,MRI検査などにより,脾および膵嚢胞と診断した.膵尾部切除および脾摘術を施行した.病理組織検査では脾および膵の嚢胞はいずれも仮性嚢胞でヘモジデリンの沈着があり,出血が示唆された.仮性嚢胞の発症に外傷が重要な役割を担うとされており,本例は追突時のシートベルトによる圧迫が発症原因と推測され,軽微な事故であっても経過観察上,注意を要すると考えられた.
  • 坪田 典之, 田邊 秀幸, 東 良平, 桑原 宏子, 谷口 清英
    1999 年 60 巻 12 号 p. 3317-3324
    発行日: 1999年
    公開日: 2012/08/03
    ジャーナル フリー
    肺癌術後10年以上を経ての再発は比較的稀である,今回,術後13年後に孤立性脳転移と孤立性肺転移が指摘され,切除しえた1例を経験したので報告する.症例は74歳,1983年1月前医で肺腺癌により右下葉切除術(R2)施行.p-T1N0M0,IA期,絶対的治癒切除であった.1996年11月意識消失および痙攣発作で当院入院.孤立性脳転移と孤立性肺転移が指摘され,共に外科的に切除しえた.病理所見から共に肺線癌転移病変と診断された. 原発および脳・肺転移切除標本での増殖細胞核抗原(PCNA) とsialyl-LewisX糖鎖抗原(sLex)の発現についての免疫組織学的検討では,全標本で強陽性の結果がえられた.PCNA,sLex陽性の場合には,術後長期にわたってのフォローの必要性が考えられた.
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