日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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60 巻, 6 号
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  • 小河原 忠彦, 牧 章, 岡崎 護, 木嶋 泰興, 紙田 信彦, 関川 敬義, 松本 由朗
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1449-1453
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1990年1月から1996年12月までの6年間に腹膜播種性転移がP1に留まり,かつ肝転移がH1に留まる32例の腹部大動脈周囲リンパ節転移陽性胃癌を経験した.この32例を,術後5-FU持続/CDDP少量反復併用化学療法(5-FU 500mg/body/dayを5日間持続静注し, CDDP 5~10mg/body/dayを5日間連日,短時間で点滴静注)を施行した14例と非施行のコントロール群18例に分け術後生存期間を比較検討した. 5-FU/low dose CDDP療法群の再発生存2例を含めた50%生存期間は19カ月, 1年生存率は78%,コントロール群の50%生存期間は9カ月, 1年生存率は22%であった. Mann-WhitneyのUtestでもp<0.05でコントロール群に比して5-FU/low dose CDDP療法群の生存期間は延長していた. Grade 3以上の副作用は認められず, Grade 2の食欲低下が1例(7%), Grade 1の白血球減少(22%), GOT の上昇(22%),食欲低下(14%),全身倦怠感(14%)と副作用は軽微であった.
  • 白井 善太郎, 山崎 繁通, 谷 博樹
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1454-1459
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1987年8月から1997年7月までに十二指腸潰瘍穿孔に対して腹腔鏡下大網被覆術を施行した6例(腹腔鏡手術群)を中心に,開腹大網充填術を行った24例(開腹手術群)と比較検討した.発症から手術までの平均時間は,腹腔鏡手術群で22.3時間,開腹手術群で17.8時間と腹腔鏡手術群で長時間を有していた.入院時の白血球数の平均値は,腹腔鏡手術群13.250/μl,開腹手術群11.943/μlで両群間に差はみられなかった.手術時間は,腹腔鏡手術群で平均124分,開腹手術群で平均108分であり,手術から経口摂取開始までの平均期間は,腹腔鏡手術群6日,開腹手術群7日と両群間に差はなかったが,入院期間は腹腔鏡手術群で平均11日,開腹手術群では14日と開腹手術群で長期間であった.十二指腸潰瘍穿孔に対する腹腔鏡下大網被覆術は,開腹大網充填術と同等の効果が得られるばかりでなく,術後疼痛の緩和,術創の縮小化などの点で有用と考えられた.
  • 田村 功, 鈴木 紳一郎, 深野 史靖, 塩澤 学, 長 晴彦
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1460-1463
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1996年12月から1997年6月までの間に,虫垂炎の診断にて,吊り上げ法による二孔式腹腔鏡下虫垂切除術を50例試み, 47例に施行できた.適応は同期間に手術適応となる虫垂炎全例で,同期間の開腹移行は限局性腹膜炎による回盲部腫瘤形成の3例であり,重篤な合併症は認めなかった.手術時間は47.4±23.4分で,開腹下手術と有意差を認めず,術後入院日数は4.0±0.9日と約半減した.開腹下手術では3例に創感染を認めたが二孔式腹腔鏡下手術での経験はない.本術式は婦人科疾患などとの鑑別が容易であり,確実な診断・治療が行えること,低侵襲,創感染を起こしにくく美容上有利という腹腔鏡下虫垂切除術の特徴を損なうことなく,手術時間・経済性という欠点を充分に補えた.
    また,吊り上げ法,および二孔のみで施行された虫垂切除術はこれまで報告がなく,本法は,虫垂炎に対し安全な術式になり得ると考えられた.
  • 林 貴史, 鈴木 一則, 小西 伊智郎, 佐藤 尚喜, 山代 豊, 山口 由美, 広岡 保明, 貝原 信明
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1464-1468
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌の外科治療における術前CTAPの意義を検討するため, CTAPでのみ指摘された小病変をもつ18症例(CTAP陽性群)とCTAPでも同定されなかった部位に術後出現した再発病変をもつ8症例 (CTAP陰性群)の術後経過と臨床所見を比較した. CTAP陽性再発群は11例で, CTAP陽性無再発群は7例であった.再発までの期間はCTAP陽性再発群が平均8.7カ月であったのに対しCTAP陰性再発群では16.6カ月とCTAP陽性再発群が有意に短かった. CTAP陽性群においてCTAP以外の各種画像診断で同定された腫瘍数は再発群では単発4例,多発7例で,無再発群では全例単発であった. CTAP陽性再発群における再発部位は,単発再発した6例中5例がCTAPで摘指された病変と同一区域で,複数個再発した5例中4例も病変と同一区域を含んで再発した.他検査で指摘された多発病巣以外の小病変がCTAPで描出されるような症例では,術後再発の可能性が高いのでCTAPを含めた定期的な画像診断が必要と考えられた.
  • 和田 修幸, 山本 裕司, 田中 聡一, 笠原 彰夫, 遠藤 権三郎, 吉田 悟, 松本 昭彦
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1469-1474
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1990年12月~1996年10月に当科で施行した腹腔鏡下胆嚢摘出術(LC)および腹腔鏡下総胆管切石術(LCL)の724例を,開腹既往なし(A群),下腹部手術既往あり(B群),上腹部手術既往あり(C群)の3群にわけて,開腹歴による腹腔鏡下手術の適応について検討した. LCでは開腹移行率に差がなかった(A群: 3.2%, B群: 3.0%, C群: 4.2%). C群の手術時間は91.4±31.0分,術後の在院期間は9.4±5.6日とA群・B群に比較して延長し有意差を認めたが,重篤な合併症はみられなかった.また,C群の開腹移行例は他の群と同様に炎症性変化の高度な症例であり,術中合併症についても差がなかった.上腹部の手術既往は腹腔内癒着が手術操作を困難にする1つの要因ではあるが,腹腔鏡下手術導入初期のようにLCの禁忌項目ではなく,特に炎症性変化の乏しい症例では十分施行可能と考えられた.
  • 和田 英俊, 木村 泰三, 川辺 昭浩, 吉田 雅行, 小林 利彦, 礒垣 淳, 鈴木 憲次, 竹内 豊, 常泉 道子, 小林 恵子, 数井 ...
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1475-1478
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    当科では1996年から腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術において5mmのtrocar 2本と3mmのtrocar 1本を使用して細径器具を用いた手術を行っている.今回, 10mmのtrocar 2本と5mmのtrocar 1本を使用した従来器具使用群(従来群)25例と細径器具使用群(細径群)24例について臨床的な比較検討を行った.手術時間は従来群86.5分,細径群99.0分で有意差はなく,術中合併症も両群とも認めなかった.しかし,術後鎮痛剤(pentazocine)の使用は従来群19例,細径群4例(p<0.001),術後入院期間は従来群5.6日,細径群4.3日(p<0.01)で有意差があった.また,長期的な創瘢痕の長さは,従来群は臍下18.4mm,右14.2mm,左11.3mm で,細径群は臍下10.3mm,右4.9mm,左1.8mm で全て有意差を認めた(p<0.001).手術侵襲や美容的な面に関して細径器具は,腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術をさらに普及させる有用な器械であると考えられた.
  • 長倉 成憲, 石崎 悦郎, 相場 哲朗
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1479-1482
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    成人の鼠径ヘルニアの修復術は, Bassini法などの従来法を中心に行われてきた.しかし従来法では縫合部に緊張がかかり,術後の疼痛,創部のつっぱり感をきたす事がある.また,この緊張が原因で縫合部壊死をきたし再発が起こるとも考えられている.当科では1995年1月よりpolypropylene meshを用いたtension-freeのプラグ法を施行している.プラグ法と従来法との術後のquality of lifeを比較検討するため, 1993年以降成人鼠径ヘルニア手術を施行した症例に対してアンケート調査を行った.この結果,疼痛の持続期間,創部のつっぱり感,自宅での安静期間,日常生活への復帰期間の面でプラグ法の方が優れており,創感染や再発症例は現在まで認められていない.以上より,プラグ法は成人鼠径ヘルニアに対し従来法と比較してより有用と考えられる.
  • 渡邉 幹夫, 大坂 喜彦
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1483-1485
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    左自然気胸に対し胸腔鏡手術を施行後,一過性にHorner症候群を呈した1例を経験した.左胸痛を主訴に当科入院,左自然気胸と診断,手術を施行した.肺尖部の縦隔側への癒着を認め,同部位を電気メスで切離し肺部分切除を行った.術後にHorner症候群を呈したが,次第に軽快した.交感神経幹付近の壁側胸膜に対しては,特に慎重な手術操作が必要である.
  • 工藤 浩史, 坂谷 貴司, 柴田 俊輔, 石黒 稔, 西土井 英昭, 村上 敏
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1486-1489
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    極めて稀な胃癌の両側乳腺転移の1例を報告した.患者は46歳,女性.主訴は左乳房腫瘍と背部痛.平成5年10月29日,胃癌にて胃切除術施行された〔ow(-), aw(-), P0, H0, n2, t2, mp, infγ .ly2. v0, stage IIIa, cura. B〕.病理組織型は低分化型腺癌であった.同8年5月より前記症状あり,骨シンチにて著明な骨転移と診断された.同6月左乳房全域に8.6×7.6cmの弾性硬で皮膚と乳頭に浸潤した腫瘍と左腋窩リンパ節転移を触知した.この時,右乳房に腫瘍はなかった.同10月右乳房にも5.8×5.6cmの腫瘍を触知した.左乳腺の穿刺吸引細胞診,切開生検でも乳腺由来か胃癌の転移かの鑑別が困難で左非定型的乳房切除術を施行した.術後の病理組織学的検索では胃癌の乳腺転移が疑われた.確定診断には胃癌組織と同様の陽性の染色性を示すParadoxical Concanavalin A染色, HIK 1083染色, Galactose-Oxydase-Shiff反応が有用であった.乳房切除術から5カ月後肺転移,癌性胸膜炎で死亡した.
  • 大城 望史, 山根 修治, 新宅 究典, 新原 亮, 松野 清, 吉岡 伸吉郎
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1490-1494
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    われわれは,慢性腎不全患者に合併した気管支動脈瘤の症例を経験した.症例は53歳男性.胸部X線上異常陰影のため入院.腫瘤の増大と, CT, MRIにて造影効果が不均一であったため肺悪性腫瘍と診断した.開胸するに,腫瘤と思われた部分は血栓であり,気管支動脈の拡張蛇行と気管支動脈瘤を認め,右肺下葉切除を行った,気管支動脈瘤の症例は稀であり,本邦ではこれまで41例の報告があるのみである.本症例は,慢性腎不全患者に合併した最初の症例と思われる.
  • 中岡 康, 石山 純司, 丸野 要, 山川 達郎, 水口 国雄
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1495-1499
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は18歳男性.主訴は高熱,血痰.既往症に食物アレルギーがあったが,気管支喘息は,無かった.胸部X線像で,右肺野に嚢胞状陰影および内容液貯留像が認められた.感染を伴った気管支原性嚢胞と診断し,抗生物質投与で軽快したが,感染を繰り返したため嚢胞部肺部分切除を行った.術後病理診断で,クリプトコッカスによるアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)と診断した.本症例は,術前診断としてRosenbergの診断基準を必ずしも満たすものでなかったが,切除例におけるBoskenらの病理形態学的所見を加味した診断基準を満たしていた.
  • 竹内 幾也, 石田 秀行, 中山 光男, 菊池 功次, 出月 康夫, 糸山 進次
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1500-1504
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性. 68歳時に, S状結腸癌に対しS状結腸切除術(D2)施行. Dukes Bの高分化腺癌であった.その術後33カ月目に2つの肺転移巣に対し右上中葉切除術施行.さらにその術後15カ月目に左肺下葉に2つのcoin lesionを認め, S8およびS10の楔状切除施行. S8の腫瘍は高分化腺癌でS状結腸癌の組織像と酷似しており, S状結腸癌の肺転移と診断した. S10の腫瘍は肉眼的に胸膜陥入像を,また組織学的に立方状の癌細胞が既存の肺胞上皮を置換するように増殖しており,原発性肺腺癌と診断した.本症例のように大腸癌肺転移と原発性肺腺癌の同時切除例と考えられる症例はきわめて稀であるが,大腸癌および肺癌罹患率は増加傾向にあり今後同様の症例が増加することが予想される.その点,本症例は臨床上貴重な症例であると考えられたので文献的考察を加え報告する.
  • 山崎 直哉, 佐々木 伸文, 太田 勇司, 西田 卓弘, 松本 桂太郎, 足立 晃
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1505-1509
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    気管分岐部から右中間幹に浸潤した扁平上皮癌に対し,気管分岐部管状切除を伴う右肺全摘術を施行した1例を報告する.症例は69歳男性.糖尿病,高血圧,塵肺にて近医通院中であったが,労作時呼吸困難を自覚するようになり,当院内科入院となった.胸部X線で右上葉の無気肺があり, CT, MRI 所見では右肺門部に腫瘤影があり,右主気管支,中間幹内腔へ浸潤していた.気管支鏡所見では気管分岐部直下から左中下葉分岐部まで腫瘍浸潤を認めた.手術は右第5肋間開胸で行った.腫瘍の血管系への浸潤はなかったが,気管支浸潤部の完全切除のために気管分岐部管状切除を伴う右肺全摘術を施行した.気管は分岐部より2軟骨輪,左主気管支は1軟骨輪切除し,気管-左主気管支をテレスコープ型に結節縫合した.吻合部は心膜周囲脂肪組織で被覆した.病理組織学的には高分化型扁平上皮癌で最終病期はt4n0m0 stage IIIb であった.吻合部治癒良好で,術後15カ月非担癌生存中である.
  • 山田 慎, 森田 敏弘, 堅田 昌弘, 佐治 重衡
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1510-1513
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    MRIが診断に有用であった,外傷性右横隔膜ヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は71歳男性で,転倒して右前胸部を打撲し,上腹部痛,嘔吐を主訴に来院した.胸部単純X線で,右横隔膜面の挙上と右胸腔内に消化管ガス像を認め,右横隔膜ヘルニアと診断した.さらに,ヘルニア内容,ヘルニア門の大きさを診断するため胸部MRIを施行したところ,上行結腸から横行結腸が直径2cmのヘルニア門に収束し,胸腔内に脱出している明瞭な所見が得られた.緊急開腹術を施行すると,横隔膜前方の腱状部より上行結腸および横行結腸の一部と大網が右胸腔内に脱出しており,ヘルニア門は3×2cmの大きさであった.
    MRIは横隔膜ヘルニアにおいて,脱出臓器の同定とその頭尾方向の連続性の描出に優れ,かつ非侵襲的であり,横隔膜ヘルニアの診断に極めて有用な検査と考えられた.
  • 佐野 勝英, 田中 和郎, 矢野 文章, 黒田 陽久, 大平 洋一, 高橋 恒夫
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1514-1518
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    鈍的胸腹部外傷と下肢多発骨折の9日後に腸閉塞症状で発症した外傷性横隔膜ヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は64歳,男性.交通事故で全身を打撲しショック状態にて来院,胸部CT検査で右血気胸と左血胸を認め,ドレナージを行った.また下肢の多発骨折を合併しており,全身状態が落ち着いたところで観血的整復固定術を行った.入院9日頃より腹部膨満,嘔気嘔吐を認め,翌日の胸腹部X線写真で拡張した小腸と胸腔内の消化管ガス像を認めたため外傷性横隔膜ヘルニアを疑い,緊急手術を施行した.開腹時左横隔膜後側方に裂孔を認め大網と横行結腸が胸腔内に嵌入し,円手的に還納した.また10cmにおよぶ回腸の壊死を認め,これが腸閉塞の原因と考え腸切除を行った.本症例は外傷性の腸管損傷が経時的に腸管壊死となり腸閉塞を併発,腹腔内圧が上昇し横隔膜損傷部から腸管が脱出し,遅発性の横隔膜ヘルニアを発症したものと考えられた.
  • 市村 秀夫, 奥村 稔, 横山 卓, 中坪 直樹, 佐藤 宗勝
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1519-1523
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    特発性食道破裂は比較的稀な疾患であり,早期に適切な処置が行われないと重篤な経過をたどるとされる.われわれは本症の2手術例と1保存的治療例を経験した.手術は, 1例が縫合閉鎖術, 1例が縫合部に有茎大網弁で被覆術を追加した. 2例とも縫合不全を認めず軽快した.保存的治療例は85歳,男性で本邦報告例最高齢であった.縦隔・胸腔ドレナージも要さず,軽快した.
    1993年から1997年までの本邦報告例(自験例3例を含む) 78例の集計では, 24時間以内に手術が施行された症例において,直接縫合閉鎖術の群と縫合部被覆術の群との間で縫合不全発生率に有意差を認め,後者の群で有意に低かった.死亡例は6例で,その内3例は直接縫合閉鎖術が行われ縫合不全を合併した症例であった.発症早期診断例においても,縫合部に何らかの被覆術を追加することが望ましいと考えられた.
  • 森脇 義弘, 国崎 主税, 上田 倫夫, 秋山 浩利, 亀田 久仁郎, 嶋田 紘
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1524-1527
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    維持透析中の慢性腎不全患者で,食道破裂,縦隔炎から食道気管支瘻を形成した症例に対して, 2期的手術を選択し救命し得たので報告する.症例は, 1990年から人工透析を導入している55歳,女性. 1995年3月7日,上部消化管内視鏡検査後の食道破裂および縦隔炎のため保存的治療を受けていたが, 6月から食道気管支瘻が明らかとなり当科へ入院となった.下部食道左側に巨大な憩室様膿瘍腔と左気管支(B6, B10) との間の瘻孔を認めたが,炎症反応,低栄養状態,心機能,呼吸機能低下など全身状態不良であったため,高カロリー輸液を併用した経腸栄養,輸血により全身状態改善を図り,手術は2期的に行った.初回手術は1995年9月19日,左第7肋間開胸による胸部食道抜去,頸部食道瘻,胃瘻造設術,膿瘍腔内腔からの縫合閉鎖,生体用接着剤による接着被覆,再建手術は11月21日(初回手術後63病日),亜全胃管を用いた胸骨後経路による再建術を施行した.術後経過は良好で,再建手術後第37病日軽快退院となった.
  • 西村 渉, 戸田 佐登志, 宮木 功次
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1528-1532
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は81歳女性.食欲不振を主訴に当院入院,精査にて食道癌および胃体上部に巨大な粘膜下腫瘍を認め, 6月17日食道亜全摘・胃上部切除R1,胸腔内食道胃吻合を施行した.胃粘膜下腫瘍は8.0×7.8×4.8cmで,病理組織所見では扁平上皮癌であり,食道癌の胃壁内転移と考えられた.原発性食道癌取扱い規約に基づく手術所見はImEi, A0 N(-), M0. Pl0. Stage Iであった.術後2年2カ月現在再発兆候を認めない.食道癌の胃壁内転移の頻度は1.0~4.7%と少ないが,原発巣に比べ胃壁内転移巣の方が大きかったり,急速に増大するものがしばしば認められる.食道癌の診療に際しては,たとえ術前N(-), A0の症例であっても胃病変の詳細な観察が必要である.
  • 秋山 浩利, 国崎 主税, 市川 靖史, 関戸 仁, 渡会 伸治, 嶋田 紘
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1533-1536
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は61歳の男性.近医にて胸部食道癌と診断され,手術目的で当院紹介入院となった.食道造影で食道ImEi領域に長径6.5cmの隆起性病変を認め,内視鏡検査で上切歯列より35cmの前壁に1型の腫瘍を認めた.生検で類基底細胞癌と診断し,胸部食道切除術を施行した.切除標本では胸部正中部食道に6.5×2.0cmの表面凹凸不整の1型の腫瘍を認めた.病理診断は食道類基底細胞癌(a2, n2, ly0, v0)であった.術後ADMと5-FUの全身化学療法を施行し,術後7カ月現在,再発の兆候なく健在である.食道類基底細胞は一般に予後不良と報告されているが,表在癌症例ではリンパ節転移例が少なく,予後は比較的良好であり,食道類基底細胞癌は早期発見により予後の改善が期待できると考えられた.
  • 葛本 幸康, 山田 行重, 渡辺 明彦, 阪口 晃行, 中野 博重
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1537-1541
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.近医にて食道癌と診断され,当科紹介となる.入院時,血小板数は6.2×104/mm3と減少しており, PAIgGも軽度上昇していたため,特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と診断した.術前,免疫グロプリン大量投与(286mg/kg/day×5日間)を行ったところ,血小板数は, 16.7×104/mm3と増加し,食道亜全摘術と脾摘術を施行した.術後,血小板数は一旦5.3×104/mm3まで低下したが,以降回復し,退院まで10万以上を保った.開胸開腹を必要とする食道癌の手術は,侵襲が大きく,術中術後の止血管理は非常に重要であるが,術前免疫グロブリン大量投与により安全に施行しえた,短期間に血小板を増加させ,副作用の少ない免疫グロブリン大量療法は, ITP合併食道癌患者の術前管理としても極めて有用であると考えられた.
  • 小西 毅, 山口 浩和, 青木 文夫, 杉崎 勝好, 上西 紀夫, 古橋 修介
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1542-1546
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    食道原発悪性黒色腫は食道悪性腫瘍の0.1~0.4%をしめる稀な疾患である.その転移部位は,肝臓,縦隔・肺門リンパ節,肺などが多く報告されている.今回われわれは皮下,大腸,乳腺に転移を伴う食道原発悪性黒色腫の1例を経験した.検索し得た範囲では大腸,乳腺転移の報告はなく,皮下転移も8%と稀であるため報告する.症例は78歳女性.来院時,左前腕,後頸部,右鎖骨上窩の皮下,左乳腺に腫瘍を認めた.上部消化管内視鏡にて門歯28~37cmに所々黒色を呈するカリフラワー状半周性隆起性病変を認め,組織診にて悪性黒色腫と診断された.乳腺腫瘍,皮下腫瘍,大腸内視鏡にて発見された粘膜下腫瘍からも同様の細胞が認められた.食道腫瘍生検組織に接合部活性は認めなかったが,形態,大きさ,口側粘膜におけるメラノーシスの存在,全身検索上他に原発巣と思われる病変を認めないことから,食道原発と診断した.
  • 超音波内視鏡所見を中心に
    菅谷 純一, 小坂 健夫, 喜多 一郎, 高島 茂樹
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1547-1551
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃adenomyomaの1例を経験したのでその超音波内視鏡(以下EUS)所見を中心に報告する.患者は27歳女性で心窩部痛を主訴に来院.胃内視鏡検査で前庭部大彎に約2cm大の中心陥凹を有する粘膜下腫瘍が発見された. EUSでは腫瘍は第4層に不整形の低エコー像として描出され,内部には不均一なエコーの混在がみられた.全麻下で病変部を含めて全層の胃部分切除術を施行し,術中迅速病理診断でadenomyomaと診断された.摘出標本は4.0×3.8cmで腫瘍は弾性軟で境界が不明瞭であった.病理組織学的には円柱上皮からなる嚢胞様あるいは導管様の腺組織を取り囲むように平滑筋の過形成増殖を示す腫瘍であった.また一部には立方上皮からなる腺房形成像もみられ,膵の腺房細胞に類似していた.以上からadenomyomaと診断した.術後1年5カ月の現在,とくに自覚症状はなく健在である.本症の診断上, EUSの有用性を強調したい.
  • 岡林 雄大, 金子 昭, 上岡 教人, 直木 一朗
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1552-1556
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,女性.貧血の精査で,上部消化管内視鏡検査,上部消化管造影検査を施行した際,多発性(5カ所)の胃粘膜病変を認め,生検にてすべてGroup Vと診断されたため広範囲幽門側胃切除術,リンパ節郭清を施行した.術後病理組織検査では, Borrmann 2型進行癌とその他に5個の早期癌を認め,同時性6多発胃癌と診断した.
    高齢化社会にともない,多発胃癌の発生頻度が年々増加傾向にあるが,同時性に6病巣の胃癌は非常に稀である.
  • 小川 勝, 鷲澤 尚宏, 加瀬 肇, 小林 一雄, 伊原 文恵, 津布久 雅彦
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1557-1561
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は64歳の女性.約4年間の長期にわたり繰り返す原因不明の高度貧血で入院した.上部消化管造影・内視鏡,注腸造影,下部消化管内視鏡などで胃潰瘍以外に高度貧血をもたらす原因が認められず診断が遅れた.出血源の検索に99mTc-RBC出血シンチグラフィーを施行したところ小腸腫瘍が疑われた.小腸造影,腹部X線 CT スキャン,上腸間膜動脈造影より空腸腫瘍が確認され,内視鏡下生検の結果,空腸平滑筋腫と診断された.腫瘍は Treitz 靭帯から約15cmに存在する50×45mmの境界明瞭な腫瘤であった.小腸部分切除を行い,組織検査でgastrointestinal stromal tumor (GIST)と診断された.その後,貧血の再発はなく腫瘍の転移も認められていない.以上より再燃を繰り返す原因不明の貧血に対しては出血シンチも有効な検査方法であると思われた.
  • 大倉 英司, 三木 誓雄, 石島 直人, 登内 仁, 鈴木 宏志
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1562-1565
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    悪性変化を伴う盲腸villous tumorと虫垂粘液嚢胞腺癌が近接して併存していた1例を経験した.患者は59歳女性.当院整形外科にて大腿骨頭置換術後のfollow up目的で撮影された腹部CTで回盲部に6×7cmの嚢胞状腫瘤が発見され回盲部嚢胞性腫瘍の診断で手術を施行した.開腹所見では,盲腸の虫垂開口部に同部位を閉塞する小児手拳大,弾性軟の腫瘍と,それに連続し嚢胞状に著明に腫大した虫垂を認め,結腸右半切除術を施行した.切除標本の肉眼所見では,虫垂開口部に近接した盲腸に4.5×6cmで全周性に発育したvillous tumorを認め,正常粘膜を介して開口部より約1cm末梢の虫垂粘膜面に,径1cmの黄白色で硬い隆起性病変を認めた.また虫垂内腔は多量の粘液物質で満たされていた.病理組織学的に,盲腸の病変は絨毛腺腫と高分化型腺癌が混在しており,虫垂の隆起性病変は粘液嚢胞腺癌であった.両者は組織学的には独立して存在する重複癌であった.
  • 松岡 功治, 前川 恭子, 佐伯 俊宏
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1566-1569
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,女性.生来便秘傾向であった.平成10年5月より左下腹部痛,腹部膨満感,粘血便が出現し軽快増悪を繰り返すため同年9月近医より紹介となった.来院時腹部単純X線でブドウの房状の透亮像を認め,注腸造影では過長S状結腸に多数の類円形隆起性含気性病変が存在し腸管嚢腫様気腫と診断した.一方大腸内視鏡検査でS状結腸の一部に狭窄を認め,既に不可逆的変化を来しているものと考え腹腔鏡補助下にS状結腸切除術を施行した.腸管嚢腫様気腫は腸管内,特に粘膜下層または漿膜下層に多発性の含気性嚢胞を形成する比較的まれな疾患である.本邦ではわれわれの検索し得た限りで1997年までに509例の報告があるが,その発生機序については依然不明な点が多い.治療法としては高濃度酸素療法が有効ともいわれるが,本例のように腸管の狭窄などの不可逆的変化を来した症例では外科的治療が必要であると考えられる.
  • 石田 秀行, 竹内 幾也, 猪熊 滋久, 村田 宣夫, 藤岡 正志, 出月 康夫
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1570-1574
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    リンパ節転移陽性の小型進行癌を伴った家族性大腸腺腫症(FAP)の興味ある1例を経験したので報告する.症例は39歳,男性. S状結腸進行癌,下部直腸早期癌を合併した非密生型FAPの術前診断で手術を行った.術中,上行結腸の壁在リンパ節2個に腫大を認めたが,右側結腸領域に明らかな腫瘍性病変を触知しなかった. S状結腸癌に対してD3, 右側結腸領域に対してD2郭清を伴うrestorative proctocolectomy・回腸肛門管吻合を施行した.切除標本では, S状結腸の2型進行癌のほか,上行結腸に最大径16mmの平皿陥凹型病変を認め,組織学的には深達度mpの中分化腺癌で,リンパ節転移陽性であった.進行癌を合併したFAPの場合,口側大腸の術前検索が不十分になり,本症例のような小さな進行癌が見逃される可能性がある.大腸癌を合併したFAPの手術にあたっては,術中の十分な視診・触診のうえ,リンパ節郭清範囲の決定に慎重な態度が必要である.
  • 安彦 篤, 前田 壽哉, 大矢 和光, 奥村 権太, 山田 恭司, 岩崎 光彦
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1575-1578
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は66歳女性,主訴は腹痛と貧血.既往歴は膀胱腫瘍,子宮筋腫,小脳血管芽腫,高血圧症,胃潰瘍.家族歴は妹に日本住血吸虫症を認めた.貧血精査中,腸閉塞を認めたため緊急手術となった.術中所見はS状結腸に腫瘍を認めS状結腸切除術とリンパ節郭清術を施行した.病理所見は中分化腺癌で ss n2P0H0M(-) stage IIIb. さらに日本住血吸虫卵は結腸組織粘膜下層を中心に無数あり,腫瘍組織では漿膜下組織まで認められ,摘出リンパ節内にも存在した.日本住血吸虫卵の介在と大腸癌の発生との関連性について考察を加えた.
  • 濱崎 達憲, 古谷 卓三, 森近 博司, 上野 隆
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1579-1582
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は73歳男性.他院でポリペクトミー目的の大腸ファイバーの前処置としてグリセリン浣腸を受けた際に直腸損傷を起こし,大腸ファイバー下にクリッピングによる修復術を受けた.その後退院となったが,腹痛は治まらず当院を受診した.入院後39度台の熱発と糞尿,尿便の排出をきたした.入院後の検査では,大腸ファイバーおよび膀胱鏡で直腸膀胱瘻を, CTで直腸周囲膿瘍を確認した.これに対して直腸周囲膿瘍ドレナージ,直腸膀胱修復術およびS状結腸人工肛門造影術を施行した.膀胱直腸修復部は良好にコントロールされ順調に経過した.
    グリセリン浣腸は頻繁に行われる処置で,直腸穿通は稀な合併症であるが,事後の処置が不適切な場合,重大な合併症へと発展することがある.直腸穿通を起こすと直腸周囲膿瘍は必発であり,早期に適切なドレナージをする必要がある.
  • 藤澤 稔, 丸山 俊朗, 児島 邦明, 深澤 正樹, 別府 倫兄, 二川 俊二
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1583-1586
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    進行直腸癌に合併し,急激な経過を辿って救命し得なかったFournier's gangreneの1例を経験したので報告する.症例は75歳,男性.主訴は黒色便で,注腸検査上直腸Rbにapple core signを認めたため,直腸癌の診断で入院となった.直腸診で全周性の腫瘍を触知し,肛門周囲に異常は認めなかったが,入院3日目に同部位と陰嚢の腫脹を認めたため切開排膿した.その2日後に会陰部から右側腹部に連なる握雪感を伴った腫脹を認めたため,緊急手術で切開排膿と壊死組織の切除を行った.患者は術後播種性血管内凝固症候群(DIC)から成人呼吸窮迫症候群(ARDS)を合併し,人工呼吸器管理としたが軽快せず,第6病日に死亡した.直腸癌の術前Fournier's gangreneを合併したという報告は,検索し得た限り本邦で1例,欧米で2例のみであった.これらはいずれも癌が直腸壁を穿破しており,癌の直接浸潤が肛門周囲膿瘍の原因であると考えられた.
  • 磯谷 正敏, 山口 晃弘, 堀 明洋, 金岡 祐次, 高橋 吉仁, 李 政秀
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1587-1590
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    直腸癌術後の骨盤内2次再発巣を有する56歳の女性に対し,低用量5-FU/CDDP化学療法併用OK-432腫瘍内投与(計60KE)を行い腫瘍の縮小と腫瘍マーカーの正常化を認めた.この抗腫瘍効果はCD 8の低下と相関した. OK-432腫瘍内投与は,直接的な抗腫瘍効果とともに,宿主の正の免疫応答性を高めたと考えられた.
  • 竹村 真一, 鈴木 正徳, 海野 倫明, 遠藤 公人, 内山 哲之, 松野 正紀
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1591-1595
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    GRF glue® は新しい生体接着剤で,現在汎用されているフィブリン糊とは異なり血漿成分を材料としないことから各種感染症の発生を懸念することなく,かつ長期間の創面の被覆効果が期待できる.当初, A型の解離性大動脈瘤手術時に解離腔に充填して用いられ,従来のフエルト法に変わる簡便法としてpoor risk症例に応用されていたが, 1996年1月からは肝切除時の肝切離面における止血補強としての保険適応も追加され,腹部外科領域においても使用しやすい環境が整った.今回,75歳女性の肝門部胆管癌症例に対して肝左葉切除術を施行し,第7病日に腹腔ドレーンによる総肝動脈の圧迫壊死に伴う仮性動脈瘤からの破綻性出血を併発,同部からの再出血予防にGRF glue®の被覆が有効であった症例を経験したので報告する.
  • 亀井 智貴, 長谷川 洋, 小木曽 清二, 村田 透, 長澤 圭一, 谷合 央
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1596-1600
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    S状結腸癌の術後6年目に肝右尾状葉に転移を来たし,肝右葉+右尾状葉切除術を施行し,さらにその4年後に左尾状葉に転移を認め,肝左尾状葉切除を行った症例を経験したので報告する.症例は58歳,女性. 1986年S状結腸癌にてS状結腸切除術施行した. 2年後に右肺下葉に転移を来たし,右肺下葉切除術を施行した.以後外来で経過観察をしていたが,初回手術より約5年後の1991年には, CEAが高値を示し, CTおよびUSでも肝右尾状葉に孤立性転移を認めたため, S状結腸癌の孤立性転移と診断し,肝右葉+右尾状葉切除術施行した.その後CEA値は正常化したが,その初回手術より約8年8カ月後の1994年に, CEAが93.5と再度上昇し, CTとMRIで肝左尾状葉に孤立性転移を認めたため,肝左尾状葉切除を施行した.その後現在まで,再発の兆候は認めていない.
  • 大石 均, 高野 靖悟, 河野 悟, 中田 泰彦, 川上 新仁郎, 岩井 重富
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1601-1605
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は34歳女性,上腹部痛の精査で施行した腹部超音波検査で,肝左葉内側区域 (S4) に直径2×2.5cmの乳頭状発育を伴う嚢胞性病変を指摘され当科に入院となった.病変が小型であったが,総合画像診断では肝嚢胞腺癌を強く疑いS4部分切除術を施行した.切除標本の病理組織診断では,嚢胞壁は一層の円柱上皮で被覆された肝嚢胞腺腫で,軽度の異型を示す部分より突然に乳頭状の腺癌となり,肝嚢胞腺腫より発生した嚢胞腺癌と診断した.病変は嚢胞内に限局していた.この経験より,肝嚢胞性疾患の嚢胞内小病変には常に悪性を考慮に入れた検索が必要であると考える.
  • 佐々木 章公, 大野 靖彦, 藤原 俊哉, 須崎 紀一, 松尾 嘉禮
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1606-1611
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    稀な疾患である孤立性肝結核腫の手術後に抗結核薬物療法を施行し,その経過観察中に肝細胞癌が発生した症例を経験したので報告する.症例は65歳男性.右季肋部痛にて外来受診.腹部造影CTで肝S5に造影される腫瘤を認め,肝癌を疑い手術を施行した.病理組織検査でラングハンス巨細胞と乾酪壊死巣を含む結核腫を認めた.抗結核剤は1年間投与した.術後1年6カ月後に肝S7に腹部CTで強く造影される分葉状の腫瘤がみられ腹部血管造影では腫瘍濃染がみられた.これらの画像所見より結核腫の再発ではなく肝細胞癌と診断し, S7亜区域切除を行った.組織所見は索状型の肝細胞癌を示した.孤立性肝結核腫と肝細胞癌との発生病理などの因果関係は不明であるが,両者の鑑別には腹部造影CT, 血管造影が有用である.しかし他の肝腫瘍との鑑別診断に際しては積極的に経皮的生検を行う必要があると考えられた.
  • 行方 浩二, 高森 繁, 奥山 耕一, 児島 邦明, 深澤 正樹, 別府 倫兄, 二川 俊二
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1612-1617
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    教室において日本住血吸虫症(日虫症)併存肝細胞癌の3例を経験した.症例1は67歳,男性.福岡県・久留米市出身.肝硬変(HBV+)・S8原発性肝細胞癌(HCC)の診断にて前区域切除術を施行した.症例2は51歳,男性.福岡県・久留米市出身.肝硬変(HBV+)・S6 HCCの診断でS6部分切除を施行した.症例3は57歳,男性.山梨県・石和市出身.肝硬変(HCV+)・日虫症・S8 HCCの診断でS8亜区域切除術を施行した.病理組織学的に,症例1, 2は日虫症を伴った中分化型のHCC,症例3は日虫症を伴った高分化型のHCCと診断された.症例1, 2はHBVの,症例3はHCVの感染を認めている.日虫症は1996年2月,一応の終息宣言がなされたが,今日でも日虫症による肝疾患が認められ,いまだ肝細胞癌との因果関係は一定の見解が得られていない.今後,日虫症と肝細胞癌の因果関係を考察するうえで,肝炎ウイルスの関与を念頭におくことが重要であると思われた.
  • 坂本 英至, 寺崎 正起, 久納 孝夫, 岡本 恭和, 神谷 諭, 小林 聡, 佐野 秀樹, 篠原 剛
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1618-1622
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胆道系悪性腫瘍の切除後再発形式の一つにPTBD瘻孔への播種性転移があるがその切除例の報告は少ない.今回腹壁切除,肝部分切除にて切除し得た1例を経験したので,本邦報告例の集計を加え報告する.症例は75歳,男性.結節型中部胆管癌にてPTBD施行後40日目にPpPDを施行した.組織学的には中分化型管状腺癌,深達度ss, n(-) であった.7カ月後血清CA 19-9の軽度上昇と共にUSにてPTBD瘻孔瘢痕直下に低エコー腫瘤を認めた. CTでは腹壁から肝S3 にかけて造影効果のない低吸収域腫瘤を認めた. PTBD瘻孔への播種性転移と診断し腹壁切除,肝S3切除を施行した.切除標本ではPTBD瘻孔瘢痕に一致して腹直筋および肝S3に浸潤する転移巣を認めた.術後6カ月の現在再発兆候なく生存中である.胆道癌術後はPTBD瘻孔部再発も念頭において経過観察を行うべきである.
  • 竹尾 浩真, 山下 裕一, 白日 高歩
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1623-1628
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胆嚢癌において比較的稀な組織型である腺扁平上皮癌を経験したので報告する.症例は60歳,女性.食後心窩部痛を主訴に近医を受診し,腹部US検査, CT検査, ERC検査にて胆嚢癌と診断され当院に紹介入院となった.病変は胆嚢頸部に4.0×2.5cmの乳頭状,広基性病変と,肝床側体部に2.0×1.5cmの結節状隆起病変が認められ,径1.2cmの結石を伴っていた.手術は胆嚢摘出,胆管切除,肝S1, S4a, S5部分切除を施行し, Roux-en Y法で胆管空腸吻合を行った.腫瘍の病理組織所見で乳頭状の部分は粘膜内に限局した高分化腺癌であり,結節状の部分は漿膜下層まで浸潤した高分化扁平上皮癌であった.腺癌と扁平上皮癌との境界部では腺癌の基底膜側より扁平上皮化生が生じている像が認められ,扁平上皮癌はその下層に浸潤していた.胆嚢上皮に腺扁平上皮癌が生ずる起源としては腺癌の扁平上皮化生が考えられた.
  • 内藤 彰彦, 青松 幸雄, 金廣 裕道, 中島 祥介, 山内 昌哉, 中野 博重
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1629-1633
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    総胆管嚢腫空腸吻合術後28年目に肝内結石・膵石を合併し,両者に対し同時に根治術を行った膵管胆道合流異常症の1例を経験した.
    症例は33歳女性. 5歳時に先天性総胆管拡張症にて総胆管嚢腫空腸吻合術(胆管非切除)を受けた. 24歳時より腹痛を認め,内服治療にて軽快していた. 33歳時,腹痛を主訴に来院し,急性膵炎と診断され入院した.諸検査にて総胆管拡張症を伴う膵管胆道合流異常症(新古味分類の1b型),肝内結石,膵石と診断された.開腹術を行い,肝外拡張胆管切除術・胆嚢摘出術・肝外側区域切除術・総肝管空腸吻合術と,膵石に対し,経十二指腸乳頭形成術・膵石摘出術を施行した.切除胆管,胆嚢,肝に悪性所見は認められなかった.術後経過良好にて退院し,現在結石の再発は認めていない.
    嚢腫空腸吻合術後に胆石,膵石形成を同時に認めるのは稀であり,若干の文献的検討を加えて報告する.
  • 木谷 勇一, 山本 賢二, 今田 敏夫
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1634-1637
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は,46歳女性.1カ月前よりの腹部膨満感を主訴に来院した. Echoでは,膵体部に3.5cmの粗雑な混合性パターンを示す腫瘤を認めた.腹部CTでは,腫瘤は境界明瞭な低吸収濃度を示し,不均一な造影効果を伴った. dynamic CTでは,腫瘤の早期の造影効果は乏しかった.カラードプラーエコーでは腫瘤内に血流シグナルを認めなかった. MRIでは,腫瘤はT1強調画像で低信号, T2強調画像で高信号を示し, ERPでは主膵管はほぼ正常であり,腫瘤は嚢胞状に造影された.膵酵素(アミラーゼ,リパーゼ等),腫瘍マーカー (CEA, CA 19-9等)および膵ホルモン検査(インスリン,グルカゴン等)は正常範囲内であった.開腹所見では,腫瘤は膵内に存在し,暗灰白色の被膜をもち,境界明瞭・表面平滑・弾性軟の楕円体であり,手術は膵体尾部切除脾合併切除を施行した.病理組織学的には腫瘤は膵海綿状血管腫であった.
  • 長井 一信, 鈴木 栄治, 花岡 俊仁, 石田 数逸, 河島 浩二, 三原 康生
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1638-1642
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    下部胆管癌術後,標本にて発見された微小膵悪性グルカゴノーマの1例を経験したので報告する.症例は72歳の男性で,発熱を主訴に来院し, USCTで胆嚢腫大,総胆管および肝内胆管の拡張を認め,閉塞性黄疸と診断した.さらにPTCD,胆道内視鏡検査で下部胆管癌と診断し,膵頭十二指腸切除術を施行した.術後病理検査で,下部胆管癌近傍の正常膵組織内に1.5mm大の境界不明瞭な結節性腫瘍病変を認めた.腫瘍細胞は,免疫染色でグルカゴンにのみ陽性であり,膵悪性グルカゴノーマと診断した.
    グルカゴノーマはまれな疾患であり,そのほとんどは腫瘍径5cm以上である.本例のように5mm以下の微小なグルカゴノーマは極めて稀であり,本邦4例目にあたる.また下部胆管癌を合併するものは,われわれの検索した限りでは,他に報告例を認めなかった.
  • 内藤 明広, 川原 勝彦, 岩田 宏, 田那村 收
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1643-1646
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は49歳,女性で糖尿病のため食事療法中である. 18年前胆石症による急性膵炎の治療歴があり,外来で施行した腹部ultrasonography (以下US)で膵頭部腫瘍を指摘された. 1997年11月20日に手術施行,術中迅速凍結病理組織診断で悪性carcinoid腫瘍を疑われ,膵頭十二指腸切除術および胆嚢摘出術を施行した.通常の組織学的および免疫学的検索により,膵の悪性solid cystic tumorと診断された.術後経過は良好であった.膵のsolid cystic tumorは若年女性の好発し,多くは予後良好であるが,時に悪性で局所再発や遠隔転移を来す.自験例について文献的考察を加え報告する.
  • 片桐 聡, 高崎 健, 次田 正, 山本 雅一, 大坪 毅人, 秋山 和宏
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1647-1652
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは肝細胞癌術後の孤立性脾転移例を経験したので報告する.症例は69歳,女性. 1993年11月16日肝右葉直径13cmの肝細胞癌の診断にて右三区域切除施行した.病理組織診断は単結節周囲増殖型のtrabecular patternを呈するmoderatly differentiated hepatocellular carcinomで, fc (+), fc-inf (+), vp0. vv0, b0, tw (-), im 1,相対的治癒切除であった,非癌部はNonB NonCの正常肝であった.術後7カ月のCT検査にて多発性肝内転移と脾下極に直径2cmの腫瘍を認めた.肝内転移巣に対してはTAEにより治療効果を得られたが,脾下極腫瘍は直径4cmと増大し,同時に血清AFP値の上昇も認めたため肝細胞癌脾転移と診断,初回手術から16カ月後に脾摘術を施行した.術前術中の検索にて残肝,脾臓以外に転移再発巣はなかった.肝細胞癌の孤立性脾転移は渉猟しえた限り本邦では8例しか認めず,また切除症例は2例のみであった.
  • 倉地 清隆, 小原 誠, 綿引 洋一, 小坂 昭夫
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1653-1657
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は47歳の女性.月経時排便困難で来院した.注腸および大腸内視鏡検査で直腸に全周性狭窄像を認めた. CT・MRIにて子宮直腸間の索状物と右卵巣嚢腫を認め,臨床症状と画像所見から直腸子宮内膜症と診断した.月経終了後は症状が軽快するために,ホルモン療法を第一選択としたが,副作用の出現と臨床症状が改善しないため, 1年後に子宮・両側付属器および直腸部分切除を施行した.子宮と右卵巣および直腸は強固に癒着し直腸を狭窄していた.病理組織学的には,線維化をともなった子宮内膜組織が粘膜下層まで浸潤し,右卵巣はチョコレート嚢胞であった.
    腸管子宮内膜症は比較的まれな疾患であり,自験例を含めた本邦報告84例を集計し検討した.術前に確定診断が困難な症例も多く,手術適応や治療方針については慎重に検討する必要がある.
  • 阪本 研一, 野尻 真
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1658-1662
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腸間膜に原発する平滑筋腫はきわめてまれで,本邦では自験例を含めて11例しか報告されていない.症例は71歳の男性で腹部膨満感と便秘を主訴として来院した.右下腹部に小児頭大の弾性軟,表面平滑で可動性良好な腫瘤を触知した.術前の画像診断では腫瘤は腸間膜内に位置し境界は明瞭で内部がやや不均一であった.腸間膜腫瘍と診断し手術を施行した.腫瘍は回盲弁より1m80cmから3mの小腸間膜内に存在し一部で小腸を壁外性に圧排していたが小腸への浸潤および腸間膜リンパ節に転移所見を認めず,腫瘍を小腸とともに切除した.腫瘍は組織学的に平滑筋腫と診断された.
  • 成田 洋, 中村 司, 羽藤 誠記, 伊藤 昭敏, 真辺 忠夫
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1663-1667
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    麻痺性イレウスとの鑑別に苦慮したループス腹膜炎(Lupus Peritonitis)の1例を経験した.患者は34歳,女性.既往歴に虫垂切除術.また1年前よりSLEの診断にて他院通院中である. 2日前より腹痛が出現,麻痺性イレウスの診断にて経過観察していたが次第に腹膜刺激症状を伴ってきたため絞扼性イレウスも否定できず開腹術を施行した.手術所見は,多量の黄色透明の腹水と,小腸全体の漿膜炎様発赤,腫脹を認めたのみであった.基礎疾患にSLEを有していることより急性ループス腹膜炎にもとつく麻痺性イレウスと診断し術後よりステロイドを投与したところ腹部症状は完全に消失した.
    ループス腹膜炎は内科的に治療し得る腹膜炎であり,無用な開腹術を避けるためにもSLEの既往を有する患者,とりわけ若年および中年女性患者での急性腹症にはループス腹膜炎も鑑別診断の一つに加える必要があると考えられた.
  • 西川 正博, 大杉 治司, 東野 正幸, 徳原 太豪, 高田 信康, 西村 良彦, 加藤 裕, 奥田 栄樹, 木下 博明, 山田 正
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1668-1673
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    後腹膜原発平滑筋肉腫の2切除例を報告する.症例1は56歳・男性,右下腹部の後壁に固定された7.9×7.3×4.1cmの硬い腫瘤を認めた.腫瘤は後腹膜腔にあり消化器,泌尿器系との関係はなく,完全切除が可能であった.
    症例2は55歳・男性,右下腹部に右外腸骨動静脈を圧排する形で12.5×11.7×8.3cmの硬い腫瘤を認めた.腫瘤は後腹膜腔にあり右外腸骨静脈を合併切除し肉眼的完全摘出を行い血行再建を付加した. 2例とも病理組学的に平滑筋肉腫と診断され,術後4年4カ月, 11カ月の現在無再発生存中である.
    後腹膜原発平滑筋肉腫は稀な疾患で発見時に血行性転移を見ることが多く予後が不良である.しかし転移のない例では切除後の局所再発が多く,予後向上には完全切除が肝要である.
  • 金沢 幸夫, 吉野 泰啓, 伊勢 一哉, 井上 仁
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1674-1678
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腹壁破裂は出生後緊急処置を要する先天性腹壁異常である.当科でこれまで経験した腹壁破裂10例の術前経過,術式の選択,術後経過を検討し治療上の問題点について考察した.
    1984年以前の3例が術式とは関係なく死亡した.死因は肺合併症1例,イレウス持続1例,不明1例であった.これ以降の7例は生存した.7例中3例は一期的腹壁閉鎖で,このうち2例は出生前診断され予定の帝王切開で出生し脱出腸管の浮腫は軽度で容易に閉鎖し得た.7例中1例は一期的腹壁閉鎖後,腹圧上昇により呼吸循環不全,肝機能異常がみられ術後12時間にAllen-Wrenn (A-W) 法に変更した.今後は術中なんらかの腹圧測定を行い一期的腹壁閉鎖が可能かどうか判断したい. 7例中3例はA-W法で,このうち1例では術後一過性に高度の肝機能異常がみられ肝外門脈閉塞が疑われた.人工膜によるサイロ造設時腸管の走行に十分な注意が必要である.
  • 平 成人, 曽我 浩之, 小島 茂嘉
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1679-1683
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は70歳の女性.左腰背部腫瘤を主訴に受診した.左腰背部に10cm径の弾性軟な腫瘤を触知し,超音波検査, CT検査にて上腰ヘルニアと診断した.手術にて上腰三角部の腹横筋腱膜に2.5cm径の明瞭な欠損孔を認め,この部より腎周囲脂肪組織が脱出していた.手術は,ヘルニア門へのmesh-plug挿入固定と, Marlex Meshを用いて上腰三角部をonlay patchで補強するtension-freeヘルニア修復術を行った.術後経過は良好で,術後4カ月の現在再発を認めていない.
    本邦では20例の上腰ヘルニアが報告されており,自験例を含めた21例の上腰ヘルニアの検討では,平均発症年齢72歳,性比は8:13と女性に多く,左側13例,右側6例,両側2例であった.検索しえた限りではtension-freeヘルニア修復術, mesh-plug法を上腰ヘルニアへ応用した報告例はないが,有用な方法と考えられた.
  • 大川 卓也, 井ノ口 幹人, 井石 秀明, 福成 博幸, 杉原 健一
    1999 年 60 巻 6 号 p. 1684-1687
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1996年3月より1998年4月までの26カ月間で,成人鼠径・大腿ヘルニア109例に対して行われたTension-freeヘルニア修復術について検討した.症例の内訳は外鼠径ヘルニア73例,内鼠径ヘルニア25例,内外鼠径ヘルニア4例,大腿ヘルニア7例であった.手術術式は全例 mesh plug+onlay graft 法で行った.手術時間は43±15分 (Mean±Standard deviation 以後M±SD),最近10症例では38±12分(M±SD)であった.術後の抗生剤は1996年11月より使用していないが, mesh感染例はなかった.術後合併症を19例に認め,そのうち13例が滲出液の貯留で,左内鼠径ヘルニアの再発も1例あった.また術後疾痛は軽く,術翌日の退院も可能であった.以上より,鼠径・大腿ヘルニア109症例に対しMeshを用いたtension-freeヘルニア修復術を施行したが,この術式は手術手技が容易で手術時間が短いうえ,術後の疾痛や突っ張り感も少なく,また再発率も低い優れた術式であると考えられた.
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